■外国人家事労働者を最も多く受け入れているのは香港
2006年末時点で、香港、シンガポール、台湾における外国人家事労働者数が54万人近くに達した(筆者による暫定的な推計値)。
1974年に香港で外国人家事労働者が導入されて以来、1980年に1万人を超えた。1989年に10万人を突破し、1992年からは台湾でも導入が始まった。それ以降、経済成長にあわせて毎年1万人から4万人の規模で外国人家事労働者は増加した。2000年には40万人を突破し、2002年には48万人に達した。
1997年のアジア通貨危機以降もその数を減らすこともなかったが、2003年には新型肺炎SARSの影響で多くの家事労働者が帰国し、新規雇用が控えられたため、初めてその数が減少した。しかしSARSが一段落ついた後は、再び増加に転じた。2005年には50万人を突破し、2006年には53万7,000人となった。
最も多く受け入れているのが香港で約22万3,000人(全体の42%)、次いで台湾が約15万4,000人(同29%)、シンガポールが約15万人(28%)となっている。これらの地域で就労する外国人家事労働者を出身国別にみてみると、インドネシアが約24万人(45%)、フィリピンが約22万人(41%)、ベトナム約4万7,000人(9%)などとなっている。
■インドネシアが比を抜く
2006年、インドネシアは初めて、ストックベースにおいてフィリピンを抜いて最大の送り出し国となった。フィリピンはそれほど数を減らしているわけでもないが、インドネシアの伸びが大きい。台湾ではベトナム人労働者の受け入れが停止されたが、その分インドネシア人の雇用が増加した。2001年には23万人いたフィリピン人は増加と減少を繰り返し、2006年末には22万人に減った。
インドネシア人労働者がその数を伸ばしているのには、幾つかの理由がある。1つは権利主張がはっきりしているフィリピン人に比べて従順ととられられており、雇用主にとっては雇用しやすいこと。もう1つは雇用のコストが低いからである。雇用主にとってあっせん料が安いうえ、インドネシア人が低賃金を引き受けることは魅力。また受け入れ地域のあっせん業者もインドネシア人をあっせんする方が利益が出るという。しかし、インドネシア人労働者に対する虐待事件、賃金未払い、長期間の拘束といった問題は絶えることがない。
従来、外国人労働者といえば、受け入れ地域の経済動向と関係があった。景気が良くなれば外国人労働者で不足を補うというものだ。しかし膨らみ続ける家事労働市場の動向は経済の動きとあまり関係がない。
アジア通貨危機以降、これらの地域では建設業や製造業部門の外国人の受け入れを縮小あるいは停止したにもかかわらず、家事労働市場は拡大を続けている。少子高齢化といった人口構成の変化はますます彼女らを必要とさせる状況を作り出している。高齢化はより多くの介護者を必要とする。福祉政策の発達していないこれらの地域では、家族が高齢者の介護をすることが求められるため、家事労働者の雇用ニーズも高くなる。また逆説的だが、少子化も彼女らを必要とする原因を作り出している。少子化は労働者不足をもたらし、それを補うため退職者や女性の就業が促進される。これらの地域では有業女性の所得と家事労働者の雇用に強い相関関係があることがわかっている。女性の雇用が促進され、ある程度の所得水準に達すれば、家事・育児・介護の担い手問題を解決するために家事労働者が雇用されるのである。こうした状況を考えるならば、今後とも家事労働市場は拡大する。
(2007年5月16日のニュースです。)