猛毒食品、毒入りペットフーズ問題のその後
「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成19年(2007年) 8月12日(日曜日)
通巻第1891号
猛毒食品、毒入りペットフーズ問題のその後
中国はどこまで事態を改善できたのか
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中国の食品安全を管理する「国家品質監督検査検疫総局」は、食品の
安全性に問 題がある42社に輸出禁止などの措置を取った
(その後、55社に拡大)。
このなかには日本向けのウナギのかば焼きを製造していた企業も含まれ、
うち33 社が輸出禁止とされた。米国向け17社、日本向けは11社。
とくに日本向けは鰻のほか、蟹の冷凍食品(大腸菌が検出された)、
ホタテの加 工食品、乾燥梨(二酸化硫黄が残留)。
一部業者は自主的に回収。この結果、業績が赤字転落の会社がこれから
出てくるだろう。
とくに豚肉の価格が急騰しはじめた。
インフレが顕著になった事態を中国共産党はことのほか恐れている。
理由は物価 暴騰が、庶民の怒りを誘い、暴動に発展する可能性が一番
たかいからだ。
▼大量のブタが死んでいた
5月に広東省で大量のブタが死んだという報道が初めてされた。
噂はその以前からしばしば伝えられていた。
筆者は五月にも北京にいたが、インフレ再燃にすこし驚いた。
四月頃から広東省雲浮市で高熱で死んだブタが300頭。これは「ブタ繁殖
呼吸 器障症候群」(PRRS)に依るものとされた。
死体を川 に捨てたりしたため感染が拡がった。
香港の「リンゴ日報」(5月7日)は「当該地区では80%のブタが怪死してい
る」と報じた。
豚肉が急騰したために材料の誤魔化しが横行し、段ボール入りの肉まん、
餃子も 7月には暴露された。
欧米では中国産のスナック菓子やら玩具(トーマス)。花火も爆発事故が
頻発 し、多くが中国製、かくて多くの品目が輸入禁止処分となった。
いずれ、この毒 入り食品による中国のダメージは巨大な損出となって
はね返ってきそうである。
豚肉の価格が本格的に急騰した。
北京市で1キログラム当たりの価格は21元程度。一方、ダンボール片は
約0. 8元。店主は肉まんを毎日少なくとも2000個販売し、材料代の
「節約」によ って1000元程度の不当な利益を得ていた。
このニセ肉まんが登場したのは10年前だという。
専門家は「この肉まんを食べると下痢や吐き気を誘発するだけでなく、
最悪の 場合は死に至ることもある」と指摘する。
さらにCCTVは北京市朝陽区の露天商が段ボール紙の破片を詰めた
ギョーザを市販 した容疑で逮捕されたと報じた。
段ボールギョーザも肉まん同様にダンボール紙と豚肉を6対4の比率で
混ぜて作 られていた。
これは、段ボール紙を水酸化ナトリウムに漬け、暗い色に変色させる念の
入れよ う。肉のにおいの香料まで添加していた。水酸化ナトリウムは
強アルカリ性でタ ンパク質を腐食させる性質があり、手で触れるのも危険な
物質だ。
ギョーザ製造業者は同局のインタビューに対し、「豚肉価格が上昇し、採算を
取 ろうと段ボールを使った」と話した。
その後、あれは「テレビ局のやらせ」という意図的な分析を流して事態の
収拾を 図ろうとした。
中国は猛毒イメージを消すのに躍起なのだ。
日本の某テレビが「不二家」問題で、やらせの演出を行い、それがばれた
結果 、不二家双胴が急速に納まったパターンを真似ようとしたらしい。
▼鼠が本能的に逃げ出していた
