Re: 【ロシア政治経済ジャーナル】 No.467ロシア、CFE条約履行停止の背景
ロシア政治経済ジャーナル No.467
======================================================
★ロシア、CFE条約履行停止の背景~ロシア自信の源泉と米英トップ の苦悩
「しかし、現時点では米ロ対立が最後まで進む可能性が高いです。(涙)」「このように、今年世界はイラン問題・ロシア問題を中心に回っていくでしょう。見かけはイラク問題・北朝鮮問題ですが、実際はイランが最重要。 ロシア問題は重要でも、なかなか日本では報道されないでしょうね。RPEを読んでくださいということです。」
今回はドロドロ・米ロ冷戦に話を戻しましょう。
↓
「<CFE条約>ロシアが履行を一時停止 欧米と対決鮮明に7月14日20時36分配信 毎日新聞
【モスクワ大木俊治】ロシアのプーチン大統領は14日、欧州各国の通常兵器の保有数などを制限する欧州通常戦力(CFE)条約の履行を一時 停止する大統領令に署名した。大統領府が発表した。 ロシアは、米国など北大西洋条約機構(NATO)諸国の軍拡の動きに反 発を強め、条約で定められたロシア側の軍事力削減などの義務を一時 停止すると警告していた。 警告を実行に移したことで、欧米への対決姿勢を一層鮮明にした。」
ママミア! なんでこんなことになっちゃったのでしょうか?
▼CFE条約ってなんだ?
まず基本をきっちり抑えておきましょう。
欧州通常戦力(CFE)条約ってなんでしょうか? 第2次大戦終結後、欧州は二つの軍事ブロックに分断されました。 アメリカを中心とするNATO。 ロシア(ソ連)を中心とするワルシャワ条約機構。 両陣営は冷戦期、軍拡競争を繰り広げてきた。
1985年にゴルバチョフがソ連書記長に就任。米ソは和解にむかいます。 1990年11月19日、NATOとワルシャワ条約機構加盟22カ国は、CFE条約 に調印。
1、戦車 2、装甲戦闘車両 3、重火器 4、戦闘用航空機 5、攻撃ヘリコ プター5種類について、配備可能な総量の上限を定めたのです。
19 92年11月9日に発効しています。 しかし、90年代に欧州の状況は大きく変わりました。 ドイツが統一されたり、チェコスロバキアが分裂したり。なによりも、ワルシャワ条約機構が91年に解体してしまった。 こういう新しい状況を考慮しなければならない。
イスタンブールで99年11月19日、欧州安保協力機構(OSCE)首脳会 談が開かれ、修正条約が署名されました。 しかし、CFE修正条約を批准したのはロシア・カザフスタン・ウクライナ・ ベラルーシの4カ国のみ。 つまり、CFE修正条約は発効していないわけです。
この点、日本の新聞はあまり触れていませんが、さすが毎日新聞さんは書いています
↓
「同条約は90年に調印され、冷戦後の99年に修正された。 ロシアは批准したが、米国などNATO諸国は批准していない。」(毎日新聞7月14日)
それでロシア側は、「履行停止は、「他国が修正条約を批准するまで」 としています。
↓
「大統領令や補足文書によると、履行停止期間についてはNATO側がCFE 修正条約を批准するまでとした。」(7月14日共同)
わかりやすく、順番に並べてみましょう。
1、99年11月、CFE修正条約に署名
2、ロシアと旧ソ連3国は批准
3、アメリカをはじめNATO諸国は批准していない
4、よってCFE修正条約は発効していない
5、ロシアはこれまで自発的にCFE修正条約の内容を守ってきたが、それは (発効していないので)義務ではない
6、今回ロシアは、NATO諸国同様、条約の内容を守ることを停止した
7、停止期間は、NATO諸国が(ロシア同様)CFE修正条約を批准するまで である>
となります。 ところで、ロシアがCFE条約の履行を停止するとどうなるのでしょうか?
