日本国の研究(不安との訣別/再生のカルテ) 編集長 猪瀬直樹
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日本国の研究(不安との訣別/再生のカルテ) 編集長 猪瀬直樹
論説】
「もうひとつの防衛装備調達の問題点」(清谷信一)
防衛装備の調達の議論になると、評論家など「専門家」から決まって
出てく る「俗説」がある。
「輸入兵器は原産国の調達価格の2~3倍になる。
ゆえに(概ね他国より3倍 以上高い)国産品よりも高くなる。
しかも生産国よりも性能を落とした『モン キーモデル』を掴まされる。
ゆえに国産品を採用したほうが得である」
「装備品が高いのは輸出ができないからだ。
輸出ができるようになれば量産効 果によって値段はたちまち下がる」
などといったものである。特に威勢のいいことを言っている人に多い。
一見 もっともらしいが、90年代以来世界の兵器産業の最前線を
取材してきた経験か ら言わせて貰えばこれらの主張は的はずれだ。
このような「俗説」があたかも 真実であるかのように総合誌などでも
語られている。それを前提に防衛装備の 調達改善を考えるならば
方向を見誤る。
前回このメールマガジンで述べたが、そもそも国産、輸入を問わず、
我が国 の防衛装備調達コストが高いのは、他国で当然のように
行われている「まとめ 買い」をしてこなかったからだ。
すなわち調達に先立って必要な装備の数、調 達期間、予算を決定し、
その上でメーカーと契約することをせず、毎年度ごと に契約する。
当然メーカーは長期的なプランが立てられない。
つまりいくら儲けが出て、いくらコストがかかるかわからない。
商社にして も1回で済む輸入を何回にも分けて行えば経費だけ
でも何倍もかかるし、その プロジェクトが終わるまで人員を貼り
付ける必要がある。これまたコストは当 然高くなる。
これこそ防衛装備が高い主たる原因である。
他国同様「まとめ買い」をすれば当然ながら調達コストは劇的に
下がるのだ。
昨年度及び本年度の防衛省の予算でごく一部で「まとめ買い」なされ、
100 億円単位で調達コストが削減されている。
これを大々的に行えば千億円単位で 調達コストの削減が可能だ。
筆者は調達費の3割、4割程度の削減はさほど難 しいことでは
ないと考える。他国も大抵単年度予算である。我が国だけが単年
度予算であるから装備調達に先だって契約ができないというのは
理解できない し、納税者やメディア、野党はこのことをもっと追及
すべきだ。
■外国製兵器は本当に高いのか
外国製兵器が必ず原産国の2~3倍高くなるというのは嘘である。
そのよう な実態はない。
例えばドイツのレオパルド2戦車は世界的なベストセラーとなっているが、
その最新型で3.5世代あるレオパルドA5のドイツ連邦軍の調
達コストは一輛約10億円である。
対してスペイン、ギリシャ、カナダが採用し ているさらに新型のA6の
調達コストは約11~12億円程度である。「原産国の 2~3倍」ならば
これらの国々の調達コストは1輛あたり20~30億円以上にな
るはずだ。
このような例はいくらでも挙げることができる。日本が輸入する
兵器が高い 原因は、先に述べたように「まとめ買いをしない」ことが
その大きな要因なの だ。
どこの国でも、我が国のように製造直売で買うところを小売店で買うよう
な調達をすれば、コストがバカ高くなるのは当たり前だ。
兵器の開発国はその製品を高く売りたがる。これは当然である。
それが納税 者の負担によってその開発費が賄われている場合は、
その開発費などの負担の 一部を買い手に求めることもある。
確かに圧倒的な高性能で、他に競合する相手がない高度な兵器や
代用が効か ない兵器など、売り手が強気に出ることのできる場合、
あるいは相手に高性能 の兵器を売りたくない場合は、
「モンキーモデル」と呼ばれるスペックダウン したものを販売すること
も事実である。
ロシアにとって中国は「お得意様」ではあるが、同時に「仮想敵国」
である。
ゆえに戦闘機などを売却する際にはこれまたスペックダウンしたもの
を販売し ている。中国は他に供給者がいないからロシアから
戦闘機を買うのだ。
また貧乏で予算がない、あるいは高度なシステムを自国で整備でき
ないよう な途上国は、自ら望んでグレードを落とした廉価版を販売
するケースもある。
ところがソ連崩壊後、世界の兵器市場は統合された。
しかも主要国が軍備を 削減させたために市場のパイが収縮して
激しい競争が起こった。その上トルコ、 ブラジル、シンガポール、
