南進する段階に入った中国-櫻井よしこ (読んでおくべき記事!)
ようちゃん、おすすめ記事。↓
▼南進する段階に入った中国-櫻井よしこ(草莽崛起ーPRIDE OF JAPAN)
ジャーナリスト:国家基本問題研究所理事長櫻井よしこ
憲法改正は、なぜ、進まないのか
憲法とは国家の根本であり、憲法に基づいて各種法律が作られ、条例、政令その他社会の枠組みが作られていきます。人間で言えば憲法とは骨格そのものでありますから、そこに、どのような精神を込めていくか、どのような価値観を基本にして作っていくかが問われます。私達は今まで何故に憲法を改正することが出来なかったのか、そのことを今、真剣に考えなければならないと思います。昨年せっかく国民投票法ができたのに、この一年間、憲法改正に向けての具体的な動きが全く進んでいません。どうしてでしょうか。わが国を本当の意味での日本国、国家にしようとする意思が欠けているといわざるをえません。その間にどれ程の国益が失われてきたことでしょうか。
南進する段階に入った中国
なぜ、私達は今、日本国憲法の改正を急がなければならないのか。そのことを国際情勢の観点から見ていきますと、まず、問題として浮かび上がるのが中国です。中国で今、劇的な変化が起きつつあります。わが日本にとっては、容易ならざる変化です。中国はいまや南進する段階に入ったと見なければなりません。南に進み、台湾を取る。そして、東シナ海、南シナ海、さらには日本列島を越えた西太平洋まで中国の支配権を確立していくという長期戦略を描いています。その南進の準備がほぼ出来あがってしまったのです。
中国には長い間、北からの脅威がありました。かつてのソ連邦、今のロシアからの脅威ですが、この北からの脅威が二〇〇四年にほぼ解消されました。プーチン大統領と胡錦濤国家主席の会談で、中露間の国境問題は完全に解決したと発表されました。二〇〇五年には、中露両国は初の大規模な合同軍事演習を日本及び台湾の周辺で行いました。台湾を取るということを明確に念頭に置いたものでした。二〇〇六年には、中国とロシアが中心となってカザフスタン、キルギス、ウズベキスタン、タジキスタンの中央アジア四カ国を巻き込んだ「上海協力機構」が首脳会談を開き、政治宣言を発表しました。その重要なポイントの一つは、体制の違い、価値観の違いを以って他国への内政干渉をしてはならないというものでした。わが国の福田総理大臣は今、チベット問題について問われると、「国が違えば意見が異なることもありましょう」とおっしゃる。
これこそ上海協力機構の政治宣言に素直に反応している言葉です。そして二〇〇七年には、この上海協力機構の六ヶ国に加えて、インド、パキスタン、アフガニスタン、モンゴル、そしてイランなどの国々をオブザーバー国、もしくはゲスト国として加えて、十一ヶ国による合同軍事演習が行われました。中国にとってみれば背後も足下も安心の状況となり、ここに南進の用意ができたというわけです。また、昨年十二月にオーストラリアに大の親中派、ケビン・ラッド首相の労働党政権が誕生したことも中国の南進をより容易にするでしょう。中国は台湾を取ることを国是としてきました。万一、台湾が中国の支配下に入った場合、台湾海峡、バシー海峡は中国の内海となります。日本を支える石油は、ホルムズ海峡を出てマラッカ海峡を通って、台湾海峡もしくはバシー海峡を通って我が国に運ばれますが、ここが中国の内海となれば、普通に通してもらえるとは限りません。我が国にとって重大な脅威となるのは明白です。
アメリカにおける親中派の台頭
八月のオリンピック、二年後の上海万博、それを過ぎれば中国はそれほど国際世論を気にする必要はなくなるでしょう。必ずここ二、三年以内に重大な変化が起きるだろうと考えて準備をしなければならないのが、政治の常識です。その準備とは、まずアメリカとの関係を強くすることです。ところが、今、そのアメリカはどうなっているか。次期大統領選挙で民主党の指名候補者を競っているヒラリー・クリントンさんもバラク・オバマさんも共に親中派です。「二十一世紀、アメリカにとって一番大事な国は中国である」とヒラリー・クリントンさんは言っていますし、オバマさんは自分が大統領になった場合、アメリカのアジア政策を根本から変え、二国間の枠組みに代わる包括的なアジアの枠組みをつくりたい、その時に指導的役割を果たすのは中国である、と言っています。お二方とも眼中にあるのは中国であって日本ではない。オバマさんに至っては具体的に二国間の枠組み、つまり日米安保条約、米韓軍事同盟を解消すると言っているわけですから、次の大統領が誰になるかによって我が国はかなり深刻な状況に直面せざるをえない。
