「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」  | 日本のお姉さん

「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 

ようちゃん、おすすめ「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 
   平成20年(2008年)4月20日(日曜日) 
        通巻第2165号

チベットを横目にウィグル(東トルキスタン)では何がおきているか?
 ホータン暴動は「第二のカディール」(イスラム指導者)の不審死が原因だった
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三月23日に新彊ウィグル自治区のホータンで1000名の「暴動」が伝えられた。実態は静かな女性たち700名のデモを当局が拘束し、これを知った民衆の一部が商店を襲ったらしい。「ウィグルの母」と呼ばれるカデル女史が日本に来て、各地で講演活動をしたが、マスコミの関心を殆ど引かなかった。息子二人をいまも新彊ウィグル自治区の監獄に人質としてとられているカディール女史は、昨年度のノーベル平和賞に最有力だった。この動きを知った北京がウェーデン政府に圧力をかけ、陰湿に反対して受賞をつぶした。

ことし三月三日、ホータンでムタリプ・ハジム氏の突然死が発表されて、人々は衝撃を受けた。病院に駆けつけた数百人が警官の封鎖を突き破って内部へ入ろうとしたが阻止された。ムタリプ・ハジムは、ホータンの実業家、貿易業者だった。多くの宗教的行事へのスポンサーとして知られ、町の有名人、尊敬を受けていた。突然、ことしの一月にムラリプの店舗や貿易会社が閉鎖され、当局に逮捕された。獄中で突然「心臓発作のため」、死んだと発表され、民衆の怒りに火がついた。享年三十八歳。ホータンで爆発的な抗議デモが起こった。チベット問題に呼応した抗議運動と思われたが、ダライラマ法王の動きと関係がなかった。

イスラム教徒は、コーランが入手できないためにイスラム教を正確に理解してはいない。コーランを無神論の中国共産党が禁書扱いしているからだ。しかし数百年つづく歴史が、かれらの生活の習慣のなかにイスラム教をとけ込ませた。とりわけ服装などの習俗だ。とくに豚肉を食せず、祈祷の前には手足を綺麗に洗い、男はイスラム帽を、女性はヴェィルを着用する。

モスクは殆どが破壊されたが、各地にすこしばかり「清真寺」(モスクの中国名)として残存している。
モスクの殆どは観光用で、僧侶は共産党のスパイを兼ねているため、誰も信者は寄りつかない。漢族の観光客は聖なるモスクに土足で上がり込むという。毛沢東の侵略以来、イスラムは脅威であるとして、イマムら(高僧)を人民裁判にかけて多くを死刑にした。夥しいイスラムのイマムが殺され、宗教指導者は不在となった。チベットと同様にウィグル語は中学から禁止され、北京語が強要され、大学入試も公務員試験も北京語であるため、若いウィグル人は中国語を喋る。言語における漢化政策は進んでいる。これは民族文化の虐殺であり、さらには経済的差別が著しい。

ウィグルの資源を漢族が盗掘している
ウィグルの資源は膨大なガス、石油。これを中国人がきて、盗掘してゆく。内陸部からやってくるエンジニアも建設業も漢族であり、銀行も漢族であり、開発と繁栄を目指してコルラ、トルファン、イリ、カシュガル、ホータンに押し寄せた漢族はホテル、レストラン、カラオケ、土産屋を開き、中国からつれてきた漢族を雇った。地元ウィグル人に就労の機会はすくなく、たとえあっても建設現場労働、奴隷のようにこき使われた。

「民族浄化」を目指して、若いウィグルの女性を大量に沿岸部へ移動させて、しかも漢族の男性と見合わせた。集団就職で沿岸部へ移住したウィグルの民は、そこでも徹底して差別された。
いまも差別され、しかも一年働いても無給が多く、人権問題となっている。人民日報も新華社も「中国に民族差別は存在しない」と嘯いている。

だれもが抗議に立ち上がるだろう。しかし、刃向かう者を中国は「テロリスト」と定義した。ウィグルの抵抗勢力には「ヒズバ・ドタリル・アル・イスラム運動」と「東トルキスタン・イスラム運動」の二大潮流がある。この二つの組織は永続的な独立達成を穏健に訴え、暴力手段を否定している。平和的手段を呼びかけておりテロルとはほど遠い(もっとも地下に潜った過激派はアフガニスタンのタリバン陣地で軍事訓練を受け、武器をもって中国へ潜入したといわれる)。
 
最近、警戒を強める当局が「北京五輪終了まで、ウィグル人にはパスポートの発行を延期する措置をとったため、数千規模の抗議行動がおきた。ホータンで千人を越えたデモは初めてである」と直後にホータンを取材したTIMEの記者が語っている(タイム、2008年4月28日号)。