「ロシア側は欧州地域での兵力移動の通告義務からも解放されるという。」毎日新聞7月14日)
「具体的には北大西洋条約機構(NATO)への通常兵器に関する情報提供 や、NATOからの査察受け入れを中止することになる。」
(読売新聞7月14日)
「ロシアが一方的に履行停止したことで、軍事視察団の受け入れや露軍の
活動に関する情報提供も中止されることになり、欧州の不安定化を招く恐れも出てきた。」 (産経新聞7月14日)
なぜ? ロシアはなぜ、履行停止を宣言したのでしょうか? 理由は二つあります。
1、アメリカが東欧(チェコ・ポーランド)にMDを配備しようとしている
2、アメリカは、旧ソ連諸国(実質旧ロシア領)ウクライナ・グルジアをNATO に加盟させようとしている
「米国の東欧でのミサイル防衛(MD)施設建設計画に反発するロシアは、北大西洋条約機構(NATO)の一方的な軍備拡張などへの不満を背景に CFE条約からの脱退を警告してきた。」(7月14日共同)
ロシアとしては、東欧にMDが配備されるとか、対ロ軍事ブロックNATOが西の隣国ウクライナや南の隣国グルジアまで拡大されるのは容認しがた い。 これに対抗するのは、独立国家として当然のことでしょう。 ロシアは、MDとNATO拡大に反発し、CFE条約履行停止を決めた。 つまり、ロシア側の論理では、「最初に挑発したのはあんたたち(アメリカ)でしょ?」となる。
では、「なぜアメリカはMD配備とNATO拡大計画を推進しているの?」と いう話になりますね。
▼ロシアはアメリカ最大の脅威
現在世界は、アメリカを中心とする一極主義陣営と中ロを中心とする多極 主義陣営に分裂しています。
現在、戦いの中心は、イランとロシア。 そして、ロシアはアメリカ最大の脅威になっている。 昔からの読者さんはうざったいでしょが、新規読者さんもたくさんいます ので、両国関係をザッと振り返ってみましょう。
1、90年代
ソ連崩壊でボロボロになったロシアは、国際金融機関・欧米日から金をか りまくります。 金を借りる人は、金を貸してくれる人のいうことを聞かなければならない。 というわけで、ロシアは90年代、欧米のいうことを素直に聞くよい子だっ たのです。
2、プーチン登場
FSB(旧KGB)の長官だったプーチンは、99年に首相・00年に大統領にな りました。
KGB軍団はアメリカを心底憎んでいる。 米ロ激突は不可避な流れだったでしょう。 しかし、このことを00年時点で知っていたのは、世界でRPE読者のみなさ んだけでした。
3、ユコス問題
自国の石油枯渇が近づいているアメリカ。石油埋蔵量14%、天然ガス27%を占めるロシアの利権をなんとしてもゲットしたい。
しかしプーチンは、「石油・ガスを独占すればロシアの未来は明るい」と思 っている。
なぜか? 中国・インド・アジア・南米諸国等の経済成長で、石油需要はドンドン増え> ていく。そして、アメリカでもイギリスでもメキシコでも埋蔵量はなくなりつつあり、供給はへっていく。 つまり、長期的に石油価格は上昇せざるをえない。(ロシアは大儲け)
アメリカはロシアの石油最大手(当時)ユコスを買収しようとしますが、 プーチンは最高検に命令し、同社の社長ホドロコフスキーを逮捕してし まった。 買収は流れました。カラー革命 激怒したアメリカは、旧ソ連(ロシアの旧植民地)で革命を次々を起こし、
ロシア封じ込め政策を進めます。> 具体的には03年グルジア・04年ウクライナ・05年キルギス。 これを「トンデモ系」「陰謀論」と思う人は、タダの勉強不足です。 なんといっても、革命で失脚した前大統領が断言しているのですから。 03年11月29日付朝日新聞。「混乱の背景に外国情報機関 シェワルナゼ前大統領と会見
野党勢力の大規模デモで辞任に追い込まれたグルジアのシェワルナゼ前大 統領は28日、首都トビリシ市内の私邸で朝日新聞記者らと会見した。 大統領は混乱の背景に外国の情報機関がからんでいたとの見方を示し、グルジア情勢が不安定化を増すことに懸念を表明した。」
政変では米国の機関が重要な役割を果たした。半年前から米国の主導で『チューリップ革命』が周到に準備されていた」
(キルギス・アカエフ前大統領・時事通信05年4月7日).