共和党のマケインさんだけは「日本がどれだけアメリカの為に貢献してくれたかを忘れてはならない。民主主義、法の支配、人権、言論の自由、宗教の自由。これらを比べてみて、日本と中国のいずれがアメリカのパートナーとなるべき国かは明らかである」と言っていますが、たとえ共和党が勝ったとしても、私達が肝に銘じなければならないのは、共和党の候補者の中で、マケインさんのような考え方を示しているのはニューヨーク市長だったジュリアーニさんぐらいのもので、他の候補者は民主党の二人とほぼ同じ考えであったということです。このような国際情勢の変化は、わが国に対して、自力で国家を守る地平に立たされているということを告げているのです。
恐るべき民族抹殺の実態
歴史と伝統の国、日本国を守るために、どのような国家の形に作り上げていけば良いのか。そのことを知るにはまず、今申し上げたように、己がどこに立っているかということを知ると同時に、例えば中国やアメリカなど隣接する諸国との相違点、類似点をまず知ることでありましょう。良い類似点があればそこを強調して関係を築いていけばいいし、相違点があればどちらが良いかを比較して、良い方を選んで行けばよい。チベット弾圧が話題となり、世界中で北京五輪の聖火リレーに対して抗議が起きました。各国で聖火リレーのコースが短縮されたり大幅に変更されたりしました。その中で、わが国だけは―出発点は善光寺が良心の声を挙げて変わりましたが―コースはほとんど変わりませんでした。これは恥ずかしいと私は思いました。つい先日、チベットと同じ運命を辿ってきたウイグルの人達の話を聞きました。中国政府はウイグル人はテロリスト達であり、あのアルカイダと結び付いていて武器の供与を受けているとおどろおどろしいイメージを喧伝してきましたけれども、実際はそうではないのです。
私が会った人達は理路整然と正しいことを言っているに過ぎない人達でありました。以下はそのときにウイグル亡命政府の首相から聞いた話です。
ウイグルの人達が、今まで約五十数年間に亘ってどれだけの迫害を受けて来たか。今、東トルキスタン・ウイグル自治区には千五百万人のウイグル人に対し、二千万人の漢人が住んでいるといいます。漢民族が席捲しているのです。さらに、ウイグル人の人口は意図的に減少させられようとしています。ウイグル人の十五歳から二十二歳の独身女性達が、毎年何万人という規模で、上海や北京などの都市に働きに出させられている。
ウイグルは貧しく働き口も少ないだろうからという口実で町に連れていかれる。そして一ヶ月三百元(約四千五百円)というような安い給料で働かされて、何年かしたらその職を取り上げられてしまう。そうすると水商売に入るか、結婚するしか道はなくなる。その時の結婚の相手が漢民族の男性だそうです。一人っ子政策で、中国人は子供が生まれるとき、男の子か女の子かを調べて、男の子の方を優先して産みがちです。すると二〇二〇年頃には、四〇〇〇万人ぐらいの男性が結婚できなくなる。
そうした漢人の独身男性のためにウイグル人の女性たちが政策的に提供されているというのです。チベットでも同じことが行われています。チベットの女性と漢民族の男性の結婚は奨励されていますが、チベットの男性と漢民族の女性の結婚は法的に禁止されている。ウイグルもチベットもこうして民族消滅の道を辿らされつつあるのです。そのように生理的に民族の純血を壊していくのと併行して、文化・文明の面からも民族の抹殺が図られています。中国政府は表向きは諸民族の文化・文明を重んじると言い、中央民族学院という少数民族のための大学まで作っていると喧伝しています。しかし、その実態はどうかといえば、言葉は中国語、教える内容は中国の文化・文明であり、中国の歴史であり、共産主義イデオロギーです。ウイグル人のお父さんやお母さんが、子供に教育を受けさせてやろうと送り出したところ、十年、二十年のちに戻ってきたときには、もう言葉が通じない、ウイグルの文化・文明も分からない、〝立派な中国人〟になって帰ってくるというのです。その他、残酷な拷問の事例をいくつも聞きました。
胡錦濤国家主席に示すべきわが国の価値観
