メドベージェフのロシア(プーチンのロシア)(ロシアはどうなる?)
ロシア政治経済ジャーナル No.504 2008/3/3号
★メドベージェフのロシア1(プーチンのロシア)
全世界のRPE読者の皆さまこんにちは!
いつもありがとうございます。
北野です。
ロシアでは3月2日、大統領選挙が行われました。
全ての人の予想どおり、メドベージェフ第1副首相が圧勝。
1、メドベージェフ 69.43%
2、ジュガーノフ(ロシア共産党党首) 18.17%
3、ジリノフスキー(ロシア自民党党首) 9.85%
4、ボグダーノフ(民主党党首)1.28%
(モスクワ時間深夜2時、日本時間朝8時、開票率74%時点)
さて、メドベージェフ大統領のロシアはどこに行くのでしょうか?
今回は、プーチン時代までを振り返り、
次号で、未来を見てみましょう。
▼ソ連崩壊から新興財閥の時代
世界史が第2次大戦で一度リセットされたように、ロシアの歴史は91
年12月でリセットされています。
そう、ソ連が崩壊したのです。
ロシア国民は、パンを買うのに2時間行列に並ばなければならない、
万年物不足ソ連に飽き飽きしていた。
それで、ロシア人はソ連を崩壊させた男・民主主義者エリツィンを圧
倒的に支持します。
ところがエリツィン人気は、1年ももちませんでした。
なぜかというと経済改革に大失敗したから。
改革初年度92年のGDP成長率は、マイナス14.5%(!)。
インフレ率は2600%(!)。
以後、ロシアのGDPは98年までに43%(!)も減少することになりま
す。
どうですか、皆さん。
GDP500兆円の日本経済。
これが4割減って300兆円になっちゃたら。
さて、エリツィン改革の柱の一つは、「大規模な民営化」を実施する
こと。
とはいえ、ソ連崩壊までロシア人は全員「公務員」でしょ?
(社会主義ソ連には私有財産がなく、企業はすべて国営だった)
民営化といっても、国営企業を買い取る財力のある人なんていな
いわけです。
それで、ロシア国民から「赤毛の悪魔」と恨まれているチュバイス副
首相(当時)はどうしたか。
「あなたのもっているものは、そのままあなたの所有になりますよ」
とした。
つまり、「あなたのすんでいるアパートは今まで国のものでしたが、
これからはあなたの所有になります」
おお!
アパートタダでもらえるのですか?
ところが、ここでとんでもない不平等が起こったのです。
「あなたが国営会社の社長なら、その会社はあなたのものです」
そう、民営化でアパート1軒だけしかもらえなかった人もいれば、民
営化された巨大企業をタダ同然でゲットできた人たちもいた。
非常に単純化して話していますが、本質はそういうことです。
こうして新興財閥とよばれるハイパー成金層が勃興してきた。
そして97年には、7人の新興財閥がロシアの国富の半分を牛耳る
(といわれる)ようになりました。
7人の新興財閥とは
1、ベレゾフスキー(クレムリンのゴッドファーザーとよばれる。国営
テレビ局ORT株49%を保有していた。)
2、グシンスキー(ロシアのメディア王。民放最大手NTVをはじめと
するメディア帝国をつくった)
3、ホドロコフスキー(後の石油最大手ユコス社長)
4、アブラモービッチ(ベレゾフスキーの愛弟子。後にベレゾフスキ
ーからORT・石油大手シブネフチ株を買い取る)
5と6アヴィンとフリードマン(アルファグループ。傘下に大手銀行ア
ルファバンク、石油大手TNKなどがある)
7、ポターニン(インターロスグループ。傘下にノリリスクニッケル)
このうち1~6はユダヤ人。
ロシア人はポターニンだけ。
彼らは、ロシアの資源・金融・メディアを抑え、エリツィン一家と癒着。
莫大な利益を得ながらほとんど税金はおさめなくていいという、最
強の立場を手にしたのです。
▼プーチン登場
さて、99年12月には下院選挙がありました。
ここで、新興財閥の長老が激しく争います。
親エリツィンの代表はクレムリンのゴッドファーザー・ベレゾフスキー。
彼は、誠実で忠誠心が強いと評判の男プーチン(当時FSB長官)を
首相→大統領にしようと画策。
プーチンは99年8月、首相に任命されました。
