「コストとリスク」ふるまいよしこ :北京在住・フリーランスライター
無料メルマガJMM [Japan Mail Media] のふるまいよしこさんの
記事です。工場の態度に不満を持ったチュウゴク人のしわざと
安易に考えるのはおかしいとのことです。
明確に日本人を狙った毒物テロでしょう。工場はきれいだから
事故で毒物が入り込むわけはない。チュウゴク政府は、
チュウゴク人のテロ行為だとは言わないで、うやむやにするし、
日本政府もうやむやにするでしょう。だから、餃子は自分で作れ
ばいいのです。一度に大量に作って小分けして冷凍しておけば
いい。チュウゴク政府が安全だと認めたきれいな工場でも、
いくらでも、テロを仕掛けるチュウゴク人(たち?)が入り込めると
いうことが分かったということです。
農薬が入った日の従業員のリストも、監視カメラが撮ったビデオも
チュウゴク政府が隠してしまって日本政府に見せないし、これで
テロに決まりだね!こそこそ隠しているからよけい怪しい。
by日本のお姉さん
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『大陸の風-現地メディアに見る中国社会』 第117回
「コストとリスク」
□ ふるまいよしこ :北京在住・フリーランスライター
■ 『大陸の風-現地メディアに見る中国社会』 第117回
「コストとリスク」
2月7日に旧暦正月が明けてから数えて7日目の2月13日は
「人日」だった。これは中国の神話で、女カ(漢字は「女」へんに
「咼」)が正月最初の日からそれぞれ鶏、犬、羊、ブタ、牛、馬を
創造した後、7日目に人間を創ったといわれることから、漢民族は
この日を「人類の生まれた日」、すべての人々にとっての誕生日
とみなす。香港など南方の地域ではこの日、「伊麺」と呼ばれる
麺を食べて「なが~い寿命」を祈る習慣が残っている。
とはいえ、中国、特に北方ではそのような習慣はほとんど見た
ことがない。「人日」という言葉が語られるのを聞いた記憶もない。
同じ漢民族、中華文明を受け継ぐ土地ではあるものの、北と南は
かつては想像もつかないほど遠い場所であり、神話の出典は
同じでも風俗習慣はかなり違う。さらに、中国大陸ではもともと
共産党政府による革命の嵐が吹き荒れたこともあって、古典や
神話、伝統的な習慣は農村における一部土着文化を除いて、
大陸から逃げ出した人々ともに台湾や香港に流れ込み、また
海外で暮らす華僑たちの間で大事に受け継がれてきた。
同じように、祝い事に際して餃子を食べるという習慣も南方では
ほとんど見られない。餃子の皮は小麦粉を使うことから分かる
ように、日ごろから小麦を多く産出し、麺や「マントウ」と呼ばれる
蒸しパンを主食とする北方における食習慣である。南方では
「ガオ」と呼ばれる、南方産の米の粉を使った食べ物が正月の
食卓を彩る。ところ変われば当然農産物も違い、そして食卓に
上がる味わいも違う。そんな違いこそが農業の醍醐味ともいえる。
日本で大騒ぎになっている中国製冷凍餃子事件、そしてそこ
から派生した中国製食品不信について、このレポートでも触れ
ないわけにはいかないだろう。中国では旧正月を迎えていつもに
まして大量の餃子が消費されたはずの時期に、日本では中国
製餃子に対する不信感がうずまいているとは、偶然ながら
あまりにも皮肉な話である。たぶん、調査が続けられている、
冷凍餃子の生産工場関係者の多くもその進展に不安な思いを
抱えながらも習慣にしたがって餃子を口にしたはずだ。
調査の内容については、現場に足を踏み入れるべくもない
わたしが語れることはここにはない。わたしも読者の方々と同じ
ように毎日メディアの報道を、あるいは皆さんより多少は多めの
報道を、多少早めに目にしながら、事件の全貌が解明されるのを
待っている立場だからだ。なによりも増して注目されている事件
だから、日本のメディアもちょっとでもどこかに流れた情報を
敏感に拾っている。
この冷凍餃子事件のニュースを、わたしはちょうど、ここ1年
ほど続けてきた連載のために同じ河北省にある農村企業の
経営者インタビューを終えて戻ってきてから知った。中国との
付き合いは20年以上になるが、正直な話、わたしは農業、農村、
農民との「お付き合い」はほぼ皆無と言ってよいほどであり、
そのインタビューの下調べ、資料読み、さらにはインタビューの
場で語られた言葉など一つ一つからわたしが知らなかった中国の
「農」の現場の苦労を知ったばかりだったので、事件の報道を
読みながらいろいろ考えさせられた。
当初、千葉と兵庫で事件が明らかになってからすぐに
「やっぱり事件の根源は中国にある」というイメージが強まった頃、
