襲われた食卓-毒ギョーザ事件(上)(中)(下) | 日本のお姉さん

襲われた食卓-毒ギョーザ事件(上)(中)(下)

【襲われた食卓 毒ギョーザ事件】(上)中国産アレルギーに拍車
産経新聞 2008年2月14日

 ■「食べただけなのに」

 いつも通りの平穏な食卓になるはずだった。

 千葉市稲毛区の主婦(37)は昨年12月28日夕、子供3人の遊び声を耳にしながら、夕食の準備に追われていた。

 メニューの一つは、小さな子供でも食べやすいサイズの冷凍食品「CO・OP手作り餃子(ぎょうざ)」。焼き上げたギョーザを、主婦が1つつまんで口に含むと、薬品のような刺激が口に広がった。変なにおいが鼻をつく。2つ目を食べるといつもの味。「気のせいかな…」。もう1つ食べると苦くて思わず吐き出した。

 主婦と、夕食が待ち遠しくてギョーザをかじってしまった二女(3)は、下痢や嘔吐(おうと)を訴え、病院に運ばれた。親子は、列島をパニックに陥れている有機リン系殺虫剤「メタミドホス」入りのギョーザを食べた初めての被害者だった。

 オウム真理教が地下鉄にばらまいた化学兵器のサリンや、襲撃の際に使ったVXも有機リン系の化合物だ。親子は、“毒ギョーザ”で命を脅かされた。

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 「小さく『中国産』と書かれているのを見て、ありゃりゃと思った」。主婦の母親は、娘と孫が苦しめられた「CO・OP~」を手にしたときのことを忘れることができない。

 兵庫県高砂市の家族3人は、1月5日に冷凍食品「中華deごちそう ひとくち餃子」を食べて被害にあっていた。

 2つの商品は、いずれも中国・河北省の天洋食品が製造した。

 日本の食卓には、もともと中国産食品へのアレルギーがあった。

 平成14年5~6月。中国産のホウレンソウや冷凍ホウレンソウから残留基準を超えた有機リン系殺虫剤「クロルピリホス」が検出されたことがきっかけだった。

 枝豆、カリフラワー、ニンニク、インゲン…。その後も冷凍食品などから残留濃度を超える殺虫剤の検出が頻発し、中国食品を敬遠する風潮は増した。

 そうしたなかで、天洋食品は、日本の農林水産省から、豚や牛のウイルス性の家畜病、口蹄(こうてい)疫対策が取られているとして“お墨付き”を与えられた中国国内に79カ所ある「優良工場」の一つだった。昨年の対日輸出実績は、3970トンにのぼる。

 牛丼や豚丼、酢豚の具、串かつ、ロールキャベツ、ソーセージ…。

 天洋食品製の商品はスーパーから一斉に消えた。厚生労働省が冷凍ギョーザ以外に同社製品の販売中止を要請したり、自主回収の動きが広がったためだが、商品のどれもが、私たちの食卓の主役となる“顔ぶれ”だ。

 メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)を気にしながらも、箸(はし)を伸ばすお父さんの姿が思い浮かぶ。

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 「状況証拠から見ると犯罪性がかなりある」(舛添要一厚生労働相)

 警察当局などの調べで、何者かが天洋食品の工場内で冷凍商品に故意に殺虫剤を混入したことが確実となり、重要閣僚からは踏み込んだ発言が相次ぐようになった。

 「科学的な証拠に基づいた解明」(泉信也国家公安委員長)など、日中当局の調査を、まだ待たなければならないが、福島、徳島両県では有機リン系殺虫剤「ジクロルボス」の混入も確認されるなど、事件が日本人の“中国産アレルギー”に拍車をかけたことは間違いない。政府があわてて食品安全担当の政府職員の中国常駐を決めたのもそのあらわれといえる。

 メタミドホスは昨年、中国で禁止されたものの、闇ではまだ流通しているとされる。五輪開催を控えた中国に人為的混入を許す危険性が残されている可能性さえ浮かびあがる。

 「普通の野菜も洗剤で洗うのが基本。2週間前に買ったネギや青菜が青々と新鮮な状態にあるのを見ると、相当量の防腐剤が入っていることが分かる。安心して食べることができる中国の食品は限られている。日本人は肝に銘ずるべきです」

 北京在住の日本人の会社員(29)はそう話す。北京では、事実関係が淡々と伝えられるだけで詳細は報じられていない。会社員は、インターネットで日本のニュースを探す毎日という。

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 中国製ギョーザ中毒事件は発覚から、2週間が過ぎた。昨年相次いだ産地偽装に続く「食の事件」に、消費者の怒りは頂点に達している。日本の食卓を襲った事件の影響を報告する。