 ウィグル人民の中国共産党への怒りが爆発する。
漢族への恨みは歴史的な体質として染みこみ、オリンピックを奇禍として世界へ訴える絶好のチャンスとばかり彼らはチベット問題に呼応して世界的規模で動きだした。慌てた当局は、「テロリストらは五輪をめざす外国人選手の誘拐を画策した。このためウルムチで45名を予防検束した」などと眉唾の発表をおこなった。四川省や温洲からやってきた商人らはホータンでも店舗を開業しているが、暴動以来、シャッターを下ろしたまま、ひっそりとしていると前掲タイム誌が報道している。
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「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 
   平成20年(2008年)4月20日(日曜日)弐 
        通巻第2166号

 気がつけばロシアも、南オセチアとアブハジア併呑の政治野心が露わにプーチン最後の大統領令は非合法政府と“合法的な”軍事・安全保障関係
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強権プーチン大統領、最後の大統領令を4月16日に発令した。それはグルジア内の「国内国」である南オセチアとアブハジアという、両「共和国」との関係を、これまでの傀儡関係から格上げし、「正式」なものとして、ロシア軍の派遣を合法化、そのための政府機関を設立するという国際法無視の命令書である。

1991年にソ連が崩壊し、グルジアが独立したときに、南オセチアとアブハジアは、グルジア領と定義された。とはいえ、爾来、一度もグルジアの実効支配は及ばず、それぞれに「大統領」がいて、ロシア傀儡であるが、モスクワで時折、政治発言をしている。大統領令は、「南オセチアとアブハジア領内に住むロシア人の生命と財産を守る目的もある」と謳っている。
 
比喩的に言えば、日本領内に住む居留民団と在日朝鮮人と在日中国人の生命と財産を守るためと言って、韓国、北朝鮮、中国が日本に軍隊を派遣するような行為である。主権侵害行為だ。

91年以来、国際的にグルジア領と認められていた南オセチアとアブハジアへ、ロシアは非合法的に平和維持軍を派遣してきたわけだが、以後は正式な政府として扱うことを内外に鮮明にしたのである。つまり傀儡国家が策定する法律をロシア政府が認め、いずれ、両国をロシア領に編入するという野心の現れでもある。グルジアはそれでなくともロシアからガス供給を止められ、グルジア人の出稼ぎをモスクワから追放され、様々な外向的制裁、いじめを受けてきた。グルジアのサアカシビリ大統領が親米派であり、NATO加盟を目指していることへの露骨な妨害工作でもある。

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♪(読者の声1) フランス系スーパーマーケットの「カルフール」が連日デモ隊に囲まれ、しかもホームページが襲撃されました。ほかにも海外留学生らがロンドンとパリで「中国報道に関しての新聞の偏向」に抗議する集会を行っているとか。これは「愛国無罪」の中国の情報キャンペーンに間違いないでしょうが、この矛先はいずれ日本にも来ますか?
     (SY生、兵庫県)


(宮崎正弘のコメント)日本に? 福田首相の媚中外交を展開しているうえ、胡錦濤の来日を控えていて、日本への「反日暴動」が吹き荒れる可能性は薄いでしょう。長野の聖火リレー次第ではありますが。。英・仏を非難して止まない中国は、米国への批判をそれでそっとすり替えている。 2001年四月、海南島へ強制着陸させられた米軍偵察機の事件直後、中国全土には反米の嵐、ハリウッド映画上映館もマックも店を閉じました。ユーゴにおける中国大使館誤爆事件のときは、北京の米国大使館には火炎瓶が投げられ、大使は命からがら逃げ出した。
青島のカルフール(「家爾福」と書きます)爆破事件は、それに前後した北京大学、清華大学同時爆破事件、西安のおける二回にわたったマクドナルド爆破(数名が死亡)と同様にイスラム過激派と考えられました。今回の「現代版・義和団事件」と、ちょっと趣が異なっています。

