四川省成都からの現地報告(日々是チナオチ)
四川省からの現地報告(日々是チナオチ)
四川大震災、そろそろ別方面から斬り込もうかという考えと、最新経済統計などお約束のルーティンワークにも手をつけなきゃと思案していたところ、四川省成都市在住のAさんが写真を送ってきてくれました。
日本のテレビで紹介されるシーンとは対照的に、緊張感のない画像です。しかしそこに価値があります。Aさんが以前指摘したように、学生たちの姿からは危機感を感じられません。
中国の大学というのは全寮制が原則で、基本的に構内で生活体系が自己完結できるような仕組みになっています。要するに選り好みしなければ大学の外へと出なくても済むようになっており、幸いAさんが日本語を教えているこの大学は大地震による被害が軽微であるため、構内で日を送る大学生たちは娑婆のように殺気立ってはいないということなのでしょう。
同じ成都でもシートを屋根代わりに小屋掛けして野宿している市民がいること考えれば、金魚鉢の中といったこの環境とこの雰囲気は正に別世界。それでもテレビなどで地元の惨状くらいは目にしている筈ですが……。
私が留学していた「大学生=エリート」という時代であれば、ゆくゆくは自分たちが社会を背負って立つのだという自負心などから問題意識もあり(バラつきはありましたが)、今回のような状況下に置かれればまず集会などを開いて合議し、学生たちだけで一隊を組織して社会のためにひと肌ぬぐ、といった気っぷを示したでしょうに。……要するに時代が変わった、私が歳をとったということなのでしょう。orz
いまの中国の大学生たちに、そういうことを期待してはいけないのかも知れません。あるいは官製ではなく自発的な組織によるボランティアは、いまのピリピリした御時世では御法度で、大学側からNGを言い渡されたりしているのでしょうか。
以下にAさんからのメールを。
●Aさん(2008/05/14/15:16送信)
御家人さん:
重ね重ね、丁寧なメール有難うございます。
いま、成都は、昨日一日降り続いた雨も上がり、晴れています(正確には曇っています、ですが)。ややもわっとする、そんな天気です。
さて、先ほどネットカフェから、写真を送ってみました。月曜(12日)から今朝(14日)にかけて大学構内で取ったものです。いま、私のアパートから見えるテニスコートでは、学生たちが片付けをしたり、テントやシートを干したり、はたまたバスケットやバトミントンをしています。先ほどちょっと様子を見に行ってきたのですが、ごみは散らかす、片付けない、で、間違っても被災者ではなく、馬鹿大学生が野外キャンプをして騒いでみました、みたいな雰囲気です。
大学構内には、無料通話コーナーが設けられたりしています。平穏を取り戻しつつあるともいえますが、まだ明日以降の授業がどうなるか分りません。このまま週末まで休み?でしょうか。何しろ都江堰出身の子も学生には居るでしょうし、まだまだ救済活動は始まったばかりですからね。家族が被災しているのに、こんなところで!という空気もあるでしょうし。
先ほどネットカフェに行ってきました。私のPCからの回線が弱いため、御家人さんのブログもそこで読んでいるのですが、最近、出が悪くなりました。マークされるのでしょうか。よく、画面がフリーズします。ネットカフェは相変わらず「ゲームセンター状態」で、なんていうんでしょう、日本のパチンコ屋に入ったときのような雰囲気で、タバコの煙も好きじゃない私は、早く出てしまいたい感じです。
ネットカフェにいたとき、ちょっと強い余震がありました。なんだか慣れてしまった私は机の下にもぐろうかと思ったのですが、それより先に、中国人学生連中らが、怒涛の勢いで出口から我先に我先にと飛び出していきました。ものすごい勢いで、余震よりもそっちが凄いくらいです。男も女も皆、です。結局余震は大した事は無かったのですが、かなり敏感になってるということはいえると思いますし、あんなに一気に逃げたら混乱して怪我するだろうなぁ、と思うのですけど、建物が脆弱なこちらでは、そのほうが良いのでしょうか?
あ、また余震、横揺れが大きいです。
先ほど、ぶらっと男子寮の方も見てきたのですけど、男子寮も避難勧告が解禁されたようで、ぞろぞろと寮に戻ったりする学生が多く見受けられました。男子寮は一つの村ように固まっているのですけど、窓から五星旗が何本もはためいているではないですか。ぞっとしました。なんかその…、
「それでいいんだ!」
「中国はつえーんだぜ!」
「オレたち愛国!何か悪い?」
……というような雰囲気。間違いなく、ここ数ヶ月の社会的な動きに呼応してのこの行動、と考えると、先の「I love China」もそうですが、もろに感化されやすい世代、年代だったか、と 思いました。
実は女の子の寮にはこうした傾向は無いのです。やはり、同性としてわかるのですけど、男は突っ走り易いということもあるのでしょうかね。
こちらの報道に関して、防災的見地からの報道が無い、と申し上げましたが、ほんの少しだけ、消防関係者が出演している番組を、CCTVのニュースで見かけました。ただ、全体に比べると少ないですし、圧倒的多数の情報は、温家宝です。だんだん、顔が泣きそうな顔になっています。おまえ今回のヒーローじゃねーだろーという感じなんですけど……。
いま、外事部の女の子から連絡が入り、水道水を飲むな、と連絡が入りました。既におなかの中に入ってしまってますけど…どうしたらいいのでしょう…???