中国湖南省の洞庭湖一帯で、湿地帯に住む野ネズミ20億匹が湖の水位
上昇を避 けようと集落に押し寄せた。
同省岳陽県鹿角鎮政府は、野ネズミの侵入を防ぐため、600万元
(9664万円)の巨 費を投じ、長さ40キロ、高さ1メートルのセメントの壁を
建設することを決めた。
ネズミ撃退用の「万里の長城」は、野ネズミが越えにくいように壁を滑り
やすくし、それでも越えてきた場合は、粘度が高いディーゼル油などを
流した溝で野 ネズミが身動き一つ取れない状態にする構造。
一方、広東省の新聞、信息時報は、同省で洞庭湖で捕獲された野ネズミが
食用 として流通していると報じた。
大量に持ち込まれた野ネズミは1キログラム当たり20元(322円)で取引され、
飲 食店では野ネズミ料理が40-50元(640-800円)で提供されているという。
広州 市郊外のレストランでは、「三菜一湯」(料理3種にスープ1種)の
「野ネズミ最 高級フルコース」の販売を800元(1万2900円)で開始した。
中国湖北省の武漢にある湖で、大量の魚が死んだ。原因は、水質汚染。
死んだ魚 の量は、計5万キロ以上といわれる。
環境問題が深刻化する中国の大気や水質の汚染が、
日本への酸性雨や黄砂、日本海や東シナ海の水質汚染の原因になって
被害が広がっている。
▼環境破壊の実態を報道するな! と内部通達
環境汚染が原因と看られる死者は75万人と英国フィナンシャルタイムズが報じ
た(7月3日付け)。
とくに死亡が密集しているのは西北部だ。
世銀調査でも世界汚染都市20のうち、16が中国の都市である。空気の汚染に
よって寿命が短くなるのが特徴的、水の汚染で死ぬのも、毎年6000人前後だ
という。
水質汚染が消化器系に害悪をもたらし、胃ガン、肝臓癌が多い。
これは中国と世銀の共同調査によるもので、三月に内部報告がなされて、
140 ページほどのペーパーが作成公表される予定だった。
あまりの衝撃的数字に、中国が公表に「待った」をかけているという。
ことほど左様に騒ぎは一向におさまっていない。
♪
(読者の声1)出たばかりのある月刊誌随筆欄に、ローマの地から放たれた
一文 に次の件りがあります。
(引用開始)
「首相としての安倍氏は私にとって「買っていない」というよりも「好み」では
ない。政治という虚実絡み合う世界のリーダーとしては、誠実のあまりか
単純す ぎる。大衆民主主義時代の心理がわかっていない。
女はなぜ男に惚れるのかを、 考えたことはあるのだろうか。」
(引用止め)
まことにキツイ言辞です。
この一文を物した七十才の老スルメ嬢は、男に惚れる女心の機微もわから
ない安 倍首相は私の好みじゃないわと男盛りの同氏を一蹴します。
しかしこの老スルメ嬢は、歴史的に見て退潮期にある現下の日本で
政治空白や政 局不安定は何一つ良いことを生まない、
現在の日本に体力の空費は許されない、
つまり首相を替えることに耐えない状態だと断じます。
それゆえ安倍首相の頓珍 漢ぶりに容赦ない言葉の礫を投げ付けつつ、
同氏は心を入れ替え断固とした決意 で続投せよとの檄をイタリアの地から
飛ばします。
この檄文を先月末の選挙投票日一週間前にすでに書きあげていたとは、
ローマ時 代のあまたの英雄志士・貴顕名士を見つめてきたこの
老スルメ嬢の眼力のするど さと気炎のすさまじさを感じます。
一匹夫は同女史を敬しつつ間違っても近づかないことを肝に銘じます。
(HN生、横浜)
(宮崎正弘のコメント) 「老スルメ嬢」。なるほど“のしイカ”の類い?
某誌って、文藝春秋ですか。最近、半藤、保阪、立花の「論壇三馬鹿」を
愛用 しているメディア?