韓国など中進国が実力を付けて市場に参入してきた
から、なおさら競争は激化している。例えばある国が戦車を購入する
場合、米、 英、仏、独、露、ウクライナ、ポーランドなど多数の
メーカーが手を挙げる。
そこでコンペ(競争入札)が行われ、実際に戦車を走らせたり、射撃
を行っ たりして性能の優劣を競わせる。当然値段も競合だ。
ゆえに、性能を落とした 「モンキーモデル」を提示すればバレるし
契約をとれない。ゆえに自国でも採 用していない最新型を輸出用に
投入する場合も少なくない。またメーカーとし ては儲けがでなくても
工場や従業員の雇用を維持するために赤字で受注するこ ともある。
これが現状だ。
「冷戦時代」(筆者は共産中国が存在している現在も冷戦は継続して
いると考 えているので、「冷戦の終結」は正しい認識でないと考える。
ゆえにここでは 冷戦は括弧付きとしている)は各国とも門外不出で
あったFSC(火器管制装 置)やエンジンなど戦車の心臓部なども
現在は市場で入手が可能である。
例えばロシアがインドに輸出したT―90戦車の暗視装置は
フランス製、M1 戦車のレーザー測距儀はドイツ製、チェコの
Cz72の火器管制装置はイタリア 製、中国の98式戦車の
エンジンはドイツ製、韓国のK2のエンジンと主砲はド イツ製、
積極防御システムはロシア製などといった具合だ。
軍需産業界もグロ ーバリゼーションの波に洗われている。
売り手の立場は弱くなった。
つまり現在の世界の兵器市場は「売り手市場」から「買い手市場」に
移行し ている。確かにかつてのソ連が存在していた「冷戦時代」、
世界は二つの陣営 に分かれ、兵器の調達先と方法は極めて限定
されていた。そのため売り惜しみ や値段のつり上げが横行していた。
先の俗説は当時の「常識」であり、現在で は通用しないのだ。
我が国のように初めから採用する機種を決めて形式的にコンペを
行い、値段 交渉もしないというのであれば、値段は当然高くなる。
これまた我が国で輸入装備が高い原因の一つである。
■国産兵器は外国で売れるか
では我が国が兵器を輸出した場合はどうだろう。兵器も工業製品
であり、輸 出によって量産が可能となれば調達コストは下がる。
例えば国内向けには30 0輛しかつくらない戦車が輸出で1000輛も
売れれば1輛あたりの単価は大幅に 下がる。
輸出国に開発費の一部も負担させれば、なおさら我が国の納税者の負
担は軽くなる。世界に冠たる我が国の工業力を持ってすればたちまち
世界の兵 器市場を席巻する……。
「俗説」信仰派はこのようなバラ色の情景を思い描く。確かに理屈では
そうな る。しかし理屈通りに行かないのがこの世の常である。
現実は厳しい。市場で の競争に揉まれたこともなく、実戦で使用され
たこともない、しかも割高な国 産兵器が「メイド・イン・ジャパン」と
いうだけで飛ぶように売れるとは考え られない。
90式戦車の値段は1輛約9億円である。これをレオパルド2A6と
比べると 一見確かに安い。だが90式戦車は第3世代であり、
すでに「旧式」に属する戦 車である。第3世代の戦車にネットワーク
機能を持たせた3.5世代の戦車で あるレオパルド2A6などと同列に
比較はできない。一般に第3世代の戦車を 3.5世代にアップグレード
すると価格は2~3倍になる。ちなみにレオパル ド2でもM1戦車でも
第3世代のものであれば価格は90式の2~3分の1程度 である
(ところが「識者」の中には知ってか知らずかこれらを同列に比較する
人がいる)。
自衛隊向けの90式戦車を3.5世代にアップグレードするならば
単価は18~ 27億円程度になる。「輸入品は2~3倍が当たり前」と
いう「俗説」正しいが ならば我が国が輸出する際にも当然その法則が
成り立つはずだ。となると輸出 価格は36~81億円にもなる。
さらに「外国同様に開発費を上乗せ」するならば、
輸出価格は40~90億円ぐらいになるだろう。競合他社の3~8倍だ。
一体誰が 買うのだろう。
かつてのソ連は社会主義だったが、国内では戦闘機ならばスホーイ
設計局と ミグ設計局で競合があり、また輸出もしていた。
国内で競争がない我が国の防 衛産業はかつてのソ連よりも遙かに
「社会主義的」でコスト意識が低い。その 意識改革を行い、
「民間企業並」にコストを削減するためには尋常ならざる経 営努力が
必要である。
少なくとも現在のように20年以上もかけて「工芸品」をつくるように
ダラダ ラと調達しているようではコスト的に輸出は不可能である。