ベレゾフスキーは、「統一」という新党を立ち上げます。
反エリツィンの代表は、メディア王グシンスキー。
グシンスキーは、これもKGB出身の大物プリマコフ(元外相・
元首相)を大統領にしようと画策。
グシンスキーは、プリマコフとルシコフ・モスクワ市長の新党「祖国・
全ロシア」を支援しました。
さて、選挙の結果は、
1位共産党
2位統一(プーチンが中心、親エリツィン)
3位祖国・全ロシア(プリマコフ・ルシコフが中心、反エリツィン)
1999年12月31日、病弱なエリツィンが辞任。
2000年3月、プーチンが選挙で勝利し大統領に就任します。
彼を育てたベレゾフスキーは、「KGB軍団の男が大統領になれば、
俺のビジネスは安泰だ!」と考えたに違いありません。
しかし、プーチンはアッという間に彼を裏切ります。
▼新興財閥の粛清
さて、ここまで読まれた皆さんは、ロシア経済の問題点を理解してい
ます。
1、エリツィンがイイカゲンな民営化をした
2、それがきっかけで、新興財閥が台頭した
3、新興財閥はロシアの主要部門を支配し、税金を納めない
4、結果ロシア経済はボロボロ
という流れ。
大統領になったプーチンの課題は明らかでした。
1、新興財閥が政治に口出ししないようにする
2、新興財閥にきちんと税金を払わせる
3、新興財閥から石油部門を取り戻す
で、プーチンはどうしたか?
なんと、メディア王グシンスキーとクレムリンのゴッドファーザー・ベ
レゾフスキーを横領・脱税などの容疑で追い詰めていった。
グシンスキーは00年6月に逮捕された後、国外に脱出。
今はイスラエルに住んでいます。
ベレゾフスキーはイギリスに脱出し、反プーチンの政治活動を今
もつづけている。
クレムリンはこれで、ベレゾフスキーのORTとグシンスキーのN
TVを支配し、メディアを抑えることにも成功しました。
権勢を誇った新興財閥の巨頭を、あっという間に成敗したKGB軍
団。
他の小者・新興財閥は恐れおののき、税金をきっちり納め、政治に
口出ししないことを誓いました。
しかし03年、石油最大手ユコスのホドロコフスキー社長がプーチ
ンに戦いを挑みます。
ホドロコフスキーは、エクソンモービル・シェブロンテキサコとユコ
ス売却交渉をしていた。
また、東シベリアー中国パイプライン計画をもっとも熱心に推進し
ていた。
つまり米中を味方につけていた。
さらに、カシヤノフ首相・ヴォローシン大統領府長官等有力者を買
収していた。
また、反プーチンの共産党・ヤブロコ・右派連合といった政党を支
援していた。
強敵ですね。
しかし、KGB軍団はこの戦いにも勝利。
ホドロコフスキーは03年10月、横領・脱税などの容疑で逮捕され
ます。
これで新興財閥軍団は決定的にプーチンに服従することになりま
した。
▼ロシアの復活
1、新興財閥が政治に口出ししないようにする
2、新興財閥にきちんと税金を払わせる
を成し遂げたプーチンは次の段階に進みます。
3、新興財閥から石油部門を取り戻す
まず、ベレゾフスキーが所有していた石油会社シブネフチを国営
ガスプロムに吸収させます。
これでガスプロムは、時価総額で世界3位に浮上。
また、ユコス最大の子会社ユガンスクネフチガスを、国営石油会
社ロスネフチに吸収させます。
ロスネフチは現在、ガスプロムに次ぐロシア2位の企業。
プーチンは、ロシア最大のドル箱石油部門を国家に取り戻すこと
に成功したのです。
ロシアに追い風が吹いてきました。
金融危機があった98年、ロシア産石油はバレル10ドル以下まで
下がっていた。
ところが、プーチンが大統領に就任した2000年、30ドルまで上昇。
その後、アフガン戦争・イラク戦争で中東が不安定化する中、原
油価格はぐんぐん上昇していきます。
04年には40ドル、05年には60ドル、07年には80ドル、08年には
100ドルを超えた。
オイルマネーが洪水のように流れ込み、ロシアは年平均7%程度
の成長を8年間もつづけることになったのです。
「プーチンは石油価格に支えられている。ラッキーだ」
という人もいます。
まったくそのとおり。
しかし、新興財閥がエリツィン時代のように、主要部門を牛耳り、
政治を牛耳り、税金を納めない状態のままだったらどうでしょうか?