このような仕打ちを少数民族に対して行っている中華人民共和国の胡錦濤国家主席に対して、私達はわが国がよって立つ価値観を伝えなければならないと思います。それは、人間を大事にすること、自由を大事にすること、日本国の文明に基づいて行動し発言することです。日中間には当面の懸案として東シナ海のガス田問題があり、毒餃子事件があります。そしてもっと基本的な問題として、尖閣諸島の問題があり、中国の異常な軍拡の問題があります。あるいは、歴史の事実を曲げた反日教育の問題があり、環境問題もあります。もちろんチベット問題もあります。こうした当面の問題、長期の問題、両方に亘って福田総理大臣には日本国民を代表して話して頂かなくてはなりませんが、福田総理にその覚悟がおありかどうか。
わが国では、総理大臣のみならず、各界のリーダーたちがあまりにも言うべきことを主張してこなかった。それにはいろいろな理由があると思いますが、戦後の歴史の中で我が国はものを言ってはならないんだという価値観が定着してきたことが大きな原因であろうかと思います。あの大東亜戦争で加害者であった、だから戦後は軍隊を持ってはいけない、国家主権は行使してはいけない、これに反したことを言ってはならないという間違った価値観に染まりきってしまった。その誤った価値観に基づいているのが現行憲法です。
日本人の伝統的価値観に基づいた自主憲法の制定を
アメリカが与えた憲法を私達はどのように作り直していくか。本当ならば改正であってはならない。はじめから書き直す、即ち、自主憲法の制定というところから一歩を始めなければならないのではないかと、私は思います。私達の国は立派な伝統を持っておりました。歴史を振り返ってみると例えば民主主義も男女平等も、一人一人を大事にするという福祉の思想もいわゆる先進列強に教えられるまでもなく、わが国は太古の昔からこうした価値観を実践してきた国柄なのです。それは古くは聖徳太子の十七条の憲法、近代にあっては明治維新の五箇條の御誓文に端的に示されています。明治憲法は五箇條の御誓文の精神に基づいて、約二十年後に生まれました。明治憲法も今読んでみると少しばかり古いところはありますけれども、根本の価値観においては実に見事なものです。 幾世代もの先人たちが大事にして実践してきたこうした価値観をもう一回振り返って、それを新しい形で憲法に盛りこむことが今生きている私達の責任だと思います。そのようにして日本人であること、日本人としての価値観というものをしっかりと意識したときに、日本の本当の力というものが発揮されるのではないでしょうか。満州事変時、国際連盟からリットン調査団が派遣されました。その結果、わが国は国際連盟を脱退することになったわけですが、実はその報告書には必ずしも日本が悪いなどということはどこにも書いていないのです。彼らはこう書きました。「日本が古き伝統の価値を減ずることなく、西洋の科学と技術を同化し、西洋の標準を採用したる速度と完全性はあまねく賞嘆せられたり。」明らかに当初は、日本を敵視しながら行われたかもしれない調査に携わった人達でさえも日本の素晴らしさというものを認めている。
日本人がしっかりとした伝統的な価値観をわきまえていたために、西洋から入ってきたものを自分なりに消化して、日本人のかたちに結晶化させていくことができた。この日本の価値観というものを忘れてはならないだろうと思います。そうした価値観を踏まえてぜひ憲法審査会を一日も早く開いていただき、憲法改正、これを自主憲法制定の心でやっていただきたい。それをしなければ、勢いをつける中国、変貌を遂げるアメリカ、異形の大国となろうとするロシア、そしてインドと、いろいろな国々が大きく力をつけていく、この二十一世紀の世界情勢の中で日本の行く道を切り開くことはできないと思います。言い換えれば日本国の価値観をしっかりと土台に置いて、この国の制度作りをするならば、必ず日本の道は切り開かれて行くだろうと思います。そしてその為に、私達は昨年十二月、国家基本問題研究所(*)というシンクタンクを作りました。どのお役所ともつるまず、どの民間企業にも頼らず、純粋に独立した民間の組織として、ただ一点、日本の国益、日本の明るい未来の構築を考えて、そのために何をなすべきかということを曇り無き心で提言し、それを実行すべくやっていこうというシンクタンクです。皆さん一緒に手を携えて一日も早い日本国憲法の改正、自主憲法の制定を志して行きましょう。(本稿は五月三日、民間憲法臨調主催の憲法シンポジウムでの基調講演の要旨を校正いただいたものです)
※国家基本問題研究所…[住所]〒102-0093 東京都千代田区平河町2丁目16番5号クレール平河町801号 [電話]03-3222-7822 [Fax]03-3222-7821
