太田述正 有料メルマガ | 日本のお姉さん

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(すごく読みにくいです。青文字だけ読めばどうでしょう。

by日本のお姉さん)

1 始めに
今回は、まだきちんと検証していない憾みはあるのですが、歴史の大きな変化にわれわれは遭遇しているのではないか、という問題提起をしたいと思います。一つはイギリスと欧州の関係、そしてもう一つは日本と米国の関係における歴史の大きな変化です。

2 イギリスと欧州の融合?
元米クリスチャンサイエンスモニター紙特派員の、英国(イギリス?)のライターにして歴史家であるウェッブ(Stephen Webbe)が、同紙に次のような論考を寄せています。

「・・この冬、EU加盟27か国はリスボン条約に調印した。・・このリスボン条約は事実上、欧州という「国家」の憲法なのだ。より露骨に言えば、これは2005年にフランスとオランダの国民投票において拒否されたEU憲法を巧妙に模様替えした代物なのだ。・・3月11日、この条約を批准する法案が英下院を通過した。ブラウン政権は上院も通過させようとしている。・・全27か国が今年この条約を批准したら、この条約は2009年1月1日に発効する。・・<そうするとEUは、>これまで欠落していた国家としての属性を与えられる。大統領、外相(と外交団)、強力な新しい内務省、検察官、そして条約をつくる全権だ。これに加えて、共通の刑事法システム及び連邦警察の原初形態、そしていささかおどろおどろしい欧州憲兵(European Gendarmerie Force)も備えることになる。・・超国家的支配に服すというのは、英国の光栄ある歴史に照らし忍びがたいことだ。対照的に、英国の欧州隣国諸国の歴史は、拭い去ることの出来ないほど、暴政(tyranny)、軍事的敗北、帝国的野蛮さ(imperial barbarity)によって汚れているが、これら諸国は、窒息させるような超国家に己達を喜々として包含せしめようとしているように見える。・・こうなったらエリザベス2世女王しか、彼女の領域を有害なるリスボン条約から救出することができないのかもしれない。女王は、これが上程されてきた時に拒否権を発動することができる。・・<拒否権を発動すれば、これは>アン女王が1708年にスコットランド民兵法(Scottish この論考は、イギリス人のホンネの欧州観が率直に語られているという意味で貴重ですが、にもかかわらず、このような欧州諸国と運命共同体となることを意味する、EUへの主権移譲に向けて英国が静かに歩を進めていたとは、私がうっかりしていただけなのでしょうが、びっくりしました。これは、欧州文明に属するスコットランド(コラム#2279)のグラスゴー出身のブラウン首相だからこそ行った決断だったのかもしれませんが、それにしてもよくまあ下院が同調したものだ、と思います。米国の新聞がこんな論考を載せたことも面白いですね。このあたりのことは、いずれまた取り上げなければなりますまい。

3 東アジアをめぐる日米抗争の再燃?
(1)日本に急接近する韓国
朝鮮日報が親日的であることは、コラム#2426でも改めて申し上げたところですが、一昨日(22日)の同紙日本語電子版は、日本のメディアも真っ青になるほど親日的な記事を2本も載せました。1本目は、「再び飛翔する「日の丸飛行機」」という記事

