北朝鮮の核施設停止問題と米中の思惑 | 日本のお姉さん

北朝鮮の核施設停止問題と米中の思惑

【論説】北朝鮮の核施設停止問題と米中の思惑

                      時局心話會代表 山本善心


 北朝鮮に対する経済制裁は、深刻な食糧・肥料の不足をもたらした。

一方、米国はイラン・イラク問題で手こずり、北との合意を必要として

いる。7月15日、朝鮮中央通信は寧辺(ニョンピョン)にある核5施設

の稼働停止を発表した。

 IAEAが稼働停止を確認する対象は、寧辺にある再処理の4施設と

黒煙減速炉1施設だ。北朝鮮はこれら施設の無能力化を約束した

が、いつになるかの期限設定に答えないのは、米国の出方を

見守る戦術と見られる。次は米国に対しテロ支援国の指定解除、

敵国貿易法適用除外などの要求が出てこよう。

 米国が対北融和路線に転換して以来、北朝鮮の態度が強硬に

なり、米国は北ベースで完全に振り回されてきた。今後北朝鮮の

核廃棄はどうなるのか、筆者なりの分析と見解を提言する。


核廃棄は不可能という現実


 北朝鮮の核施設はすでにプルトニウムを抽出し、役目を終えた

とみられる。
それゆえ老朽化した旧式の5施設を監視・廃棄されても痛くも

痒くもない。6月下旬にハイノネン事務次長(査察担当)一行の

寧辺訪問で、それまでかたくなに拒否してきた施設の公開を認めた

理由はここにある。

 北朝鮮は核保有が唯一の国家目標であり、核放棄は金正日

体制の崩壊を意味する。しかし米国の対北政策は、核廃棄に

向けた強硬姿勢から融和政策へと転じ、結局北の核開発と

暴走を許した。

 6カ国協議がスタートして以来、今や4年5ヶ月も費やしている。

この空白期間に北朝鮮は核開発と核実験、ミサイル開発を行った。

さらに北側の一方的な要求に応じて中韓が大量の食糧、肥料、

重油を支援している。


子供騙しの核廃棄交渉


 北朝鮮の核5施設の稼働停止・封印問題について、03年8月

以来の成果と評価する専門家筋もいるが、実際は振り出しに

戻っただけだ。

筆者は2年前にも本誌で「融和政策は米国に敗北をもたらす」と

述べている。米国は議長国である中国の影響力を期待したが、

解決どころか北と同調して米国を骨抜きにした。

北朝鮮が6カ国協議を無視、核廃棄の意志もない本音を見せた
が、米国政府は今更失敗を認めるわけにはいかない。

 20日、北朝鮮主席代表の金桂冠(キム・ゲグァン)外務次官補は、

記者のインタビューに答えて「すでに約束した御用済みの5施設の

停止・封印の交渉はまだ先の話である」と述べた。

北朝鮮はブッシュ政権の残存期間を見越した上、交渉をできるだけ

引き延ばす牛歩戦術だ。しかし政治は言葉が生命である。

 振り返れば、核廃棄をいつ行うかという北朝鮮側の明確な発言は

なかった。
金外相は20日「年内に核施設を停止する」と言ったが、米国側が

「核廃棄は年内に実現すべきだ」と詰めると、前言をひるがえし

「いつになるか言えない」と豹変する繰り返しであった。

これは北朝鮮騙しの物語である。


各国各様の対北関係


 日本政府は「拉致問題の進展なくして経済支援なし」としている。

北朝鮮政府の権謀術数に振り回されない、というのが大前提だ。

一部論評で「拉致にこだわると日本が孤立する」との意見もあるが、

それでは日本国の意志や原則はどこにあるのか。

やがて経済封鎖に対する条件として、拉致問題とのバーターに

ならざるを得まい。

 一方、中国の姿勢はどうか。今回の核施設稼働停止は、来夏の

北京五輪を控えての好材料であった。

中国は昨年10月、異例ともいえる強い調子で北の核実験を非難

している。しかしこれはあくまで、両国の馴れ合いにほかならない。

 昨年10月以降、中国による原油や肥料、食糧の対北輸出額は増

大している。

韓国・大韓貿易振興公社の中朝貿易動向調査によると、昨年10月と
11月の燃料・肥料の輸出額は6200万ドルで前年同期比20%増、

食糧は18%増に上った。

中朝貿易・中朝関係が堅調である実態が浮き彫りになっている。


中国の対北説得不十分


 米国にとって最大の誤算は、議長国である中国の北朝鮮説得が

全く期待外れに終わったことだ。

