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▼「メディアが取り上げない防衛装備調達の最大の問題点」 (清谷防衛経済研究所  )
猪瀬直樹氏のメールマガジン「日本国の研究 」に寄稿しております。
「メディアが取り上げない防衛装備調達の最大の問題点」

http://www.inose.gr.jp/mailmaga/index.html
「メディアが取り上げない防衛装備調達の最大の問題点」
                     
■我が国の防衛装備調達の異常さ(軍事ジャーナリスト 清谷信一)
防衛省のスキャンダルで防衛装備の調達のあり方が注目されている。 だが、マスメディアの報道はそのほとんどがスキャンダルや政局に集中して
おり、防衛装備調達の根元的な問題が論じられてない。また単に問題の原因を商社悪者論で解決する話でもない。防衛装備調達の最大の問題点は、装備調達に先だって調達期間、調達数、予算総額を決めない我が国の防衛省の特異な調達システムにある。実はこれを改めれば簡単に数千億円のコストの削減が可能だ。諸外国では装備の調達に際しては、まず自国を取り巻く将来の安全保障環境を予測し、5年なり、10年なりの具体的な未来における周辺諸国(あるいは仮想敵)の脅威の度合いを見積もる。それに合わせて戦略、ドクトリンを決定し、それに沿って装備の調達を決める。これを元に装備の調達数、調達期間、調達金額を決めて、サプライヤー(メーカーや商社)と契約する。例えば5年間で新型戦闘機が10飛行隊、120機が必要である、総額は1.2兆円であるといった具合だ。

ところが、防衛省では調達する装備の数も、総数を揃えるまでの期間も、必要な予算の総額も事実上決めていない。だから、ダラダラといつ終わるともなく細々と調達が続けられている。結果として調達に20年以上の年月がかかることも珍しくない。数が揃った頃には旧式兵器である。実際この手の、国際的な相場の何倍もかけて調達した骨董品がごろごろしている。いちおう中期防などで戦車や戦闘機などの保有する装備の上限は決められているが、個別の装備の調達をいつまでに行うかは明確化されていない。

例えば新型戦闘機が必要であると現在FX(次期戦闘機)の選定が進められている。中国が第四世代の戦闘機の増強を急ピッチで行っている。現在のままでは2010年代には空自の航空優勢が維持できなくなる、だから2015年までに60機の新型戦闘機が必要となる、それに必要な予算はこれだけになる、というのが普通の国の考え方だ。ところが必要な戦闘機の数が揃うのが2020年、あるいは2030年以降になるのであれば、航空優勢を確保するという目的が達せられない。調達という「手段」が「目的化」され、本来の「目的」は忘れられている。出し遅れの証文のようなものである。

調達完了が5年後でも20年後、あるいは30年後でもよいというのであれば、防衛省は将来における周辺諸国の軍事力の見積もりを行っていない、防衛計画が存在しない、あるいは脅威自体が存在しないと明言しているに等しい。まじめに国防を考えているとは言い難い。 

公共工事は総額が明示されなければ予算は通らない。ところが、防衛装備に関しては、その調達プロジェクトの総額がいくらかかるか分からないというのに、予算が国会を通過しているのだ。これまた極めて異常であるのだがこの異常さに国会もメディアも気がついていない。
 
■調達数、調達期間、予算を決めておかないから調達コストが高騰する
サプライヤー(メーカーや商社)側にしてみれば、このプロジェクトが何年で終わり、いつまでに売り上げ確定するのかも、いくら儲かるのかも不透明である。しかも単年度予算であるから、生産数は毎年防衛省と財務省の腹づもりでコロコロ変わる。よしんば20年間で調達が完了するという計画であればまた計画の立てようがある。ところが20年かかるか30年かかるのかも分からないのだ。ラインを維持する期間、それに貼り付ける人員のコストの算出も難しい。商社にしても5回で済む輸入を50回に分けて行えば、単純計算で通関など輸入実務のコストは10倍かかる。プロジェクトに貼り付ける人間も無論5年なのか、20年なのかで人件費が4倍異なる。当然必要な部品などもまとめ買いができず、その都度調達するからコストは跳ね上がる。先行きが不透明で、リスクが高く、コストがかかり、しかも生産性は低い仕事となる。故にサプライサイドは非常に大きなマージンを乗せざるを得ない。よって国産品も輸入品も調達コストは諸外国の数倍から10倍という異常な値段になっている。

