宮崎正弘の国際ニュース・早読み ・ 太田述正 有料メルマガ
平成20年(2008年)6月13日(金曜日)
通巻第2218号
だから言ったじゃありませんか。中国株は危ない、って。
上海株式市場、ピークから53%の暴落
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昨日(6月12日)の上海株式インデックスは、ついに3000の大台を割り込み、2957・5ポイント。これは昨年の絶頂から、じつに53%もの暴落である。不思議なことに、この大ニュース、日経新聞を除き、各紙黙殺。対照的に或る新聞は四川省の地震被害が5400億元に達し、これらの復興プロジェクトが始まれば、景気がふたたび過熱し、中国全体のGDPを0・7%押し上げるなどと逆さまの議論を展開している。 財源をどう確保するのか、借金するしかないのではないのか。
二月からの猛烈インフレを抑止するために中国は金利を上げ、預金準備比率を上げた。それでもインフレは五月に7%台、前月は8・6%、前々月は8・5%。物価上昇が止まらないのだ。
物価上昇は庶民の生活を直撃する。
経済に無策の北京政府、奢侈にふける共産党幹部。李鵬の息子は、かねて予測したように正式に山西省副省長に就任した。
山西省は石炭のメッカ、過去三年で石炭は四倍になった。これを抑制できる政治力量が、この男にあるか?二月の大雪、三月のチベット、五月の地震、そしていま中国を襲っている豪雨。国家が衰退を始める兆しが連続している。北京五輪後、経済の大決壊が始まるだろう。
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♪(読者の声1)貴誌6月7日(土曜日)通巻第2214号の(読者の声4)。小文の引用部分について引用された本人から小生の「トリミングの仕方が間違っています」との指摘を受けました。以下被引用者からのコメントをご掲載頂ければ幸いです。(引用開始)「マルクスが神に直結していると結論付ける前提、つまり、彼が深く激しく神と関わったからこそ、神を否定することになったという部分が抜けていると、下の句だけの歌のようになってしまいます。私が言いたかったのは、神を否定する者も肯定する者も、唾棄する者も賛美する者も、共に、神の存在が前提だと言うこと。 神(God)のいない日本人にとっては、否定する必然性すらない訳ですから。彼の思想は、云わばキリスト教の土壌に咲いた徒花。神がいなければマルクスの思想そのものも生まれなかった。マルクスを究めようとして(佐藤優氏が)神に行き着く、というのは必然的結果と私には思われます」。
(引用止め)マルクスが十九世紀に唯物論に傾斜したのはそれまでの過大過剰なドイツ観念論への反発でもありました。それに西欧人の彼がどうしても抜け出せず、囚われざるを得ない神の問題が絡み合っています。その意味で「彼の思想は、云わばキリスト教の土壌に咲いた徒花」なのかも知れません。そしてドイツの片隅で生まれたこの徒花は二十世紀を大きく動かしました。それは前世紀末潰えましたが、今世紀はどのような思想、はたまた徒花を継いだ別の徒花が咲くことになるのでしょうか。まだまだ混迷が続いています。我々日本人は「志操」を堅固にしていれば容易いことですが、人類が一度患った進歩思想の頸城(くびき)は重く、今世紀の人々は面白いと思える、新たな別の意匠(思想、プロパガンダ)に飛び付く危険があります。地球温暖化、氷河溶解、海水面上昇より怖いことだと思われます。(しなの六文銭)
(宮崎正弘のコメント)「新たな別の意匠」(思想、プロパガンダ)に飛び付く危険があります。地球温暖化、環境保護、男女共同参画、人権擁護、アイヌ民族認定などなど。これすべて左翼残党が組織に忍び込み、或いはNGOを組織して、左翼運動の続きをやっているわけですからね。
♪(読者の声2)しばらく前のメールにも(読者の声)としてパンダ受け入れ反対の意見と,受け入れを阻止するための抗議行動の呼びかけが行はれてゐますが,受け入れ先が上野動物園であればそんな抗議は不要なのではないのですか?なぜなら上野動物園は都の施設であり,石原知事はパンダは要らない,と明言してゐるからです。まさか知事が突然変心することもないでせう。それとも?
(NN生,横浜市)
(宮崎正弘のコメント)東京五輪開催のために奔走する知事は、その至上命題のためには、パンダごときで政治生命を賭けますか?