「・・ゼロ戦をはじめ「雷電」「隼」といった日本の戦闘機は弱点も多かったが、当時世界最高の機動力を誇る先端戦闘機としてその名を馳せた。第2次世界対戦終了直後、米軍が最も警戒した日本の技術は航空分野のそれだった。真珠湾攻撃当時の無残な記憶が反映されている。技術の命脈を断ち切るため、あらゆる日本製戦闘機を破壊、資料を没収し、製造した企業を解散させた。それでも飽きたらず、「航空禁止令」を出し、航空機製造や研究そのものを禁止した。その期間は10年以上にわたる。しかし日本は根気強い国だ。技術に関しては特にそうだ。1956年に禁止令が解除されると、日本政府は「5人のサムライ」と呼ばれた技術者を1カ所に集めた。戦前、三菱重工業に所属し「ゼロ戦」を作った堀越二郎は、日本最高の名門・第一高等学校と東京帝国大学工学部をそれぞれ首席で卒業した天才。そして人間爆弾「桜花」を作った木村秀政も、東京帝国大学航空研究所で戦闘機製造に貢献した人物だ。そのほか3人も第2次世界大戦時、戦闘機製造の超エリートだった。彼らは隠しておいた「ゼロ戦」の図面を取り出した。戦闘機の図面を基に開発を繰り返し、プロペラ旅客機「YS-11」を設計した。戦闘機の技術が旅客機の技術に生まれ変わったのだ。その後、設計を基に航空機製造を主導した人物が三菱出身の東條輝雄(後の三菱自動車会長)だ。A級戦犯として戦後、米軍により死刑となった東條英機元首相の二男。「おまえは技術者として報国せよ」という父の遺志を継いだのだ。しかしYS-11の生産は1972年、日本政府の決定により中止された。量産に成功し、182機を生産した直後だった。採算が悪化したというのが表向きの理由だが、航空界の覇権を握った戦勝国の圧力に負けたという説もある。この決定で、日本の航空機生産は再び30年間近い空白期間を迎えることになる。20日朝、日本の朝刊を広げると、1面に「日の丸ジェット機、悲願の就航へ」という大きな記事が目に飛び込んできた。日本の航空会社が三菱の開発したジェット旅客機を大量に導入し、路線に投入するという内容だった。日本の航空機史における、3度目の挑戦だ。三菱重工業はほかの戦闘機メーカーと同様、戦後は財閥解体の道を歩んだ。だが、東京オリンピックが開かれた64年、跡を継いだグループ企業各社は「三菱」の名の下に再集結した。会社が解散しても消えなかった技術者たちの願いが、企業を復活させたのだ。今、その念願が「日の丸ジェット機」を再び世界の空に飛び立たせようとしている。日本の「技術民族主義」がまたもや飛躍を遂げる瞬間だ。」何だか鬼気迫る、涙が出そうになる記事ですよね

2本目は、「フィギュア:真央はうれし涙、美姫は悲し涙」という記事韓国のキム・ヨナが腰痛をおして世界選手権に出場し、ショートプログラムでの不出来を挽回するフリー1位の演技で総合成績3位となったという記事を載せずに、浅田真央と安藤美姫二人に焦点をしぼった記事、それも浅田を手放しで褒め称える記事を載せたのですから、朝鮮日報の編集者も執筆した記者も親日どころか、日本人そのものだという気がしてきませんか。

このような紙面、このような記事が出てくるということは、朝鮮日報のレベルを超えて、広く韓国民の意識下において、日本との自己同一化が急速に進行しているからだ、と考えたくなってきます。(続く)
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1 始めに
日本のメディアは防衛問題を取り上げなくなってしまいましたが、産経新聞が本日、森本敏氏のコラムを「主張」欄に掲載しました。このコラムを材料に、改めて防衛問題を論じてみましょう。

2 森本氏のコラム
(1)コラムの内容

・・・守屋前同省事務次官の汚職事件、一連の秘密漏洩、イージス艦「あたご」の衝突事故など・・・の事件の原因と組織・機構は直接の関係はない。確かに、事故後の措置や報告については組織・機構に問題があるものの、事件の原因の多くは指揮官の指揮や隊員の規律、士気にある。とはいえこれらの問題を国家的見地からみると、その背後にもっと根本的な問題が存在すると思わざるを得ない。国家の防衛に対する国民意識の問題はその一つ。特に、米国で起きた9.11テロ以降、防衛の目的や意義が分かりにくい。わが国にとっての脅威には朝鮮半島、中国から来るものや非対称脅威という問題がある。しかし、これらが現実には、
いかなる脅威になるのか分かりやすく説明されていない。こうした新しい状況に自衛隊の問題意識が追いつかない。結果として質の良い隊員ばかりとはいえず、部隊の規律や士気を維持することは難しく充足率も良くない。・・・この際、国家の防衛とは何なのか、なぜ、今、何が必要なのかなど、冷戦後におけるわが国の「防衛のあり方」について根本的な議論を尽くす必要がある。また、自衛隊が実質的な軍隊であるにもかかわらず、軍隊としてみられない扱い、しばしば自衛官が文民より低い扱いを受けることも問題である。・・・自衛官は海外に出ると国際条約で軍人として扱われる。だからこそ安心して自衛官を海外に出せるので
ある。しかし国内では軍隊でないので、事件や事故を起こした場合には、警察に取り調べられ、一般法で処理される。諸外国では軍事法廷、軍事裁判の制度があり、軍人は軍法で裁かれる。・・・他方、国としては国家の安全保障や国防戦略を国家レベルで審議する国家安全保障会議を作るべきであるし、自衛隊の任務や武器使用について自衛隊の手を縛るようなことをせずに、指揮官に委ねるための法整備を進めるべきである。また、秘密保護の法整備を進め、国会には秘密公聴
会を設置すべきである。隊員個人が名誉を重んじられるよう勲章や階級呼称、慰霊碑や公務死の場合の補償など国家がやるべきことは多い。こうした制度の不備を放置して隊員の意識改革だけを論じることは非合理である。・・・もちろん自衛隊員も軍人として求められる意識や規律をもっと自覚すべきである。一般人としても首をかしげるような事件・事故を起こしている自衛隊員を軍人として扱えという方が無理である。防衛省、自衛隊の組織・機構改革はこれらのあとに来る問題である。・・・」(
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/080430/plc0804300303001-n1.htm 。4月30日アクセス)