新興財閥はビルゲイツより金持ちになる一方で、ロシアはいまだ
に借金大国といった状況だったでしょう。
ロシア経済復活の半分は、石油価格のおかげ。
もう半分は、プーチンが新興財閥を更生させたおかげといえるの
です。
さて、プーチン政権下でロシアはどう変貌したのでしょうか?
数字で見てみましょう。
ロシアのGDP(ドル換算)は、2000年の2511億ドルから07年の1兆
2237億ドルまで、約5倍(!)化。
平均月収は、00年に約100ドルだったのが、07年は540ドルで5.4
倍(!)増加。
外貨準備高は、04年にはじめて1000億ドルを超え、3年後の07年
には4000億ドル(!)を超え、世界3位に浮上。
株価指標RTSは、00年の200から07年には2000ポイントを突破し、
10倍化(!)。
どうです?
皆さんの会社の社長はワンマンである。
それでも、8年間で給料を5倍あげてくれたら、支持しませんか?
プーチンは、独裁者でも常に70%以上の支持率を保ってきました。
理由はもうおわかりでしょう。
プーチンは2期8年をつとめ引退。
これからはメドベージェフ大統領、プーチン首相という体制に移行
します。
ロシアはどこにいくのか?
メドベージェフってそもそも何者なのか?
それは、次号お話しましょう。
★メドベージェフのロシア2(ロシアはどうなる?)
全世界のRPE読者の皆さまこんにちは!
いつもありがとうございます。
北野です。
ロシアでは3月2日大統領選挙が行われました。
全ての人の予想どおり、メドベージェフ第1副首相が圧勝。
1、メドベージェフ 69.43%
2、ジュガーノフ(ロシア共産党党首) 18.17%
3、ジリノフスキー(ロシア自民党党首) 9.85%
4、ボグダーノフ(民主党党首)1.28%
(モスクワ時間深夜2時、日本時間朝8時、開票率74%時点)
前号では、ソ連崩壊からプーチン時代までを振り返りました。
新大統領メドベージェフの下でロシアはどこに行くのでしょうか?
▼メドベージェフって誰?
日本ではあまり知られていないですね。
メドベージェフさんは、現在42歳。
わか。
プーチンさんと同じレニングラード大学(法学部)を卒業。
彼がプーチンと知り合ったのは18年前。
当時プーチンは、サンクト・ペテルブルグ市対外関係委員会の
議長だった。
メドベージェフは、この委員会の法律顧問になります。
プーチンは当時25歳だった彼を信頼し、しばしば相談していたとか。
1993年~99年まで、メドベージェフは、イリムパルプ・エンター
プライズという林業の会社に勤務。
1999年末、プーチンにより大統領府副長官に大抜擢されます。
2003年10月、大統領府長官に就任。
05年11月から、第1副首相。
ナツィオナリニー・プロエクト(国家プロジェクト)の、医療・教育・
住宅など社会分野を主に担当。
着実に実績をあげてきました。
また、世界最大のガス会社「ガスプロム」の会長(!)も兼任して
いたのです。
07年12月10日、プーチンはメドベージェフ第1副首相を「後継者」に
指名しました。
▼政治
さて、メドベージェフ新大統領のもとで、ロシアの政治はどうなる
のか?
