ひとりを死刑にして幕引きをはかる
「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成19年(2007年) 5月31日(木曜日)
通巻第1812号 (5月30日発行)
食品管理責任者だけを死刑にしても問題は解決しない
「能力」とは職能権限、その範囲内でどれほどの賄賂を取るかが中国語
の意味だ
▼毒入り食料品の輸出責任をひとりに帰結させ幕引きをはかる中国
泣いて馬謖を斬る、と比喩すればすこしニュアンスが異なるだろうが、
みんながやっている汚職なのに、なぜ自分だけが死刑? と鄭篠莫
(ティン・ショウヨを音訳)被告は思ったことだろう。
「かれが新薬の申請で出鱈目な審査をして製薬企業から受領していた
賄賂は人民元で645万元。香港ドルで百万元。米ドルで三万ドル!」(
新華社、5月29日)。
この中央官庁の汚職が毒入り食品の輸出を米国、パナマなどへ
黙認させ、被害が甚大となって中国のイメージを世界的規模で
大きく傷つけた。
被告の鄭は福建省福州出身で復旦大学卒業組。
国営製薬企業を経て、94年に党組織の書記、98年から国家薬品管理
局長に就任していた。
その立場を利用して新薬認可に賄賂を要求し、息子と妻が代理業務を
展開、懸命に蓄財に励んでいた。
北京市第一中級人民法院(地裁)は世界に悪名を確認させた毒入り
食品などで、中国の製薬会社から輸出検査を誤魔化すために賄賂を
取っていたとして前国家食品薬品監督管理局長の鄭篠莫(音訳)に
死刑の実刑判決を言い渡した。
共産党高官への死刑判決は江西省前副省長だった胡長清と全人大
前副委員長だった成克杰の貳例が、近年確認されているのみ。
「これで鄭が死刑なら、汚職の汚水に浸る幾千万人の幹部も
同罪ではないのか」(香港『リンゴ日報』、5月29日)。
この事件、日本のマスコミは殆どゴミ記事扱いか無視しているが、
IHT(インタナショナル・ヘラルド・トリビューン)は一面トップである
(同紙5月30日付け)。
パナマで365人の死亡が確認された中国製風邪薬。
全米で犬猫4000匹が死んだ、中国製ペットフーズ、ドミニカで発覚した
毒入り歯磨き粉などなど。
いずれも中国における輸出検査を誤魔化し、米国における輸入検査も
ラベルを貼り替えたりして誤魔化してきた。
中身に毒を入れても平気なビジネス感覚は日本人の想像を絶する。
(さすが騙しの天才たちの国だなぁ)
▼賄賂を一族のために貯めるのは文化
鄭管理局長は中国の製薬会社提出の出鱈目な輸出申請書類や承認
申請でろくな検査もしないで迅速に新薬を承認した。
このうちの六種類は偽薬だった罪を問われ、「医薬品の監督官庁トップが
国民の生命と健康に危害を与えた」ことが死刑判決の理由とされた。
中国の医薬、食品への拒否反応が世界的に拡がった責任を一人に
負わせた。
「これは民衆の不満をガス抜きする措置でしかない」(『多維網』、30日付け)。
同日、食品衛生を管理する中国政府当局は、輸出許可を得ていない
「違法食品」が大量に海外に出回っている実態を遅まきながら認めた。
中国の国家品質監督検査検疫総局などによると4月に米国が中国から
輸入した、”問題食料品”のなかの、実に56%以上が無許可だった
事実も発覚した。
米国の怒りはおさまらない。
反中論調の横溢だが、この強い対中国不満の空気も日本には伝わって
いない様子である。
中国に対し改善を要求し、いまや全米の港湾は中国からの輸入品が堆く
積み上げられて検疫と通関を待っている状態。
米側が強く求めているのは
(1)米国向けに食品や飼料、医薬品を輸出する企業の登録を義務付ける
こと。
(2)未登録企業の輸出禁止。
(3)米国厚生省・食品医薬品局(FDA)の検査官による現地企業の査察
実施と、その協力体制の確立などだ。
