福島香織記者の記者証が更新できない! 「理由はあなた自分でしっているでしょ」だって! | 日本のお姉さん

福島香織記者の記者証が更新できない! 「理由はあなた自分でしっているでしょ」だって!

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▼記者証が更新できない! (福島香織)
■最近、腰を落ち着けてブログ更新できてません。おたずねくださった読者の方々、申し訳ありません。その理由のひとつは、中国の記者証の更新に猛烈に時間がかかっているんです。ふつう3日でできる記者証の更新が、3週間以上たってもできていません。なぜ?


■中国駐在の外国人記者は中国外交部(外務省)から記者証を発行されます。それは1年ごとに更新するので、11月下旬から古い記者証を外務省にもっていって更新してもらいます。この更新が完了して新しい記者証をもらって、初めてジャーナリストビザも1年更新できます。つまり記者証が更新できないと、ビザも更新できないわけです。このまま、記者証の更新が引き延ばされて12月内に手続きができなければ、私はビザ切れ、日本に帰国しなければならない、ということです。もしそうなれば、事実上の国外退去処分ってことですかい?


■外務省新聞司(外国人記者に対応する部署)に理由をきいても「技術的理由」「更新する人が多いから」「待て」としか教えてくれません。産経新聞中国総局には5人の日本人記者がいるのですが、私以外の4人は、3日間で記者証が更新できています。なぜ私だけ?とさらに担当者にきくと、「理由はあなた自分でしっているでしょ」とか言われてしまいました。


■しかし、正直にいって、心当たりがありません。軍事機密にふれた覚えはないし、違法な手段で情報を取得した覚えもないし、人身売買や麻薬など犯罪に荷担した覚えもありません(取材したことはありますが)。ええ、最近は赤信号だってしっかり守っています。外国人記者は刑務所から出てきたばかりの政治犯との接触も違法にあたるそうですが、そういう経験もありません。いわゆる「敵視報道」もしていないと思いますよ。もちろん、批判的な報道はあるでしょうけど、批判っていうのは「愛」のひとつの形であり、よりよい明日の中国を願っているからこその批判ですから、敵視じゃないですよ。


■あと台湾独立支持の報道は、「反国家分裂法」に抵触する可能性がありますが、私は台湾独立支持を表明した記事を書いたこともない。むしろ、中国の民主化の契機は台湾が大きな役割をはたすかも、と思っています。共産党と国民党(あるいは民進党)の二大政党が選挙で執政党を決める民主的な政治システムができれば、台湾だって統一をよろこぶんじゃないですか。ただしそうなったら、執政党は国民党になる可能性小さくないと思いますけどね。


■事情通によると、外務省内部では「福島記者は意図的に中国を貶める報道をしている」とか言われているそうです。ある人には「ブログ本」の反響が予想外に大きかったのが問題らしい?といわれました。まったく『危ない中国』なんて挑戦的なタイトルつけるから…。でもタイトルをつけたのは私ではなく、産経新聞出版社です。(私は、『点撃中国』がいい、と主張したのですが、それではインパクトがない、売れない、と出版社側が主張し私が折れたのです)。ブログの内容は、ほとんど中国メディアの既報をベースにしたものですから、中国を貶める、といった性質のものではないと思うんですが。日本人読者に、中国が今直面する問題点を客観的に提起する内容となっていませんか?


■ただ、ふとった人に、「君は不摂生でふとっていると思う。もうちょっとやせないと、糖尿病になり、ひどい場合足が壊疽になって立てなくなっちゃうよ」と愛あるアドバイスをしてあげても、「デブと呼ばれ、侮辱された」と怒る人もいるわけですから、表現というのは確かに難しい。気にさわることもあったかもしれません。でも、それなら、反論とか訂正を産経新聞に掲載するように要求するとかすればいいんです。すくなくとも、私のブログでなら、反論はきちんと翻訳して全文掲載しますし、訂正すべき間違いは訂正したいと思います。


■ところで、産経新聞本社のえらい人に、「記者証更新してもらえないんです、このままだと国外退去になってしまいます」と訴えると、なんか目を輝かせて「おお、そうなったら正月元旦の1面トップだな。見出しは『本紙女性記者 事実上の国外退去』『北京五輪イヤー、不安な幕開け』できまりだな。五輪直前だし、これはAP、ロイターもキャリーするぞ♡」と、すごくうれしそうでした。産経新聞としては今年、文革報道の柴田穂記者の国外退去から40周年なので、「本当に福島が追放になったら、編集局総力をあげて大キャンペーン」だそうです。新聞社の人間の思考回路は理解していたつもりですが、記者として現場を追われるどうかという、不安にさいなまれている病み上がりの福島には、その喜びようは、いたくこたえました。ええ、正直、中国外務省の嫌がらせよりこたえます(涙)。


■確かに、日本人記者の五輪直前の国外退去、それも法令違反ではない記事や本の内容が問題(公式の理由は聞いてませんが)となったとすると、そりゃ大ニュースでしょうよ。日本の外務省が抗議のひとつもしてくれたり、日中記者交換協定(中国の日本人記者枠と日本の中国人記者枠は同じ数という原則)をたてに新華社特派員の1人減措置とかなってしまうと(ありえないか?)、国際問題化してしまう可能性も。