♪(読者の声2)貴誌、おとといの「台湾取材日記」を拝読し、「 陳絢暉氏ら日本語世代『友愛』グループの勉強会で紹介されて以来。。。」の一行に、もしや先日わたしがお目にかかった佐野た香さんと宮崎先生は古くからのお知り合いかと思いました。佐野た香さんの歌が、とっさに浮かび上がったのです。桜咲く心の祖国慕いつつ一筋に歩む短歌の道を  ついニ三日前、この佐野さんのご自宅をお訪ねし、李登輝友の会の「台湾へ桜 を贈るツアー」でご一緒した折の楽しかったあれこれ語り合ったり、佐野さんが会長をなすっておられる『日台高座交流会』ことについて伺ってきたばかりでした。『台湾少年工と第二の故郷』、野口さんとの共著、歌集「埒の湧」、「遥かなる祖国」と頂きました。北に対き心の祖国と詠みし人桜追ひつつ逝きましにけり佐野さんがこの歌、阿川弘之さんが絶賛してくださってのよ、と。そこで、阿川弘之さんのお名前が挙がったので検索かけてみましたら 、李登輝友の会のメ
http://www.melma.com/backnumber_100557_3840808 に阿川さんが書かれた文書を見つけました。野口さんの本を、佐野さんの歌集を、何度も涙をぬぐって読んだ私。阿川ご夫婦も同じように感動なすって涙が止まらなかったと。今年も台湾の少年工の方たちが5月に大和市を訪れるそうで、市をあげての歓迎会もあるよし。所要でこの歓迎会には駆けつけられませんが、靖国参拝をなさる日には東京に帰っていますので、是非ご一緒させていただくつもりです。その日を楽しみに待ちながら、少年工の方々が、自然と口ずさむという「台湾軍の歌」を今一生懸命覚えています。(FF子、小平)

宮崎正弘のコメント)阿川弘之先生の台湾への思いは深い。たしか、終戦を阿川氏は台湾で迎えた筈では? 戦後、一時期、鷺宮に住まわれた折、となりにいたのが許世楷さんだった。いまの駐日大使です。前の前の大使は莊銘耀さんで、台湾人として珍しい海軍大将出身の方でした。十年ほど前に大使の発案で、阿川夫妻、竹村健一夫妻、そして小生が愚妻をともなって芝大門のフランス料亭にお招きをうけ、そのおりにも類似の話題がでたものでした。

▲ソチ・オリンピックと連動。とかく五輪は荒れる
とりわけアブハジアへの建設投資が見込まれるのは、ソチでの五輪が決定し、そのソチに近いため、オリンピック関連施設などの建設が急務。プーチン政権は石油で得たふんだんな資金からソチオリンピックのために260億ドルを予算化している「在住ロシア人を守る」と謳われた以上、ロシア軍の増派も政治日程に組み込まれているのではないか」(『ユーラシア・ディリー』、4月18日付け)。

というのも三月に“プーチン翼賛会”であるロシア議会が南オセチアとアブハジアとの正式な外交関係の樹立を要求し、さらに四月初旬にブカレストで開催されたNATOサミットに招かれたプーチンは国防大臣を帯同し、「もしグルジアがNATOに加盟するなら、ロシアは何らかの対抗措置を執る」と恐喝的な発言をしている。

NATOは「グルジアの主権を侵す行為であり、ロシアは政策を変更すべき」と批判した。OSCEは「現在の国境を変更するような行為には平和的な話し合いが必要だ」と言った。EU議会の事務局も「ロシアの行動は残念、平和的解決を望む」と発言するだけに留まっている。西側の反応がこれほど鈍いのも、中国のチベットのおける人権蹂躙を非難しない日米の煮え切らない態度と同じである。モスクワにあやまったメッセージを伝えた懼れがあるだろうプーチンの思惑は露骨にソチ・オリンピックの成功と連動している。五輪は平和の祭典なのか。とかく五輪は荒れる。

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「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 
   平成20年(2008年)4月21日(月曜日) 
       通巻第2167号  (20日発行)

(速報)米国、台湾に海兵隊を駐屯させる動き
     外交関係のない米台関係に地殻変動の兆しか?
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APによれば、米国は台湾のおける事実上の大使館「アメリカ協会」に海兵隊を「警備」の目的で駐屯させる動きを示していると伝えた。

1979年の米台断交いらい、両国は外交関係を持たず、しかし事実上の相互の大使館を「北米協会」(ワシントン)、「アメリカ協会」(台北)と名乗って設立し、ビザの発給業務などを続行してきた。日本も台北に事実上の大使館(「交流協会」)、台湾は東京に「駐日台湾代表処」を設置している。海兵隊の駐屯が、たとえ大使館警備目的であれ、北京の反発は必至。米国の駐在武官は、いまのところ制服を着用しないで勤務しているが。。。
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「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 
   平成20年(2008年)4月21日(月曜日)弐
       通巻第2168号

