しかし、客観的な証拠からは中国での犯行の可能性は、むしろ高い。
ギョーザ捜査 結論めいた話は尚早だ
2008年2月15日東京新聞
中国政府高官がギョーザ事件について、中国での農薬混入の可能性を、ほぼ否定した。しかし、客観的な証拠からは中国での犯行の可能性は、むしろ高い。結論めいた話ができる段階ではない。
国家品質監督検査検疫総局の魏伝忠副局長は十三日の記者会見で、「生産から輸出までの過程で人為的に(農薬が)混入された可能性は、ほとんどない」と、中国での農薬混入を、ほぼ否定する見解を示した。
魏副局長は製造元がある「河北省の公安当局による現在までの捜査では手掛かりは発見されていない」と述べた。公安当局は待遇への不満からの従業員による犯行との見方を強めているという日本の報道についても「推測にすぎない」と否定した。
六日の日本調査団との会見で魏副局長は中国で混入の可能性について「大変小さい」と表現していたが、この日は「ほとんどない」と語り、否定の語気を強めたことになる。
しかし、日本の警察当局は中毒を起こしたギョーザが同一工場で製造され、混入された農薬や溶剤が日本で流通していないうえ、密閉された袋の内側からも検出されたため、中国で混入されたとみている。
魏副局長は袋の内側から検出された農薬について「開封したものを再び密閉することは可能」としているが、完全密封された袋を元通りにするには、特殊な機材が必要だ。
魏副局長は事件について、六日には「中日友好の発展を望まない少数分子が極端な手段に出たのかもしれない」と述べた。その真意をめぐって日本では、中国が犯人を特定しそれを示唆したのではないかという観測も出た。しかし、十三日の発言を聞くと、日本での混入の可能性をほのめかしたのではと疑いたくなる。
魏副局長も認めるように、捜査が終了するまでは、あらゆる可能性がある。四月に予定の胡錦濤国家主席の訪日や八月の北京五輪を前に、中国の社会や食品の安全性を強調したい気持ちはわかるが、中国に問題はないと主張するのは早過ぎる。
魏副局長が提案した日中の共同捜査体制づくりには大賛成だ。昨年末署名した日中刑事共助条約は立法府の批准が間に合わず未発効だ。捜査協力は外交当局を通さなければならず、外交的配慮で協力が形式的に終わる恐れもある。
捜査当局間で情報はもちろん、証拠や被疑者につながる手掛かりも共有し、捜査を加速してほしい。事件の真相解明が、消費者の中国食品に対する信頼回復と、十年ぶりの中国国家元首の来日を、わだかまりなく歓迎することに欠かせない。