日中首脳会談、「画期的成果はなきに等しい」と欧米マスコミ
宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成20年(2008年)5月8日(木曜日) 弐
通巻第2177号 臨時増刊号
日中首脳会談、「画期的成果はなきに等しい」と欧米マスコミ
対して中国マスコミは「大いなる成果、成功」と
宣伝臭に満ちている
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胡錦濤の訪日は成果を挙げたのか、日本側にどれほどのメリットがあったのか。
胡錦濤主席は5月6日から五日間の日本訪問、江沢民が人民服で皇居晩餐会にあらわれ、“歴史の鏡”などとする発言で不愉快な問題を起こして両国関係が冷たくなって以来、十年ぶりの訪日となった。
昨年の温家宝首相訪日は「氷を溶かす旅」、そして今回は「暖かい春の旅」と中国側が比喩したものの、言葉の遊びに過ぎず、肝心の成果たるや、「それはパンダだけだ」と厳しくも冷徹な評価を下したのはヘラルドトリビューン(5月8日付け)。
同紙は「画期的成果はなにもない」と断定した。
日本側マスコミは産経を除いて前向きな評価である。
とくに「戦後日本の平和貢献を中国が認めた」、「パンダを貸してくれるのは友好の象徴だ」、「ガス田共同開発に解決の見通し」などと囃している。
東シナ海の軍事的突出に関して、憂慮をしめした新聞もすくない。
中国側の宣伝臭濃厚な路線に便乗しているかのごときで、しかも北京の論調は「日中は一衣帯水」「戦略的互恵関係の確立」「日本の北京五輪への協力姿勢」ばかり。
北京は、換言すればそれほど困っていた証拠でもある。
チベット問題で世界に孤立し、五輪の雲行きが怪しいときに、なんとしても日中友好を演出したかった。そのためには言葉だけでも譲歩をしめしておく必要に駆られたということであろう。
ただ香港などの華字紙は、チベット問題、冷凍餃子問題にも言及し、厳しい視線を確保しており、多維網新聞などは「懸案事項に実際的発展はなかった」(5月8日付け)と明言しているが。。。
▲胡錦濤の誠意ある回答はひとつもない
また日本で反対論が吹き出した天皇陛下の胡主席宿泊先へのお見送りに関して、「胡主席滞在中、実に三回も「天皇夫妻」(両陛下とは書いていない)が挨拶されるのは異例であり、日本側の厚遇を物語る」(文ワイ報)などと書いている。
実際のところ、胡錦濤は、何一つとして誠意ある言質を残していないのだ。
餃子毒入り事件は「双方の捜査を継続する」と言っているだけで、帰国後「やっぱり、日本側の混入」と開き直る余地がある。
「ガス田共同開発を確認した」にしても、日本側の譲歩した中間線さえ、中国が認めたわけでもなく、まして軍の賛同を帰国後獲得できるかどうかも定かではない。
万が一、共同開発がまとまっても中国軍の軍艦が監視する事態をどうするのか?
合意文書に盛られた、「首脳同士の年ごとの相互訪問」もリップサービスの域をでていない。まして「日本の国連貢献」を認めたと言っても、それを一部の解説者が強弁するように「日本の常任理事国入りに中国が賛成を示唆した」とは、ニュアンスからも捉えられないだろう。
言葉の上での成果がもしあるとすれば、「戦後日本の平和貢献」を渋々中国側が認めたことだけである。
だからといって「日本に軍国主義復活云々」などの批判が止むわけでもなく、まして中国全土に展開されている反日記念館の撤去を日本側は要求さえしていない。
「チベット」「北朝鮮」に関しては木で鼻をくくったようにおざなり。
福田首相は、会談の最後に、合意文書には盛り込まれなかったものの、自ら「遺棄兵器問題」に言及した。しかしながら、この「遺棄」という語彙に問題が多く、日本側の失点である(日本側の武装解除によりソ連と中国に引き渡した兵器の管理責任は日本側にはない。したがって「遺棄」を用いるのは不穏当である)。
得点を挙げたのはどちらか?
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(読者の声1)貴誌2176号、「読者の声3」への宮崎正弘氏のコメントは、
「中国共産党政権が崩壊する可能性は、現段階ではきわめて薄い。理由は350万人もの暴力装置です。人民解放軍とは人民を弾圧する暴力装置でしかなく、また「第二軍」である人民武装警察は人民を見張っている。深刻なのは農村部の暴動で、これがやがて「大平天国の乱、現代版」に発展するか、どうか。指導者不足がネックで当面、共産党が瓦解するシナリオは実現性が薄いといわざるを得ないでしょう」とあります。
最近、“期待”を込めての中共政権崩壊説が流布されます。
紹介されたメキシコの事例でもわかるように、暴力装置さえしっかりして食料が配給されていれば北朝鮮のように保つわけで。上掲の貴コメントは共感することしきりです。
(SJ生)
(宮崎正弘のコメント)中国は共産主義を捨てても「愛国主義」なるものを掲げて、毛沢東以来の中国共産党の一党独裁を合法化しており、その独裁と特権を守るためには、これからも何でもやらかすでしょう。
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