確かに御家人さんの仰るように、中国の記事は戦う中国人という視点の様ですね。いまCCTV INTERNATIONALを見てますけど、特別番組を組んでますが、やはりトップニュー スは温家宝の行動です。
ただ、どこまで騙せるか。見せたくないものをどこまで隠しきれるか、でしょうか。
気になったのですけど、今回の件、ネットにみられる中国の若者などのムードはどうなんでしょうか。たとえば、今回のエリア、多くがチベットエリアに近いわけで、天罰だ、などという意見も出てるのでは、と思います。その反面、成都市内で献血に参加する人もいるという報道もあり、聖火リレーやるやらないなどのように意見が分かれたら面白いかな、と思っています。因みに、さすがに事態が深刻になったのか、CCTV INTERNATIONALでも、聖火リレーニュースは扱いがかすんできました。
私も、地震に関しては遥かに経験のある日本チームを入れたほうが良いと思うのですが、まずそれはなさそうですね。ほしいのはお金だけでしょうか。この辺が日本政府も甘いところです。お金渡すなら人も入れろとでも言えば良いのに。
長くなってはご迷惑でしょうから、今日はこの辺にします。また何か感じたり、学生の意見なども拾えたら、後日紹介します。
……すみません。地震関連の記事が胡錦涛来日時よりもずーっと多くて記事漁りだけで蒲柳の質である私は体力が尽きてしまいました。とりあえず、寝ます。眠らせて下さい。m(__)m
寝て起きてから、追加して書くことにします。申し訳ありません。
それでも一言。私は今回の四川大震災に対して寄付は絶対に行いません。香港の新聞の表現を借りると、役人のモラルが低下している中国では「大發國難財」(国難=義援金で大儲け)ということになりかねませんから(前例あり)。
それ以上に、懐に入れられなくてもどれほどマトモな使われ方をするか疑問です。被災地には少数民族が多数生活しているとはいえ、中共政権に金を渡せばチベット人などを統治する暴力装置に磨きがかかるだけでしょう。ではどこに寄付すればいいかについては、皆さんで考えることにしましょう。
長野を五星紅旗の海に沈めた在日中国人留学生どもが張り切って寄付活動を展開しているようですから、中国のことは連中に任せておけばいいのです。人員派遣は断るけどカネなら大歓迎なんて国は放置すべきではないでしょうか。http://blog.goo.ne.jp/gokenin168/e/cd27092b7241862dd38c34d0e3436e8a
●Aさん(2008/05/15/15:36送信)
御家人さん :
先ほどネットカフェでブログ拝見しました。私のメールが掲載され些か恥ずかしいような感じです。私はここに住んでいるというだけで、専門家でもなんでもないですし、私が見て感じた事はお伝えしますが、どちらかといえば伝聞の情報も入ってるかもしれません。
昨日、TBSラジオを聴いていた友人から連絡が入り、TBSのレポーターが成都入りしたそうですけど、成都の様子として、「ネットカフェでゲームに興じる連中が居る」と伝えていたそうです。私の友人は放送関係に勤めているのですけど、こういった側面性を報じた今回のTBSを評価していました。
大学は落ち着きを取り戻しつつあり(まだ休校措置が取られていますが)、今日、様子を見ていたら、学生会が「救援物資受け付け」を開始していました。見ていると、多くの学生が布団や服などを提供していました。
今回の件で凄く疑問に思うのは、完全に中国が世界を相手に被害者に回るのに成功したということです。ちょっと前まで世界の災害に対する関心は、ミャンマーでした。しかし、日本もそうだと思うのですけど、こちらではミャンマーに関する話題が消えてしまいました。
被害者という意味では、チベットの件では一刻でも早く火消しに走ったのに対し、今回は、見せることで結束させ、引っ張るだけ引っ張り、対外的にアピールしようという意図をモロに感じ、嫌味な感じがします。TVや中国人の言動を見ていてどうも不愉快なのはそこです。
こちらからはこんな感じです。御家人さんもお体ご自愛下さいませ。
●御家人(2008/05/15/20:47送信)
Aさん:
御家人です。いつも貴重な現地報告、ありがとうございます。m(__)m
Aさんのお友達の「側面性」という言葉がありましたが、Aさんの現地ルポは正にそれであり、私が価値を感じているのもその点にあります。センセーショナルな方向へ傾きがちな日本のマスコミ報道に対し、「いや、でもこういう状況も同時に起きててさ」という、現地在住者にとっては常識かも知れないものの、日本国内からみると「おおそうなのか」という情報提供は非常に意味のあることだと考えております。