プーチンが00年に大統領になったとき、強力な敵がいました。
そう、有り余るお金をもつ新興財閥軍団。
当時の構図は、KGB軍団 対 新興財閥軍団だった。
しかし、前号でも書いたように、プーチンは新興財閥の巨頭3人を
追放、または逮捕した。
他の新興財閥軍団は、KGB軍団に「政治にかかわらない」「税金
をきちんと払う」ことを誓います。
その後、ロシアの新興財閥軍団は粛清されることもなく、ビジネス
は栄えています。
よって、KGB 対 新興財閥の争いは再燃しないでしょう。
クレムリンは現在、形は民主主義でも、司法・行政・立法・マスコミ・
経済の主要部門を支配しています。
私はこれを、「なんちゃって民主主義」と呼んでいるのですが。
いずれにしても、ロシアの政治は非常に安定している。
メドベージェフ大統領とプーチン首相の争いが起こるのではない
かと考える人もいるでしょう。
しかし、プーチンのバックにはKGB軍団がいます。
一方メドベージェフの後ろには、プーチン以外誰もいない。
反逆できるはずがありません。
結局ロシアは、「欧米にウケのいいリベラル派が大統領に
なった」にもかかわらず、根本は何も変わらない。
プーチン路線がそのままつづくということなのです。
▼経済1(原油価格とロシア経済)
次、経済の話。
ロシア経済は原油価格と正比例しています。
つまり、原油価格が上がれば経済は成長し、価格が下がれば
成長しない。
70年代、原油価格が高かったのでソ連経済は成長しました。
80年代、原油価格が下がったので、ソ連経済は危機に陥りました。
90年代、金融危機が起こった98年、ロシア産原油の価格は10ドル
を割り込みます。
00年代、原油価格はほぼ右肩上がりで上昇をつづけ、今では
98年の10倍(!)。
それで、ロシア経済も比例して成長をつづけています。
結局ロシア経済の行方を占うということは、「原油価格の未来を
占う」のと同義。
で、原油価格はどうなるのか?
長期的には三つの理由で上がりつづけるのです。
1、需要が増加しつづける
米エネルギー省によると、一日あたりの世界石油消費量は、
2000年の約7700万バレルから、05年には8500万バレル、10年
9400万バレル、15年1億200万バレル、20年1億1000万バレルと
増加しつづけていきます。
主な理由は、中国・インドの需要増。
2、石油が枯渇し、供給が減少する
石油大手BPのデータによると、世界の石油確認埋蔵量は前世紀
末時点で1兆330億バレル。
もちろん未確認埋蔵量もあります。
未確認ですから正確な量はわかりません。
専門家の意見を聞いても、2000億バレルから9000億バレルと
バラつきがある。
いずれにしろ、2040年おそくても60年までに石油は枯渇すると
いうのが多くの専門家の意見です。
需要が増加しつづけ、供給が頭打ちなら、価格は上がるに決まって
います。
3、新エネルギーへの転換が進まない
「まあでも、新エネルギーの時代が来るし」
現実はそうあまくありません。
2000年の時点で、石油は世界のエネルギー消費の39%を占めて
いました。
2位は石炭で24%、3位は天然ガス(22%)4位原子力(6%)。
2020年にはどうなるのでしょうか?
なんと37%が石油。
20年間で2%しか減らない。
減るといっても、もちろん、エネルギー消費全体内の割合が減る
だけで、量は前記のように増加しつづけていきます。
2位は天然ガス(29%)。
3位は石炭で22%。
残り12%の中に原子力・水力・風力・太陽エネルギー・燃料電池など
が含まれる。
もう一度。
石油の需要は増え、供給は頭打ち。
そして、新エネルギーへの転換も遅々として進まない。
よって「原油価格は上がりつづけるだろう」という当たり前の結論に
行き着きます。
ちなみに、米エネルギー省によると、ロシアの石油埋蔵量は世界
全体の14%。
これは世界2位です。
そして、石油の後に主役となる天然ガス。
ロシアの埋蔵量は全世界の27%で、ダントツ世界1位。(2位はイラン)
長期的にロシア経済は明るいのです。
▼経済2(アメリカの不況とロシア)
長期的に明るいとはいえ、ここ数年は問題もあります。
それがアメリカ経済。
アメリカの景気が悪化する(あるいは危機に陥る)
すると、世界経済が悪化する(あるいは世界恐慌が起こる)。
当然、石油の消費は減少するでしょう。
すると、原油価格は下がりますね。
まったく正反対のシナリオも考えられます。
アメリカの景気が悪化する。
アメリカは、世界恐慌後の第2次大戦、ITバブル崩壊後の三つの
戦争(ユーゴ・アフガン・イラク)のごとく戦争を画策する。
景気回復のための公共事業。
もしアメリカがイランを攻めれば、バレル150~200ドルまであがって
もおかしくありません。
このように、原油価格はここ数年、暴落と暴騰二つの可能性がある。
イラン戦争は、ロシア経済にとって悪いことではありません。
(ロシア経済はアフガン・イラク戦争による原油価格高騰で
潤ってきた)
ここでは、アメリカ経済が危機に陥り原油価格が下がる、ロシアに
とって悲観的なシナリオを想定しましょう。
そうなってもロシア経済への打撃は、他国比で少ないといえる
でしょう。
なぜか?
