「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成20年(2008年) 2月23日(土曜日) 弐
通巻第2098号 臨時増刊号
コソボ独立宣言の衝撃 (第2弾)
米国大使館焼き討ちをやらせた背景は何か?
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▲ 多民族が混在するモザイク国家の宿命
セルビアの諸都市、とくに首都ベオグラードの至る所にある看板は、次の文字が躍る。
「コソボはセルビアのもの」。
冷戦終結直後に筆者はベオグラードに行ったことがある。
チトーが各国から国賓を迎えるために鳴り物いりで建てた、いかめしくも荘厳なメトロポールホテルに宿泊したが、タイルがはげおち、床は凸凹で湾曲し、エレベータは蹴飛ばさないと動かなかった。
食堂だけは中世ヨオロッパの貴族社会を伺わせる雰囲気があった。食事もまずくはなかった。市内にはぼったくりのタクシーが横行していた。
パリを思わせる表通りから一歩、裏道にはいると、猜疑心に満ちた目をした民衆が、固まって物臭そうに暮らしていた。或る公園はアルバニア系のホームレスが、或る公園にはクロアチア系の乞食が固まっている。猜疑心の噴出は、他民族への恨みの輝きをおびていた。不気味な雰囲気を感じた。
とても同じ都市に住む「国民」のアイデンティティがあるとは思えなかった。
セルビア正教系(ギリシア正教の流れ)の教会に入る。ちょうど結婚式をやっていたが、外国人に『出て行って』と追い立てる仕草、売店で十字架のアクセサリーを土産に買おうとしたら「異教徒には売らない」と峻拒され、驚かされた(詳しくは拙著『世界経済裏道を往く』(1992年、ダイヤモンド社刊)。
それから十六年を閲し、チトーのこしらえたユーゴスラビア連邦は、スロベニア、クロアチア、ボスニア、マケドニア、セルビア、そしてモンテネグロと別れ、最後に残ったコソボが独立を宣言したのである。
この間、幾多の戦争と虐殺とNATOの空爆があり、結局、コソボには16000のNATO軍の駐留となった。この西側の軍事力の保護のもとにアルバニア系住民が九割をしめるコソボは独立を宣言したのだ。
しかしコソボはセルビアにとっては一つの自治州だから、国家意識から言っても、独立は絶対に容認できない。
本来ならセルビアは戦争を仕掛けるべきだろうが、かろうじて止めているのはNATOの空爆の記憶が鮮明だからである。理性ではない。打算からである。
92年から95年にかけてのボスニア&ヘルツェゴビナ独立戦争では、NATOと米軍機が78日間、連続してセルビアを爆撃した。
当時、ボスニア外相は米国ユダヤ系PR会社と契約し、セルビアのミロセビッチ大統領をヒトラーと同一視させたうえ、市場の爆破事件を自作自演して、セルビアの所為だと宣伝につとめ、映像を世界に流してミロセビッチ大統領の悪印象を高めた。
おなじギリシア正教の立場から、スラブ系民族主義の立場からもセルビアを支援していたロシアは政治的混迷の時期で、部分的な軍事支援しか出来なかった。
▲国際政治の隙間を絶妙に突いた
コソボの独立は、いわば国際政治のドサクサに巧妙に便乗し、しかもEU諸国を十分に根回ししたあげくに弱体化したセルビアの隙を突いた。
台湾独立問題と置き換えれば、中国がいずれ経済的に混迷し、国際的に孤立したとき、台湾が欧米、ロシアを十分に根回したうえで独立を宣言すれば、国際社会は認めざるを得なくなるだろう。
北京は戦争に打って出るほどの蛮勇はなく、激しく台湾とそれを支援する諸国を罵倒するだけで終わる可能性がある。
だから台湾の新聞をみると、日本ではおよそ想像できないほど大々的に、連日コソボをめぐる報道がなされている。
たとえば台湾最大発行部数を誇る『自由時報』(2月18日付け)の一面トップは「新国家誕生 科索沃独立」とある。(「科索沃」はコソボ)。
同紙は翌日(2月19日付け)も「美英法徳義 承認科索沃」(米・英、フランス、ドイツ、イタリアがコソボを承認)。
セルビア(寒爾維亜)のナショナリズムは激しい反米デモを行い、在ベオグラード米国大使館、ならびにクロアチア大使館に火焔瓶を投げて炎上させた(この写真は世界のマスコミが一面カラーで伝えた。日本のマスコミだけが二面で扱った)。
米国大使館は25日まで閉鎖された。
英国とトルコ大使館もねらわれた。