調達数と総額を決 定して、量産効果が得られる生産期間を設定する、
即ち「まとめ買い」に調達 を変更しない限り輸出など夢の又夢である。
さらに輸出には国内用と別のコストがかかる。まず営業や保守のため
の海外 拠点が必要であり、相応の先行投資が必要となる。
また専門誌に広告を打った り、見本市などへの出展にもこれまた
費用がかかる。特に航空ショーで実物を 持ち込み、デモフライトを行う
ならばそれだけで億単位のカネが必要だ。
恐ら く輸出が軌道にのり、黒字化するには順調にいっても10年単位
の時間がかかる だろう。
そのような覚悟と資金力が日本の防衛産業にあるのだろうか。
しかも輸出を前提に量産するならば工場を拡大しなければならない。
これま た初期投資が必要である。しかも一旦拡大した生産設備は
おいそれとは縮小で きない。
例えば90式戦車が500輛輸出できたとしよう。ところが、次の新型
戦車はまったく売れなかったとなると、生産設備や従業員は過剰
となる。工場 の維持費(人件費含む)を負担せざるを得ない。
となると国内調達のコストは 下がるどころか、上がる可能性すら
あるのだ。
ちなみに戦車の輸出では実績のある英国は官民挙げて
チャレンジャー2輸出 の努力をしてきたが、輸出に成功していない。
イタリアも同じだ。輸出の努力 の分だけ持ち出した。
また国内開発至上主義を唱える人間は「外国製兵器は国情に
合わない。ゆえ に我が国の兵器は国情にあった特殊ものが必要
である」と国産を正当化する。
ならばその「特殊な国情」に合わせた兵器が海外で売れるのだろうか?
こう いう問題もある。
造船、製鉄、機械、エレクトロニクス、ハイテク素材など我が国の
工業の国 際競争力は極めて高い。これは各企業が国内はもとより
海外で熾烈な競争を通 じて技術力や品質の向上など不断の努力を
してきたからである。競争を経験し ていない国営企業的な我が国の
防衛産業を同列に論じるのは論としてあまりに 粗雑だ。
それに同じ工業でも製薬や食品、携帯電話などの分野では日本の
国際 的競争力はさほど高くない。
日本の工業がすべて強いわけではない。
別な例を挙げよう。日本の携帯電話の技術は非常に高度で洗練
されている。
技術的には世界でもっとも進んでいる。そもそも通信、精密加工、
小型化は日 本の製造業の十八番だ。ところがその携帯電話で
日本メーカーの世界シェアは 僅か2パーセント程度だ。
これは技術は優秀でもマーケティングが稚拙であれ ば如何に
「メイド・イン・ジャパン」でも売れないという事実を示している。
「日本人が優秀だから日本製品は世界で売れる」というのは盲信に
過ぎない。
「日本人が優秀だから」という理屈が通るなら社会保険庁や
道路公団のデタラ メは説明できない。
日本の防衛産業は同じような分野、例えば航空機、電子、小火器
などで複数 の企業が共存し、これらの企業間に競争はない。
このため欧米の同業者に比べ て規模が極めて小さい。
規模が小さいということは研究開発や設備投資、営業 費用が確保
できないことを意味する。それで巨大な欧米の競争相手に伍してい
けると考えるのであればそれは妄想である。
盲目的な愛国心はものを見る目を 歪める。前の戦争のときもそれで
痛い思いをしたはずだが、その教訓を学んで いない。
■兵器は政治的な商品である
兵器の輸出は外交と密接に結びついている。性能だけではなく政治
的な理由 から兵器が調達される場合も少なくない。どこの国でも兵器
の輸出には政府が 陰になり日向になり、密接に関わっている。
その国の政治力、外交力が兵器の 売り込みを左右すると言っても過言
ではない。兵器は単なる工業製品ではなく
政治的な商品である。商品が良ければ売れるとは限らない。
翻って我が国の外務省や経産省がそこまで積極的にセールスを
支援するだろ うか。輸出に本腰を入れるのであれば「武器輸出
三原則等」の緩和だけに留ま らず、政府の外交政策、安全保障
政策を大転換しなければならない。これまで 我が国は武器を輸出
しないクリーンなイメージをつくってきた。これは我が国 の外交の大
きなアセットであろう。それを捨ててまで兵器輸出で得られる利益
が大きいだろうか。
兵器の輸出は地域紛争を助長したり、そのとばっちりが自分たちに
降りかか ってくることもある。例えばイスラエルは中国に兵器や
システムを多数輸出し ているが、その技術はパキスタンやイランに
渡り自分たちに向けられている。
昨年のイスラエル軍のレバノン侵攻に際してヒズボラは多数の
中国製兵器や中 国が技術を輸出しているイラン製兵器を使用して