(2)コメント

これはすらすらと読めはするけれど、要するに何を森本氏が言いたいのか今一つよく分からないコラムです。それは、森本氏が肝腎なことに口をつぐんでいるからでしょう。
森本氏は、「わが国にとっての脅威には朝鮮半島、中国から来るものや非対称脅威という問題がある。しかし、これらが現実には、いかなる脅威になるのか分かりやすく説明されていない。」「この際、国家の防衛とは何なのか、なぜ、今、何が必要なのかなど、冷戦後におけるわが国の「防衛のあり方」について根本的な議論を尽くす必要がある。」と他人事のような物言いをされるけれど、「国家の防衛に対する国民意識の問題」が生じている責任の一半は森本氏を始めとする安全保障専門家、とりわけ元防衛省(庁)職員たる安全保障専門家の怠慢にある、というのが私の考えです。 戦後日本が吉田ドクトリンを堅持してきたこと、それを象徴するのが集団的自衛権行使の禁止なる自己規制であり、軍隊もどきの自衛隊であること、その結果論理必然的に日本は米国の保護国(属国)に堕してしまっていること、戦後日本列島には一貫して核の脅威とテロ等の低レベルの脅威しかなかったこと、(これらの脅威に対処する任務を与えられていない以上、)自衛隊には具体的任務が与えられていないに等しいこと、自衛隊の「指揮官の指揮や隊員の規律、士気に<問題が>ある」のはその帰結であること、は、私に言わせれば、いずれも議論の余地がない事実ですが、これらのことに口をつぐんできた御仁など、およそ安全保障専門家の名に値しないのではないでしょうか。
にもかかわらず、森本氏らがあえて口をつぐんできたのは、かつて碌を食んだ防衛省(森本氏の場合はそれに外務省も加わる)への義理立てのためと言うより、彼らが現在でも防衛関係費(森本氏の場合は外交やODA経費も加わる)のおこぼれに預かって生きているためではないか、と勘ぐりたくなるのです。それこそ下司の勘ぐりである、という反論があれば、どなたからのものであれ歓迎しますよ。
 