1、原油価格は06~07年で60%上昇した
06年末、原油価格はバレル60ドルでした。
それが08年1月には100ドルを突破しました。
つまり、1年ちょっとで60%も上昇している。
別の見方をすれば、ロシアは原油価格が06年の水準まで下がって
も大丈夫ということ。
だって、00~06年までロシア経済は成長してきたわけですから。
2、ロシアと中東産油国は組んでいる
以前にも書きましたが、レーガンさんはサウジアラビアに頼んで
(脅迫して?)増産させました。
その結果原油価格は下がり、ソ連経済は危機に陥ったのです。
しかしブッシュは、アフガン・イラクを攻め、イランを敵視することで
中東産油国とロシアを同時に敵に回しています。
それで、中東産油国とロシアは一体化している。
要するに、中東産油国・そのほかオペック諸国・ロシアは一体化し
て原油の暴落を起こさない措置(減産)をとるでしょう。
ですから、98年のレベルまで大暴落する可能性は極めて低いの
です。
3、ロシアは危機に備えてきた
サブプライムより本質的な危機は、「ドル基軸通貨体制の崩壊」
です。
そして、プーチンは「ドル体制崩壊」を推進してきた。
具体的には、
・06年からロシアはルーブルで石油を売り始めた
・07年、プーチンは「ルーブルを世界通貨にする!」と宣言した
・08年、メドベージェフは「資源はルーブル建てで売る」と宣言して
いる
つまり、プーチンもメドベージェフも、意図的にドル体制を崩壊させ
ている。
ということは、リスク予測も当然してきたはずです。
ここに面白い数字があります。
米ロ新冷戦がはじまったきっかけは、
03年末のグルジア・バラ革命、04年末ウクライナ・オレンジ革命、
05年3月キルギス・チューリップ革命をアメリカが支援し、
「ロシア封じ込め政策」を強力にすすめたからでした。
要するに03年末から始まったことになります。
04年ロシアの外貨準備高は1000億ドル。
3年後の07年には4000億ドルまで4倍化し、世界3位になっています。
さらに、ロシアは石油高騰による棚ボタ資金を、「安定化基金」に
ストックしてきました。
左よりの政治家や議員は、「安定化基金を公共投資にまわし国民に
還元しろ!」と圧力をかけてきた。
しかし、政府は「これは原油価格が下がったときの備えだから」とし、
貯め続けてきたのです。
ロシアが政策的にドル基軸通貨体制を崩壊させる。
するとドルが下落→アメリカの輸入品が高くなりインフレが進む→
アメリカ消費減少→原油価格下落
クレムリンは当然こういうシナリオを描けたはずです。
なにはともあれ、ロシアは世界3位の外貨準備・危機に備える
安定化基金・万年経常黒字・万年財政黒字で財務の優等国。
(自分がきっかけを作った)危機への準備は怠りないのです。
▼経済3(ロシア経済の課題は?)