 「愛国主義」なる中国ヤングらの抗議行動の実態とは?
上海と広州ではなぜ起きていないか、背後に権力闘争があるのでは。。
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19日(土曜)から20日(日曜)にかけて中国の各都市で「愛国主義」とかを標榜する中国人のデモが演出された。日頃取り締まりの厳しいインターネットや携帯電話での呼びかけもあり、付和雷同の群衆が押しかけて遠巻きに見ていた。

西側でも欧米の数都市で、主として「西側マスコミの中国報道の偏向」に抗議する集会が行われた。「悪いのはダライ一味であり、中国は人権を尊ぶ国家である」そうな。(言論の自由のない国で、よくそんなことを言うよな)と感じた読者が多いだろう。

中国全土には112店舗のフランス系「カルフール」(家福爾)が盛業中である。品そろえ、店舗内の明るい雰囲気、設計の良さ、などが受けて中国人消費者に人気が高い。イトーヨーカ堂と並ぶほど、買い物客でごった返す。そのカルフールの幹部がチベット支援に義援金をだした、という噂が流れ、攻撃のターゲットとされた。

もっとも過激な暴力行為、店舗破壊は安徽省の合肥市にあるカルフールで、毎日新聞に依れば「千人が店舗に乱入し」、一部の店舗を破壊し(産経)。また瀋陽のカルフールでは「六人のデモ隊が、当局に連行された」(毎日)。

NYタイムズは、反仏行動はほかに西安、ハルビン、済南、武漢でもおこなわれ、加えて、小規模な抗議行動は「天津、大連、洛陽、海口」(産経)でも。読売は「広東省深せんでも抗議行動があった」と伝えた。

まとめるとこうである。合肥のデモが暴力化した(朝日は抗議行動に一万人が参加した、と伝えている)ほかは、穏健な抗議活動で、大連で1000人(読売)、青島も1000人(朝日)。重慶でも不買を呼びかける抗議行動があった(日経)。

▲北京は厳戒態勢ゆえに抗議活動を許さず?
肝心の北京では?「フランス大使館前に横断幕を掲げた50名」(NYタイムズ)、「車列がクラクションを鳴らしフランス大使館前を通過(日経)。上海と広州ではおこなわれた形跡が一切ない。

もし「若者の自発的行為」であるとすれば、なぜ限定的な地域でしか抗議が起きていないのか。当局の背後の操作でもなければ得心できる説明にはならないだろう。穿った見方をすれば、胡錦濤派の反仏行動の消極的推進に反胡派が過激に応じたか、あるいは無視したか。
地方幹部が江沢民派、太子党、あるいは胡直系かによって、地域的特徴が浮かんでくる。

いずれにしてもデモ隊は巧妙に動員され、プラカード、国旗などが周到に用意され、暴力化しないようにデモの中核を指揮したのは公安系であろう。05年4月におきた「反日暴動」のように、大使館或いは領事館前に「生卵」や「ペットボトル」の準備はされておらず、またフランス系とはいえ、フランスを象徴するルイビュトンの店舗は一軒も対象になっていないのは奇妙というほかはない。カルフールは112店舗だが、ルイビュトンはそれ以上あるのに。

NYタイムズは、一部のデモ隊が「マックとケンタッキー・フライド・チキンにも行こう」と呼びかけた」という。だが誰も米国系に抗議しに今回は向かっていない。(きっと上からの指示がないからだろう)。海外ではパリ、ロンドン、ベルリン、そしてロスアンジェルで同様な「愛国主義」の抗議集会が行われ、大量の海外留学生が動員された。(おそらく出欠をとったのではないか)。

パリは共和国広場では参加者が「そろいのTシャツ」、ベルリンのそれは「指示書がまかれ、こまかな注意がなれていた。とくに西側の混入(中国人をよそおい狼藉を働く)に注意せよ」などと書かれていた(毎日)。つまり、自分たちがデモを演出するときにそうするから、発想が防御的にもなるわけだ。ロンドンではBBC前にマスクをかぶった中国人が「偏向報道」に抗議した。この演出は沈黙を強いられるという西側左翼運動の真似。