わたしの頭の中にもぼんやりと、たぶん中国国内の都市住民たち
でもほとんどが思い描くであろう、「薄暗く、汚れた工場」の様子が
浮かんだ。こう言っちゃ何だが、中国の農村における衛生状態は、
日本の生活に慣れた人間にとって想像もつかないレベルの場合
もある。しかし、今回わたしが訪れた企業はクリーンで、そんな
農村のイメージを払拭するに十分だったが、それでも過去目に
したことのある農村や農家の様子から出来上がった、いつもの
「汚れたイメージ」を事件の現場に思い描いていた。
しかし、答はシロ。少なくとも、日本側の調査においても、生産工
場の衛生状態は満足いくものであったと伝えられている。生産
現場は「グループ作業制で、一個人が勝手な行為を行える環境
にはない」ということも証明された。その一方で、わたしが想像
したような「汚れたイメージ」を期待していたのであろうか、
メディアの一部が工場の敷地外に「同種製品の包装が散らかっ
ている」様子を直接、「管理がずさん」という言葉で結論付けて
いたが、逆にいえば、工場外に目をやらなければ日本メディアで
すら「管理がずさん」と形容できる光景を見つけられなかった
ともいえる。
もちろん、食品の包装用材が工場周囲に散らかっていると
いうのは、それを日本に置き換えれば「ずさん」だろう。ただ、
理解してほしいのはここが中国である、ということだ。日本企業
がコスト安につられてこの国に進出するのはなぜなのか。なぜ、
この国がコスト安で材料調達、作業運営を受け入れられるのか。
それは少なくとも、ここが「日本ではない」からだ。中国に慣れた
記者なら、生産工場が低レベルのそれだったのか、それとも上記
のような満足度を満たすものであったかは判断できたはずである。
現場で寒風の中待たされ、紙面を埋めるプレッシャーにさらされ
ているからといって、現場事情を知らない読者に対して責任を
負うメディアがあっさりと使ってよい言葉とは思えない。
「これまでの中日間における波のように、中日の民間には冷静で
理性的な者もいれば、激昂した声を上げる者もいる。日本の一部
市民の怒りと恐慌は理解できないことではない、彼らは被害者な
のだから。これを単純に『嫌中』と取ってはならない。これは人の
命にかかわることであり、どこのの食品でも日本で安全性の
問題が起これば、彼らは同じような態度で臨むだろう。立場が
換わって、もし日本の食品が中国で同様の問題を起こしたならば、
われわれだって同じように怒りと恐慌を覚えるのは想像できること
である」(「林海東:毒餃子事件の悪い知らせ」星島環球ネット・2月
9日)
事態は日中の調査チームとメディアにおいて、だんだん根競べ
に近い状態になってきたようだ。イラついた方が負け。
過去の経験からそれを双方が分かっているだけに、両国の
関係者は冷静に事実を追い続ける態度に徹しているようだ。
このレポートを書いているこの瞬間、あるいは配信される直前にも
解決の糸口が見つかるかもしれないが、「誰かの故意による行為」
という、両者の当初の予想を裏切る事態へと進展しているために、
慎重にならざるを得ないのは当然かもしれない。
ただ、「故意による行為」という点で、日本のメディアの多くが
「同工場では昨年末に解雇を発端にした争議もあった」という情報を
流し続けているところに、わたしはどうも引っかかるものを感じている。
というのも、先にあげた農村企業経営者との会話の中で、「信頼性
の欠如」という話が出たからである。簡単に言うと、中国の農業
政策のさまざまな制約のために、農村には一般に「信用」に対する
意識が育っておらず、それが「売れればいい」という態度となり、
過去の農薬残留事件につながったという話だった。つまり、売買の
両者が習慣的に「信用」を重視することのない環境にあって、今回の
事件が工場側への恨みから発生したと仮定しても、「製品の信用を
落とすことで工場経営者を苦境におとしめる」という、回りくどい
手段を犯人が取るだろうか。さらには、「一個人が勝手な行為を
とれる状況ではない」という条件下において、である。
もちろん、「中国人には一人として信用を重視する人はいない」と
いう意味ではないから、そういった長い視点を持って工場を困らせ
てやろうという考えを持った人物が河北省にいるかもしれないこと
は否定できない。ただ、そこまで回りくどい方法を考え付いて
まで工場への恨みを晴らそうという人物ならば、その恨みの
原因はこの「昨年末の労働争議」だけが理由ではないのではない
だろうかと思うのだ。
というのも、日本のメディアで詳しくその「労働争議」について
書いている記事を目にしたことがないので、たぶん日本の読者は
知らないだろうが、この労働争議とは、実は今年1月1日に発効した
