マサイマラ・レポート 第3回
『マサイマラ・レポート』 第3回
■ 滝田明日香 :家畜獣医(ケニア在住)
■ 『マサイマラ・レポート』 第3回
ほとんどの国民が、「政府も野党も、もうそろそろいい加減に
して欲しい」と願っている中、まだ双方のリーダーたちは
「ミディエーション」をしております。いったい何を話しているの
かは交渉が終わるまでメディアには発表しないらしく、
私たちは上の方で何が起こっているのかよく分からない状況。
「ケニアはもう安全なんですか?」との問い合わせにも、
「今は安全ですが、今後はまだ読めません」としか言えない
悲しさ。これじゃあ、観光客を呼び戻そうとみんなで力合わ
せようとしても、はっきり言って難しい。
でも、確信して言えることは、一般のケニア人たちの間
では、政治家たちに振り回されるのにうんざりしているし、
平和さえ戻ってくれれば誰が大統領でもどうでもいいという
ような雰囲気がただよっているということ。
来週も野党のデモンストレーションがあると聞いているけど、
実際に人が集まるのかは疑問です。なぜなら、普通の人は
みんな平和を望んでいるから。でも、どんなに少人数の
人間が暴れても、それが国際メディアを通してニュースに
流れてしまえば、またケニアのイメージが悪化してしまうので
困りものです。ナイロビから500キロ離れていても、
マサイマラから1000キロ離れていても、またひどい映像が
流れたら観光客は来なくなってしまう。
みんな、それを恐れています。
暴動のせいでレンジャーたちの仕事に支障が出ると書いた
時、「レンジャーたちが暴動に巻き込まれたのか?」という
質問を受けました。答えは、「ノー」です。レンジャーたちの
いるマサイマラでは暴動は起きていません。でも、ケニアの
他の地方で起こった暴動の映像のせいで観光客が来なく
なり、レンジャーの活動資金になっていた入園料が激減して
しまったので、彼らもまた暴動で影響された人間たちの
一人なのです。
ナイロビやキスムなどで起きた暴動などは、ほとんどの
レンジャーたちにとって遠い国で起こった出来事のような
感じで語られています。それもそのはず、レンジャーの90%
近くは、ここの地元のマサイ。
大きな都市に行くのは、生涯に何回かほどしかありません。
ナイロビに行ったことがない人だって、沢山います。
「レンジャーたちはこの暴動をどう見ているか?」という問い
合わせがありましたが、「遠い場所で起きた暴動のせいで、
自分たちの生活や活動まで影響されてしまうなんて、とても
迷惑だ」と、対外の暴動に参加していないケニア人と同じ
意見でした。少数の人間が暴れたことで、それの何万倍もの
人が何もしていないのに生活を追われる。
確かに迷惑な話です。
暴動が始まってから、ホテル従業員、ツアーガイド、空港
関係の従業員など、多くの観光業に関わる人たちが職を
失いました。その影響はホテルへ食料などをサプライして
いる業者などにまでおよび、失業者の数は上がる一方。
まだ開いているホテルやロッジさえも、従業員は無給休暇を
取らされて実家に返されました。実家に帰されたと言っても、
戻って来る日は、観光客が戻って来る日。
つまり、まだよく分からないという状況。それでも家族を
養っていかなかったりしなくてはいけないし、大変です。
そんな状況で暮らす人たちが大勢いる中で、またデモン
ストレーションに参加するという人がいるのでしょうか?
普通に考えたら、いないと思うのですが、ここはアフリカ。
平気で信じられないことが普通に起こったりするので、
まだまだ分かりません。まだ私達には、静かに見守る道
しかないようです。
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滝田明日香(たきたあすか)
1975年神奈川県藤沢市生まれ。
2000年、アフリカで獣医になりたい一心でナイロビ大学
獣医学部に編入。2005年、めでたく獣医になる。
卒業後、マサイマラ国立保護区の回りに住むマサイを対象
にした「マサイマラ巡回家畜診療プロジェクト」を立ち上げ、
家畜診療以外にも野生動物へのジステンパー感染などを
防ぐ為、保護区の外のマサイの犬2700匹にワクチンなど
を投与している。
現在は愛犬6匹、愛猫4匹と一緒にマサイマラに住む。
なぜアフリカへ来たかの詳しいエピソードは、『晴れときどき、
サバンナ』『サバンナの宝箱』(滝田明日香・著/
共に幻冬舎)を!
<http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4344409116/jmm05-22
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<http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4344012607/jmm05-22
>
●いろいろな方から集まった募金の合計金額や
マラコンサーバンシーからの感謝のレターなどを私のHPの
www.asukafrica.com
に添付しています。
JMM [Japan Mail Media] No.467 Extra-Edition2
【発行】 有限会社 村上龍事務所
【編集】 村上龍
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ケニアのマサイ族のレンジャーたちの生活費と
マサイ族のレンジャーたちが、ケニアの公園の
動物たちを密猟者から守るための資金や、
動物たちが、公園の近くの住民の住居を壊したり
危害を与えた時に払う賠償金などを、なんとか
日本人たちの募金でまかなえないでしょうか。
ケニアに誰も観光客が行かないので、収入が
途絶えてしまい、マサイ族が困っています。
募金の仕方は、マサイマラレポート第1第2を読んでね。
by日本のお姉さん