♪(読者の声3)静岡大学のホームページにこういうのがありました。
「少数民族虐殺は正しかった」中国共産党唐山学習班班員の日記
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(宮崎正弘のコメント)モンゴルは1940年代後半の、あのドサクサに独立も可能だった。けれども、ソ連に挟撃され、毛沢東と交渉して「自治」の約束をえたウランフ将軍は自分が天下をとれるなら中国に編入されても、それは便宜。ならばと敵対したモンゴル人を「整理」したんですね。その一部が日本に親しくカラチン王府を開いた人たちだった。川島芳子(東洋のマタハリ)の舞台でもあった。「蒙古覇王」といわれたウランフの神話も、いずれ崩れるでしょうけれど。
♪(読者の声4)貴誌2217号に「中国の核戦力がどれほどの壊滅的打撃を受けたのか、あるいは損傷は軽微だったのか、是非とも知りたい情報ではないのか?福田首相は、『同盟国』の権利として要求するべきではありませんか?」とありますが、宮崎さんの言とも思えません。米国政府自体マスコミに公開していないのに、たとえ聞いていたとしても日本政府がマスコミに公開する筈はありません。たしか1988年だったと思いますが、政府がしきりに夏に2週間以上休暇をとって遠くに旅行しましょうというキャンペーンを行い、政界財界の要人が長期休暇をとることをマスコミがしきりに報道していたことがありました。天皇陛下まで長期に東京を離れられました。その数年後、ある学者から興味深い話を聞きました。その年に東京の中心部で地盤の大きなゆがみが観測され、8月に巨大な地震が襲う可能性が非常に高いと予想されていました。ところが8月になると不思議にもそのゆがみが消えてしまったそうです。その学者当時の地震予測のチームの一員であったそうです。決定的に重大なことは、当時もまた今になってもそのことが公開されていないことです。政府当局者からみればそれが当然の対応方法なのでしょう。福田首相に四川省にある核兵器関連施設への地震の影響度合いが米国政府からしらされているかはわかりませんが、日本人でも知らされている人はおそらくいると推察します。教えて見返りがあり、確実に秘密を守ってもらえる相手です。日本の政治家は確実に失格です。ひょっとしたら山階鳥類研究所あたりに、四川省からどんな鳥が逃げ出したかという問い合わせがあったかもしれません。(ST生、神奈川)
(宮崎正弘のコメント)国防省トップは、信頼できる相手にだけ、ペンタゴンの中で引き出しの鍵を開けて、その場で「ちょっとだけ」、見せてくれることがあるそうです。日本の政治家に見せる筈はありません。そもそも安全保障という事が、何の意味があるかを理解しておらず、したがって機密を守れず、かならず漏洩し、それがまた外国へ漏れる懼れが強いですからね。小生が「同盟国」云々と言っているのは、お気づきのように皮肉です。
♪(読者の声5)貴著『中国は猛毒を撒きちらして自滅する』(徳間書店) を古本屋で見つけました(古本にしては 新刊に近い価格でした)。パラパラとめくると P.219 の <蒋介石の歴史評価へ、無言の「修正」が始まった>が目に付き、この一事で買い求めました。最近の購買行動理論では、このように「買いを刺激する理由」が一つ存在すると購買につながる可能性が高まるとされます。みずからそうなって苦笑しています。それはともかく小生にとって最大の発見は「中国内の毛沢東・Down と 蒋介石・・Up」 という最近の傾向です。
芷江で買い求めた、『抗戦勝利受降・・芷江紀事』(湖南芷江・抗戦文化研究所編)2002年第2版では 蒋介石・国民党一色です。<蒋介石在抗日戦争勝利后的両次講和><蒋介石勝利日演説全文>などが 共産中国で印刷されている事実にはびっくりしました。江沢民の愛国主義教育の基盤理論が「抗日」である以上、毛沢東の出番はなく、蒋介石を顕彰せざるを得ないという論理構造から蒋介石評価の上昇傾向は続くでしょう。日本ではほとんで指摘されていないことが9ヶ月前に出た本にあったということは、やはり宮崎さんは先行していましたね。さて「Wikipedia」 によると、「文化大革命と毛沢東」について以下のように書いてあります。現在の中国共産党の対応公式コメントでは、「わが党が犯した最大の過ちである」と認識、謝罪した。毛沢東についても、「七分功、三分過」と言う!)小平の発言が公式見解のようだ。一応国定教科書にも取り上げられるが、中華人民共和国は現在も実質上の言論統制下にあるため「四人組が共産党と毛沢東を利用した」という記述に止まった。2006年5月、文化大革命発動から40周年を迎えたが、中国共産党から「文化大革命に関しては取り上げないように」とマスコミに通達があった為に、中華人民共和国内では一切報道されなかった。この様に「文化大革命」に関しては中華人民共和国内のマスコミにとって触れてはいけない政治タブーの一つとなった。