また、サプライサイドは毎年の調達情報を取るため、あるいは調達数を増やしてもらうために官側に接近を図る、接待を行ったり、天下りを受け入れる。そこに癒着が生まれる。このような不明瞭な細々とした調達が続くのは、その調達が続いている限り天下りを押し込めるという官の側の思惑が強く働いているからだ。この調達システムが企業と官の不透明な関係も生んでいるのだ。この異常な調達方法を正せば調達コストは劇的に下がる。先に述べたように数千億円単位で調達コストの削減が可能である。また官民の癒着も激減する。筆者は10年以上も前からこのことを指摘してきた。

■防衛省も「まとめ買い」を始めた
実は平成19年度分の予算要求から防衛省もやっと「まとめ買い」を始めている。19年度予算ではF-2戦闘機の2年度分を一括、またUH-1ヘリコプター3年分をこれまた一括調達することにより約180億円を削減、更にコンピューターやコピー機などを単年度契約から複数年度に切り替えただけで78億円の経費削減になっている。

平成20年度年度予算の要求分では、PX(次期哨戒機)やF15戦闘機の近代化改修、MCH-101ヘリコプターなどごく一部を「まとめ買い」するだけで、約400億円ほどの調達費のコスト削減になることを防衛省が認めている。このような変化が起きた背景にはMD(ミサイル防衛)予算で一般装備にあてる予算が削減され、背に腹は代えられないところまで予算が減っているからだ。これまで防衛省は、単年度予算であるから年度をまたがった調達はできないといってきたが、やればできるのである。この「まとめ買い」を更に進めて、事前に調達数、期間、予算を決定するようになれば、劇的にコスト削減が可能であるということが空理空論ではないことがおわかりいただけるだろう。これらの情報は防衛省のHPにも公開されているにも拘わらず、これを報道したマスメディアは筆者の知る限りほとんどない。
我が国の防衛と予算-平成20年度概算要求の概要- 
http://www.mod.go.jp/j/library/archives/yosan/2008/yosan.pdf
我が国の防衛と予算 (案)-平成19年度予算の概要-
http://www.mod.go.jp/j/library/archives/yosan/2007/yosan.pdf

■防衛省の装備調達から商社を排除すれば調達コストは下がるか
昨今商社の不要論がある。確かに輸入装備を商社に頼り切っているのは我が国ぐらいだ。だが防衛省に商社を「中抜き」して調達ができるのだろうか。
現在の我が国の防衛費の総額は英国と概ね同じレベルだ。その英国の装備調達部門であるDE&S( Defence Equipment and Support、かつてのDPAおよびDLOが07年4月に合併)の人員は約2万9000人である(英国防省のHPより)。
これに対して防衛省装備施設本部の定員は593人。同じく経理装備局の定員は249人。防衛省が商社を通さずに自ら行う場合、DE&Sと同じレベルの人員が必要とすると仮定しよう。その場合、DE&Sの人員から装備施設本部と経理局装備局の人員を引いた人員数が必要ということになる。

DE&S     29,000
装備施設本部     -593
経理装備局      -249
必要となる増員数 28,158      
    
つまり、約2万8000人ほどの職員の増員が必要となる。装備施設本部、経理装備局は一部旧防衛施設庁の業務及び人員を引き継いでおり、それを更に引くと必要とされる増員は2万8000人よりも多くなるだろう。いずれにしても防衛省の文官職員(参事官、事務官など)の定員の合計である2万3228人の倍以上の増員が必要となる。

2万8000人という人数は陸上自衛隊の4個師団分に匹敵する人員である。つまり防衛省の定員をそのまま増やさないならば、陸自の4個師団分の兵力を削減する必要がある。逆に防衛省職員を2万8000人増員した場合、人件費は一人頭1000万円(給与を平均500万円、社会保障費、交通費、教育、リクルートなどの間接費が約500万円)として計算した場合、約2800億円の人件費が必要となる。

