大陸の風-現地メディアに見る中国社会「Are you ready……for what?」 | 日本のお姉さん

大陸の風-現地メディアに見る中国社会「Are you ready……for what?」

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■ 『大陸の風-現地メディアに見る中国社会』 第104回

JMM [Japan Mail Media]    □ ふるまいよしこ

 :北京在住・フリーランスライター


「Are you ready……for what?」

 去年の北京の夏は雨が多く、涼しく快適に過ごせた。今年の夏は

7月いっぱい カン カン照りだったそうだが、8月に入ってから1~2日

晴れては雨というサイクル が続 いている。

「北京の夏は日差しは厳しいですが、木陰に入れば爽やか。湿度が低
いか らです。雨も少ない」と、80年代に初めて北京を訪れた時に、

人民服を着た人 が胸 を張って言っていたのを思い出す。

確かに、湿度の高い国で育った人間にとってはそ れはうらやましいほど

爽やかな「宣言」だった。

 しかし、この2年間をとってみても、その気候が80年代とは大きく

変わって いる のがよくわかる。

特に今年の雨の降り方は異常だ。6日の月曜日には昼頃からど

じゃ あ~っと降ったかと思うと、市街地北部の幹線道路の一部が水没し、

通行不能と なり、 退勤時間の交通は大混乱となった。

しかし、その雨は市街地東部には一滴の水も もた らさなかったと、

そこで働いていた人は言う。

 そして、8日には立秋を迎え、その前後あたりから朝夕がかなり涼しく

なった 。1 2日日曜日の夕方はそれはそれは気持ちの良い夕涼みに

ぴったりの気候だったの に、8時半ごろから砂を含んだ風が雨雲を

運んで来て、夕涼みを楽しんでいた人をあ っと いう間にずぶぬれにした。

その大雨は9時半ごろにはぴたりと止まったが、その 間、 街のあちこち

で巨大な水溜りができ、看板が吹き飛ばされ、そして街路樹がなぎ
倒さ れた。日本で経験する夕立や南国のスコールとも違い、雹まで

降ったというこの 雨風 は一体なんだったのだろう。

 そんな中、8月8日に天安門広場で北京オリンピック開幕前1年を

宣言するカ ウン トダウン記念式典が無事に行われたのは、ラッキー

だったとしか言いようがない 。

そ の式典では、国の指導層を代表して呉邦国・全国人民代表大会

常務委員会委員長 があ いさつをした。

「国際オリンピック運動は平和、友好、進歩という主旨を掲げ、さらに

速く、さ らに 高く、さらに強くという精神を謳い、世界平和を守り、人々の

友情を促進し、国 際的 なスポーツと文化事業の発展を促すといった面

で重要かつ独特な役割を果たして いま す。オリンピック開催は

中国人民が100年来望んできたことです。中国は、オ リン ピック開催

を通じてさらにオリンピック精神を高揚させ、世界の平和と発展を促 進し、
さらに中国人民と世界各国の人民の相互理解と友情を増進し、交流と

協力を拡大 し、 さらに全国各民族人民の全面的な小康社会構築という

広大な目標の実現と奮闘の 努力 を刺激していかねばなりません」

(「呉邦国:中国は北京オリンピック成功を承 諾」

星島環球ネット・8月9日)