21日にはセルビア人20万人の反米デモが電光石火に組織され、デモ隊の一人が死亡、150名が負傷するという事件に発展した。
マクドナルドや欧米系銀行店舗も略奪の対象となった。
セルビアのタディッチ大統領は訪問先のルーマニアで記者会見し、国民に冷静を呼びかけて「暴動はむしろコソボをセルビアから遠ざけてしまう」と理性的に訴えた。
国連はただちに緊急安保理事会を招集し「最大限の言葉でセルビアを非難する」声明を採択した。
▲ロシアの対応、台湾の反応
他方、ロシアの鵺的な動きは複雑怪奇である。
ロシア上下両院議会は「コソボ独立は領土保全という国際法の一つの原則に違反している」と共同で声明を発表し、「国連安保理事会にコソボ独立を認めないよう働きかける」と言った。
旧ソ連圏ではカザフスタンとアゼルバイジャンがロシアの動きに同調した。グルジアは奇妙なほど複雑な国際情勢をかかえながら、コソボ独立には反対と言った。
グルジア国内に存在する、いわゆる未承認国家の「アブハジア自治共和国」のバカプシ「大統領」は、「南オセチア自治州」のココイトイ「大統領」とともに、モスクワで記者会見し、プーチン大頭領に「両国のグルジアからの独立を早く求めよ」と迫った。ココイトイ『大統領』は、「我々にはコソボよりも明確な独立への法的基盤がある」と語った。
グルジアのサアカシビリ政権の実効支配が及ばないアブハジアと南オセチアは、ともにロシア軍が駐屯し、事実上の独立国家だが、『未承認国家』である。
ともに大統領がモスクワにいることも注目するに値する。
いわば“モスクワのロボット”たちだ。
一方でコソボ独立に反対するロシアが、他方ではグルジア内の二つの『未承認国家』の独立を求めるというわけだから二律背反である。グルジアは、こうした文脈からコソボ独立には反対し、沿ドニエステル共和国をかかえるモルドバも反対している。
セルビアの狂信的ナショナリズムは、同国内のアルバニア系住民に向けられ、また早々とコソボを承認した国々の代表部や企業に向けられて、しばらく暴力沙汰が続くであろう。それが西側マスコミに極めて悪い印象を与えるのも事実だろう。
おりから総統選挙の終盤戦にはいった台湾で、この事態の推移を真剣かつ誠実に見極めようとする努力は、どの国よりも強い独立シナリオのシミュレーションの研究に役立つかもいれないという強い動機があるからだ。
○◎み△や◎ざ◎き○△◎ま◎さ△ひ◎ろ◎○
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(お知らせ)宮崎正弘のHP、下記を更新しております。コソボ関連図書の書評です。
http://miyazaki.xii.jp/column/index.html
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(読者の声1) 貴誌2096号の中で「しなの六文銭」氏が(読者の声1)で佐藤優氏の発言を、
「。。。また吉田松陰の行動哲学の裏にも陽明学の思想は脈々と波打っており、一度アカデミックなくびきをはずされた朱子学は、もとの朱子学が体制擁護の体系を完成するとともに、一方は異端のなまなましい血のざわめきの中におりていき、まさに維新の志士の心情そのものの思想的形成にあずかるのである」
と書かれましたが、私の腑には落ちません。
松陰先生は何事も先入観なく博く学び、そこから自分の判断で世界観を築きあげた方ですから、朱子学も陽明学も学ばれたはずです。
しかし松陰先生の行動哲学の裏にも陽明学の思想が脈々と波打っていたと私には思えません。
松陰先生は山鹿流兵学者です。
そして山鹿流の開祖の山鹿素行を先師と呼び非常に尊敬し、素行学の先学たちを求めて、教えを請いました。
山鹿素行先師は自身の学問を聖学と呼び朱子学や陽明学などを超えて、聖人の学問を直接に学ぶことが自身の学問であるとしました。
この考えの先にあるのは当然、易姓革命などなくまたその必要性すらない日本こそ中朝であるとの考えであり、そこからの自然の帰結として至るのが尊王思想です。
だからこそ易姓革命論の首魁とも言うべき孟子を学び、孟子の素晴らしさを重々理解
し「講孟余話」を著しながらも易姓革命論者にならなかったのです。
ついでに述べると日本では易姓革命論を忌避するため孟子が学ばれてこなかったという俗論がありますが、これはまったくの迷妄です。