襲われた食卓-毒ギョーザ事件】(中)「中国頼み」弁当、給食を直撃

2008.2.15 産経新聞

 「本当に困っちゃう」

 東京都板橋区のスーパーで練馬区のパート従業員、山田京子さん(46)=仮名=は冷凍食品を陳列棚に戻しながら、ため息をついた。パッケージには「生産国・中国」と書かれていた。

 会社員の夫と高2の長男(17)、中1の長女(13)の4人家族。夫と長男は毎日弁当。長女も給食のない土曜日と部活動がある日曜日は弁当を持っていく。

 普段の朝はこうだ。午前6時すぎに起床。4人分の朝食と2人分の弁当を作り、午前8時前に夫と子供を送り出した後、生活費の足しにするためパート勤務に出かける。忙しいから弁当のおかずはほとんど冷凍食品だ。

 「レンジでチンするだけだったのに、いまは手間がかかってしようがない」。事件発覚以降、山田家の弁当や食卓から冷凍食品が消えた。朝がより忙しくなった。

 金銭面でも余裕がなくなった。たとえば、冷凍ギョーザは12個入りで198円に対し、出来合いの総菜は同数で298円と割高に。「息子の進学でお金がかかる。娘は2年後に受験でしょ。そのために食費を切りつめてきたのに…。大変なのよ」

 手軽さと安さが受けて消費が伸びた冷凍食品だが、事件は主婦の時間や家庭の財布も直撃している。

 文部科学省によると、問題の天洋食品(中国河北省)製の冷凍食品を提供していた国公私立の幼・小・中・高校は34道府県で578校に上り、全国で同社製の使用停止が相次いだ。健康被害はないが、学校現場の混乱は続いている。

 冷凍食品に詳しい食品流通研究所によると、冷凍食品が給食に使われ始めたのは、昭和30年代前半。大量調理などが求められる給食には冷凍食品が適していた。田井扶裟夫所長は「日本人が食べる冷凍食品は給食から始まったと言っても過言ではない」という。

 中国産の食品が使われるようになったのは約15年前。「国産食品だけで給食がまかなえるような食糧自給率ではない。コスト面からも中国を外したら、学校給食は成り立たない」(田井所長)

 中国製の冷凍食品すべてを使わないことを決めた愛知県一宮市教委。献立の変更は2品だけと影響は少ないが、担当者は「今後も中国製の冷凍食品を使わないとなると、値段的なこともあり、大きな影響は出てくるだろう」と心配している。

 日本の食糧自給率は39%と先進国では低く、不足分を海外からの輸入に頼っている。

 財務省の統計によると、金額ベースで輸入割合がもっとも多いのは米国で27.33%。次いで中国の15.29%。野菜に限ると、中国が51.80%と圧倒的シェアを誇っており、日本の台所が「中国頼み」なことは否定できない。

 冷凍食品の輸入高は伸び続けてきた。日本冷凍食品協会の調べでは、平成9年の8万5205トンが18年には3.7倍の31万5436トンに。18年の輸入高のうち中国製は63.60%に上り、中国への依存は顕著だ。

 今回の事件で、冷凍食品を含め中国産の買い控えが進んだ。

 大手スーパー、ダイエーでは冷凍食品の売り上げが3割減となった。一方、ギョーザの皮は6割増、国産の挽肉は5割増、国産のニンニクは8割増と反比例の伸びを示しており、冷凍から国産・手作りに回帰している。

 食の問題だけに、消費者はどうしても神経質にならざるをえない。今後、どう対応すればよいのか。

 「今までの消費者はあまりに簡便で安い食品に飛びついてきた。袋の表示ですべてが分かるわけではないが、そもそも『なぜこんなに安いのか』との疑問を持ち、品質をある程度識別できる能力を磨く必要がある。事件を教訓に、なるべく家で作るということも考えるべきだ」

 食生活などの調査研究をしている「食品科学広報センター」の正木英子代表はそう教えてくれた。

襲われた食卓-毒ギョーザ事件】(下)高まる内部犯行説 解明へ情報開示の壁

産経新聞 2008年2月16日

15日、報道陣に公開した工場で持ち物を取り上げ専用服を着用の上での消毒作業。「生産管理は厳格で品質は保証する」と、早期に生産回復したい姿勢を日本にアピールするのが狙いだ15日、報道陣に公開した工場で持ち物を取り上げ専用服を着用の上での消毒作業。「生産管理は厳格で品質は保証する」と、早期に生産回復したい姿勢を日本にアピールするのが狙いだ

