安倍前首相の外交論と教育論について(阿比留瑠比記者)
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▼安倍前首相の外交論と教育論について(阿比留瑠比記者)
本日は安倍前首相が都内のホテルで講演したのでのぞいてきました。正確には、講演というより内外ニュースの清宮龍会長との対談だったのですが、ときおり清宮氏が質問し、それに答える形で安倍氏がずっと語るという形式だったので、実質的に講演といってかまわないと思います。その中で、特に外交論と教育論に共感を覚えたので紹介します。まずは対中関係についてです。福田首相には、とてもこんな風には語れないだろうなと思います。
《清宮氏:外交問題でおうかがいしたい。安倍総理が就任早々中国を訪問し、日中間のとげとげしい関係が変わった。そういう経緯もふまえて、これからの中国とどういうふうにつきあっていったらいいか
安倍氏:日中外交の姿というのはある意味、日本の外交の一つの象徴でもあったんだろうと思う。日中の国交回復が為されて以来、日中外交はある意味では、いわば日中友好至上主義といってもいいんだろうと思う。友好というのは本来、外交上にあっては、手段である。外交上の目的は国益の確保すること。国益を確保するためにも、友好な状況をつくり出していく(というものだ)。しかし、それがだんだん、友好に反することは全然だめだという雰囲気が醸し出されてきて、友好に反することは何かということは誰が決めるんだというと中国側が専ら決める。「それは日中友好に反します」「すみません」となってきたと思う。だから、明らかにいびつな関係でも、そういう中にあって対中ODAにも国民の批判が相当高まってきた、それはODA全般への不信感にも私はつながってきたと思う。こういう戦略性なき外交姿勢というものを変える上において、ある意味では、小泉外交と安倍外交はワンセットだったと思います。つまりそういう姿勢を小泉さんはかなり思い切って変えたんですね。向こうが靖国神社に参拝をされたら首脳会談をしないという、いわば禁じ手に出たわけです。小泉さんは、そう言われ続けながらも、6回参拝された。これは中国側はびっくりしたんだろうと思いますね。今までのように「日中友好に反しました」と言っていれば大体自分たちの外交目的が達成された、とはならない。これはある意味では日本の対中外交の変化を示すものである。ですからそう意味では安倍外交は延長線にある。私の目指した戦略的互恵関係とは、もう友好至上主義ではありませんよ、お互いがお互い必要としていることを認識しながら、お互いに付き合うなかで、お互いの国益を確保し、地域の平和と安定を図っていきましょう。いわば、クールに、これが戦略的互恵関係、つまりお互いが互恵の関係にあるんだということを、どちらが一方的に利益を得ていくという関係でありませんよ、お付き合いをして上げましょうということではないんですよ。お互いにお互いを必要としているから、お付き合いをしますよというのがまさにこれが戦略的互恵関係だろうと思います。その中で、この日中外交を変えた小泉外交の延長線にあって、それを現時点でさらにしっかりと着地をさせていきながら、我が国の国益をより図ることもできるのではないか。私はよく言うんですが、国が違えば、当然、文化も違いますし、重ねてきた歴史も違いますね。歴史観も違う、当然なんですよ。そこでしかし、その中で、お互いにお互いの違いを認めることが極めて重要です。それぞれの国益はぶつかりますしお互いに激しく議論をすることがあってもいいです。しかし、戦略的互恵関係というのはこれはコントロールしていきながら、全体が崩れてしまわないようにしながら、お付き合いをしていくということが大切だろうと思う。》
…もっとも、次の言葉は福田氏に対して配慮しているようですね。だって福田氏は首相就任当初、安倍氏の政策イメージのある「戦略的互恵関係」という言葉を遣うのに抵抗を示したそうですから。それと、私は話を聞きながら、安倍氏が「特定アジア」という単語を発するのではないかと、ちょっと期待したというか、冷や冷やしたというか。
《清宮氏:戦略的互恵関係で新しい外交関係をつくり、その上で福田さんが動いているということでしょうかね。