日本における孟子受容史研究の先覚者であり第一人者の井上理順(いのうえ まさみち)鳥取大学名誉教授によると、日本では孟子は古くから学ばれてきており、易姓革命論も忌避されていなかったそうです。
代々学者の家柄であった清原氏の文書が京都大学の清家文庫に収集されています。
その中に歴代の天皇陛下への御進講のテキストがありますが、孟子の易姓革命論に関する部分は削除されていません。
それに反して、死葬に関するところは削除されています。
松陰先生の行動原理の中核には山鹿素行先師の聖学と軌を一にするものがあったと確信いたします。
陽明学からの影響があったとしてもそれは区々たるものでしょう。
しなの六文銭氏の論考からは外れますが、日本における荀子の受容過程の本格的な研究が待たれます。
浅学非才の私の知る限り日本において古来荀子は重んじられてきていませんでした。にもかかわらず大日本帝国憲法には荀子臣道編から採った「輔弼」という日本では殆ど使われてこなかった表現が使われています。
私は他に「輔弼」という表現が使われた例を一度しかみていません。
私は、明治憲法を創った人たちが敢えてこの表現を採ったところに重大な意味があると確信しています。
誰か学識のあるかたが学問的、文献的に実証していただくか、あるいは私の誤解であることを明確にご指摘いただきたいと切に希望いたします。
(ST生、神奈川)
(宮崎正弘のコメント)。。。。。。。。。。
話をぶっ飛ばせますが、正式の孔子と孟子の末裔は台湾でご存命です。蒋介石と一緒に、まさに「人間国宝」として渡海したのです。最近は故郷の山東省にかえりたい、だから馬英九に入れると言っているようですが。。。。。
さらに話を飛ばせますが、福田首相が師走に訪中のおり、山東省の曲阜(孔子のふるさと)へ立ち寄りました。あそこで孔子77代末裔だと名乗って書画を売りつけているオッさんが居ます。偽毒偽菓子偽玩具偽薬偽餃子偽農薬偽バイアグラ、そして偽孔子の末裔。。。
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(読者の声2)昨年、来日された李登輝(前台湾総統)が、石川県人を評しています。
金沢を訪れた印象を語られた言葉の中で、
「金沢の雰囲気を知り、このまちが多くの偉大な人物を生んだ理由が良く分った。進歩の中に伝統を失わず、の精神があったからだ」
これを聞いた時は、さすがに、心を揺さぶられました。
(FF子、小平)
(宮崎正弘のコメント)そうですか。存じませんでした。それより金沢―台北間に国際定期便が今春から就航予定と聞いております。
石川県は台湾で巨大ダムをつくり、いまも尊敬される八田與一の故郷ですから交流が深く、毎年、八田さんの命日には小松空港からチャーター便がでるほどです。
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(サイト情報) ヒル国務次官補は2月17日からアジア歴訪を開始し、2月20・21日と日本を訪問した。外務省の西宮伸一北米局長や斎木昭隆アジア大洋州局長らと会談し、北京での米朝協議の概要などを報告。
(1) ヒル国務次官補の今回のアジア訪問の発言、記者会見など。
Assistant Secretary Hill: Travel to Asia 、U.S. Department of State
http://www.state.gov/p/eap/trvl/2008/100980.htm
(2) 今年のヒル国務次官補の東アジア・太平洋問題に関しての発言、記者会見 2008 Six-Party Talks 、Bureau of East Asian and Pacific Affairs, U.S. Department of State
http://www.state.gov/p/eap/regional/2008/
「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成20年(2008年) 2月24日(日曜日)
通巻第2099号
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正式に火ぶたを切った台湾総統選、事実上すでに終盤
ふたたび「国民投票」の投票日設定が問題に。米国の圧力が響く
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▲「国民投票」(公民投票)が総統選挙のネックになる?