5、中ロ一体化と上海協力機構の拡大
革命に怒ったプーチンは、中国と一体化し、アメリカを没落させることを決意。
05年、中ロは国境問題を解決し、大規模な合同軍事演習を実施します。 さらに両国が主導する上海協力機構は、イラン・インド・パキスタンを準加盟国とし、多極化推進の中心勢力になりました。
6、ロシア、「ルーブル」で石油を売るロシアは06年6月、ルーブルでの石油取引を開始しました。
これは、年間92兆円の経常赤字を抱えながらも、ドル基軸通貨体制でサバイバルしているアメリカの没落を加速させます。
このように、ロシアはアレヨアレヨというまにアメリカ最大の脅威になった。 それで 7、アメリカ、東欧MD配備・NATO拡大計画を推進。CFE条約履行を停止 という流れなのです。 もちろん、前々号で書いたように、米ロによる欧州の取り合いという意味もあります。
▼ロシア、自信の源泉
もう少し詳しく「なぜロシアはアメリカの脅威なのか?」という話をしましょう。
1、ロシアは経済的自立を達成している> 他国を支配するもっともいい方法は、借金漬けにし、金を貸しまくることです。「金を借りたければいうこと聞け!」といえば、財政が苦しい国の支配者はいうことを聞く。 ソ連崩壊後、ロシア経済はボロボロで、財政も破綻していた。
ロシアは、アメリカ・西欧・日本・そして国際金融機関から金を借りまくっていたので、発言権は一切ありませんでした。
ところが今は?
・対外債務を完済
・恒常的財政黒字・経常黒字国
・外貨準備で世界3位(1位中国・2位日本)
ロシア政府は現在、「金を借りる必要はありませんから、アメリカのいうこと も聞きません」といえる立場。
2、軍事的自立
金を貸すよりもっと過激な方法は、軍事的に支配するこ(あるいは軍事力を背景に支配すること。) 例えば、日本はアメリカに金を貸しまくっていますが、全国津々浦々に米軍がいて、逆に支配されている状態です。アメリカは、ユーゴ・アフガン・イラクなどの政権を、軍事力を行使し崩壊させました。 例えば、イスラム教のサウジアラビア・クウェート・アラブ首長国連邦は、石油大国・金満国でありながら、アメリカに従っています。 これはアメリカの軍事力が怖いから。 では、ロシアはどうなのでしょうか? ロシアはアメリカ同様、地球を何十回も破壊しつくせる核兵器をもっている。そして、MDを突破する技術ももっています。露、新型ミサイル発射実験成功 米MD無力化“照準”
5月31日8時0分配信 産経新聞
モスクワ=内藤泰朗】ロシアは29日、開発中の多弾頭型大陸間弾道 ミサイル(ICBM)など2種類の新型ミサイル発射実験を行い、いずれも 成功したと発表した。」 つまりアメリカは、ロシアを軍事的に支配するとか、(軍事力を背景にした)脅迫により、服従させることができないのです。
3、石油とガスを支配: 世界の指導者たちは、
・中国・インド・その他の国々の経済発展により、石油需要は増加しつづけ る
・石油の次は天然ガスの時代がくる
・新エネルギーの普及は進まない
・石油枯渇が近づいていて、供給は頭打ちになる方向である 等々の事実を知っています。
つまり、「石油・ガスを支配する国が21世紀の覇権を握る」ことを知っている。 それで、アメリカは中東支配に一生懸命。 中国も、ロシア・中央アジア・中東・アフリカ・南米等々、全世界で資源外交を展開している。 さらに、南シナ海の覇権を確保すべく動いています。 ロシアは1国で、世界の石油総埋蔵量の14%を占め、天然ガスは27%でダ ントツ世界1。しかも、欧米オイルメジャーをロシアから追い出し、自国の資源を独占しようとしている。 アメリカは、軍事力を背景に中東産油国を脅迫し、石油を確保できました。
しかし、ロシアは脅迫を跳ね返せる軍事力をもっている。 これは、石油(と金融)により富を増大させ、世界を牛耳ってきた米英エスタブッシュメントにとって、驚愕の事態なのです。
4、ドル体制を崩壊しうる 財政が健全で軍事的脅威も跳ね返せる。
そんなロシアが石油とガスを握っている。 ロシアは、思うままに「ルーブル」や「ユーロ」で石油を売れるようになります。 ただあまり急激にやると、ドルが大暴落し世界恐慌が起こるので、ゆっくりと事を進めている。 既に、世界の行方は、中ロ多極主義陣営のサジ加減によってきまる状況になりつつあるのです。過去数百年間、我々が経験しなかった勢いで国際システムが変化している。かつては、米国は解決策のある問題と取り組んできたが、今や長い時間をかけて調整する時代にさしかかっている」(キッシンジャー)
今、米英は気合を入れてロシアバッシングをしています。 その背景には、これまで書いてきたような、米英支配層を気絶させる事態がある。 これから日本を変革されるRPE読者の皆さんは、この現実を知っておいてください。ところで、この急激に変化する世界の中で、日本はどうすればいいのでしょうか? (おわり)
北野幸伯(きたの よしのり)
======================================================
★ロシア、CFE条約履行停止の背景~ロシア自信の源泉と米英トップ の苦悩
「しかし、現時点では米ロ対立が最後まで進む可能性が高いです。(涙)」「このように、今年世界はイラン問題・ロシア問題を中心に回っていくでしょう。見かけはイラク問題・北朝鮮問題ですが、実際はイランが最重要。 ロシア問題は重要でも、なかなか日本では報道されないでしょうね。RPEを読んでくださいということです。」
今回はドロドロ・米ロ冷戦に話を戻しましょう。
↓
「<CFE条約>ロシアが履行を一時停止 欧米と対決鮮明に7月14日20時36分配信 毎日新聞
【モスクワ大木俊治】ロシアのプーチン大統領は14日、欧州各国の通常兵器の保有数などを制限する欧州通常戦力(CFE)条約の履行を一時 停止する大統領令に署名した。大統領府が発表した。 ロシアは、米国など北大西洋条約機構(NATO)諸国の軍拡の動きに反 発を強め、条約で定められたロシア側の軍事力削減などの義務を一時 停止すると警告していた。 警告を実行に移したことで、欧米への対決姿勢を一層鮮明にした。」
ママミア! なんでこんなことになっちゃったのでしょうか?