安倍氏:これは、小泉総理以前の関係というのは小泉総理以後と変わってきたと思います。またいわば戦略的互恵関係というのは今私が申しあげたこと、福田総理もよく理解しておられるようでありますし、その考えのもとに日中外交を…。(中略)私がフィリピンを訪問した際、昨年の6月ですか、その際、前年に防衛庁を省に昇格をさせましたとアロヨ大統領に説明しました。アロヨ大統領はこうおっしゃってました。「自分は防衛庁を省に昇格させたことを高く評価する。なぜかといえばそれは日本人のシビリアンコントロールに対する自信と民主主義の成熟に対する自信の表れだ。それとアジアにおいて世界において、安全保障分野において日本が貢献していこうという意思をはじめて明確に表したものとして高く評価する」。私はそのことを外に向かっていいかときいたら、どうぞ言ってください、ということでした。インドネシアのユドヨノ大統領はもそうですね。よく新聞等で「アジアの目が厳しい」と書いてあるが、アジアってどこですか、これは特定の国なんですね。極めて特定の国であって視野が狭い。インドでも同じような反応でありました。日本はもっともっと、ODA分野だけでなく、政治的にも安全保障の面においても、リーダーシップを発揮をしてもらいたい。これは何も、自衛隊を出すということだけではないんです。いろいろな枠組みの中で、積極的に貢献をしてもらいたい、発言もしてもらいたいということではないかと思いますね。どちらかというと日本は常に、国際会議ではおとなしかった。主張する外交ということを私は申しあげていますが、主張する外交というのは、なにも闇雲に自分の国の国益を主張することではない。もちろん主張すべき国益は主張しなければいけませんけども、日本はこの地域や世界をどうしたいと考えているか。どうやって平和を確固たるものとしてそれを構築させるために何をしようとしているのかを堂々と述べる外交こそが主張する外交だろうと。
NATOで演説をしました。NATOで日本の首相が演説をするということであれば、かつてであれば大変な批難を受けることになったが、この演説をしても中国も反対をしないし、韓国も反対もしない。ここでは今までのように、自衛隊の活用に躊躇しないという思い切った演説をさせていただいたが、これはNATOの国々からも日本が積極的にはじめて貢献をしようとし始めたと評価をしていただきました。日本の今の実力にあった期待されている貢献を、しっかりしていくんだという意思を示すことでこそ、日本の存在感が増していく。》
…次は教育論ですが、安倍氏がいかに教育を重視しているか、なかんずく、だれでも平等に受けられる公教育を大切に考えているかが分かります。これも、そもそも教育について真面目に考えたことのなさそうな福田氏にはとても期待できない部分ですね。ここにも日教組が出てきます。
《清宮氏:教育問題、社会の荒廃がここまできた、日本はどうなるのかと国民が心配してる。教育問題はどういうふうに解決していったらいいとお思いでしょうか
安倍氏:教育再生が安倍内閣の大きなテーマでした。今の教育のままでいいと思ってるいる方は、おられないだろうと思う。国際比較で学力が低下し、規範意識もずいぶん低下をしている。かつての日本人の持っていた正しさ、謙虚さ、責任感。やはりこれを取り戻さなければいけない。公教育の場においてしっかりと、高い水準の学力と規範意識を取り戻すことが必要。そういう機会を提供するのが国の責任だと思う。その意味において、教育基本法を60年ぶりに改正しました。この中で、議論を呼んだが、地域や国を愛する心を教えていくことを書いた。家族の価値、そしてまた教育について学校だけでなく、家族や地域やみんなで、ということも書きました。また子供たちに対して情操教育、自分の力を、人知を超えたものに対する畏れについても…。その上にたって教育関連の三法案を成立させまして、いわば教育委員会にもっと責任感を持ってやっていただく。学校の先生にも向いている先生もいれば、そうでない先生もいる。向いてない先生には教壇を下りていただく。そして免許制度を導入しました。今までゆとり教育を行ってきたんですが、土日を休みにしてゆとり教育をやってきた。しかし、私立では土曜日もやっているし、塾にいかせる人はいかせる。