中国の軍拡をどう読むかーーアメリカ政府の考察から(3)
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▼中国の軍拡をどう読むかーーアメリカ政府の考察から(3)(古森義久氏)
以上(これまでの紹介)は報告書の「要約」の一部をほぼそのまま紹介した記述である。
だから「アジア太平洋を越えた意味合い」などという婉曲な表現もある。だがこれは直裁にいえば、アメリカ本土にまで脅威が及ぶ、という意味であろう。要するに中国は台湾だけでなく東アジア全域、ひいてはアメリカ本土までをにらんだ軍事戦略や軍事態勢を築き始めた、という認識なのである。このアメリカの認識は日本にとってもきわめて深刻な意味を持つ中国の軍拡の現実を指し示しているのだ。では次に報告書から中国の軍拡について具体的な兵器類の増強についてみていこう。
〔戦略核ミサイル〕
中国はアメリカにも届く戦略的な核攻撃戦力を質量ともに増強している。米側がもっとも脅威を感じているのは射程一万一千キロの新型DF31A型ICBMで、二〇〇七年中にも開発が終わるとみられている。射程七千二百キロのDF31型ICBMは昨年、開発が終わり、すでにアメリカに向けて配備されたという。潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)も射程はICBMより短くてもアメリカ本土に直接、到達するという意味で戦略核兵器に含まれる場合が多いが、中国はこの分野でもすでに配備ずみのJL1型SLBM(射程千八百キロ、合計十数基保有)に加えて、新たにJL2型SLBM(射程八千キロ)を開発中で、二〇〇七年から二〇一〇年までに実戦配備になると予測される。
アメリカ本土を直撃できる核ミサイルとしては中国は液体燃料によるサイロ配備のCSS4型ICBM(射程一万三千キロ)合計二十基を近年、一貫して配備してきた。射程五千五百キロの固体燃料使用CSS3型ICBM二十数基も長年、配備され、アメリカへの抑止や攻撃を究極の目的としてきた。このCSS3と同4とがこれまでアメリカへの直接の脅威だったのだが、こんご二〇一〇年ごろまでに前述のDF31やJL1、同2の新配備で中国の戦略核ミサイル群は従来よりずっと柔軟で生存性の高い核戦力となっていく。つまりアメリカにとっての核の脅威が高まるわけだ。
〔中距離・短距離弾道ミサイル〕
中国軍はこのカテゴリーのミサイルは台湾や日本を射程内においている。その範囲内の米軍部隊は有事にはもちろん最大の標的となるわけだ。この部類のミサイルでは後述するように、核弾頭と非核の通常弾頭との両方が装備されうるという中国独特の戦術が不安定要因を高めている。この種のミサイルとしては液体燃料のCSS2型という射程二千八百キロの長・中距離弾道ミサイル(IRBM)が十基前後、CSS5型とされる射程千八百キロの中距離弾道ミサイル(MRBM)が約五十基、CSS6型という射程六百キロの短距離弾道ミサイル(SRBM)が三百基から三百五十基、CSS7型という短距離弾道ミサイルが五百七十五基から六百二十五基がそれぞれ、すでに配備されているという。
短距離弾道ミサイルの大多数は台湾を標的として福建省内外に配備され、その総数は二〇〇六年十月の時点で九百基に達し、中国軍はなお毎年百基の急ピッチで増強を進めている。
〔海軍戦力〕
中国海軍は主要戦闘艦七十二隻、攻撃用潜水艦五十八隻、中型以上の上陸用舟艇五十隻などが主体だが、全体として増強を進めており、とくに潜水艦戦力の強化が顕著となっている。中国は弾道核ミサイル搭載の原子力潜水艦五隻をすでに保有しているが、新たに第二世代の戦略ミサイル搭載原潜094級と攻撃用原潜093級を同時に開発中で、両級とも二〇〇五年にはすでに試験航行を終えた。中国は最近、ロシア製のディーゼル潜水艦キロ級二隻を受け取り、二〇〇二年に調印した購入契約分八隻すべての取得を終えた。これで合計十二隻のキロ級潜水艦を配備したことになる。ディーゼル潜水艦では世界最高の性能を持つとされるキロ級艦には超音速のSSN27Bミサイルや有線誘導の特殊水雷などの新鋭兵器が搭載されている。
中国は二〇〇六年後半にはロシアから新鋭の誘導ミサイル装備駆逐艦のソブレメンヌイⅡ級の二隻目を購入取得した。同型は中国海軍がすでにロシアから買って、配備しているソブレメンヌイ在来級よりずっと総合的戦力がすぐれている。中国は二〇〇六年にはさらに初の国産の誘導ミサイル搭載フリゲート艦054A級の生産を開始した。人民解放軍装備部門の最高幹部らは二〇〇六年十月ごろから中国の珠海での航空ショーなどで「航空母艦の自国生産の方法を習得したい」とか「海洋での作戦では空母の存在が不可欠だろう」などと言明するようになった。中国は空母の取得には一九七〇年代から関心を示し、以後、オーストラリアから「メルボルン」、旧ソ連あるいはロシアから「ミンスク」「キエフ」などの老朽空母を購入して、研究を重ねてきた。一九九八年にはウクライナから空母「バリヤーグ」を輸入して、さらに調査や研究を続けてきたが、国産空母建設の意図が強くなり、二〇一五年ぐらいを目標とする建設計画が内定したとも伝えられる。
〔航空戦力〕
中国の空軍と海軍航空部隊を合わせていま戦闘機は合計千五百五十機(うち台湾有事に出動できる態勢にあるのが四百二十五機)、爆撃機が合計七百七十五機(同二百七十五機)、輸送機が合計四百五十機(同七十五機)となっている。全体として中国の航空戦力は旧式の軍用機が大多数だったが、近年は大幅な近代化が進んできた。中国軍当局は純粋な国産の主要戦闘機としてはF10多目的戦闘機の配備を始めた。旧式のFB7戦闘機の改良も進み、夜間海上での攻撃能力を持つ新型が開発されつつある。
一方、中国は旧ソ連さらにロシアからのSU27SK戦闘機の大量購入に続く、自国内での同機ライセンス生産、さらに最新鋭のSU27MK戦闘機のライセンス生産へとすでに進んでいる。最近では多目的のSU30MKK戦闘爆撃機、海軍用のSU30MK2戦闘爆撃機をも取得し、配備を始めた。
〔宇宙戦略〕
中国が二〇〇七年一月に実行した衛星破壊実験は宇宙を軍事目的に利用とする長期戦略の表れとしてアメリカ側に衝撃を与えた。
中国の衛星破壊兵器(ASAT)は台湾有事などの際にアメリカや台湾、日本などの軍事、経済、政治の人工衛星依存の機能を破壊することを目的とする。アメリカはとくに宇宙に打ち上げた人工衛星の通信など各種の機能を軍事作戦の遂行に利用する度合いを近年、急速に高めており、中国がその衛星を破壊する兵器の開発を進めているとなると、宇宙利用でも米中の激しい対立が生じることになる。
中国自身も宇宙を単にアメリカの軍事関連活動を妨害するためだけでなく、自国の軍事行動のためにも使う戦略的利用への取り組みを急速に進めている。中国は現在までに通信衛星十四個、海上航行衛星三個、気象衛星三個、遠隔映像撮影衛星六個、科学衛星八個などを打ち上げた。この種の人工衛星を組み合わせ、宇宙配備の兵器体系を築こうとする動きもすでに明白となってきた。(つづく)