アインシュタインと日本 ─美しい自然から生まれた国家制度─
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アインシュタインと日本
─美しい自然から生まれた国家制度─
斎藤吉久
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▼残された旅日記
アルベルト・アインシュタインといえば、科学者として世界
史に名を残す一方、日本の伝統美と日本人の純粋性を深く理解
した代表的西洋人の1人として知られます。
大正11(1922)年11月に日本の出版社の招きに応じて来日し、
九州から東北まで各地をめぐり、大学で相対性理論を講演した
ほか、明治神宮や日光東照宮などに参詣し、さらに皇后陛下に
謁見、能楽や雅楽を鑑賞し、有名無名の日本人と交わり、「日
本のすばらしさ」に魅せられました。
招請を受けたとき、アインシュタインは「このチャンスを逃
したならば、後悔してもしきれない」と思ったといいます。世
界各国を旅したアインシュタインですが、「日本ほど神秘のベ
ールに包まれている国はない」からです。
残された旅日記によると、まず感動したのは日本の美しい自
然でした。
「日本の海峡を進むとき、朝日に照らされた無数のすば
らしい緑の島々を見た」
▼「人間と自然との一体化」
アインシュタインは各地で日本の「光」に惹かれました。京
都では「魔法のような光が通りや小さな家を照らしていた。……
下に見える町のほうには光の海が連なっていた。非常に感銘を
受けた」。展望車に乗って東京に向かう途上では「雪に覆われ
た富士山は遠くまで陸地を照らしていた。富士山近くの日没は
この上なく美しかった」。
自然以上に輝いていたのは、日本人の「顔」です。日本行き
の船上で出会った日本人客を観察し、「日本人は他のどの国の
人よりも自分の国と人々を愛している」ことを知ります。彼が
出会った日本人は、「欧米人に対してとくに遠慮深かった」。
京都のホテルの給仕は「素朴で、おとなしく、とりわけ感じが
いい」。東京で、芸者の踊りも見ました。「かかる種類の女性
を標準にして、その国民性が分かる。日本の芸者は非常に謙遜
な態度で上品ではないか。……日本国民の上品でゆかしいこと
がこれ一事で分かる」。
そうした国民性はどこに由来するのか。アインシュタインは
自然との共生と見抜きます。「日本では、自然と人間は一体化
しているように見える。この国に由来するすべてのものは、愛
らしく、朗らかであり、自然を通じて与えられたものと密接に
結びついている」。
▼アインシュタインの懸念
「自然と人間の一体化」を示すものは、日本の民族宗教であ
る神道と神社建築でした。高松四郎宮司の案内で参拝した日
光東照宮は、「自然と建築物が華麗に調和している。……中
央の建物は多彩な木彫りで飾られており、すばらしい。……
自然を描写する慶びがなおいっそう建築や宗教を上回ってい
る」。厳島神社では、「優美な鳥居のある水の中に建てられ
た社殿に向かって魅惑的な海岸を散歩する。……山の頂上か
ら見渡す瀬戸内海はすばらしい眺めだった」。
そしてアインシュタインの探求心は天皇にも及びます。熱田
神宮では「国家によって用いられる自然宗教。多くの神々、先
祖と天皇が祀られている。木は神社建築にとって大事なもので
ある」と印象を述べ、京都御所では「私がかつて見たなかでもっ
とも美しい建物だった。……天皇は神と一体化している」と見
るのでした。
美しい自然とその自然に育まれた日本人の国民性を高く評価
したアインシュタインは、他方で伝統と西洋化の狭間で揺れる
日本の近代化を熟知していました。であればこそ、旅の途中で
書いた「印象記」のなかで、「西洋の知的業績に感嘆し、成功
と大きな理想主義を掲げて、科学に飛び込んでいる」日本に理
解を示しつつ、「生活の芸術化、個人に必要な謙虚さと質素さ、
日本人の純粋で静かな心、それらを純粋に保って、忘れずにい
て欲しい」と訴えることを忘れませんでした。
それから80年、アインシュタインの心配は現実になっていな
いでしょうか。
参考文献=アルバート・アインシュタイン『アインシュタイ