岡本ナントカとか、親米一辺倒の「論客」も問題だけど。。。
安倍首相。或る専門家の分析では長袖のシャツをまくってエネルギッシュ
なイ メージを演出するという、小泉流の色気を発揮できなかった。
ああいう「なで肩」の人はジャケットを着用した方が良いし、カメラ目線を
気に しすぎている。あっシーを下手に使いすぎ。
(「あっシー」って誰? と聞いた ら奥様のことらしい)。
要するに老スルメ嬢が指摘するように、男の色気がない、だから負けた。
廻り に人がいない。それも問題だろう、と言っておりました。
小生は選挙期間ずっと外国におりましたので、キャンペーンの演出方法に
つい てのコメントは控えます。
♪
(読者の声2) 井尻千男氏『男たちの数寄の魂』(清流出版)から、井尻氏の
ジャーナリステックな心情、怒れる魂が咆哮しているエピグラム(警句)をいく
つか掻い摘んでみます。
1)歴史と文化の連続性を担保する基盤は言葉であり、わが国の場合、幸い
一つ の 言語空間が連綿と保守されてきた。
形あるものがすべてが 破壊されても、言葉 の 豊饒さが保守されている限り
必ずや文化はよみがえるだろう。
先の大戦で焦土と 化 したわが国がみごとに復興できたのも、煎じ詰めれば
国語力の豊かさあってのこ と だろう。
その意味で私はかねて自分を「唯言論」者だと思っている。
2)かつて「観念左翼」という言い方があった。 実践を伴わない左翼人士を
揶揄 す る言葉だったわけだが、今日の文化状況からすると
「観念保守」という言い方が 成 立するのではないか。
長きにわたった保守党政権が、社会的経済的イノベーショ ン(革新)を
際限なくやり続けてきたからであろう。
保守すべきものを見失った 保 守政治、回帰すべきところを破壊してしまった
保守政治、その因果としての観念 保 守の急増。
保守の危機にほかならない。
3)今日のように、いくつになっても現役を誇りたがるというのは、一国の文化
と いう見地からいって必ずしもいいことではない。
あまりにも世俗的、あまりにも 散 文的といわねばならない。
もっといえば、いくつになっても若さを誇るというの は 馬鹿げたことである。
今日の日本人は男も女も「若さ」という強迫観念に囚われ 過 ぎている。
いったいどうしたことか。 平均寿命が驚異的に延び、昔の人の倍近く
も 生きるようになりながら、一方では未成熟な若者文化だけがもてはやされ、
成熟 し た男女がいなくなり、子どもっぽい大人がやたらと目立つ社会に
なった。
成熟社 会 という言葉はひんぱんにつかわれているが、いっこうに成熟しない
日本人と日本 文 化。
直観的にいえばおそらく世界中で最も幼稚な日本人。 それが今日のこの国の
文 化状況である。
還暦を過ぎても若々しく未成熟などというのは薄気味悪いことで あ る。
老いと死というものを真正面から見据えなくなったからだろう。
4)私は近年心底から、「未来志向」などといっている人間を軽蔑している。
こ れ はどうしようもない精神の幼稚化だ。
「未来、未来」といっていれば、たまさか 今 生きている自分達の浅はかさを
正当化できる。
過去の天才たちと対峙しないです む。
浅知恵を臆面もなく主張できる。
歴史対する恥を自覚しないですむ。それだ け のことだ。
5)人生のスピードというものは決断時における速さと、人生を駆け抜けていく
速 さとがある。もちろん、この二つが別のものであるはずがないが、
いつまでも権 力 にしがみついて、晩節を汚している人が多すぎる。
理由は意外に簡単で、引退後 の 人生をいきいきと想い描けないからだろう。
6)禁欲主義というもののひそかな快楽を飽かずに楽しみ持続できる精神、そこ
に は快楽についての逆説が隠されているのではないか。
たとえば、我が身を持て余 す ほどのエネルギーと生命力を授かった人間だけ
が禁欲主義(ストイシズム)を楽 し むことができるという逆説。
逆にさしたる生命力を授かっていない人間は、その 快 楽を味わうことが
できない。いや、これは逆説というより正説といわねばならな い。
古代ギリシアのストア学派が説いたことは、そういうことだったのではない か。
7)鈍翁(益田孝)、はじめ三渓(原富太郎)、即翁(畠山一清)、耳庵(松永
安 左衛門)、青山(根津嘉一郎)、古経楼(五島慶太)、逸翁(小林一三)、・・
・
この財界数寄者の系譜が戦後ぷっつり途絶えてしまったのは何故か。
よくいわれ る 理由は所得税の累進税率がきついために 、戦前のような
富裕階層がなくなった た めだというものだが、この説はにわかに信じがたい。