▼CFE条約ってなんだ?
まず基本をきっちり抑えておきましょう。
欧州通常戦力(CFE)条約ってなんでしょうか? 第2次大戦終結後、欧州は二つの軍事ブロックに分断されました。 アメリカを中心とするNATO。 ロシア(ソ連)を中心とするワルシャワ条約機構。 両陣営は冷戦期、軍拡競争を繰り広げてきた。
1985年にゴルバチョフがソ連書記長に就任。米ソは和解にむかいます。 1990年11月19日、NATOとワルシャワ条約機構加盟22カ国は、CFE条約 に調印。
1、戦車 2、装甲戦闘車両 3、重火器 4、戦闘用航空機 5、攻撃ヘリコ プター5種類について、配備可能な総量の上限を定めたのです。
19 92年11月9日に発効しています。 しかし、90年代に欧州の状況は大きく変わりました。 ドイツが統一されたり、チェコスロバキアが分裂したり。なによりも、ワルシャワ条約機構が91年に解体してしまった。 こういう新しい状況を考慮しなければならない。
イスタンブールで99年11月19日、欧州安保協力機構(OSCE)首脳会 談が開かれ、修正条約が署名されました。 しかし、CFE修正条約を批准したのはロシア・カザフスタン・ウクライナ・ ベラルーシの4カ国のみ。 つまり、CFE修正条約は発効していないわけです。
この点、日本の新聞はあまり触れていませんが、さすが毎日新聞さんは書いています
↓
「同条約は90年に調印され、冷戦後の99年に修正された。 ロシアは批准したが、米国などNATO諸国は批准していない。」(毎日新聞7月14日)
それでロシア側は、「履行停止は、「他国が修正条約を批准するまで」 としています。
↓
「大統領令や補足文書によると、履行停止期間についてはNATO側がCFE 修正条約を批准するまでとした。」(7月14日共同)
わかりやすく、順番に並べてみましょう。
1、99年11月、CFE修正条約に署名
2、ロシアと旧ソ連3国は批准
3、アメリカをはじめNATO諸国は批准していない
4、よってCFE修正条約は発効していない
5、ロシアはこれまで自発的にCFE修正条約の内容を守ってきたが、それは (発効していないので)義務ではない
6、今回ロシアは、NATO諸国同様、条約の内容を守ることを停止した
7、停止期間は、NATO諸国が(ロシア同様)CFE修正条約を批准するまで である>
となります。 ところで、ロシアがCFE条約の履行を停止するとどうなるのでしょうか?