李登輝前総統の爆弾発言が飛び出した。ただし大型爆弾にあらず。
「国連加盟をもとめる国民投票は総統選挙とは別の日におこなったほうが良い」(タイペイ・タイムズ、2月23日)。
すでに台湾の中央選挙管理委員会は、総統選挙日に同時に「国連加盟、是か否か」の国民投票をおこなうと正式に決めている。
これは法律にしたがって台湾国内で手続きを踏んだ署名が集められ、272万人もの賛成署名があつまるという民意を受けての決定で法律的な齟齬はない。
そこで国民党は、古い古文書を持ち出すかのように、「『中華民国』として、国連への復帰の賛否を問う国民投票をおこなうことは譲れないが、総統選と違う日に実施するのが良い」と呉伯雄主席が22日に会見し、路線を一歩後退させて、民進党と明確に一線を画して見せた。
背後にあるのはワシントンへの屈従である。
民進党は「『台湾』名義での国連加盟」を強固に主張しており、これが米国の強い介入を招いているが、意にかえさない。
「なぜ台湾名義の国連加盟が重要なのか。それは台湾が事実上の主権独立国家であるにもかかわらず、正式国名が定まらず、外来政権がつくった憲法は現実と多くの点で矛盾し、正常な国家と認められないために国際機関から仲間はずれにされ、主権在民という意識が台湾国民に徹底されていないからだ」(陳隆志・台湾新世紀文教基金理事長)。
▲なぜ基本や原則が雲隠れしたのか
在米評論家のアンディ チャンが言う。
「プラセボとは『偽薬』のこと、つまり薬名があって薬効の成分を含んでいないニセモノである。台湾は民主国家としての人民、領土、国家制度がありながらその効力が認められない。
台湾がプラセボ民主国家である理由は何処にあるか?