 これを聞いて、わたしはがっくりきた。あまりにも古臭い。

その「オリンピッ ク運 動」を「共産主義運動」に、「スポーツと文化事業」

を「産業」に、「オリンピ ッ ク」を「共産党大会(あるいは人民代表大会)」

に取り替えてみると、日ごろ見 慣れ た政治指導者の宣言となんら

変わりのない内容である。

「小康社会」とは、基本 的に 衣食の問題を解決したとされる現段階で、

中国政府が目指している「多少ゆとり のあ る社会」のことで、つまり

呉氏のスピーチは、オリンピック開催が中国政府の目 指す 政治目標

実現のためだと宣言したようなものである。


中国政府こそがたびたび、 海外 に向けて北京オリンピックを政治的な

視点で見ないよう呼びかけているにも関わ らず。

 シンガポールの新聞「聨合早報」で、イギリス在住のコラムニスト、

陳氷氏は 「北 京オリンピックがこれまで以上に政治的なものと見られ

るのはいたしかたのない こと だ」と書いていた。陳氏はその理由として、

世界が中国に対して、まず、急速な 経済 成長への興味、次にシドニー

やアトランタなどと違って門戸開放からまだ時間が 経っ ていないための

神秘感、三つ目に日増しに増すその国力への恐れを感じていることを
挙げている。これらはまた、今中国自身も世界に向けて「売り」にして

いる点でもあ る。

「中国政府はすでに『政治オリンピック』は『スポーツオリンピック』よりもず
っと ずっと難しいことを意識しており、文明的な生活方法作りから着手し、

世界に文 明国 家のイメージを与えようと努力している。

痰を吐いたり、並んでいる列に割り込 んだ り、ゴミを投げ捨てたり、汚い

言葉での罵りあいといった悪い習慣は、北京およ びそ の他の中国の都

市文明化運動の重点となっている…(略)…しかし、これらの措 置は
多くが『自己中心』的なものだ。北京オリンピックの期間中に起こりうる

さまざ まな 突発事件、そして中国人にとっては普通でも外国人にとって

異常な状況を、国際 的な 常識で処理できるかどうかが本当の試練と

なる」(「中国は『政治オリンピック 』に 向けて知力を尽くすべき」

聨合早報・8月13日)

 たとえば、ホテルのトイレが臭いと外来者が抗議した時、「臭くない

トイレが どこ にある」と答えるか、それとも礼儀正しく謝ってすぐに

清掃するか? 北京の街 角に乞食が現れたとき、収容車両に押し

込むか、それともやさしくその場から景観を 損ね ないように救済

センターに送るのか? 

「星島環球ネット」はイギリスのBBCの記事を引用してこう伝えている。

「政府関係者たちは非常にオリンピックのサッカー会場で罵り言葉が

飛び交った りす ることを恐れており、あるサッカークラブでは特に

大学生を雇ってサッカーファ ンに 文明的な応援方法を教えている。

しかし、北京において『文明的でない』社会を 最も 示すものは、痰を吐く

ことかもしれない。乾燥し、ほこりの多い中国の首都にお いて、 このよう

な行為は北京ダックを食べるように一般的なことである。オリンピック
委員 会関係者はとにかく、北京市民が首都の路上に痰を吐くのを

阻止したいと考えて いる ようだ。首都精神文明弁公室がこのほど

明らかにしたところによると、320ヶ 所の 公共の場で1700時間の

観察を行った結果、23万人の市民が痰を吐く習慣を 持っ ていること

を発見したという。同弁公室は、痰を吐く率は2005年の8.4% から
今年すでに4.9%にまで減少したと指摘しているが、その数字を

どうやって得 たの かは明らかにしていない」

(「BBC:オリンピックを利用して中国人の悪習を

善」星島環球ネット・8月9日)

 最初から最後まで「痰を吐く」どころか、眉唾ものっぽい形容が並ぶ

記事だが 、こ こに挙げられている数字などが本当ならば、ため息を

つくしかない。「文明化」 を掲 げて時間とお金と人力を浪費していること

へのため息だ。

「中国は明らかにオリンピックを通じてその国力、経済的な成果そして

文化の姿 を見 せつけたいと考えており、一方で世界には中国の良い

一面を観察しながら、悪い 面を あら捜ししようという状況が存在する

ことは非常に正常なことだ。重要なのは、 中国 が過剰なまでに

『尻尾をつかまれ』てはならないと恐れるあまり、北京を異様な 姿に
してしまってはならないという点である。たとえば、北京全体に乞食が

一人もい なく なったり、農民労働者にぴかぴかの服を着せたり、

中国メディアが毎日良いニュ ース ばかりを伝えたりすれば、それこそ、

政府が社会の自由を剥奪していると他人に 攻撃 されるすきを与える

ことになるのだ」(「陳氷:中国は『政治オリンピック』に 向け て知力を

尽くすべき」聨合早報・8月13日)

 それにしても、「オリンピックまであと1年」カウントダウン式典なんて

こ れま でほかのオリンピック開催地でも行われていたのだろうか? 