ン、日本で相対論を語る』(講談社、2001年)など
─美しい自然から生まれた国家制度─
斎藤吉久
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▼残された旅日記
アルベルト・アインシュタインといえば、科学者として世界
史に名を残す一方、日本の伝統美と日本人の純粋性を深く理解
した代表的西洋人の1人として知られます。
大正11(1922)年11月に日本の出版社の招きに応じて来日し、
九州から東北まで各地をめぐり、大学で相対性理論を講演した
ほか、明治神宮や日光東照宮などに参詣し、さらに皇后陛下に
謁見、能楽や雅楽を鑑賞し、有名無名の日本人と交わり、「日
本のすばらしさ」に魅せられました。
招請を受けたとき、アインシュタインは「このチャンスを逃
したならば、後悔してもしきれない」と思ったといいます。世
界各国を旅したアインシュタインですが、「日本ほど神秘のベ
ールに包まれている国はない」からです。
残された旅日記によると、まず感動したのは日本の美しい自
然でした。
「日本の海峡を進むとき、朝日に照らされた無数のすば
らしい緑の島々を見た」
▼「人間と自然との一体化」
アインシュタインは各地で日本の「光」に惹かれました。京
都では「魔法のような光が通りや小さな家を照らしていた。……
下に見える町のほうには光の海が連なっていた。非常に感銘を
受けた」。展望車に乗って東京に向かう途上では「雪に覆われ
た富士山は遠くまで陸地を照らしていた。富士山近くの日没は
この上なく美しかった」。
自然以上に輝いていたのは、日本人の「顔」です。日本行き
の船上で出会った日本人客を観察し、「日本人は他のどの国の
人よりも自分の国と人々を愛している」ことを知ります。彼が
出会った日本人は、「欧米人に対してとくに遠慮深かった」。
京都のホテルの給仕は「素朴で、おとなしく、とりわけ感じが
いい」。東京で、芸者の踊りも見ました。「かかる種類の女性
を標準にして、その国民性が分かる。日本の芸者は非常に謙遜
な態度で上品ではないか。……日本国民の上品でゆかしいこと
がこれ一事で分かる」。
そうした国民性はどこに由来するのか。アインシュタインは
自然との共生と見抜きます。「日本では、自然と人間は一体化
しているように見える。この国に由来するすべてのものは、愛
らしく、朗らかであり、自然を通じて与えられたものと密接に
結びついている」。
▼アインシュタインの懸念
「自然と人間の一体化」を示すものは、日本の民族宗教であ
る神道と神社建築でした。高松四郎宮司の案内で参拝した日
光東照宮は、「自然と建築物が華麗に調和している。……中
央の建物は多彩な木彫りで飾られており、すばらしい。……
自然を描写する慶びがなおいっそう建築や宗教を上回ってい
る」。厳島神社では、「優美な鳥居のある水の中に建てられ
た社殿に向かって魅惑的な海岸を散歩する。……山の頂上か
ら見渡す瀬戸内海はすばらしい眺めだった」。
そしてアインシュタインの探求心は天皇にも及びます。熱田
神宮では「国家によって用いられる自然宗教。多くの神々、先
祖と天皇が祀られている。木は神社建築にとって大事なもので
ある」と印象を述べ、京都御所では「私がかつて見たなかでもっ
とも美しい建物だった。……天皇は神と一体化している」と見
るのでした。
美しい自然とその自然に育まれた日本人の国民性を高く評価
したアインシュタインは、他方で伝統と西洋化の狭間で揺れる
日本の近代化を熟知していました。であればこそ、旅の途中で
書いた「印象記」のなかで、「西洋の知的業績に感嘆し、成功
と大きな理想主義を掲げて、科学に飛び込んでいる」日本に理
解を示しつつ、「生活の芸術化、個人に必要な謙虚さと質素さ、
日本人の純粋で静かな心、それらを純粋に保って、忘れずにい
て欲しい」と訴えることを忘れませんでした。
それから80年、アインシュタインの心配は現実になっていな
いでしょうか。
参考文献=アルバート・アインシュタイン『アインシュタイ
ン、日本で相対論を語る』(講談社、2001年)など
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