ゆりかごから墓場まで~外国人の力を借りて | 日本のお姉さん

ゆりかごから墓場まで~外国人の力を借りて

ようちゃん、おすすめ記事。↓

『ロンドン~スクエア・マイルから』  第8 6回
「ゆりかごから墓場まで~外国人の力を借りて」

 風邪をこじらせたドイツ人の友人、登録しているGP(かかりつけ医)でみて
も らって戻ってくるとやけに立腹している。こんなんじゃおちおち病気にも

なれな いと。
スペイン出身のドクターに扁桃腺が腫れていると指摘されたらしい。ロンドンに
移住 してから2年がたつ彼は、ロンドンの物価高とサービスの質の低さによく

辟易し てい るが、この医者にはあきれたらしい。

何しろ、彼、数年前に扁桃腺をとってしま って おり、腫れるにも腫れようが

ないのである。

 こんなことは在英期間が長くなればなんとも思わない。

平熱の低い私が36度 5分 の微熱があると言えば「You are OK」とすまされ

(イギリス人の平熱は高いが、かと いってわざわざ医者まできてフラフラして

いる私に「OK」はないだろう)、水 疱瘡 の前兆があるので薬が欲しいといえば

(この歳でかかりました)、悪化してから 来い と言われ…、

こんなのはザラである。

 よく聞くのは、患者側がもらす「アレルギーですかね」「ストレスですかね」
など に、医者がそうですねと返答。

じゃぁ、と言って患者の言うがままに処方箋を出 すこ とが多いという話である。

医者にいったら何もしゃべらず症状だけ見せよなどと も言 われていた私で

あるが、前出の水疱瘡の件では、腕に出始めたポツポツをみせた もの の、

「甥っ子にうつされたかもしれない」と言うまで、実は水疱瘡の「み」の字
も医 者からは出てこなかったのである。正確には Chicken poxの「C」の字か。

 イギリスで病気になると、いや、なる前に、まず近所のGPに登録することに
なる。
なんでも屋なので、そこで面倒が見切れなくなると専門医や総合病院を紹介

する とい うシステム=NHS(国民保健制度)である。

これらはすべてタダ、といっても もち ろん税金で賄われている。

第二次世界大戦後に国民の健康状態の向上をはかった 「ゆ りかごから

墓場まで」政策としてスタートした制度で、保健省の管轄下、地域ご とに ある

NHSトラストが実際の運営にあたっている。

 何度かの引越しのたびに近所のGPを探しては登録してきた私だが、

今思えば 、白 人のイギリス人医師だったことは一度もなく、パキスタンや

インドと思われるア ジア 系の先生である。欧州大陸やインドなどから医師を

リクルートする話はよく聞い てい たし、中にはイギリス生まれのイギリス育ち

もいるかもしれないが、ただでさえ 言葉 の壁がある上に病気で思考能力が

劣っているときに、訛りの強い英語はつらいも のが ある。

といったことも、特にロンドンでは日常風景の一部みたいなものなので、
こう
いうものだと受け入れていたのだが、今回、村上編集長からイギリスにおける

外 国人医師比率の高さを指摘され、あらためてその特異さを意識した格好

である。特に 日本 では考えられないだろう。ドアを開けると、そこには外国人

医師が座っていた… …、 なんていうのは。

先月のグラスゴー空港でのテロに関してちょっと触れたが、実 行犯 は

インドから移住してきた医師で、NHS医師の46%を占める外国人医師の

一 人だ。

 2000/1年に、悪名高き「待ち時間の長さ」を短縮すべきNHSの大改革
がは かられている。GPに専門もしくは総合病院を紹介されてもすぐには

診察を受けられ ず4ヶ月近く待たされたり、緊急で病院に運ばれても医者に

見てもらうまで3-4時 間かかるなど、待ち時間の長さはNHSの代名詞にも

なっていて、欧州大陸など で治 療を受ける「医療ツアー」なるものまで存在

する。これを改善するために、もっ と医 者の数を増やせということで、

大々的な医師リクルートが展開されて、当時医師 余剰 といわれていた

スペイン、ドイツから医師の資格をもった人たちがイギリスにや って きている。

 海外からの医師輸入という手段は、1948年のNHS発足以来、必要に応じ
て行 われてきたことらしく、看護婦(師)にいたっては、東南アジアや

南アフリカか らの 登録者も多い。

 何が待ち時間を長くしているのか、外国人医師を必要としているのか。絶対

病 院数 (ベッド数)が足りないのか、医師への道が険しすぎるのか、医学費

がかかりす ぎる のか、医師という職業に魅力がないのか。

医師の給料に関しては、決して悪くな いと いう話であるが、それでも昨今の

金融シティのバブリーぶりと比較すると、医師 より は法律関係、金融関係の

ほうが魅力的に見えるとも。

 さて、いろいろとメディアを探ってみたが核心をつくものが見つからず、イギ
リス 人同僚に救いを求めると、実際に運営をしきるNHSトラストとその官僚

制度の 肥大 さが問題なのではないかと。

NHSトラストの数は300を超えていて、それぞ れに 政府から資金が提供

されるわけだが、トラスト内部の官僚主義が複雑レイヤー化して いて、肝心の

予算が末端のベッドにまで届いてなかったという話である。

 ということで、NHSドクターではなく、プライベート医として独立していく
医師 も多いと聞く。となれば、NHS医療を避けて、プライベート医療をうける

リッ チ層 (患者)も増加。待ち時間もなく衛生上も安心であるが(感染ウイルス

などNH S病 院のスタンダードの劣化が著しい)、その分個人負担は相当な

ものであり、医療 の世 界でもリッチとプアーの二極化が進んでいる。

リッチでない私であるが、診察が 4ヶ 月先では、いざという時、余命もふたも

ない、ということで、プライベート医療 用の 保険に入っており、なけなしの

給与の中から毎月天引きされている。

 長年の政府与党のスローガンとして上げられていた「NHSの改善、待ち時間
短縮 プラン」のもと、昨年までにNHSのトラストの数は約半分の153団体に

まで 減少、今年のNHSは赤字から脱出、黒字転換だという。

外国人看護婦(師)の登録も 抑制、 イギリス国内での教育・訓練に力を入れ

ていくのだとか。

 それでも、まだまだ外国人に頼る医療である。彼らのレベルがどうのこうので
はな く、冒頭であった扁桃腺ミス診断の医師のように、経験の浅い医師が

「何でも屋 GP」 として配属されざるを得ない現状はまだ続きそうだ。


ご参考:少し古くなるが、日医総研の森宏一郎氏によるイギリス医療レポート

「 医師 を輸入するイギリス 英国NHSの実態」が興味深い。
<http://www.jmari.med.or.jp/research/dl.php?no=230>

丸國 葉(まるくに・よう)
外資系銀行・東京支店勤務を経て、1998年渡英。MBA取得後、ロンドン金
融機
関にて勤務。個人サイト <http://yomarukuni.livedoor.biz/>
JMM [Japan Mail Media]                No.439 Thursday
Edition
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イギリスに住んでいる日本人女性のブログでも、イギリスで病気になったら

なかなか治療を受けられなくて大変だと書いてあった。

友達は外国人だが、イギリスで難しい医者の試験を受けて医者になった。

医者になるまで10年ぐらいは、試験を受け続けた。最近、テストが簡単に

なったのか、友達の英語がうまくなったのか、めでたく医者になれて、

喜んでいる。それまでは、イギリス人の奥さんが仕事をして、家計をささえ、

友達もずっと中古車販売のアルバイトをしながら勉強を続けていたのだ。

by日本のお姉さん