中国の顔とも言え る天 安門広場で人々を集め、華々しく開催された

このカウントダウン式典こそ、その 資金 と人力を、数日前の雨で水没し

てしまった主要幹線の改造に使えばどれほど面目 が立 つだろう。

 来年の今頃にはすでに北京オリンピックは始まり、選手や観光客

たちがゲーム スケ ジュールに合わせて街中を移動しているはずだ。

16日間の期間中、毎日が今回 の式典のように幸運に見舞われ続け

るわけがない。つまり、今この瞬間に起こってい る北 京での出来事が、

来年のこの日出現するかもしれないことは十分すぎるほど想像でき る。

そして、中国は1年後に向けてまだまだ多くの懸念を抱えているという

のに 。

「北京当局が、緑色オリンピックの理念を通して、『北京と中国の環境

保護インフラ設備の建設、および生態環境の完全を促進し、クリーンで

健康的な生活方法と消費方法を提案』したいと望んでいることは間違い

ない。だからこそ、北京当局は来年 の市 街地における空気の質が

2級を上回る日を全体の67%に引き上げるという難し い目 標を立て

たのだ。そして、北京市街地における2級以上の大気状況となった日数
を1 998年の100日から、昨年には241日へと引き上げたことは

賞賛すべきだ 。し かし、昨今の北京の空気の状況には非常に不安を

覚えずにはいられない」(「北 京よ、 キミはまだ準備できていない!」

香港明報・8月8日)