同研究所の詳細については、ホームページhttp://jinf.jp/ をご覧ください。
▼南進する段階に入った中国-櫻井よしこ(草莽崛起ーPRIDE OF JAPAN)
ジャーナリスト:国家基本問題研究所理事長櫻井よしこ
憲法改正は、なぜ、進まないのか
憲法とは国家の根本であり、憲法に基づいて各種法律が作られ、条例、政令その他社会の枠組みが作られていきます。人間で言えば憲法とは骨格そのものでありますから、そこに、どのような精神を込めていくか、どのような価値観を基本にして作っていくかが問われます。私達は今まで何故に憲法を改正することが出来なかったのか、そのことを今、真剣に考えなければならないと思います。昨年せっかく国民投票法ができたのに、この一年間、憲法改正に向けての具体的な動きが全く進んでいません。どうしてでしょうか。わが国を本当の意味での日本国、国家にしようとする意思が欠けているといわざるをえません。その間にどれ程の国益が失われてきたことでしょうか。
南進する段階に入った中国
なぜ、私達は今、日本国憲法の改正を急がなければならないのか。そのことを国際情勢の観点から見ていきますと、まず、問題として浮かび上がるのが中国です。中国で今、劇的な変化が起きつつあります。わが日本にとっては、容易ならざる変化です。中国はいまや南進する段階に入ったと見なければなりません。南に進み、台湾を取る。そして、東シナ海、南シナ海、さらには日本列島を越えた西太平洋まで中国の支配権を確立していくという長期戦略を描いています。その南進の準備がほぼ出来あがってしまったのです。
中国には長い間、北からの脅威がありました。かつてのソ連邦、今のロシアからの脅威ですが、この北からの脅威が二〇〇四年にほぼ解消されました。プーチン大統領と胡錦濤国家主席の会談で、中露間の国境問題は完全に解決したと発表されました。二〇〇五年には、中露両国は初の大規模な合同軍事演習を日本及び台湾の周辺で行いました。台湾を取るということを明確に念頭に置いたものでした。二〇〇六年には、中国とロシアが中心となってカザフスタン、キルギス、ウズベキスタン、タジキスタンの中央アジア四カ国を巻き込んだ「上海協力機構」が首脳会談を開き、政治宣言を発表しました。その重要なポイントの一つは、体制の違い、価値観の違いを以って他国への内政干渉をしてはならないというものでした。わが国の福田総理大臣は今、チベット問題について問われると、「国が違えば意見が異なることもありましょう」とおっしゃる。
これこそ上海協力機構の政治宣言に素直に反応している言葉です。そして二〇〇七年には、この上海協力機構の六ヶ国に加えて、インド、パキスタン、アフガニスタン、モンゴル、そしてイランなどの国々をオブザーバー国、もしくはゲスト国として加えて、十一ヶ国による合同軍事演習が行われました。中国にとってみれば背後も足下も安心の状況となり、ここに南進の用意ができたというわけです。また、昨年十二月にオーストラリアに大の親中派、ケビン・ラッド首相の労働党政権が誕生したことも中国の南進をより容易にするでしょう。中国は台湾を取ることを国是としてきました。万一、台湾が中国の支配下に入った場合、台湾海峡、バシー海峡は中国の内海となります。日本を支える石油は、ホルムズ海峡を出てマラッカ海峡を通って、台湾海峡もしくはバシー海峡を通って我が国に運ばれますが、ここが中国の内海となれば、普通に通してもらえるとは限りません。我が国にとって重大な脅威となるのは明白です。
アメリカにおける親中派の台頭
八月のオリンピック、二年後の上海万博、それを過ぎれば中国はそれほど国際世論を気にする必要はなくなるでしょう。必ずここ二、三年以内に重大な変化が起きるだろうと考えて準備をしなければならないのが、政治の常識です。その準備とは、まずアメリカとの関係を強くすることです。ところが、今、そのアメリカはどうなっているか。次期大統領選挙で民主党の指名候補者を競っているヒラリー・クリントンさんもバラク・オバマさんも共に親中派です。「二十一世紀、アメリカにとって一番大事な国は中国である」とヒラリー・クリントンさんは言っていますし、オバマさんは自分が大統領になった場合、アメリカのアジア政策を根本から変え、二国間の枠組みに代わる包括的なアジアの枠組みをつくりたい、その時に指導的役割を果たすのは中国である、と言っています。お二方とも眼中にあるのは中国であって日本ではない。オバマさんに至っては具体的に二国間の枠組み、つまり日米安保条約、米韓軍事同盟を解消すると言っているわけですから、次の大統領が誰になるかによって我が国はかなり深刻な状況に直面せざるをえない。