毛沢東について「七分功、三分過」 という!)小平の発言は、たいへん微妙です。七分功 マイナス 三分過 では差し引き 四分功。功績が 100点満点で50点に達していない・・・・・この辺に !)小平の毛沢東に対する 怨念の影を見る気はしますが、読みすぎですかね。いろいろ調べてみると 蒋介石復権的な動きは90年代からうごめいていたようです。なにぶん易姓革命の国、たとえば武漢の「黄鶴楼」は史実を無視して、五楼化(五階建て)にでっち上げ建築をつくって平然として国、何でもありの国ですから驚く方がおかしいのかもしれません。(TK生、世田谷)
(宮崎正弘のコメント)朝日新聞を読むのと同様に、本気にしたら頭がおかしくなりますよ。本当に「驚く方がおかしい」のです。で、蒋介石評価ですが、中国では十年以上も前からです。浙江省寧波郊外の奉化県にある蒋介石生家が整備され記念館となり、母親の墓が清掃され、ウォーとやってくる台湾の観光客は、ここで評伝、CDの類を買って帰りました。読んでびっくり「?」「?」でした。台湾の人にとっては、戒厳令下に蒋介石は「神様」であり、民進党政権では全島から蒋介石の銅像が撤去され、中正記念堂は『民主記念館』と改名され、蒋介石は独裁と悪政の象徴と化した。かたや中国では、それと反比例して蒋介石の評価が高まる。歴史のアイロニーですね。小生が直感的に感じたのは6年ほど前に浙江省に蒋介石生家を訪ねた時からです。同時期から張作霖、張学良への評価もがらっと変わりました。毛沢東絶対信仰から、相対比較に移り、劉少奇が復活したように、登小平も復活したように、いずれもうすこし、客観的史実も重視する時代がくるかも。
♪(読者の声6)貴誌に「米国のCIA、ペンタゴンが機密を守るのは、これまた当然だろうが、これまでは必ずマスコミへのリークがあった。意図的にぼかした写真でも、地震発生から一ヶ月目の本日現在も、発表されていないことが不思議である」とコメントありました。不思議も不思議。米国の意図を感じます。日本政府は、ぼんやりしているのか、あるいは既に情報を受けているものの、極秘として緘口令を敷かれているのか?誰かスッパ抜きしませんかね。本来は、ペンタゴンに顔が利くといわれる日高義樹さんあたりの役割のはずですが。(SJ生)
(宮崎正弘のコメント)拙見は上記「読者の声4」へのコメントの通りです。ところで日高さん? 役不足では。
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1 始めに
長らく東欧担当のBBCの記者を勤めている英国人のグレンニー(Misha Glenny)が最近上梓した'McMafia: Crime Without Frontiers'という本の要旨をご紹介し、われわれが21世紀に直面している国際犯罪の脅威について考えることにしましょう。2 グレンニーの本の要旨
(1)序
国際犯罪が急速に増大したのは、1980年代末からのソ連圏の崩壊と、それと平行して進行した国際政治経済環境の変化のせいだ。しかも、国際犯罪の影には国家の姿が見え隠れしている。
(2)ソ連圏の崩壊
ソ連圏の崩壊以前から、ソ連圏内で、後に国際犯罪の急速な増大をもたらしたところの基盤造りが行われていた。例えばブルガリアでは、共産主義時代に諜報機関が武器や麻薬の密輸に手を染めていた。当時、西欧のヘロインの80%はブルガリアのDS(ソ連のKGBに相当)が仲介していた。また、共産主義体制の下で、市民的責任感が希薄な腐敗した管理者層が形成されていた。