理由は中国人にある。
毛系中国人と蒋系中国人の妨害で台湾は今でも独立国家として認められない。中国の台湾領土占有宣言で台湾が独立できないからである。次にアメリカや日本などの諸外国が中国に反対を表明しないからである。中でもアメリカが62年も台湾の国際的地位を故意に曖昧にして、台湾政府の独立に向けた努力を妨害するからである」(AC通信、1月10日号)。
だが総統選挙のイッシューは独立、国連復帰ではなく、経済問題、不況の克服に移行しており、「三不(不武、不統、不独)」を掲げて現実論戦をまっしぐら、米国の言うとおりにやろうという馬英九のほうに現実的打算からか、人気が偏っている。
謝長廷主席は、直近のアンケートをみても一貫して30%前後もの差をあけられた馬候補との世論調査の数字に愕然とするわけでもなく、けなげに選挙運動を展開している。
大陸との「共存共生」を謳い、国民党より或る意味では「三通」に前向きである。
しかし独立色を大きく希釈させた選挙キャンペーンを謝長廷が展開しているため、民進党党内の独立派(とくに新潮流派、独立過激派)などが運動への熱意を失ってしまった。
頼みの綱の軍事金も蝋燭の火をともすようだったが、それも消えかけ、一月12日の総選挙の惨敗のあとは、約束していた財界の一部からの献金もストップした状態という。
ここぞとタイミングを選んで漏洩した馬英九の米国グリーンカード保有問題も、多少の騒ぎがあったが、「それがどうした」という感覚でおしまいになりそうである。
国民党は『不都合な真実』をうやむやにしてしまうことにかけては老獪巧妙である。
昨年二月に起訴された馬英九ならびに家族の不正蓄財、市長特別費流用にしても、けっきょくは馬が国民党主席辞任というごまかしだけで乗り切ってしまった。
▲ワシントンの顔色を読む
死活的な問題はどこにあるのか。
独立路線を捨ててはいないが、いまの台湾にとって死活的な政治要素はワシントンの介入である。
「現状維持を変更するいかなる試みにも米国は反対する」と強固に主張するライス国務長官は、台湾の国民投票を「不必要な政治的軍事的緊張を両岸に生み出す」とし、ネグロポンテ国務副長官も、「挑発的であるばかりか、誤りである」と明言するくらい。
なぜ、ワシントンはここまで北京の圧力にまけての物言いをするか?
1983年に北キプロスが独立を宣言したとき、トルコがただちに認めたが、国際社会は応じなかった。
まるで“一人舞台”のように、独立宣言だけが残って北キプロスにはいまも国連軍が駐留している。同様に、台湾有事の際は米軍が出動せざるを得ず、それが厄介だと米国は認識するがゆえに北京におもねるかのようにワシントンは台湾に圧力を掛け続けるのである。
それは中国が台湾向けに配備した1300基のミサイルの軍事的脅威も心理的に作用している。
「中国は台湾への強硬路線を大きく後退させ、台湾に“猫なで声”で近づく仕草を見せつけるのも、根本的路線は寸毫の変化もないが、目先のタクティックスを変えて、ワシントン経由の圧力をかけさせることに重点を移したからだ」(アジア・タイムズ、2月21日付け)
おもえば李登輝圧勝の96年選挙では、民進党は23%前後しか集票できず、台湾人さえもが、「李情結」と言って、民主化をばく進させた李(国民党主席でもあった)に投票した。李登輝は53%を得た。
2000年選挙は、誰も民進党が勝つとは考えていなかった。だから余裕綽々の国民党がきれいに分裂して、外省人らは親民党を組織した宋楚諭に投票した。
李登輝は副総統だった連戦を支援し、本省人の国民党が推進した。
結果は、李登輝が支援した国民党後継の連戦が惨敗し、陳水扁が漁夫の利をしめた(陳水扁が39%、宋楚諭が37%、連戦23%)。
▲予定になかった2000年の民進党勝利
民進党は勝つ準備がなかったから慌ててしまった。
練習のつもりで陳水扁と呂秀蓮コンビは生まれたのである。
勝利の直後、陳水扁はなんと国防部長で外省人の唐飛に首相就任を拝み倒し、これで軍の不満をおさえてから諸政策の改変に取り組んだ。
本来なら、このとき李遠哲(ノーベル賞学者)を首相に起用すべきだった、という声がいまも強い。
04年は国民党が盤石の姿勢で巻き返し作戦に臨み、連戦が総統候補、宋楚諭が副総統候補でチケットを組んで挑んだ。
外省人グループが譲歩し、必勝を期したからだ。事前の世論調査は国民党の政権復帰を予測していた。
が、投票日前日におきた陳水扁銃撃事件で、奇跡の0・228%という僅差で陳政権再選となった。国民党はこの敗北を不正投票として認めず、連日数万から数千が総統府前に座り込んで、選挙やり直しを主張した。
結局、陳水扁政権の八年間で内閣は七回も組閣をやり直し、唐飛のあと、張俊雄、遊錫コン、謝長廷、蘇貞昌、張俊雄(再任)と続いたものの、議会が野党優勢のため、あらゆる審議が妨害され、とくに国防予算審議では米国からの兵器購入を国民党が戦術的に真っ向から妨害したため、米国の陳水扁政権への信頼が揺らいだ。