共和党のマケインさんだけは「日本がどれだけアメリカの為に貢献してくれたかを忘れてはならない。民主主義、法の支配、人権、言論の自由、宗教の自由。これらを比べてみて、日本と中国のいずれがアメリカのパートナーとなるべき国かは明らかである」と言っていますが、たとえ共和党が勝ったとしても、私達が肝に銘じなければならないのは、共和党の候補者の中で、マケインさんのような考え方を示しているのはニューヨーク市長だったジュリアーニさんぐらいのもので、他の候補者は民主党の二人とほぼ同じ考えであったということです。このような国際情勢の変化は、わが国に対して、自力で国家を守る地平に立たされているということを告げているのです。
恐るべき民族抹殺の実態
歴史と伝統の国、日本国を守るために、どのような国家の形に作り上げていけば良いのか。そのことを知るにはまず、今申し上げたように、己がどこに立っているかということを知ると同時に、例えば中国やアメリカなど隣接する諸国との相違点、類似点をまず知ることでありましょう。良い類似点があればそこを強調して関係を築いていけばいいし、相違点があればどちらが良いかを比較して、良い方を選んで行けばよい。チベット弾圧が話題となり、世界中で北京五輪の聖火リレーに対して抗議が起きました。各国で聖火リレーのコースが短縮されたり大幅に変更されたりしました。その中で、わが国だけは―出発点は善光寺が良心の声を挙げて変わりましたが―コースはほとんど変わりませんでした。これは恥ずかしいと私は思いました。つい先日、チベットと同じ運命を辿ってきたウイグルの人達の話を聞きました。中国政府はウイグル人はテロリスト達であり、あのアルカイダと結び付いていて武器の供与を受けているとおどろおどろしいイメージを喧伝してきましたけれども、実際はそうではないのです。
私が会った人達は理路整然と正しいことを言っているに過ぎない人達でありました。以下はそのときにウイグル亡命政府の首相から聞いた話です。
ウイグルの人達が、今まで約五十数年間に亘ってどれだけの迫害を受けて来たか。今、東トルキスタン・ウイグル自治区には千五百万人のウイグル人に対し、二千万人の漢人が住んでいるといいます。漢民族が席捲しているのです。さらに、ウイグル人の人口は意図的に減少させられようとしています。ウイグル人の十五歳から二十二歳の独身女性達が、毎年何万人という規模で、上海や北京などの都市に働きに出させられている。
ウイグルは貧しく働き口も少ないだろうからという口実で町に連れていかれる。そして一ヶ月三百元(約四千五百円)というような安い給料で働かされて、何年かしたらその職を取り上げられてしまう。そうすると水商売に入るか、結婚するしか道はなくなる。その時の結婚の相手が漢民族の男性だそうです。一人っ子政策で、中国人は子供が生まれるとき、男の子か女の子かを調べて、男の子の方を優先して産みがちです。すると二〇二〇年頃には、四〇〇〇万人ぐらいの男性が結婚できなくなる。
そうした漢人の独身男性のためにウイグル人の女性たちが政策的に提供されているというのです。チベットでも同じことが行われています。チベットの女性と漢民族の男性の結婚は奨励されていますが、チベットの男性と漢民族の女性の結婚は法的に禁止されている。ウイグルもチベットもこうして民族消滅の道を辿らされつつあるのです。そのように生理的に民族の純血を壊していくのと併行して、文化・文明の面からも民族の抹殺が図られています。中国政府は表向きは諸民族の文化・文明を重んじると言い、中央民族学院という少数民族のための大学まで作っていると喧伝しています。しかし、その実態はどうかといえば、言葉は中国語、教える内容は中国の文化・文明であり、中国の歴史であり、共産主義イデオロギーです。ウイグル人のお父さんやお母さんが、子供に教育を受けさせてやろうと送り出したところ、十年、二十年のちに戻ってきたときには、もう言葉が通じない、ウイグルの文化・文明も分からない、〝立派な中国人〟になって帰ってくるというのです。その他、残酷な拷問の事例をいくつも聞きました。
胡錦濤国家主席に示すべきわが国の価値観