しかも中国は最初から北朝鮮を説得するふりを見せるだけで、

影響力を行使することはなかった。

 何もしない議長国・中国に対する米国民の不信が募る。

それゆえ、あれほど米朝会談を否定してきた米政府であるが

対北直接交渉に踏み切る局面に追いやられた。

 米国の対中観について、北朝鮮から亡命した元高官・黄長Y

(ファン・ジャンヨプ)氏は「仲介者としての中国に期待をかけ、

中国が北朝鮮に圧力を加えてくれるとの考えは幻想に過ぎない。

中国は北朝鮮の自由と民主主義化、資本主義化に徹底して反対

している。中朝国境の鴨緑江から自由主義・多党政治が入って

きたら、(中国共産党)唯一党は壊れ、多民族国家は内部
崩壊してしまう。それを防ぐ手段として、中国は隣国に金正日

(独裁政権)が必要なのだ」と述べている。


中、北、韓対日米の対決


 中国は、東アジア諸国の中で自由と民主主義の法治国家である韓国と台
湾を手中に収めようと考えている

一方、米軍は韓国と日本から実戦部隊を撤退させると発表した。

慌てた台湾の李登輝氏は来日して日本の自立自存を促した。

中国と韓国は北朝鮮に追随する動きを見せる昨今である。

 韓国与党のウリ党は、対北支援に積極的姿勢を示してきた。

盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領は中東の訪問先で「対北支援は

統一費用、未来への投資だ」と述べ、支援を惜しまないと訴えた。

金正日総書記は米軍の韓国からの撤退、核撤去を要求している。

 今後中国、北朝鮮、韓国が東アジア圏の中心勢力となれば、

日米両国にとって脅威だ。

この3カ国が日米を敵対視すれば米軍が後退しよう。

「若い兵士の血を流したくない」と考えている。

今や日本を取り巻く深刻な状況が迫っているのに、日本の政治家に

気づきが見られない。


米軍の軍事転換


 米国の戦略転換について、2000年10月にアーミテージ報告が

公開された。ここでは2つの論点から米国の軍事改革を提言。

1つは、日本は地政学的にユーラシア大陸の反対側にあり、

イギリスと同じ役割を日本に求めるというものだ。

つまり米国は自衛隊による東アジアの軍事的責任を求めている。

 2つは米軍の装備を「量から質」に転換、軽量化するものである。

沖縄米軍の撤退と基地負担の軽減など、日米軍や日米同盟軍の

「質的」な変化だ。
今後、米軍の機動力と破壊力を高め、更なる技術的な向上に加え

IT革命の成果を軍事転用するとの考えが見られる。

 米軍による「トランスフォーメーション」と称される軍事改革によって、

米軍の撤退した後は事実上自衛隊が前方配備を担うことになる。

今後は米国本土の拠点基地から敵陣を攻撃するという軍事戦略に

変化する。日本本土は自衛隊が守れということだ。


北の核廃絶はない


 米軍の配置転換により、日本の国土は日本人の手で守る義務と

責任を負うことになった

米国は世界戦略の一つとして、日本に責任ある防衛分担を求めて

いるわけだ。つまり「負担の分担」から「責任(権限)の分担」へ
の転換である。

経済のグローバル化と同じく、日本は軍事面の長期的戦略形成の

中で、米国の安全保障ネットワークに否応なく組み込まれてしま
った。

 日米関係で日本が担わされる軍事的な役割としては、東北アジア

という地域を越えて、米国をサポートする役割分担が明確に

求められている。
イラクへの航空自衛隊の派遣はその一つだ。米国は日本の安全を守る
から日本を手下に使う、ということだ。たとえばノドンミサイルに搭載

可能な核弾頭開発が成功すれば、10分くらいで日本に核ミサイルが

到達しよう。
日本の安全は日本自身の手に委ねられた。

 今や、北朝鮮には核廃棄に合意する考えは全くないと見てよいだろう。
米国はイランとイラクという難題を抱え、北への制裁能力とその意志を失
ってしまった。北朝鮮は核を保有し、今後も継続して完成品を作る。そこ
で日本が救われるとしたら、永久非核化から脱皮するしかない。そんな
呑気な議論では困るのだ。   

『台湾の声』 
http://www.emaga.com/info/3407.html
『日本之声』 http://groups.yahoo.com/group/nihonnokoe Big5漢文