「ロシア側は欧州地域での兵力移動の通告義務からも解放されるという。」毎日新聞7月14日)
「具体的には北大西洋条約機構(NATO)への通常兵器に関する情報提供 や、NATOからの査察受け入れを中止することになる。」
(読売新聞7月14日)
「ロシアが一方的に履行停止したことで、軍事視察団の受け入れや露軍の
活動に関する情報提供も中止されることになり、欧州の不安定化を招く恐れも出てきた。」 (産経新聞7月14日)
なぜ? ロシアはなぜ、履行停止を宣言したのでしょうか? 理由は二つあります。
1、アメリカが東欧(チェコ・ポーランド)にMDを配備しようとしている
2、アメリカは、旧ソ連諸国(実質旧ロシア領)ウクライナ・グルジアをNATO に加盟させようとしている
「米国の東欧でのミサイル防衛(MD)施設建設計画に反発するロシアは、北大西洋条約機構(NATO)の一方的な軍備拡張などへの不満を背景に CFE条約からの脱退を警告してきた。」(7月14日共同)
ロシアとしては、東欧にMDが配備されるとか、対ロ軍事ブロックNATOが西の隣国ウクライナや南の隣国グルジアまで拡大されるのは容認しがた い。 これに対抗するのは、独立国家として当然のことでしょう。 ロシアは、MDとNATO拡大に反発し、CFE条約履行停止を決めた。 つまり、ロシア側の論理では、「最初に挑発したのはあんたたち(アメリカ)でしょ?」となる。
では、「なぜアメリカはMD配備とNATO拡大計画を推進しているの?」と いう話になりますね。
▼ロシアはアメリカ最大の脅威
現在世界は、アメリカを中心とする一極主義陣営と中ロを中心とする多極 主義陣営に分裂しています。
現在、戦いの中心は、イランとロシア。 そして、ロシアはアメリカ最大の脅威になっている。 昔からの読者さんはうざったいでしょが、新規読者さんもたくさんいます ので、両国関係をザッと振り返ってみましょう。
1、90年代
ソ連崩壊でボロボロになったロシアは、国際金融機関・欧米日から金をか りまくります。 金を借りる人は、金を貸してくれる人のいうことを聞かなければならない。 というわけで、ロシアは90年代、欧米のいうことを素直に聞くよい子だっ たのです。
2、プーチン登場
FSB(旧KGB)の長官だったプーチンは、99年に首相・00年に大統領にな りました。
KGB軍団はアメリカを心底憎んでいる。 米ロ激突は不可避な流れだったでしょう。 しかし、このことを00年時点で知っていたのは、世界でRPE読者のみなさ んだけでした。
3、ユコス問題
自国の石油枯渇が近づいているアメリカ。石油埋蔵量14%、天然ガス27%を占めるロシアの利権をなんとしてもゲットしたい。
しかしプーチンは、「石油・ガスを独占すればロシアの未来は明るい」と思 っている。
なぜか? 中国・インド・アジア・南米諸国等の経済成長で、石油需要はドンドン増え> ていく。そして、アメリカでもイギリスでもメキシコでも埋蔵量はなくなりつつあり、供給はへっていく。 つまり、長期的に石油価格は上昇せざるをえない。(ロシアは大儲け)
アメリカはロシアの石油最大手(当時)ユコスを買収しようとしますが、 プーチンは最高検に命令し、同社の社長ホドロコフスキーを逮捕してし まった。 買収は流れました。カラー革命 激怒したアメリカは、旧ソ連(ロシアの旧植民地)で革命を次々を起こし、
ロシア封じ込め政策を進めます。> 具体的には03年グルジア・04年ウクライナ・05年キルギス。 これを「トンデモ系」「陰謀論」と思う人は、タダの勉強不足です。 なんといっても、革命で失脚した前大統領が断言しているのですから。 03年11月29日付朝日新聞。「混乱の背景に外国情報機関 シェワルナゼ前大統領と会見
野党勢力の大規模デモで辞任に追い込まれたグルジアのシェワルナゼ前大 統領は28日、首都トビリシ市内の私邸で朝日新聞記者らと会見した。 大統領は混乱の背景に外国の情報機関がからんでいたとの見方を示し、グルジア情勢が不安定化を増すことに懸念を表明した。」
政変では米国の機関が重要な役割を果たした。半年前から米国の主導で『チューリップ革命』が周到に準備されていた」
(キルギス・アカエフ前大統領・時事通信05年4月7日).