■商社を排除すると「大きな政府」になる可能性がある
つまり商社の関与を無くし、その業務を防衛省が直接行うとなると最低でも2800億円程度の経費の削減、あるいは4個師団を削減してトントンという計算になる。それ以上の効率を上げなければ組織をいじる意味はない。実際には人件費だけではない。2万8000人分のオフィス建設(あるいは賃貸
料)、業務にかかる諸費用(海外事務所、駐在員のコストなど含む)が必要になる。つまり、調達費を最低でも3000億円ほど削減しないと、商社をオミットするメリットはないというが計算に成り立つ。現在の商社の防衛省担当者をすべて集めても、恐らく2000人にも届かないだろう。つまり、調達に関わる人数だけを考えると、現在の商社を利用した防衛省が直接海外から調達を行うよりも効率的であるとも考えられる。ある意味防衛省の仕事をアウトソーシングしているわけで、他国より進んでいると言えなくもない。ましてや先に述べたような調達に先立って数量、調達期間、予算を決定するという方式に改めて大幅に調達コストを削減した後に、更に3000億円を超えるコスト削減は容易ではないだろう。この計算はこういう見方もできるという、頭の体操である。商社ががめつくマージンを取っているという先入観でこの問題を見ると本質を見誤る。

英国防省と防衛省の組織や仕組みの違い、調達のシステムの違いがあり、単純に比較は出来ない。また理論的にいえば、現在商社がこの程度の人数で回しているので、官が同じ程度の増員で調達を行うことは物理的には不可能ではないだろう。だが、道路公団の例を見ても明らかなように、官が民間より効率的に仕事をこなすとはかなり難しいと言えよう。

■商社は江戸時代の出島
だが防衛省の調達部門を放置していいわけではない。現在の装備調達はいびつであり、自衛隊の装備体系は機能的とは言い難い。専門知識を持った人材も少ない。実際本来防衛省が行うべき情報収集もマーケティングも商社におんぶにだっこである。故に商社の言っていることが本当かどうかという検証もできないのが現実である。これは旧軍以来の情報軽視の伝統もさることながら、防衛省の調達部門があまりにも少なすぎて、当事者として必要な能力を悲しいぐらいに欠いている。これを早急に増強する必要があることは筆者も異論はない。現在の商社の役割は江戸時代の「出島」に酷似している。外国が日本に商品を売り込むためには出島=商社を通さなくてはならないシステムとなっている。これは防衛省の人員が少ないだけではなく、その体質が閉鎖的であり、国内はもとより、外国に対して情報発信が極めて少ないことも影響している。防衛省が「出島」に頼らず自立的に直接外国の企業と取引を行える能力を身につけ、一部でも直接取引を増やすようになれば、あるいは情報収集やマーケティングを自分たちで行えば必然的に商社に支払うマージンも下がっていくだろう。英国防省は防衛見本市に出展し、内外の企業に対して国防省への売り込みのアドバイスも行っている。こういう積極性は是非取り入れて欲しい。調達を合理化するためには抜本的に調達のシステム、また調達に関する考え方のレベルから変えなければならない。まず、諸外国と比べて防衛省や自衛隊の現状がいかに異常であるかを、当の防衛省や自衛隊はもちろん、政治家やメディア、納税者たる我々国民が知る必要がある。
そうでなければ、改革は単に防衛省の焼け太りで終わるだけである。

■著者略歴■
清谷信一(きよたに・しんいち) 軍事ジャーナリスト、作家、起業家。英防衛専門誌ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー(「Jane's Defence Weekly」
http://jdw.janes.com/ )の日本特派員で、日本ペンクラブ会員でもある。主な著書に『軍事を知らずして平和を語るな』(KKベストセラーズ、石破茂氏との共著)、『自衛隊、そして日本の非常識』(河出書房新社)他多数。東京財団依託の政策提言「国営防衛装備調達株式会社を設立せよ」
http://www.tkfd.or.jp/publication/reserch/2005-1.pdf
公式ブログ 
http://kiyotani.at.webry.info/