そうなると、収入の多寡によって子供に与える教育、小中学校段階で差が出てしまう。ですから、公教育の場において、やはり、これは今までのやってきたゆとり教育を見直して、しっかりと読み書き、そろばん。算数や、国語をやってくことについては10%今までよりも授業時間も増やして、教科書の中身も(増やした)。広島に、土堂小学校というところがあり、教育再生会議の陰山先生が校長を務めていたが、ここで行っていた早寝朝起き朝ご飯、これを励行していることによって学力はまちがいなく上がっている。子供はやはり8時間寝たほうがいい。8時間寝るところを3時間削っても、統計によると、成績が上がらない。むしろ、下がっていく。まして8時間のうち3時間ゲームをやっていたら…。ですから大体9時、8時に寝る、いうのが一番ベスト。でやはり朝食事をしたほうが集中力が伸びるらしいですね。それと反復の授業、反復の授業を土堂小学校では行いました。それによって土堂小学校の学力は全国のトップクラスです。
尾道というのは非常に教育が荒れて、日教組が強かったということもあって、校長先生が自殺したりする。そこで新しく市長になった教育長がもうこれはいわば、教師上がりではなくて、全国から自分が校長先生をやりたいという人を見識を持った人を公募した。それに応じたのが陰山先生でした。そして、この市長は学校選択制を取りました。私も学校選択制というのはもっともっと導入したかった。選択制をとって、父兄が学校を選べる、先生にとっては相当緊張感につながる。その結果、土堂小学校は59名しかいなかったのが、390名に、みんなこの学校がいいということで。ここは朝8時20分始業なんですが、子供たちは7時にだいたい来て、みんな朝早くきて、思い思いに、みんなで話をしたり、一緒に遊んだり、お掃除をする。本当にみんな、行くと、はきはきとあいさつして、楽しそうに勉強していました。私の目指す姿の一つがここにあると思います。立ち居振る舞いが美しい。土堂小学校の生徒、卒業生は、中学生高校生だれもが、道でゴミが落ちていると必ずポケットにいれる、こう評価されている。これこそ私は美しい日本人だと思う。そういう意味でさらに、教育再生、残念ながらこの方式を、反復事業というのは、百ます計算とかをやると思考力が高まると結果として証明されています。また早寝早起き朝ご飯も、山口県の小野田市というところで、二カ月間実施しただけで、勉強が出来る子、普通の子、少し遅れている子、すべてのレベルで、たった二カ月間で国語と数学の学力があがっている。たった二か月ですよ。これを全国でなぜできないかというと、一つは教職員組合が反対します。反復授業というと、先生に新しい負荷を与える。子供たちに早く来られても管理ができないと。文部省もカリキュラムを変えなきゃいけないもんですから、なかなかうまくいかない。一回これ、武道館にお母さん方を全部集めて、この成果を発表して、父兄から教育委員会に圧力をかけてもらって、これを変えていこうかな、というふうに計画をしています。》
…最後に、対北朝鮮外交についてです。これはきょう、まさに北京で日朝実務者協議があり、拉致問題で何らかの進展があったと伝えられています。私もいろいろと取材していますが、まだ具体的な情報は入ってきません。果たして、追いつめられた北朝鮮がついにカードを切ってきたのか。それとも大山鳴動の類なのか。この問題については、安倍氏が自ら語り出しました。山崎拓氏が会長の日朝国交正常化推進議連のことを強く批判し、牽制していますね。
《安倍氏:最後に、外交に戻るが、今、日朝交渉が再開されている。福田総理、外務省の努力によるものだと思う。日朝交渉が再開されたことはよかったと思います。しかし、やはり、われわれは常に慎重に見ていかなければいけないと思う。私は北朝鮮政策を考えるときに、金正日委員長はどう考えているんだろう、と思うんですね。北朝鮮はおそらくアメリカが大統領選挙を控えて、もしかしたら、次の大統領の方が、今よりも甘い政策になるかもしれないと…。今よりも甘い政策になるかもしれないと考えている以上、彼らはあまり妥協しなくていい、と思っているかもしれない。しかし、この政権末期に、クリントン政権のときのようにある種の妥協を引き出せるのではないかという期待もしている。