このような仕打ちを少数民族に対して行っている中華人民共和国の胡錦濤国家主席に対して、私達はわが国がよって立つ価値観を伝えなければならないと思います。それは、人間を大事にすること、自由を大事にすること、日本国の文明に基づいて行動し発言することです。日中間には当面の懸案として東シナ海のガス田問題があり、毒餃子事件があります。そしてもっと基本的な問題として、尖閣諸島の問題があり、中国の異常な軍拡の問題があります。あるいは、歴史の事実を曲げた反日教育の問題があり、環境問題もあります。もちろんチベット問題もあります。こうした当面の問題、長期の問題、両方に亘って福田総理大臣には日本国民を代表して話して頂かなくてはなりませんが、福田総理にその覚悟がおありかどうか。
わが国では、総理大臣のみならず、各界のリーダーたちがあまりにも言うべきことを主張してこなかった。それにはいろいろな理由があると思いますが、戦後の歴史の中で我が国はものを言ってはならないんだという価値観が定着してきたことが大きな原因であろうかと思います。あの大東亜戦争で加害者であった、だから戦後は軍隊を持ってはいけない、国家主権は行使してはいけない、これに反したことを言ってはならないという間違った価値観に染まりきってしまった。その誤った価値観に基づいているのが現行憲法です。
日本人の伝統的価値観に基づいた自主憲法の制定を
アメリカが与えた憲法を私達はどのように作り直していくか。本当ならば改正であってはならない。はじめから書き直す、即ち、自主憲法の制定というところから一歩を始めなければならないのではないかと、私は思います。私達の国は立派な伝統を持っておりました。歴史を振り返ってみると例えば民主主義も男女平等も、一人一人を大事にするという福祉の思想もいわゆる先進列強に教えられるまでもなく、わが国は太古の昔からこうした価値観を実践してきた国柄なのです。それは古くは聖徳太子の十七条の憲法、近代にあっては明治維新の五箇條の御誓文に端的に示されています。明治憲法は五箇條の御誓文の精神に基づいて、約二十年後に生まれました。明治憲法も今読んでみると少しばかり古いところはありますけれども、根本の価値観においては実に見事なものです。 幾世代もの先人たちが大事にして実践してきたこうした価値観をもう一回振り返って、それを新しい形で憲法に盛りこむことが今生きている私達の責任だと思います。そのようにして日本人であること、日本人としての価値観というものをしっかりと意識したときに、日本の本当の力というものが発揮されるのではないでしょうか。満州事変時、国際連盟からリットン調査団が派遣されました。その結果、わが国は国際連盟を脱退することになったわけですが、実はその報告書には必ずしも日本が悪いなどということはどこにも書いていないのです。彼らはこう書きました。「日本が古き伝統の価値を減ずることなく、西洋の科学と技術を同化し、西洋の標準を採用したる速度と完全性はあまねく賞嘆せられたり。」明らかに当初は、日本を敵視しながら行われたかもしれない調査に携わった人達でさえも日本の素晴らしさというものを認めている。
日本人がしっかりとした伝統的な価値観をわきまえていたために、西洋から入ってきたものを自分なりに消化して、日本人のかたちに結晶化させていくことができた。この日本の価値観というものを忘れてはならないだろうと思います。そうした価値観を踏まえてぜひ憲法審査会を一日も早く開いていただき、憲法改正、これを自主憲法制定の心でやっていただきたい。それをしなければ、勢いをつける中国、変貌を遂げるアメリカ、異形の大国となろうとするロシア、そしてインドと、いろいろな国々が大きく力をつけていく、この二十一世紀の世界情勢の中で日本の行く道を切り開くことはできないと思います。言い換えれば日本国の価値観をしっかりと土台に置いて、この国の制度作りをするならば、必ず日本の道は切り開かれて行くだろうと思います。そしてその為に、私達は昨年十二月、国家基本問題研究所(*)というシンクタンクを作りました。どのお役所ともつるまず、どの民間企業にも頼らず、純粋に独立した民間の組織として、ただ一点、日本の国益、日本の明るい未来の構築を考えて、そのために何をなすべきかということを曇り無き心で提言し、それを実行すべくやっていこうというシンクタンクです。皆さん一緒に手を携えて一日も早い日本国憲法の改正、自主憲法の制定を志して行きましょう。(本稿は五月三日、民間憲法臨調主催の憲法シンポジウムでの基調講演の要旨を校正いただいたものです)
※国家基本問題研究所…[住所]〒102-0093 東京都千代田区平河町2丁目16番5号クレール平河町801号 [電話]03-3222-7822 [Fax]03-3222-7821
同研究所の詳細については、ホームページhttp://jinf.jp/ をご覧ください。