「ロシア経済は石油・ガスのみがたよりである」
これは事実ですが、石油・ガスの埋蔵量も永遠ではありません。
いつまでもこの二つに頼りつづけるわけにはいかない。
それでプーチンやメドベージェフは「経済の多角化が最重要課題
だ」としています。
具体的には、
・軍事産業
・民間航空機
・原子力
・ナノテク
・造船
などの分野を発展させていく。
ところが民間はこれらの分野に関心がないため、国家主導ですす
めることになる。
結局ロシアは、国が主導で産業を育成していく「国家資本主義」で
いくのでしょう。
このほか、貧富の差が拡大していること、インフレ、少子化など、
それぞれ非常に深刻な問題があります。
とはいえロシア経済は、他国比で順調に成長をつづけるはずです。
ロシアは07年、GDPでフランスを抜き、世界7位に浮上しました。
プーチンは「2020年までにGDPを5位にする」としています。
そのためには、イギリスとドイツを抜かなければなりませんが、
両国共成熟・低成長の国。
目標はかなりの確率で達成されることでしょう。
▼経済4(ロシアは世界の工場になれない)
今までいいことばかり書いてきましたが、ロシアが世界経済にしめ
る正しい位置を知る必要があります。
「中国の次はロシアが世界の工場になります」
こんなこという人はいませんね。
これは正しい認識。
なぜか?
ロシア人の平均月収は、00年の100ドルから07年の540ドルまで、
5倍以上増加しています。
また、ロシアの通貨ルーブルは、02年の1ドル31ルーブルだったの
が今では24ルーブル。
6年間で、30%高くなっている。
しかも、一貫して上昇しつづけているのです。
わかりますね、オイルマネーが洪水のように流れこんでいるから。
プーチンさんが「ルーブルを世界通貨に!」と宣言しているの
もわかります。
ルーブルは今後も上がりつづけるに違いありません。
ルーブル高は、いい点もありますが、以下のようなネガティブな
影響もあります。
1、世界市場におけるロシア製品の価格が上昇し、競争力が失わ
れる
2、ロシア市場においてロシア製品の競争力がなくなり、製造業が
衰退する
3、外資から見ると、労働力の高いロシアは、中国・インドほどの
魅力はない
要するにロシア製造業の未来は暗いのです。
事実04年以降、製造業の伸びは鈍化しています。
ではなぜ、トヨタさんをはじめとするいろいろな企業がロシアに工場を
建設しているのでしょうか?
これは、ロシア人の消費意欲がクレイジーだから。
構造はこうです。
・原油高でオイルマネーが洪水のように流れ込む
→・その金が国民のすみずみまでいきわたり好況
→・給料は、それほど熱心に働かなくても右肩上がり
→・クレイジーな消費
→・クレイジーな消費のおかげで生産が増える
→・生産が増えると所得が増える
→・所得が増えると消費が増え、生産が増え所得が増え、
また消費が増え・・
以下繰り返し。
このようなスパイラルが起こっている。
外国企業はロシア国内で売りさばくために進出しているわけです。
ライフサイクルで見ても、ロシアはソ連時代のようなポジションを
取り戻すことはできないでしょう。
ロシアは世界の3分の1を直接・間接支配したソ連時代が歴史上の
ピークだった。
同国の位置づけは現在、成熟期の成長期。
一方中国は、成長期の半ば。
インドは、成長期の前半。
世界経済の中心はイギリス→アメリカ→日本をとおり、中国→インド
に移行していくでしょう。
▼外交
最後に外交について触れておきましょう。
今まで何度か書いてきましたが、ロシアは「アメリカと融和したい」
というシグナルを送りつづけています。
ラブロフ外相は、「欧米ロで、新しい世界秩序を作れる」などと発言
している。
(つまり中国抜きの世界秩序)
要するにロシアは、「アメリカはもはや仮想敵NO1ではない。
仮想敵NO1は中国だ」という考えにシフトしているのです。
ところがアメリカ側はどうか?
例えば共和党のマケインさん。
06年2月のミュンヘン安全保障会議で、「サンクトペテルブルグ
サミットへの不参加」を呼びかけました。
さらに、同候補は「世界の3大問題」は
「不安定なイラク」
「核兵器を保有するイラン」
「プーチンのロシア」
と発言している。
71歳マケインさんの脳みそは、米ソ冷戦時代のままストップして
いる。
真実をいえば、アメリカの仮想敵NO1は、少子化で年間70万人も
人口が減っているロシアではなく、中国のはずです。
民主党のクリントンさんはどうか?