・・・ 今日の日本の富裕 階 層の人々は、もうほとんど和風文化を支持し買い
支えていない。 系譜不明の洋風 建 築の家を建て、ヨーロッパ直輸入の
家具調度品をそろえ、フランスかイタリアの ブ ランド品で身をよそおい、
フレンチかイタ飯を喰らい、高級外車にふんぞり返る 。
そして遊びといえば海外旅行とゴルフぐらいのものだ。・・・ 財界数寄者の系譜
が 途絶えたのは間違いなく精神史の問題といわねばならない。
もちろん戦前世代の 財 界数寄者たちが和風文化一辺倒だったわけではない。
殖産興業のリーダーとして 欧 米の文明文化に学び、追いつき追い越そうとした
のである。にもかかわらず和風 文 化の精華を買い支え享受した。
私はそこに近代日本を懸命に生きた男たちの歴史 的 宿命を感じて感動を
禁じえないのである。
近代日本の宿命としての二元論(引用 者 註;数寄者たちの日本の伝統文化の
破壊者にしてその守護者でもあるという二元 性)。
その条件は今日といえども変わらないはずだ。政治家や財界人、知識人にお
いても日本人である限り、その近代日本の宿命を免れることはできない。
以上の胸腔を刺し貫かれるような、寸鉄言の一つ一つに触れると、酷暑、猛暑は
どこかへ飛んでいってしまいます。まことに得がたい一書です。
(有楽生)
(宮崎正弘のコメント) 井尻氏が、まだ日経文化部におられて、毎週日曜日の
「とじ糸」というコラムを連載されていたときからの知り合いですが、ああいう
僅かのスペースに芥子を利かせる技法には注目していました。
今度の新刊も真っ先に読んで感動しました。
♪
(読者の声3) 毎号興味深い話題満載ですね。中国民族問題研究会『中国
民族 問題研究』(17号)の紹介がありました。
斯うあります。
「ドバイから上海へ飛んだ山崎朋信報告ではドバイから出稼ぎ帰りの
中国人が、 帰国 便がオーバー・ブッキングで乗れず、ところが賄賂を
つかって乗ってみると座席 をカー テンで仕切って乗務員が寝ていた!
その凄まじいリコ主義的腐敗が会社幹部の 知らない現場では
進んでいる」(引用止め)。
座席をカーテンで仕切って乗務員用の仮眠シートに使うのは機材によっては
珍し くないと思います。
エコノミーが満席でもデッドヘッドのクルーがビジネス席で ふんぞり返って
いるというのも世界各国のエアラインでよく見かける光景です。
15年ほど前ですが、取引先の女性社員(父親が日系エアライン国際線
パイロット) 、どんなチケットで乗っても常にビジネスかファーストに
アップグレード、操縦 席にも何度も入ったことがあると言っておりました。
赤字続きの現在ではこのよ うなことはないと思いたいですが。
(ちなみに日本でも昭和50年代までは国鉄の バッジをつけていれば私鉄・
バスはたいてい顔パスOKでした)
カシュガルについて書かれていましたが、新市街の小学校では漢族が
圧倒的、 旧市街の学校ではウイグル族が多かった。
民族別に学校を分けているのでしょう か。
中国のモスクを見るたびに思うのは、なぜイスラムの象徴である「月と星」の
星がないのだろうか、三日月だけのミナレットは共産党に急所を押さえられて
い るようにしか見えません。
五星紅旗の星をイスラムが使うことはまかりならん、ということでしょうか。
(PB生)
(宮崎正弘のコメント) マルクス主義は「知識人の阿片」と言ったのはフラン
スの哲学者レイモン・アロンでしたが、無神論の共産主義者にとって宗教は
敵で しょう。同じ一神教ですから。
ウィグルは小生儀、一度しか行ったことがないので、なんとも言えませんが、
モスクはひっそりと静まりかえり、コーランを探し求めたのですが、どこにもコ
ーランがない。
宗教音楽を収録したCDも売っていなかった。
ウズベキスタンにしても、カザフスタンにしても91年の独立直後にサウジア
ラビアとイランが『コルラン』の贈呈作戦を行い、金箔の聖典を大量に贈与した
。
嗚呼、悲しいかな。世俗イスラム国家は聖典を解釈できる僧侶が少なかった上
、ソ連時代70年の歳月の暗黒は、一日五回のお祈りも風習を大きく後退させて
いた。
しかもサウジのおくった聖典はアラビア語、イランからのそれはペルシア語でし
た。
せっかくのコーラン、金箔入り豪華本が20ドル、普及版(表紙だけ金箔があ
りました)が8ドルで、お土産屋さんで売られておりました。
先々週訪問したカザフスタン、キルギスも同様。というより町でコルランを見
ませんでしたね。
ロシア正教による『聖書』(キリル文字)は大量に売られていましたが。。。