いたことが明らかになってい る。
このようなブーメラン効果で先進国があちこちで痛い目に遭っている。
また地域が不安定になれば貿易によって生計を立てている我が国
にとっては 大きなマイナイスとなる。
このような兵器輸出の負の部分、或いはそのコスト を差し引いて
兵器輸出がトータルとして国益に合うかどうか熟慮が必要だ。そ
のような厳しい現実を認識した上で輸出に関する是非を議論すべき
である。
さらに兵器の輸出に際してはオフセットを求められることが多い。
オフセッ トとは簡単にいうと兵器の輸入に対する「見返り」である。
たとえば500万 ドルの兵器に対してその金額の100パーセントに
相当する工業製品や農産物 などの輸入、あるいは30パーセントの金
額に相当する投資などが要求されたり する。
ちなみにNATO諸国は一定額以上の兵器の輸入に100パーセントの
オフセットを設定しているところが多い。このオフセットも輸出企業や
政府の 負担となる。さらに途上国では賄賂を求められることも
少なくない。これまた コストの一部となる。
ちなみに我が国は調達に際して事前に「まとめ買い」をしないことも
あり、 オフセットを要求しない(あるいはできない)。
このため売り手にとってこの 点では非常にやり易い顧客である。
筆者は武器輸出の規制を緩和する方針に基本的には賛成である。
だが輸出よ り共同開発による開発リスクの軽減と調達コストの低減
のほうがよりメリット があると考える。
また不要となった旧式装備の売却も経済的なリスクが少なく、
メリットがあるだろう。無論その場合、紛争当事国などを避けること
はいうまでもない。
それで敢えて輸出をするというのであれば、異常に効率の悪い
調達方法を改 善し、また小規模で数が多い防衛産業を統廃合して
体質を強化するべきだ。そ うしたことを実現して初めて輸出の
スタートラインにたどり着く。しかし、そ の上でも輸出をすれば
儲かるという保証はない。
断っておくが筆者は国産装備開発をやめて全部輸入にすれば
いいと主張して いるのではない。むしろ安全保障上、装備はできる
だけ国産開発すべきだと考 えている。そのためには効率的に
装備を開発生産することが不可欠だ。
ところが「俗説」に依って現状維持が当然であると開き直り、調達の
合理化 に対する努力を放棄するのであれば、防衛産業は弱体化
する。やがて防衛産業 の存続自体が立ち行かなくなる。
農業や金融業を持って他山の石とすべしだ。
「俗説」を是とする「愛国者」が改革を阻害し、防衛産業の衰退を
招いている と言える。いずれにしても防衛装備調達合理化の議論
では「俗説」に惑わされ ることなく、冷静な議論が必要である。
■著者略歴■
清谷信一(きよたに・しんいち) 軍事ジャーナリスト、作家、起業家。英防
衛専門誌ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー(「Jane's Defence Weekly」
http://
著書に『軍事を知らずして平和を語るな』(KKベストセラーズ、石破茂氏と
の共著)、『自衛隊、そして日本の非常識』(河出書房新社)他多数。
東京財団依託の政策提言「国営防衛装備調達株式会社を設立せよ」
http://
公式ブログ http://
■掲載情報
・日経BPネットの好評連載「猪瀬直樹の『眼からウロコ』」。
「『こころの王国』――現代の“高等遊民”たちへのメッセージ」はこちら。
http://
~~~~~~~~~
日本のお姉さん。↓
目からウロコが落ちるような記事でした。
簡単に武器を作って売れば儲かるというのではなくて、
武器を売ればワイロやオフセットを求められるのなら、しんどい話。
イスラエルは、チュウゴクを友好国だと思って技術を教えたり、
武器を売ったりしたが、
イランがヒズボラに供給したチュウゴク製の武器で自国が
やられているんだから、どうしようもない。
そう思うと今の日本は、外国に武器を売るなんて、とてもじゃないが
できませんね。いざとなったら、直ぐに戦争に使えるような
一般的な乗り物や機械を準備をしておくしかない。自国で開発できる
自衛隊の兵器は、どんどん開発したらいい。
でも、チュウゴク人のスパイに情報を盗まれて、チュウゴク軍の益に
ならないようにしないと、、、。でも、自衛隊の内部にも外務省の中にも
国を売るスパイがいるからなあ。
すでに、いろんな日本の技術がチュウゴク軍に取り込まれて
いっているようなので、早くスパイ防止法を作った方がいい。
今から法案を用意しても、実現できるのは10年先かも。