3月に発覚したペットフード事件は、石炭の廃材を使った有機化合物
メラミンをプロテイン(蛋白質)と偽って申告していた。
これらは米国で大規模な訴訟に発展するだろう。
毒入り歯磨き粉には致死量のジエチレングリコールが混入していた。
これはドミニカばかりかパナマ、オーストラリアでも発見された。
四月にはパナマ・ウィルスに罹ったとされた海南島産バナナの
不買運動があった。
▼毒入りフグを「アンコウ」と偽って。。
ついで「中国産アンコウ」と表示された箱入りの魚でシカゴの住民2人が
病院に担ぎ込まれた。
台湾の有力紙『自由時報』(5月26日)はカラー写真入りで大きく報じて
いる。
「黒心又一椿、中国安康魚 輸美、毒傷人」(よこしまな業者が
アンコウと偽って米国へ輸出、二人が被害)。
検査の結果、当該魚からは、フグ毒「テトロドトキシン」が検出された。
米国FDAの調べでは、フグをアンコウと偽表示して米国に輸出されたという。
日本でも数年前に基準を超えた抗菌性物質が検出された中国産ウナギ。
発がん性物質が含まれていた乾燥果実などが問題となった。
最近も「07年一月に北海道でNITORI商標の中国製砂鍋に基準を遙か
に超える鉛が付着して銀色に光っており、輸入業者は全量を回収すると
いう事件が札幌で起きた」(同『自由時報』)。
ま、いずれにしても高官ひとりを犠牲の山羊として、事態の収束を図ろう
としているわけだが、中国から賄賂文化が消え去る筈もなく、そもそも
中国語における「能力」とは与えられた、或いは買収で得た
職能、職権の範囲内で、どれほどの賄賂を稼いで一族が肥るかという
「能力」のことを意味しているのだから、改善の可能性は極めて薄いのである。
(「商業道徳」を中国に求める? 無駄だとは思いますが。。)
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(読者の声1)安倍内閣の松岡大臣が自ら首を括りましたが、そんな潔さの
微塵もないのが日本海を隔てた馬賊集団の首領さま。
その首領さまの健康悪化情報は一大事!
”暖衣飽食・酒池肉林、鮮し仁”を全うし終えようとしているのが、この
馬賊集団の首領さま。この集団が自壊・崩壊することなく中共の傀儡政権
化する時期がだいぶ早まりそうです。
そうなれば、「北からの拉致被害者奪還」が安倍内閣の取り組むべき
喫緊の最重要課題に浮上してきます。
ここにきて、安倍内閣の支持率が再び急下降しています。
年金問題より改憲を重視している安倍内閣に、国民の厳しい目が
向けられているのでしょう。
改憲問題の本質は、対米関係という外交問題に帰着します。
日本の根幹とか背骨とかの国内問題でも純然たるジュリスティック
(法律的)な問題でもありません。米から「日本よ、改憲してもいいぞ」と
いうアグレマン(同意)があって初めて可能になることです。
今のアメリカの態度はアグレマンというより要請か、要求に近いもの
かもしれません。
中曽根氏があれだけの改憲論者でありながら、首相在任中「カイケン」
と一言も発せられなかったのは、ロンヤスの蜜月関係であっても
改憲は米から許されていなかったのです。
一方の年金問題は厚労省・社保庁官僚の腐敗堕落とそれを見逃し、あるいは食い物にした政治家たちに直接の原因と責任があります。
しかし事はそれに留まらず、すこぶる日本人の倫理観、道徳観の退廃に根ざしています。 預けた金が恣意的に消尽され、その預かり明細も消失して年金給与がままならないというのは、日本人の倫理観、道徳観、規範意識の大危機です。
日本国民は、改憲と年金問題の本質を直観しています。
年金問題や「北からの拉致被害者奪還」を等閑にして改憲論を押し立てている安倍内閣は当然の如く支持を失います。
それを理解しない永田町の政権は潰れ、替わるしかありません。貴見は如何でしょうか?