クリントン夫婦が、長年中国から資金を受け取ってきたことは
有名です。
さらに、イスラエルからも資金を受け取っている。
クリントンさんは、親中国・親イスラエルであり、ロシアにとっては
都合の悪い存在なのです。
オバマさんのことは、ロシア側もよくわかっていないようです。
なぜならオバマさん自身が、ロシアとどうつきあいたいかわかって
いない。
で、結局どうなるのか?
米ロは現在
・コソボ問題(アメリカはコソボ独立支持。ロシアは独立反対、
セルビア支持)
・イラン問題(アメリカは制裁支持、戦争の可能性も示唆。
ロシアは制裁反対、戦争反対)
・NATO拡大問題(アメリカは旧ソ連ウクライナ・グルジアを
NATO加盟させたい。 ロシアは絶対反対)
・東欧MD問題(アメリカはチェコ・ポーランドにMDを配備したい。
ロシアは絶対反対)
等々、山盛りの問題を抱えています。
両国譲歩する気配はなく、よって米ロ冷戦はメドベージェフ
新大統領の下でつづいていくことになるでしょう。
米ロ新冷戦は、日米ロ欧に利益をもたらさず、次期覇権国を狙う
中国のみを利することになります。
これを昔の人は「漁夫の利」といいました。
▼まとめると?
まとめてみましょう。
●政治は
・安定している
・欧米にウケのいい新大統領が誕生してもプーチン路線は
かわらない
・メドベージェフとプーチンの権力争いは起こらない
●経済は
・原油価格は長期的に上がる方向なので、資源大国ロシアの未来
は明るい
・ロシアはアメリカの危機への備えができており、他国比で被害は
少ない
・ロシア経済最大の課題は、産業の多角化である
・ロシア経済は発展するが、世界の工場にはなれない
●外交は
・ロシアは、欧米との和解を目指す
・しかし、アメリカの新大統領候補は「中国よりロシアが脅威」と
認識しており、融和 は難しい
・結局米ロ冷戦はつづいていく
となります。
ああ、そうそう。
日ロ関係はどうなるのでしょうか?
ロシア側は、
1、ロシア最大の脅威は中国だという認識
2、経済の多角化
という観点から日ロ関係を改善しようとするでしょう。
経済の多角化がらみで日ロ関係を改善するとはどういうことか?
1、ルーブル高を背景に、日本のハイテク企業を買収する動き
2、原子力分野などの協力関係を深める動き
等々が強まっていくはずです。
だからといって「北方領土が返ってくる」とはいいません。
ロシア側は日ソ共同宣言に基づき「二島返還決着」にもちこもうと
するでしょう。
今回の話、「濃すぎてよくわからん」という方、
下の情報をゲットしてください。
完全資料つきで全部わかるようになります。(おわり)
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●え”~中ロ同盟が米幕府を滅ぼす???
仮想敵同士だった中国とロシア。
アメリカの執拗ないじめとカラー革命に激怒したプーチンは、
ついに東のジャイアントパンダ(中共)と提携することを決意します。
日本人が知らないうちに(悪の?)薩長同盟は成立し、米幕府
体制は崩壊にむかいます。
素人目にもアメリカの覇権後退が明らかになってきました。
その真因を、中学生でもわかるように解説する(豊富な資料つき)
★ロシア政治経済ジャーナル 北野幸伯の新刊!
★★オンライン書店ビーケーワン社会・政治・時事部門1位!
★★★朝日新聞07年11月18日付は
「北野幸伯著『中国・ロシア同盟がアメリカを滅ぼす日』は、タイトル
ほどの極端さはさておき、アメリカの一極支配に対抗しようとして
いるプーチン政治を、わかりやすく見通す。
アメリカが影響力を及ぼしたとされる周辺国の政変に対策をとり、
外貨準備からドルの割合を減らし、石油をルーブルやユーロで
売る──ロシアの揺さぶり策から、アメリカの世界戦略に改めて
気づくことができる本だ」と絶賛。
「中国・ロシア同盟がアメリカを滅ぼす日-一極主義vs多極主義」
(草思社)(詳細は→ http://tinyurl.com/yro8r7
)
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発行者 北野 幸伯