3 日本国憲法
森本氏のコラムに日本国憲法(第9条)への言及が全くなされていないことは一見不思議に思えるかも知れません。4月17日に名古屋高裁(青山邦夫裁判長)は航空自衛隊によるバグダッドへの多国籍軍の空輸が「憲法9条1項に違反する活動を含んでいる」との傍論を含む判
決を下しました(
http://business.nikkeibp.co.jp/article/person/20080421/153728/   
。4月22日アクセス)し、本日(4月30日)の新聞電子版に、・・・米軍立川基地(当時)の拡張に反対する住民らが基地内に侵入した砂川 事件で、基地の存在を違憲とし無罪とした1審判決を破棄し、合憲判断を出した1959年の最高裁大法廷判決前に、当時の駐日米大使と最高裁長官が事件をめぐり密談していたことを示す文書が、米国立公文書館で見つかった。・・・大使は、連合国軍総司令官のマッカーサー元帥のおいであるダグラス・マッカーサー2世。最高裁長官は、上告審担当裁判長の田中耕太郎氏だ。文書は、59年4月24日に大使から国務長官にあてた電報。「内密の話し合いで担当裁判長の田中は大使に、本件には優先権が与えられているが、日本の手続きでは審議が始まったあと、
決定に到達するまでに少なくとも数カ月かかると語った」と記載している。電報は、米軍存在の根拠となる日米安保条約を違憲などとした59年3月30日の1審判決からほぼ1カ月後。跳躍上告による最高裁での審議の時期などについて、田中裁判長に非公式に問い合わせていたことが分かる内容。これとは別に、判決翌日の3月31日に大使から国務長官にあてた電報では、大使が同日の閣議の1時間前に、藤山愛一郎外相を訪ね、日本政府に最高 裁への跳躍上告を勧めたところ、外
相が全面的に同意し、閣議での承認を勧めることを了解する趣旨の発言があったことを詳細に報告していた。・・・
のくだりを含む記事が、毎日新聞だけでも何本も載っていました。
こんな判決が出るのでは、日本政府(自衛隊)も米国政府(米軍)もたまったもんじゃないはずです。
しかし、私の考えはこうです。 明治憲法も、現行憲法も、一度も改正されたことがありません。これは、単に明治憲法も現行憲法も硬性憲法(改正要件が厳格)であるというだけでは説明がつきません。実際、世界の立憲国の中では極めてめずらしい部類に属します(典拠省略)。
私は、日本は立憲国家ということになっているけれど、実は憲法は存在しないと考えるべきだと思うに至っています。これは日本に実質的憲法が存在しない、ということでは必ずしもありません。
天皇は国の象徴であるとか、政府は国民のための政治を行わなければならない、といったことは、律令国家の頃以来の日本の実質的憲法の条項であると言ってよいでしょう。つまり、日本は英国同様、不文憲法国であって、成文憲法国ではない、と思うのです。だから日本政府は、堂々と集団自衛権行使を禁じている政府憲法解釈を改めればよい、と申し上げておきましょう。森本氏が憲法に言及しないわけです。

4 防衛省/自衛隊の組織・機構改革について
防衛省/自衛隊の組織・機構改革など些末な問題だ、という点では森本氏と私は見解を同じくします。
 
自民党の「防衛省改革小委員会」(浜田靖一委員長)が検討している防衛省の組織改編の提言の原案を20日付の讀賣新聞電子版が報じました。

・・・各部署に分散している自衛隊の部隊運用の機能を自衛隊の統合幕僚監部に一元化し、内局(背広組)主導から自衛官(制服組)主導に比重を移すのが柱だ。石破防衛相が主張する内局と陸海空各幕僚監部の統合・再編は、国防族などの間で「急進的すぎる」と慎重論が強く、盛り込まなかった。提言では、内局の運用企画局の廃止を盛り込む。また、統幕の下には「統合司令部」を設置する。専門知識を有する制服組に運用を一元化する狙いがあるが、過度の権限集中を避けるため、統幕は、制服、背広の混合組織とする。原案は主に英国をモデルとしている。統幕長については、背広組トップの次官と同格であることを明確化。現 在は行われていない制服組の国会出席の必要性も明記する。内局幹部が防衛相を補佐する「防衛参事官」制度は、形骸化が指摘されており、同制度を廃止し、防衛省OBや民間人を想定した「防衛相補佐官」制度の導入を求める。さらに、イージス艦衝突事故で、防衛省から首相官邸への情報伝達が遅れたことなどを受け、

同省から首相秘書官への出向者を加えることも盛り込む。・・・(
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20080421-OYT1T00004.htm   。4月21日アクセス)

統幕は、制服、背広の混合組織とする」という一点を除いて、大変結構じゃありませんか。しかし、この程度のことだって、防衛利権にたかるのに支障が生じかねないことから、恐らく自民党政権下では実現しないでしょうね。同じ讀賣が25日付の電子版で、

・・・防衛省は・・・、内局(背広組)と陸海空各幕僚監部(制服組)の幹部らが参加し、防衛政策や緊急事態対処を協議する「防衛会議」(仮称)を設置する方針を固めた。・・・新たな防衛会議は、防衛相が主宰し、副大臣や背広組の次官、官房長、各局長、制服組の統合・陸海空の各幕僚長、情報本部長がメンバーとなる。・・・(
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20080425-OYT1T00009.htm?from=main1 。4月25日アクセス)

と報じました。恐らくこれくらいだけでお茶を濁すことになるでしょう。この「防衛会議」なるものは、私が防衛省(庁)にいた時からある「参事官会議」と、メンバー的には副大臣(昔は政務次官)と情報本部長が入るくらいが目新しいだけで、羊頭狗肉もいいところです。
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