その妥協というのは例えば一つはテロ支援国家のリストからの除外、これを何とか手に入れたい、こう思ってますね。日本の制裁も米国の制裁も相当効いていますから、この日本の制裁をやめさせるのにつながる、アメリカの制裁をやめさせるためにはテロ支援国家のリストから除外をしなければいけない。日本は除外されると困りますよと。テロ支援国家というのはむしろ、拉致問題というのは、安全保障の問題でもありますけど、対南工作の一環として拉致をしていた。その被害者を返さないという以上ですね、それはテロ支援国家ですよというのが私たちの認識ですから、それをやめてもらっては困る。ここは非常に重要なところで、ここはぜひ日本の世論も盛り上げて、米国に正しい判断をしてもらうことが大切だ。日米同盟が大切ですから、米朝関係なんかよりも、米国にとっても天秤にかければ明らかに、日米同盟が危うくなるようなことは絶対に米国は(してはならない)。ですから、テロ支援国家のリストから外すということは、日米同盟の信頼感にも私は影響が出てくる可能性があるということは申しあげたい。そこはやはり米国も慎重に考えて政策判断をしてもらわなければならない。また自民党の中にも、対話と圧力から圧力をやめて、対話でいった方がいい。それで正常化すれば、正常化して、拉致問題を置いておいて正常化すれば、だんだん国も開いてくるから拉致問題が解決されるだろうという意見がありますし、そういうムードを反映して超党派の議員連盟もできたようなんですが、北朝鮮とは、相当の外交を、相当の交渉をしなければいけないときに、有力な議員も含めて多くの議員が政府が言っていることよりも甘いことを言っているようじゃ、交渉になりませんね。それよりももっと甘いことを言わなければ、政府は交渉できない。厳しいことをいっていれば、こんなに情勢は厳しいんだ、よく日本の情勢を理解しなさい(と交渉できるが)、甘いことを言われちゃうと、それはもう既得権に(なってしまう)、経済制裁をそろそろ考えなおした方がいいという意見が出てますね。そうするば、向こうにとってみれば「あなたの国民も言っている。経済制裁が要らないのは当然だろう」ということになり、私は百害あって一利なしと思います。
ですから、外交交渉を政府がしっかりとやるべきであって、むしろ拉致問題の持つ問題性、これは人権に対する大変な侵害ですし、そしてテロをなぜ行ったか、これは対南工作の一環としている。これはまさに日本の国権の侵害であり、安全保障上の問題であるという考え方をするのが私は同然だと思う。ですから、ここでは一切は妥協できない。妥協できないのはつまり最終的な解決がなされなければいけない。だいたいこれでいいですという妥協はできない。そういう意味においては最近の党内の動きは大変、私は懸念をしている。》
…これに関連して、きょう発売の週刊新潮に安倍氏と中山恭子首相補佐官の緊急対談が掲載されていました。最近の北朝鮮をめぐる不穏な諸情勢に危機感を覚え、急遽、先週の土曜日にセットされたものだそうです。この中で安倍氏が述べている次の言葉は、まさに私がずっと疑問に思ってきたことでしたが、拉致問題と北朝鮮についてだれより詳しい前首相の言葉だけに重みがあります。国交正常化しても、拉致も核もミサイルも何も進展せず、日本人妻を含めた人の行き来だって、今と変わらない可能性は少なくないと思うのです。
《私が問いたいのは、「拉致を横に置き、そんなに急いで正常化をして、どういうメリットがあるのですか?」ということです。「それが日本と地域の平和と安定に本当に結びつくのですか?」と。これは少し考えばすぐに分かることだろうと思うのですが。》
《人権が著しく侵害されている。日本はそれを決して許さないという国家意思を示さなければ、世界で活躍している多くの日本人の命すら危うくなる。国家の存在意義が問われる根本的な問題なのです。》
《少しでも成果を挙げたいという成果至上主義を排し、完全に解決することを目指さなければならない。今、その横道が魅力的に思えるような雰囲気が醸成されているからこそ、私たちはもう一度、これまで北朝鮮とどういう交渉をしてきたかということを思い返してみなければいけないと思います。》
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