景気対策にむき出しの闘志を燃やせ!(森永 卓郎)
▼景気対策にむき出しの闘志を燃やせ!(森永 卓郎)
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4月下旬のことであるが、米金融大手10社の今年第一四半期(3月期)の決算を見て、わたしは意外な感じを受けた。確かに、減益が相次ぐ厳しい決算ではあったが、昨年第4四半期に700億ドルあったサブプライム関連の損失が、200億ドル超も減少して、400億ドル台に減少していたのである。ところが、日本円にして損失額が2兆円以上も減ったにもかかわらず、どの新聞にもこのビッグニュースが書かれていない。記事をよく読んでいくと、なんとかわかるという新聞もあったが、それにしても目立たない扱いであった。もちろん、これだけでサププライムローン問題を過小評価するのは早いという意見もあるだろう。最終的なサブプライム関連の損失額予想は、OECDの試算で43兆円、IMFの試算で95兆円とされている。だから、今後もサブプライムローン関連の損失が増えていくのではないかと考えるのも無理はない。確かに周囲への波及効果によって、ある程度金額が膨れていくのは、やむを得ないだろう。しかし、わたしはすでにサブプライムローン問題が、峠を越えたのではないかと考えている。
米国のサブプライムローン関連の損失が大幅に縮小に向かったということは、証券化された金融商品値下がりの底打ちが近くなった何よりの証拠である。
かつての日本の不良債権問題を引き合いに出して、その影響がまだまだ続くと考えている人も多いようだが、サブプライムローンはそれとはタイプが違う。日本の不良債権問題が深刻化した際には、銀行が融資先を延命させようと追い貸しを重ねたために問題が長期化した。しかし、サブプライムローンは証券化され、すでに売却されているから、追い貸しはあり得ないのだ。そして、サブプライムを組み込んだ証券価格が下げ止まれば、損失はまったく生じなくなる。つまり、サブプライム問題は収束が早いのである。これによって米国の信用不安は急速に収束に向かっていくだろう。そう思ってニューヨークダウをみると、3月10日に記録した年初来安値の1万1740ドルを底にして、5月上旬には昨年末の株価を回復している。昨年夏にサププライムローン問題が表面化する以前のレベルをほぼ取り戻しているといってもいい。ところが、そのことについても、日本のメディアではあまり触れようとせず、不安ばかりをあおっているのが現状だ。もちろん、サブプライムローンから派生するさまざまな金融商品に対して損失は広がっていくから、いますぐ金融不安が消えるわけではない。しかし、本家米国のサブプライムローン問題が峠を越し、そのことを株価が織り込み始めたということは、朗報と言えるだろう。あれほど深刻と思われたサププライムローン問題で、なぜ米国の傷がこれで済んだのだろうか。米国の景気の底割れを防いだ理由は、金融不安の収まりだけではない。何よりも、速やかに経済対策を実行したからにほかならない。
この点については、「第129回 日本が経済無策のまま景気後退を続ける理由」でも触れたが、その時点での対策にとどまらず、さらに米国は追加的な措置を行なった。減税規模は当初1500億ドルといわれていたが、個人を対象にした戻し税と企業減税を合わせて、これまでに1680億ドル近くに達している。このうち、個人を対象にした戻し税による減税が1000億ドルを占めているが、ブッシュ大統領はその減税の開始時期を、当初の5月2日から4月28日に前倒ししている。日本の経済規模は米国の約3分の1であるから、日本に当てはめてみると6兆円近い規模の減税を速やかに実行したことに相当する。金融対策も同様だ、FRB(米連邦準備理事会)は今年に入ってから1月22日に0.75%、1月30日には0.5%と、立て続けに利下げを実施した。さらに、3月18日には0.75%、そして4月30日には0.25%の引き下げを実施した。結局、この4カ月間で2.25%、昨年秋からの累積では3.25%も金利を下げたことになる。