『労働合同法』(「合同」は契約の意味)のあおりを受けたもので、
全国各地で起こっていたものだからだ。
この『労働合同法』では、企業が労働者との間で契約を結ぶ
ことを義務付けており、その契約によって企業に労働者一人
ひとりのための社会保険負担金支払いを強制化し、さらに
雇用契約終了30日前までの書面通知および補償金の支払いを
命じる、労働者寄りの法律となっている。
もちろん、企業側の勝手な理由による解雇はできない。さらに
同一企業での勤務期間が10年を超えた者には「無期限労働契約」
を結ぶ権利を与えるとしており、これが企業にとって「終身雇用
強制化」になるのではないかと危惧されている。そのために、
昨年末に全国各地で勤務期間が10年に手が届く熟練労働者を
解雇するという方法を取る企業が続出した。
もちろん、その行為は社会的な責任を潜り抜けようとする姑息な
手段であり、そういう点では許されるものではない(そしてここにも、
農村のみならず、「信用」を重視する態度が欠落しているのが
分かる)。しかし、この『労働合同法』の発効によって百万単位の
支出を迫られることになる企業も多く、先行きに不安を感じて
「策を講じた」という現実も伝えられている。
特にこれまで中国が得意としてきた労働過密型の企業にとって、
その影響はかなり大きなもので、。実際に中国に進出している香
港、台湾、韓国などの企業の間では「中国投資のうまみはなく
なった」という声も聞かれる。
ただ、企業側でも働き手、さらには熟練労働者は必要であり、
完全にクビを切るのではなく、再雇用して勤務期間をゼロへと
リセットという方法を取ったところも多い。そんななかでもし冷凍
餃子事件がこの『労働合同法』をきっかけにした解雇が原因な
らば、ますますその手の込んだ復讐の方法を取るだろうかと
いう疑問が高まるのだ。もし、ほかのトラブルが原因ならば、
工場周辺の調査の過程でそれが絞られてくるはずだ。
『労働合同法』が発端となれば、立法者である中国政府の面目丸
つぶれとなるわけで話はややこしくなるかもしれないが、そうでな
ければ、春の胡錦濤主席の訪日を控えて解明努力が図られるだろう。
それにしても、日本では事件の影響で手作りが見直され、餃子
の皮が売れているという。飽食日本においてこれまでの騒ぎに
なっても「餃子は自粛」とならないほど愛され、欲されるという事実
も驚きだ。日本で食される餃子は上海風の焼き餃子が伝わった
ものだといわれるが、一説によると中国東北地方でも焼いて
食べるそうだ。北京などでは「水餃子」と呼ばれ、厚い皮のまま
ぼとんぼとんとお湯に入れて煮たものが食される。
残った「水餃子」を改めて日本のように焼いて食べると、水分
をたっぷりと吸った皮の歯ごたえがなんとも言えずよい。
そういえば、とふと思った。昨年夏、「日本の食料自給率が
40%を切った」と、かなり話題になったことを覚えておられる
だろうか。確かに農業の先細りは長年語られてきたことであり、
パーセンテージとしてボトムラインを切ったことで多くの人たちが
その現状を憂いていたが、スーパーにもコンビニにも食べ物は
ずらりと並び、外食だって容易に出来る飽食日本で「食が危ない」
と言われてもな、というのがその時の実感だった。
あの時に提案された「農業、農村の振興策」はその後、どうなった
のだろうか。
いつの間にか、日本の生活には加工食品、冷凍食品がどっと
増えた。気がついたら、間に合わせじゃなくて、普通に家族
そろっての食卓にそれらが並ぶようになってしまっている。
毎日毎日、新鮮な材料だけ買って調理している人はどれだけ
いるのだろう。もしかしたら、日本で農業への関心が薄まった
のは、そんな「出来合い」のものに人々が慣れきってしまった
からかもしれない。もし、これを機会にこれまで冷凍や加工済み
食品に頼ってきた生活を手作りに切り替えれば、またその材
料をそこへ届ける農業への関心ももっと身近なものになって
いくのではないだろうか。
ふるまいよしこ
フリーランスライター。北九州大学外国語学部中国学科卒。1987年から香港在住。
近年は香港と北京を往復しつつ、文化、芸術、庶民生活などの角度から浮かび上がる
中国社会の側面をリポートしている。著書に『香港玉手箱』(石風社)。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4883440397/jmm05-22
個人サイト:<http://wanzee.seesaa.net
>
JMM [Japan Mail Media] No.466 Thursday Edition
【発行】 有限会社 村上龍事務所
【編集】 村上龍
【発行部数】128,653部