5、中ロ一体化と上海協力機構の拡大
革命に怒ったプーチンは、中国と一体化し、アメリカを没落させることを決意。
05年、中ロは国境問題を解決し、大規模な合同軍事演習を実施します。 さらに両国が主導する上海協力機構は、イラン・インド・パキスタンを準加盟国とし、多極化推進の中心勢力になりました。
6、ロシア、「ルーブル」で石油を売るロシアは06年6月、ルーブルでの石油取引を開始しました。
これは、年間92兆円の経常赤字を抱えながらも、ドル基軸通貨体制でサバイバルしているアメリカの没落を加速させます。
このように、ロシアはアレヨアレヨというまにアメリカ最大の脅威になった。 それで 7、アメリカ、東欧MD配備・NATO拡大計画を推進。CFE条約履行を停止 という流れなのです。 もちろん、前々号で書いたように、米ロによる欧州の取り合いという意味もあります。
▼ロシア、自信の源泉
もう少し詳しく「なぜロシアはアメリカの脅威なのか?」という話をしましょう。
1、ロシアは経済的自立を達成している> 他国を支配するもっともいい方法は、借金漬けにし、金を貸しまくることです。「金を借りたければいうこと聞け!」といえば、財政が苦しい国の支配者はいうことを聞く。 ソ連崩壊後、ロシア経済はボロボロで、財政も破綻していた。
ロシアは、アメリカ・西欧・日本・そして国際金融機関から金を借りまくっていたので、発言権は一切ありませんでした。
ところが今は?
・対外債務を完済
・恒常的財政黒字・経常黒字国
・外貨準備で世界3位(1位中国・2位日本)
ロシア政府は現在、「金を借りる必要はありませんから、アメリカのいうこと も聞きません」といえる立場。
2、軍事的自立
金を貸すよりもっと過激な方法は、軍事的に支配するこ(あるいは軍事力を背景に支配すること。) 例えば、日本はアメリカに金を貸しまくっていますが、全国津々浦々に米軍がいて、逆に支配されている状態です。アメリカは、ユーゴ・アフガン・イラクなどの政権を、軍事力を行使し崩壊させました。 例えば、イスラム教のサウジアラビア・クウェート・アラブ首長国連邦は、石油大国・金満国でありながら、アメリカに従っています。 これはアメリカの軍事力が怖いから。 では、ロシアはどうなのでしょうか? ロシアはアメリカ同様、地球を何十回も破壊しつくせる核兵器をもっている。そして、MDを突破する技術ももっています。露、新型ミサイル発射実験成功 米MD無力化“照準”
5月31日8時0分配信 産経新聞
モスクワ=内藤泰朗】ロシアは29日、開発中の多弾頭型大陸間弾道 ミサイル(ICBM)など2種類の新型ミサイル発射実験を行い、いずれも 成功したと発表した。」 つまりアメリカは、ロシアを軍事的に支配するとか、(軍事力を背景にした)脅迫により、服従させることができないのです。
3、石油とガスを支配: 世界の指導者たちは、
・中国・インド・その他の国々の経済発展により、石油需要は増加しつづけ る
・石油の次は天然ガスの時代がくる
・新エネルギーの普及は進まない
・石油枯渇が近づいていて、供給は頭打ちになる方向である 等々の事実を知っています。
つまり、「石油・ガスを支配する国が21世紀の覇権を握る」ことを知っている。 それで、アメリカは中東支配に一生懸命。 中国も、ロシア・中央アジア・中東・アフリカ・南米等々、全世界で資源外交を展開している。 さらに、南シナ海の覇権を確保すべく動いています。 ロシアは1国で、世界の石油総埋蔵量の14%を占め、天然ガスは27%でダ ントツ世界1。しかも、欧米オイルメジャーをロシアから追い出し、自国の資源を独占しようとしている。 アメリカは、軍事力を背景に中東産油国を脅迫し、石油を確保できました。
しかし、ロシアは脅迫を跳ね返せる軍事力をもっている。 これは、石油(と金融)により富を増大させ、世界を牛耳ってきた米英エスタブッシュメントにとって、驚愕の事態なのです。
4、ドル体制を崩壊しうる 財政が健全で軍事的脅威も跳ね返せる。
そんなロシアが石油とガスを握っている。 ロシアは、思うままに「ルーブル」や「ユーロ」で石油を売れるようになります。 ただあまり急激にやると、ドルが大暴落し世界恐慌が起こるので、ゆっくりと事を進めている。 既に、世界の行方は、中ロ多極主義陣営のサジ加減によってきまる状況になりつつあるのです。過去数百年間、我々が経験しなかった勢いで国際システムが変化している。かつては、米国は解決策のある問題と取り組んできたが、今や長い時間をかけて調整する時代にさしかかっている」(キッシンジャー)
今、米英は気合を入れてロシアバッシングをしています。 その背景には、これまで書いてきたような、米英支配層を気絶させる事態がある。 これから日本を変革されるRPE読者の皆さんは、この現実を知っておいてください。ところで、この急激に変化する世界の中で、日本はどうすればいいのでしょうか? (おわり)
北野幸伯(きたの よしのり)