もちろん、急速な利下げには弊害もある。だが、問題は何を優先するかだ。何よりも避けるべきなのは経済の失速なのであり、それを防ぐために米国はなりふり構わず、あらゆる対策を実行したのである。その結果の景気底割れ回避なのだ。そういう事実を、なぜ日本の新聞は報道しないのか。つくづく日本の新聞は、ケインズ経済学、マクロ経済政策論が嫌いらしい。金融緩和や財政出動で経済が立ち直るのを見ても、信じたくもないし、報道したくもないというのが本音なのだろう。繰り返すが、サププライムローン問題は、米国にとって非常に厳しいショックであった。しかし、それに対して、やれることはなんでもやるという、むき出しの闘志を発揮して立ち向かった。その結果、少なくとも現時点で株価がもとの水準に戻ったというのは、米国の底力を感じさせる。むき出しの闘志で、サププライムローン問題や景気失速に立ち向かった米国に対して、わが日本はどうか。もう経済は失速寸前であるのに、手をこまぬいているだけなのだ。日本は財政政策も金融政策も、一切出動していない。マクロ経済学を批判するのも結構だが、まず目の前の危機に対して何もしなければ状況は悪化するだけである。
5月9日に発表された景気動向指数の先行指数(3月分速報値)は、2カ月ぶりに50%を割っただけでなく、1月、2月分を大幅に下回る20%という低いレベルを記録してしまった。20日に発表された改訂値では、さらに低い18.2%を示している。 いいかげん、尻に火がついている状態なのだが、日銀の白川新総裁は、案の定、動く気配がない。財政政策として効果のあるのは減税である。ところが、道路特定財源の廃止という年間2兆6000億円相当の「減税」があったものの、わずか1カ月で元に戻されてしまった。公共投資もまた大きな財政政策の柱である。公共投資というと、すぐに無駄な道路をつくることばかり連想する人がいるが、そんなことはない。社会資本を充実させるための投資はいくらでもある。
金融政策にしてもそうだ。金利だって0.75%下げる余地はあるし、マネーサプライ(通貨供給量)を調節する手だてはほかにもある。このまま、総選挙があるといわれる秋まで、何も経済対策がとられないまま、だらだらと行ってしまうのか。このコラムで繰り返し述べているが、手遅れにならないうちに、経済政策に対しては与野党で話し合いをするべきである。対策は少しでも早ければ早いほど効果が上がる。米国経済が落ち着いたというのは、大きなチャンスなのだ。景気が失速したら元も子もない。それで幸せになる国民は、ほとんどいないからだ。喜ぶのは、資産価格が暴落して、買い占め、買いあさりがしやすくなるハゲタカだけである。日本はまだまだデフレ経済を脱していない。諸物価の値上がりは原料価格の高騰によるものであって、賃金上昇や経済規模の拡大につながらないものであり、インフレの兆しではけっしてない。こうした経済状況が続いていけば、中長期で見た日本は将来はとんでもないことになる。現状でも、20代前半の雇用のうち半数が非正社員である。そうした若者たちを日雇い派遣で続けていけば、将来の日本はいったいどうなるのか。想像するだに恐ろしい。現状のようなデフレ経済というのは、地位や定職といった既得権をもっている人にとってはあまり恐くない(もちろん絶対ではない)が、そのしわ寄せがすべて弱い人にくることを忘れてはならない。
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ようちゃんの意見。↓
★このまま何もしなければ日本の将来は真っ暗になる。ともかく 減税もしなければ、税制改革もしなければ、株価も 地価も あげようとしない政府。勿論金利も上げるべきは上げる。また それを 問題視しないし、かつその状態で、天から牡丹餅が落ちてくると信じて 豊かに なりたい、なれると思い込んでる国民。マスコミも、寝た子を起こさないように、ダンマリを決め込む。受身で指示待ちしても、状況は変わりませんよ!自分で頭使って考えて、口を開き、手足を使って政府に働きかける行為も必要です。後期高齢者の方が 若者より元気に、医療問題や年金で交渉を始めてる。働き盛りの人間が、 景気対策を政府に要求する行動を起こさないで誰が やるのでしょう!
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