ハリウッドではCNN(キャスターが中国は小悪党と発言)前で抗議集会があった。しかい親中ラッド政権の豪州などでは「愛国主義」なるもののデモは起きていない。海外でもまた地域限定なのである。
さて長野ではどういう中国側の演出があるか? 
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♪(読者の声1)貴誌2163号 (18日発行)NN氏の(読者の声3)にある「また愚生にとってさらに解らないのはダライ・ラマの支那に対する甚だ妥協的な態度です。チベットの独立は求めない,ただ自治を認めて欲しいだけだとか,支那には五輪を開催する立派な資格があるとか,チベット人民がこれ以上暴力による対決をするなら自分は辞任する,とか。何かあるいは誰かを人質にとられてゐるのでせうか?」のようにダライ.ラマ猊下のあまりにも控えめな要求の真意を訝る意見をよく見かけます。私はダライラマ猊下の発言が高徳の仏教僧の真心から発したものであると信じます。しかし、同時にこれは中国政府および中国共産党にとって非常に困ることなのです。猊下の謙譲な態度が諸外国の共感を呼び、共産党政府に付け入る隙をあたえないということだけではありません。チベットに自治を認めるとチベット自治政府に教育内容、言論・報道の自由の範囲等を自ら決めることを容認することになります。つまり中国国内に少数民族や反中央政府活動家の活動基地の存在を容認することになり、彼らにとってチベットが独立するより怖いことです。共産党幹部の中で目先の利いた連中の中には、「毛沢東の馬鹿め。あいつがチベット併合なんてやってくれなければ、良かった。金がかかるだけでなくこんな厄介な事態になってしまった」と内心で思っているものもいることでしょう。

日本が北朝鮮と外交関係をもって在日北朝鮮大使館に外交官特権を持った工作員いる状況を考えてみればわかります。チベット自治は、中国共産党にとって在日北朝鮮大使館の日本とって脅威とは桁違いに大きな危険となることでしょう。そんなこと中国共産党が容認するはずはありません。北京オリンピックの開会式に政府代表が出席すべきか、否かという議論がありますが、私には不思議に思えます。所詮、民間営利団体が主催している行事です。(IOCを非営利団体だなどと思うことはおろかです。)そもそも政府首脳が国費で出席することが不謹慎です。
さらにチベット等で騒乱が起きることは十分に予想ができたはずです。IOCの委員もNOCの幹部もそんなことも考えられず、あるいは気がつきながらも、北京を開催地に決めたよくボケした能天気な連中です。
そんな連中が主催・運営している行事に権威などありません。
またチベット人やウイグル人が騒動を起こさなければ、現政府首脳の足を引っ張って政局を作り出そうとうずうずしている共産党反主流派が、チベット僧に変装して騒ぎを起こすでしょう。かれらにとってこんな便利なチャンスはありません。今回の騒動が、何%が反主流派による策動の結果かは判定しがたいことですが。

それより私が心配していることがあります。それは、今年の8月ころの北京の水事情です。水不足の危険性はつと指摘されていますが、これは不評をかうだけです。中国政府はオリンピックによる水需要増大に対処するため、無理をしてでも北京に水の供給をするための手をうっています。そこへ例年にない豪雨が訪れたらどうなるか。8月は降雨量のすくない北京では比較的雨の多い時期です。そこへ大型台風が2つ、3つ襲ったら大変なことになります。手抜き工事の競技会場の屋根が抜けるだけでなく、干からびて保水力の減退した華北の大地を大水がなだれを撃って駆け抜け、中南海が床上浸水になる情景を目に浮かびます。今年は、雨の多い年になりそうです。(ST生、神奈川)

(宮崎正弘のコメント)胡錦濤は北京五輪責任者の習近平を指名しました。上海派の利益代表、裏面で曽慶紅が画策して次期総書記にさせようとしている2階級特進の太子党のチャンピオンですが、北京五輪が失敗したら、胡は子飼いの李克強をさっと上位に付けて、習ら太子党の跳梁を防ぐ挙にでるでしょう。三月、全人代で習近平は一部のチャイナウォッチャーが予測した軍事委員会副主席には滑り込みが叶いませんでしたし。

♪(読者の声2)国民新聞(4月25日付)にでた加瀬英明氏の卓見を以下に引用します。
「中国がチベットで民衆を弾圧したことから、中国が道義を欠いた国であることが露呈し、中国に対する避難が全世界にひろがっている。
ロンドンを出発した聖火リレーは、行く先々で激しい抗議運動にさらされている。フランスのサルコジ大統領、イギリスのチャールズ皇太子、ブラウン首相は北京オリンピック大会開会式に出席することを拒んでいる。このようななかで、胡国家主席が五月に国賓として来日することになっているが、もし、日本政府や国会が、昨年の温家宝首相の訪日と同じように歓迎した場合には、日本は世界中から中国に媚態を呈しているとして、侮られることになってしまう。私はとくに宮中晩餐会において、天皇陛下が胡主席と乾杯を交わされている映像が、全世界に駆け巡ることを恐れている。皇室を政治利用することになり、天皇陛下のご品格に傷をおつけすることになる。
 胡主席の訪日は延期するべきである」。(HF生、東京都)

(宮崎正弘のコメント)延期、それも永久延期が望ましいのでは?