瓦礫の山とか野宿する市民の姿はプロがとっくに拾っているので珍しくもありません。しかし大学というある意味閉鎖された環境にいる若い世代が、地元で起きている出来事に対してどう反応しているか、といった内容は非常に貴重です。当ブログに寄せられたコメントからも、Aさんによる一連のレポートから様々なことが読みとられている形跡がうかがえて、有意義な情報として扱われていることに「甲斐があった」というか、喜びを覚えています。
一般市民視点、しかも大学という特殊な環境下でこそ、みえてくるものがあると思うのです。
例えば以前言及なさっている「I love China」のTシャツにしても、どういう動機で着ているのか、「愛国」なるものの実質が聖火リレー&攘夷運動から四川大震災へと当局によって意図的にシフトされつつあるなか、「I love China」を着ている学生の気分も変化しつつあるのか、着る人は増えていくのか、また「I love China」着用者の背後には予備軍がたくさんいるということなのか、中国人教師はこうした動きをどうみているか、学生寮から五星紅旗を掲げている意図は何なのか。……などは、取材陣がまず拾わない題材でしょうから。
御指摘のように中国は国際社会において「被害者」との立場を確立しつつあるようです。日本においてもミャンマーの話題は脇に追いやられ、チベット問題などは影をひそめてしまいました。ただ「長野」から胡錦涛訪日のドタバタという流れを経てきていますから、日本のテレビ局も、
「温家宝の活動を強調しすぎ」
「軍隊を英雄視する怪しい動き」
「肝心の被災者の声が拾われていない」
つまりは国内の様々な不満封じ込めと当局への求心力向上、それに国際社会でのイメージ回復を狙っているんだろ。……といったふうに、中国国内の報道に対してかなり冷静に眺めるようになりました。
私も今回の震災に対しては、中国報道の記事量の多さと、日本のテレビ局が伝えているような報道内容の極端な偏向ぶりに辟易しています。ボランティアの存在は中国国内メディアの報道からも確認できるのですが、具体的にどういう組織なのかはみえてきません。ちなみに「学生会」というのは昔も今も学校当局の手先といいますか、大学党委員会の走狗のような存在なので、救援物資受付活動は官製のものとみて間違いないと思います。
政治的にみれば、今回の大震災は「日本に対して妥協的すぎる」と胡錦涛が批判されかねない時機を潰したこと、排外的ナショナリズムを終息させつつ、対外的にも対内的にも好ましい形での「愛国活動」が成立できそうなこと(主要紙の論調がこれで足並みを揃えつつあります)、また上述したように国際社会での孤立感緩和にプラスであること……などが指摘できます。
ただこの種の「愛国活動」も煽り過ぎると被災者救済などへの対処ぶりに関する当局批判を生みかねませんから、党中央宣伝部には慎重さが求められることでしょう。
あるいはより深刻かも知れないのは、四川省が中国における穀倉地帯のひとつであるとともに、養豚業のメッカであることです。物価高騰の流れが止まらない経済への影響はまず避けられません。疫病やダム決壊などによる二次災害も懸念されるところです。
一方で、軍隊が本格的に被災地入りしていることで現場は戒厳令状態になると思われ、取材制限が強化されることについて海外メディアからの批判が出る可能性があります。
震源地のあたりは3月にチベット人が蜂起したりした場所です。当時,中国は国際社会を刺激しないよう武装警察の投入でお茶を濁していましたが、今回の地震で大手を振って軍隊を大量進駐させられるようになりました。
「軍隊は民族の別なく救済に努めている」
などという記事が新華社から出ています。出ていること自体が異様です。聖火リレーが実際に行われているというのに、私はいまだに、8月に北京で五輪が開催されるということにリアリティを感じられないままでいます。単に私が愚鈍なだけなのかも、知れませんけど。
当局による救助活動や救済措置が十分でないことに対し、被災者の苛立ちが深まりつつあるようです。ネタ探しのために学外へ出るといったような御無理はくれぐれも避けて下さい。どうかお気をつけて。
――――
……以上です。
●中国当局主導による「愛国」意識シフトの試み。
●中国国内メディアによる異質な特集報道。
●治安部隊の大挙進駐による少数民族居住区の戒厳令状態突入。
●一部でプチ略奪も発生するなど強まりつつある被災者の苛立ち。
●地震への対処に関するネット世論の一部でみられる当局批判。
●経済面への影響。
……など、事態は聖火リレー問題勃発当時よりも広範さと深刻さを伴うかも知れない、ある種の転換点にさしかかりつつあるように思います。軍隊をかなり動員していることから、軍部に対する胡錦涛の掌握力が強まるかどうかも興味深いところです。
その一方で、チベット問題を忘れてはなりません。折からダライ・ラマ十四世が欧州訪問に入ったところです。
http://blog.goo.ne.jp/gokenin168/e/a80ce320c3982f7431d485909253eed2