ワシントンは陳水扁の指導力の欠陥に愛想を尽かしたとされる。
台湾政治の限界、特にワシントンの影響力の強さを目撃するにつけ、これを迂回的恫喝のバネに逆利用と北京が考えるのは、『孫子の兵法』からすれば、当然と言えば当然の戦術なのである。
そして今時の台湾総統選挙では、北京は一切の強硬発言を控え、直接介入を押さえ、軍事的示威を抑制し、もっぱら『ワシントン効果』に依拠した。
陳水扁政権を見限った最大勢力は台湾の財界、経済界である。
六万社、100万人が中国大陸で工場をつくり、店舗を開き、大きな商売を展開している。
89年に天安門事件で世界に孤立したときに、果敢に中国投資を展開したのは台湾だった。累積の投資は米国議会調査局の統計で1800億ドル(世界全体で対中国投資は5600億ドル)。
「ところが台湾経済部の公式統計では473億ドルで、米国の統計との齟齬が1327億ドルもある。これは第三国経由による投資、とくに米国現地法人を迂回した台湾企業の投資である」(高為邦・台湾投資中国被害者協会理事長)。
このうえ大陸との直行便ばかりか、台湾海峡にトンネルを繋ぐなどと言う「三通」を大々的に実現し、直行飛行機便、船便を解禁し、労働者の出入りも自由化すれば、台湾はいったいどうなってしまうのか。
現実のカネだけを目的として台湾が育成したハイテク産業までも大陸に工場移転を続けて、空洞化、国内失業をこのまま放置しておいて良いのか。
それらが総統選挙で問われる。
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(読者の声1) ようやく貴著『崩壊する中国 逃げ遅れる日本』(KKベストセラーズ)を拝読しました。
ともかく内容が豊富で、読み終えるまで時間がかかりましたが、胡錦濤の奪権闘争とその敗北、また軍人、なかでも宇宙ギャングの登用、資源戦争、環境悪化、台湾情勢などなど。いずれも興味深い内容ばかりで大いに啓発されました。
日本が今後、どう北京の横暴に対応していくのかが気がかりですが、現実は日本も台湾と同じで、もはや引き返すのが難しいほどに中国経済に深入りしてしまったことかもしれませんね。
北京五輪に向けてさらに警鐘を乱打することが肝要かと心得ます。
ますますのご活躍を祈念しつつ。
(SY生、千葉、ジャーナリスト)
(宮崎正弘のコメント)おりからの餃子問題で、拙著は大きな書店の目立つことに平積みされておりようやく三刷りとなりました。ご支援有り難う御座います。
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(読者の声2)貴誌2097号の「読者の声2」の拙文に貼り付けた情報ですが、あれは、「日々チナオチ」というブログから拾ったものを貼り付けたものですので、その旨の断り書きを明示していただければ幸いです。
(KY生、医学ジャーナリスト)
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(読者の声3)貴誌23日付け「読者の声1」の「ST生様」の指摘に衝撃と感銘をうけました。
「浅学非才の私の知る限り日本において古来荀子は重んじられてきていませんでした。にもかかわらず大日本帝国憲法には荀子臣道編から採った「輔弼」という日本では殆ど使われてこなかった表現が使われています。
私は他に「輔弼」という表現が使われた例を一度しかみていません。私は、明治憲法を創った人たちが敢えてこの表現を採ったところに重大な意味があると確信しています」。
小生、市井で昭和前期史を独習していますが、このST生様の指摘に、「衝撃」を受けました。この「輔弼」こそは、天皇を神聖無謬とする明治憲法の、ある意味では「根幹」ではないでしょうか。
そして、昭和軍閥が錦の御旗にした「統帥(権)」と、輔弼、(あるいは補翼)は、憲法上いかなるバランスにあったのか、明治憲法下にあった時期の日本国の本質をさぐれるキーワードではないでしょうか。
ST生様のご見解を拝聴したいです。
(KI生、尼崎市)
(宮崎正弘のコメント)論客STさん、続きを期待します。
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(お知らせ) 2月25日(月曜)
午後八時―九時半。「桜チャンネル 報道ワイド」に宮崎正弘が生出演します。
キャスターは大高未貴さん、コメンティターは井尻千男先生。
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((( 宮崎正弘の新刊 )))
『崩壊する中国 逃げ遅れる日本』 (KKベストセラーズ、1680円)
3刷は3月上旬に出来!