共産主義体制が崩壊すると、こういった連中と、失業したところの、監視、密輸、殺人、通信網設立、脅迫等の専門家であった、秘密警察員、スパイ摘発係官、特殊戦部隊員、国境警備隊員、殺人担当刑事、交通警官等がつるんで、が麻薬、売春、車窃盗、マネーロンダリング、恐喝を大々的に手がけ始めた。新たに国際犯罪センターの一つに浮上したのがトランスニストリア(Transnistria)だ。モルドバから分離した、米ロードアイランド州くらいの面積しかない、この世界のどの国も承認していない「国」は、旧ソ連の軍隊から横流しされた武器と自「国」内の2つの秘密武器工場で製造した武器を、東隣のウクライナのオデッサ(Odessa)州経由で、コーカサス、中央アジア、中等、西部及び中央アフリカといった世界の紛争地域に密輸している。カザフスタン、グルジア、モルドバ、ユーゴスラビア、そしてもちろんロシアでも同じようなことが進行した。ロシアのエリティン政権は国家資産を国際市場価格の40分の1で払い下げたため、大金持ちのオリガーキー達が一夜で出現したが、彼らは自分達を守るために前科者や元KGB職員を雇い入れ、武装オリガーキーとなり、国際犯罪的ビジネスを展開した。その後のプーチン政権は、国際犯罪的ビジネスの主導権を、武装オリガーキー達の手から奪って、自分もその一員であるところの元KGB職員達が牛耳る国家に移し、現在に至っている。
(3)国際政治経済環境の変化
国際政治経済環境の変化とは、経済面においては、金融・商品市場の規制緩和であり、インターネットを始めとする技術革新であり、世界規模の貧富の差の拡大だ。これに伴い、麻薬密輸に加えて、音楽の違法ダウンロード等、取り締まりの対象は増えるばかりだ。また、臓器移植に伴うリスクが薬品の技術革新で低下したことにより、臓器の国際ヤミ市場が生まれている。政治面での変化に伴っては、以下のようなことが起こった。ソ連圏が崩壊して余剰武器や傭兵となった元兵士が発生したことが契機となって世界中に、政府の統制下にない武器や傭兵が溢れることになった.また、ソ連圏の崩壊は、西欧への性奴隷の供給をももたらした。こうしてプラハとドレスデンをつなぐ恥の高速道路(Highway of Shame)が出現した。中共の経済の自由化は、違法コピー商品の世界最大の生産・輸出国を出現させた。国際貿易・投資の拡大を目的とした経済改革が世界中で行われた結果、国境は有名無実化しつつある。米国を始めとする先進国の持続的経済成長は、合法違法の外国人労働者、麻薬、マネーロンダリング等に対する需要を飛躍的に増大せしめた。
(4)その帰結
以上の結果、その少なからぬ部分がかかる国際犯罪がらみであるところのヤミ経済が、今や世界経済の15%から20%を占めるに至った。
内戦は地域的に限定されているし、国際的な戦争で10年以上続くものは希だ。しかし、国際犯罪は時間と空間によって制約されることなく、加速的に増え続けている。国際犯罪は、国際テロの脅威を上回る、21世紀最大の脅威であると言ってよい。国際犯罪の担い手である犯罪組織は、政治家や警察が腐敗している場所で蔓延るものだが、蔓延る最大の原因は、人間のニーズや欲望が求めるものを非合法化し過ぎているところにある。例えば日本では、政府が長年にわたって法律専門家の数を増やそうとしなかったため、公的な紛争解決メカニズムが十分機能せず、その間隙をついてヤクザが肥大化した、という経緯がある。また、中共の蛇頭(snakeheads)は、法外な代金をとって貧しい農民を欧米に密入国させているが、中共政府は農村の失業率が減り、その農民の本国への送金が経済を潤すことから、また、欧米の雇用主は低賃金労働者が確保できることから、また、蛇頭にカネを出して農民を欧米に密入国させた人々はそのカネが収益を生むことから、喜んでいる。
3 感想
ある書評子が指摘しているように、国家の影がちらつく国際犯罪は昔だってありました。エリザベス1世当時の英国の海軍や商船は、欧州諸国から、自分達の船を襲うことを常とする海賊とみなされていたことや、英国の商人達が19世紀の支那に禁制のアヘンをインドから密輸出して清の皇帝の逆鱗に触れたことは良く知られています。
また、われわれにとってはおなじみの北朝鮮による国家ぐるみの拉致、通貨偽造、麻薬製造販売等の国際犯罪、あるいはまた、かつてマラッカ海峡、そして現在ソマリア沿岸で頻発する海賊行為にグレンニーが触れていなさそうなのも、画竜点睛の感があります。この本が上梓され、反響を呼んだことで、今後、国際犯罪に対する関心が高まり、より精緻で包括的な研究が行われることを願って止みません。
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