(HN生、品川)
(宮崎正弘のコメント)中曽根大勲位は安倍政権を高く評価しています。
第一に「教育基本法」を改正し、防衛庁を防衛省に格上げし、さらに
改憲の条件である国民投票法を成立させました。
これだけでの経過をみても改憲への取り組みに真剣みがあるからです。
ただし小生は現政権に強い期待をしておりませんので、期待した人ほど
失望も深くないのです。したがって安倍さんが閣内をまとめ上げて強い姿勢
で参議院選挙を戦うのか、どうかの国内問題にもそれほど深い関心が
ないのです。
保守陣営がふたつに別れているのは安倍政権への評価が分岐点を
越えたからかも知れません。
♪
(読者の声2)城山三郎の『粗にして野だが卑ではない』と『官僚たちの夏』を手にとりました。前者に描かれている石田礼助があの通りなら偏屈でケチなわがまま爺さんと断じます。給料・無料パス返上や国会議員を先生と呼ばなかったりは偏屈の現れでしかないと思いました。
家族にはわがまま仕方第で晩年養子夫婦を外泊旅行させなかったり、墓の場所を故郷の伊豆松崎→終の棲み処の国府津→鎌倉の円覚寺と二転三転させているのにはあきれます。葬式は下から二番目、戒名はいらないなんて遺言はただただケチなだけ。羊毛の下着を擦り切れるまで着ていたり、それを打ち直して孫娘に着せ、体育の着替えで恥ずかしい思いをさせるなんて最低の爺さん。晩年に至るまで株をいじくってばかりいたというのも上等じゃありません。
それで儲けていたからええ格好しいができ、家族に専権を振るっていたんでしょう。反面教師にすべき仁なり。
『官僚たちの夏』は、すさまじい官僚たちの、そして政治の世界が描かれています。
それよりも読みながら彼らに翻弄される“民間”の悲哀を感じました。
同書に描かれている霞が関・永田町の生存競争とその掟や論理は過去の遺物です。なつかしい郷愁を誘われそうになりますが、彼らに翻弄された“民間”の苦悩や苦労に思いが至ります。
例えば本田技研が四輪もやりたいとした時の通産官僚の本田宗一郎イジメは歴史に残る‘民間’虐待です。今のホンダの発展を見て通産官僚たちはどう感じるのでしょう。
これも反面教師とすべき人々と統治行政システムと組織が描かれている作品とみなすべき現在です。ただこの作品を描いた作者のエートスだけは前書からも存分に吸引しました。
(有楽生)
(宮崎正弘のコメント)城山三郎氏の小説で群を抜いて面白いのはデビュー作の『総会屋錦城』くらいじゃありませんか。
あの錦城のモデルは故・上森子鐵氏でしたが(小生何度かあったことがありますが)、迫力のある人でしたね。
時代を先取りしたセンスの『毎日が日曜日』や一連のサラリーマンものはたしかに時代のペーソスを描く旨さはあった。けれども、『落日燃ゆ(広田弘毅)』から他の歴史物にいたっては、反戦思想が先にでてきて小説としてはうまく処理し切れていない。『秀吉と武吉』にしても、水軍の心意気がなんだか腰砕けで読後感は反戦小説風、戦国の武将の心理を描き切れていない。
だから佐高信あたりが高く買うのでしょうね。
というわけで小生も城山文学をそれほど評価しておりません。
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(サイト情報)米国防総省は5月25日、中国の軍事力に関する年次報告書を議会に提出した。
(1)報告書全文:Military Power of the People's Republic of China 2007、Department of Defense, May 2007 (PDF 6.1MB, 42 p.)
http://www.defenselink.mil/pubs/pdfs/070523-China-Military-Power-final.pdf
(2)国防総省高官によるブリーフィング:DoD Background Briefing with Defense Department Officials at the Pentagon、Department of Defense, May 25, 2007
http://www.defenselink.mil/transcripts/transcript.aspx?transcriptid=3971
(3)国務省国際情報プログラム局による解説記事
http://usinfo.state.gov/xarchives/display.html?p=washfile-english&y=2007&m=May&x=20070525165814sjhtrop0.9049188
○◎みや○◎○ざき◎○○まさ◎○ひろ◎○
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(6月30日 全国一斉発売、定価1680円。阪急コミュニケーションズ刊)。
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『2008 世界大動乱の予兆』 (並木書房、1680円)
『中国から日本企業は撤退せよ!』(阪急コミュニケーションズ刊)
『中国人を黙らせる50の方法』(徳間書店刊)
『出身地でわかる中国人』(PHP新書)
http://shinshomap.info/book/4569646204_image.html
『中国よ、反日ありがとう』(清流出版)
『朝鮮半島、台湾海峡のいま、三年後、五年後、十年後』(並木書房)
『拉致』(徳間文庫)
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