 「工場の内部犯行」。日本の警察当局は、列島の食卓を襲った毒ギョーザ事件の構図をこう描く。密封状態の袋の内側からも有機リン系殺虫剤が検出されたためだ。

 実行犯や「なぜ混入?」の動機は、中国側の捜査結果を待たなければならないが、中国通ジャーナリストの間では、冷凍ギョーザ製造元の天洋食品の待遇に不満を持った工場従業員の犯行説が有力視されている。

 今年1月の中国の法改正が背景にあるとされる。勤続10年の従業員は再契約せずに長く勤務できることになり、中国全土で昨年、使用者側による「駆け込みリストラ」が頻発したという。

 「上海では2000人解雇という例もあったはず。5、6件は従業員が雇用主を殺傷する事件が起きている」。ジャーナリストの富坂聡氏は、急成長を続ける大国が抱えている先鋭化した労使問題の実態を明かす。

 天洋食品の中国人工場長は15日の会見で「ここ数年は労働争議は何ら発生していない」と語ったが、複数の中国通ジャーナリストの話では、同社工場では、昨春に40~50代の従業員十数人が、昨年末にも四十数人が解雇された。その間も労使対立はくすぶってきた。高濃度のメタミドホスやジクロルボスが検出された商品の製造日は昨年6月と10月で、時期は合う。

 中国人ジャーナリストの陳恵運氏は「不当解雇で裁判を起こしている従業員もいる」と明言した

15日、報道陣に公開した工場で持ち物を取り上げ専用服を着用の上での消毒作業。「生産管理は厳格で品質は保証する」と、早期に生産回復したい姿勢を日本にアピールするのが狙いだ15日、報道陣に公開した工場で持ち物を取り上げ専用服を着用の上での消毒作業。「生産管理は厳格で品質は保証する」と、早期に生産回復したい姿勢を日本にアピールするのが狙いだ

 野菜の加工工場での針金混入、缶詰に手袋を入れる…。食品事情に詳しいジャーナリストの西法太郎氏によると、中国では、待遇への不満から従業員が異物を混入する事件は過去にもあった

 毒ギョーザの製造日6月3日、10月1日、同月20日や、微量ながら26袋からメタミドホスが検出された商品の製造日9月8日は、いずれも稼働人員が少ない中国の祝日や週末の休日だった。こうしたことも「内部犯行説」を後押しする“状況証拠”になっている。

 ただ、中毒被害が出た商品輸入元の親会社JTによると、工場では4人1組で具をギョーザに包む、5人で検品、3人が袋詰め、2人が熱で袋閉じ…と、常に複数で作業している。監視する人も通常4人いる。

 「工程上、単独行動は難しく、厳しいチエックが働いている」(JT)というが、捜査幹部は「完璧(かんぺき)なシステムなどあり得ない。どこかに混入できる抜け道があったはずだ」と指摘する。

 「推測に過ぎない」。中国国家品質監督検査検疫総局の魏伝忠副総局長は、日本の警察当局の見方を一蹴する。「生産から輸出までの課程で人為的な破壊行為があった可能性は低い」と、故意の可能性まで否定してみせた。

 ただ、こうした発言の1週間ほど前、魏氏は「中日関係の発展を望まない少数の分子が過激な手段に出たのかもしれない」と、中国当局者で初めて故意の犯行との見方を示していた。

 「なぜ真逆に転じたのか」「どれほど正確な情報が出るのか」。日本の政府関係者からは気をもむ声が出始めている。

15日、報道陣に公開した工場で持ち物を取り上げ専用服を着用の上での消毒作業。「生産管理は厳格で品質は保証する」と、早期に生産回復したい姿勢を日本にアピールするのが狙いだ
 中国には情報開示での“前科”がある。

 平成15年に新型肺炎(SARS)が猛威をふるった際、正確な患者数を隠していた。全国人民代表大会で胡錦濤国家副主席(当時)が国家主席に選出される一大イベントを控えていたのが、背景にあったとされる。

 「今回は8月に国家の威信をかけた北京五輪を控えている」。政府関係者は5年前と状況は変わらないとみる。

 中国側は、日中両国警察の共同調査を提案しているが、永田町や霞が関に独自の情報網を持つことで知られる独立総合研究所の青山繁晴氏は「中国のまともな情報は期待できない」とした上で、「関係悪化を気にしてか日本政府も具体的な要求を中国にしていないのではないか」と話す。

 事件は、五輪を半年後に控えても、国際社会が懸念してきた「食への不安」が、中国には残されている可能性があることを改めて示唆。日本には「食の海外依存」のもろさを突きつけた。

 全容解明は、襲われた食卓に、安全を取り戻す一歩となる。日本政府の毅然(きぜん)とした対応が求められている。
『台湾の声』 
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