■日本人記者で、最後に国外追放になったのは1998年、読売新聞の中津幸久記者でした。ただ、中津記者は正真正銘の敏腕記者で「国家機密に違法に取得した」などかっこいい理由がありましたが、もし、私が強制退去させられるとしたら、理由は何?ブログで、中国のイメージを傷つけた?非友好的記事が多い?う、それはあまりにまぬけな理由。そんなことになったらブログ本はきっとまた増刷になって、喜ぶのは産経新聞出版社と印税をもらえる産経新聞社だけです。(私は印税をもらえるわけではないらしい。金一封くらい?)もう、中国って、どれほどフジ・産経グループを喜ばせたら気が済むのか。


■私は大学では美学(演劇学)を学び、別に中国語学科でも国際関係学科でもない門外漢なのですが、今後予想しうる世界で一番ドラマチックな出来事は、きっと世界最大の独裁国家の民主化、と勝手に思い、産経新聞に中国総局のない時代から、北京特派員になりたいです!とアピールしていました。入社当時は、演劇記者志望だったんですよ。で、長年の水面下工作が実って中国総局が開設される年に、上海に業務留学させてもらったわけです。念願かなって北京特派員にはなりましたが、真の野望は、世界最大級の体制変革劇の〝劇評〝を書くことですから、今、現場をおわれるということは、せっかくがんばってプレミアムチケットを手に入れたのに、開幕ベルが鳴る直前に、発生モノの呼び出しをくらって泣く泣く、劇場を後にする察回り記者(警察担当記者)の心境です。



■北京は来年8月、五輪を迎えます。五輪というのはなにか。平和とスポーツの国際的祭典です。建前といえば建前ですが、世界の国々の選手が、政治的思想的違いを超えて、統一のルールにのっとって、28競技302種目を競い合うわけです。いえ、競技のルールだけではなく、報道をはじめ、食の安全、環境意識、常識、マナーなど五輪にかかわるあらゆる人、事象に国際スタンダードが適用される。それが五輪です。ついでにいうと「民主」という価値観も、国際スタンダードの重要な一部です。で、五輪に参加する=国際スタンダードに従う=民主化がすすむ、のは必然だと、私は思っています。


■中国は、「中国の特色ある」「国情により」という言葉を多用することからもわかるように、経済、外交、メディアのあり方、人権や民主の定義にいたるまで、あらゆる場面で中国スタンダードを振りかざす国でした。しかし、北京が五輪を招致したとき、おお、かの国もいよいよ、中国スタンダードから国際スタンダードに脱皮する時期にきたか、という感慨を覚えました。インターネットによる情報・知識のグローバリズム、WTO加盟による経済の国際化に続く国際スタンダードを体感する五輪開催が、きっと今世紀最高の国際政治ドラマの開幕ベルとなろう、と。


■今のところはまだ、中国は五輪を国威発揚とか民衆の不満をそらす「サーカス」、あるいはビジネスチャンスくらいにしか、考えていないようで、国際スタンダードに従う、というより、北京五輪に参加したかったら、みなさん中国スタンダードになれてください、といわんばかりの態度です。報道も中国スタンダードでしきるべく、国内外メディアに対する管理、監視は日を追って厳しくなっています。とくに海外メディアに気に入らない取材、報道があると、拘束、呼び出し、警告、ビザを出さないなどの嫌がらせが、今年になって急増しました。NHKの「激流中国」もそうですよね。FCC(外国人記者クラブ)の調査では今年上半期だけで、当局による外国記者への嫌がらせ、取材妨害は157件。昨年のFCCの発表では04年から06年6月までで、72件くらいだったので、確かに急増です。


■郷に入れば郷に従え、ということわざはありますが、それをいうなら、中国の方が国際社会の仲間入りをしたわけですから、責任ある大国として、国際スタンダードを受け入れる必要があると思うのです。外国記者が報じる記事内容が気に入らないと、すぐ取材妨害や嫌がらせをして、あまつさえ記者証更新を理由もいわずに保留したりするなど、国際社会の中で重要な役割を担う大国のすることではないですよね。中国があくまで中国スタンダードを押し通そうとすれば、必ずその限界にぶち当たると思います。その最初の壁が、2万人以上の外国記者が一斉に取材する北京五輪。国際スタンダードと中国スタンダードがぶつかり合うコメディア・デラルテ(どたばた喜劇)がいたるところで展開されるのでは。う~、現場でみたいなあ。


■私のビザがきれるのは12月30日。30日は日曜日だから29日までに記者証が更新される必要があります。リミットまであと2週間たらず。本社のえらい人からは、「福島、中国外務省にワビいれるようなみっともないまねだけは絶対するなよ」と強くいわれました。ということで、もはや、ひよりたくともひよれません(涙)。



■まあ、中国外務省は、あくまで「技術上の問題」で手続きが遅れている、というスタンスなので、ぎりぎりになって「問題が解決しました、記者証更新します」という、連絡がくる可能性もあります。あまり気にやまないようにしよう。とりあえず、限られた時間でできるだけ多くの取材をしてネタをしこんでおく、、今やるべきはこれしかないか。今後2週間たらず、インタビューとか出張とかがんがん入れるので、ブログ更新は滞りがちになるかもしれません。