 この記事でも続いて触れているが、北京市の歴史的な大気汚染の

源である首都 鋼鉄 公司や北京化工第二廠など化学工場の

移転話はすでに数年前に決定しているが まだ 実現していない。


首都鉄鋼の河北省への移転は業務効率の悪い鉄鋼産業全体の再編に
つながるとして、国の期待がかかり、移転先の工事も進んでいるものの、

一方で その 結果放り出される北京在住労働者の補償の問題などが

まだきちんと解決できてお らず、 国もおいそれを強硬できないのである。


今後1年のうちに、それが目を見張るような解決を見るのか、甚だ疑問だ。

 大気汚染の問題については、北京市は今月17日から20日の4日間、

自動車を緊急目的や特別許可を取った車両を除き、そのナンバーの

最下位数字で振り分け、 奇数日は奇数ナンバー車のみ、偶数日は

偶数ナンバー車のみ通行許可という「好運北京」 試験を行う。


これは、昨年11月に北京でアフリカ各国の首脳を集めて行われた
「中国‐アフリカサミット」の際に取られた自動車規制に続く措置で、

前回の措置では公用車40万台の使用が停められ、実際に衛星写真

で見ても、明らかに北京地区では自動車から排出される窒素酸化物が

減っていたそうだ。

 首都・北京では車が増え続けたために大気汚染ばかりではなく、

交通渋滞も頭 の痛 い問題となっているが、今回初めて自家用車を

含む車両の通行を規制することで その 効果を見ようと、1日当たり

130万台が走行を取りやめることになるらしい。
確か
に前回の規制時には目に見えて走っている車の数が減った。日頃は

気づかないも のの北京を走っている公用車はこれほど多かったのか、

と驚いた。

 しかし、「中国‐アフリカサミット」は主に週末にかけてのことだったし、

一 部企 業では厳しい交通規制も行われたために1日休暇としたところ

もあった。しかし 、今 回は企業も休みにはできないし、オリンピックが

開催される16日間においてはます ます無理な話である。


北京市では17~20日の間、臨時に公共交通(バスやタ クシ ーは規制

適用外)を増やして対応するが、さて決して快適とはいえないバスや便
利と はいえない地下鉄がどれだけ自家用車の代わりとなってくれる

のか。

 実は、この奇数偶数振り分け規制「好運北京」後に明らかになるのは

車の大気 汚染 への影響ばかりではなく、たぶん北京の公共交通

インフラの欠点ではないかとわ たし は感じている。

今や国家経済を引っ張る一大パワーと化し、また「小康社会」作 りの
一つの基準値と見なされ、かつまた大きな税収を得ている自動車産業の

引き締め は、 政府も取りたくない方法のはずだ。

つまり、車が今後減ることはありえない。

今 回の目論見が成功したところで、オリンピック時の自動車所有台数は

さらに増えてい るだ ろう。

 だから結局、人々がどれだけ公共交通を信頼するかどうかが問題の

解決方法と なる わけだが、オリンピックに向けて建設中の新軌道

交通はまだどれも開通していな いし、 現状の交通手段の本数だけを

増したところで、オリンピック開催時のシミュレー ショ ンにはならない。


つまり、オリンピックに向けての問題解決策はさまざまに提案 されてい

るのだが、その問題解決の背中のボタンがこの期に及んでもまだ多く

が掛け違ったままなのだ。

 しかし、カウントダウン式典によって、政府から人々に北京オリン

ピックに向 けた 「スイッチオン」の号令が伝わった。

政府の号令がなければ何事も動かせないこ の国 において、こういった

儀式は人々にとって大きな意味を持つ。そして、この国では何 事も官

におけるボタンの掛け違いのしわ寄せが民に押し付けられることをよく知
って いる庶民たちは、オリンピックという世紀の祭典を心待ちにしつつ、

そのしわ寄 せを 避けようとするだろう――ここの人々はこれまで常に

そうやって生き抜いてきた のだ から。

 実際のところ、これからの1年間を中国がかなりの駆け足で進もうと

すること は想 像に難くない。その時になにが起こるのか、

どう起こるのか。こんな時よく引き 合い に出されるのが「中国共産党

崩壊論」だが、冷静に考えればこれが現実的ではな いこ とは分かる

はずだ。

「西洋の人権主義者たちが中国であれこれと抗議の声を挙げているとき、

なぜ中 国人 は自分の生活に多くの不満を抱えながらも、これほどまで

に達観し、落ち着いて いる のか? 最も根本的な理由は、彼らが個人

の権利と全局の利益の間の関係をいか に正 確に捉えるべきかを

分かっているという点にある。オリンピック申請の日から、 すべ ての中

国人は北京オリンピックを自分のことだと考え、オリンピックの成功を中
国人 全体の成功と栄誉だと見なしている。しかし、西洋の政客の一部

や仙人を気取る いわ ゆる人権組織は、オリンピック開催を中国の

少数の政権担当者の政治ゲームだと 見な し続けている。


このような間違った認識は、中国社会の現実に対する彼らの極度 な認
識不足を表すものであり、さらに実は彼らが中国庶民の考えや期待に

まったく関 心を 寄せていないことを証明するものだ」

(「杜平:北京オリンピックに向けた助力
を」
聨合早報・8月10日)

 さて、我われはいかにこの1年を見守っていくべきだろうか。
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ふるまいよしこ
フリーランスライター。北九州大学外国語学部中国学科卒。1987年

から香港 在住。
近年は香港と北京を往復しつつ、文化、芸術、庶民生活などの

角度から浮かび上 がる 中国社会の側面をリポートしている。

著書に『香港玉手箱』(石風社)。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4883440397/jmm05-22
個人サイト:
http://members.goo.ne.jp/home/wanzee