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((( 宮崎正弘のロングセラーズ )))
http://miyazaki.xii.jp/saisinkan/index.html
『中国は猛毒を撒きちらして自滅する』 (徳間書店、1680円)
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『2008年 世界大動乱』 (改訂最新版、1680円。並木書房)
『世界“新”資源戦争』 (阪急コミュニケーションズ刊、1680円)。
『中国から日本企業は撤退せよ!』 (阪急コミュニケーションズ刊)
『出身地でわかる中国人』 (PHP新書)
『三島由紀夫の現場』 (並木書房)
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宮崎正弘全著作一覧 (これまでの127冊の著作リストを閲覧できます)
http://miyazaki.xii.jp/tyosyo/index.html
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日本のお姉さんのひとりごと。↓
神奈川のST生は、以前、キリシタン宣教師たちのことを
ボロクソに書いていたから、むかつきました。
キリシタン宣教師でも、政治的な考え方をしていた人と
真面目にキリストの教えを教えていた人など、いろいろいるのに、
宣教師が奴隷売買を勧めたかのように書くんだもの。
秀吉が、「なんで、キリシタンは奴隷を売り買いするのだ。」と
当時、日本の宣教の責任者であった政治的な宣教師に
聞いたら、その宣教師は通訳を介して「買う人がいるから、
売る人がでるのです。買う人には、厳しい処罰を与えるように
してください。」と答えたところ、秀吉は次の日から
キリシタン禁止令を出したのです。
実際、九州の大名たちは、敵方の人間を奴隷として
外国人に売り飛ばしていたし、10人の奴隷と火薬ひと樽と
交換だったので、戦争に勝つためには火薬が欲しいし、
どんどん売ったのです。心ある宣教師は、本国に手紙を
書いて、商人たちに奴隷売買をされると宣教がやりにくいから
やめさせてくれと懇願しているのです。
今から思えば、日本の宣教の責任の責任者であった
コレヒヨ(コレリオ)宣教師は、日本に軍隊を送ってやっつけてくれと
何度も国に手紙を書いているし、マカオの宣教師たちは、
「明は、マカオを開放してくれているのだから、
軍隊を遣わして宣教を無理強いするのは、よくない。」と
猛反対しています。結局、コレヒヨ宣教師と通訳が
秀吉を怒らせたのだろうなと思います。
「買う人がいるから、
売る人がでるのです。買う人には、厳しい処罰を与えるように
してください。」と答えずに、
「では、奴隷売買をしないように、商人たちに厳しく言って
おきます。」とウソでもついておけばよかったのです。
でも、商人たちは、宣教師の気持ちとは別に商売を
するし、宣教師たちは、商人たちを束ねるような権限も
無かったから、そう答えたのでしょうが、
コレヒヨ宣教師が「全国統一に必要なら、九州の大名も
手伝います。」などと、言ったから、秀吉が怒ったのだと思う。
そのとき、高槻のキリシタン大名とその父親もいて、
「まずい!!」と思って、必死で通訳をやりますとコレヒヨに
言ったのに、コレヒヨは、最後まで自分の通訳を使って、
秀吉としゃべったそうです。
(高槻のキリシタン大名の資料を読んだ。)