タイが狙う医療による外国人誘致↓2007年8月のNNAの記事です。
http://news.nna.jp/free/mujin/deka/deka46.html
フィリピンやインドネシア、ベトナムが医療や福祉分野の人材の送り出しに熱心であるのに対し、タイ政府はアジアにおける医療の中心地としての戦略をとり、世界中の人に来てもらうことに力を入れている。あまり知られていないが、医療機関を訪れる外国人は年間100万人を超える。
2003年、16万人の日本人が医療サービスを求めてタイに来ている。これは国別にみると最も多い数字である。中でも整形手術や性転換手術のために来る人が多いという。日本の健康保険制度は世界でも評価が高いが、保険の適用されない部門での利用、あるいは在外日本人による利用が多いと考えられている。
保健省は医療技術ではシンガポールに及ばないものの、タイは海岸や森林など観光資源に恵まれ、観光インフラも整備されていることから医療と観光を組み合わせた医療ツーリズムとしての利点が大きいとする。実際、プーケットなどのリゾート地にはヨーロッパをはじめとする世界中から観光客がやってくる。こうしたリゾートでは、伝統的なタイマッサージやスパといった「癒やし」を提供している。資源を医療と組み合わせようとしている点がタイの特徴である。
伝統的なタイマッサージは「古くさくてサービスのレベルが低い」といったネガティブなイメージが残っていることもあって、スパセラピーとの競合が激しいという。タイマッサージを観光客にどう受け入れてもらうか。スパセラピーを念頭に置いた模索が企業の間で続けられている。また、スパセラピー、タイマッサージともに資格化・専門職化などの制度整備が進められつつある。提供するサービスの標準化や、自由貿易協定(FTA)などに伴うマッサージ師、セラピストの海外送り出しも意識している。
このように、タイは医療と観光、癒やしといった、より広い意味での「医療」の拠点として外国から人を呼び込んでいる。また、退職後の外国人にタイで過ごしてもらう、介護拠点としての可能性も模索している。
■隣国ミャンマーからも
医療ハブ構想を実践したタクシン前首相は、国内医療制度の整備を進め、国民に対してゴールドカードを発行し、30バーツで医療サービスが受けられる制度を整えた(現在は無料)。都市部では「良質な医療にかかれない」とこの制度に対する評価は低いが、所得の低い農村部では高い評価を得ている。
また、相対的に充実した医療制度は隣国ミャンマーの人をひきつける。国境のある町の地域医療センターによると、医療サービスを求めて一時的に越境してくるミャンマー人が多いとのことだ。タイ国軍も一部、越境を黙認しているらしい。センターでは財政の逼迫(ひっぱく)など特別な事情がない限り、ミャンマーからの越境者に無料でサービスを提供しているという。タイはさまざまな角度から医療を必要とする外国人をひきつけつつあるようだ。
東南アジア諸国連合(ASEAN)が共同体の構築に向け前進する中で、医療サービスの自由化も進展している。「国内の医療制度整備をきちっとしておかなければ、外国との競争に敗れてしまう」と保健省の政策担当者は話す。
(毎月第3水曜日掲載)【おことわり】筆者都合により、今回は1週先送りで掲載しました。