社説 バイオ燃料は切り札か? 新技術幅広く(5/14) | 日本のお姉さん

社説 バイオ燃料は切り札か? 新技術幅広く(5/14)

 日本政府は6月にドイツで開かれる主要国首脳会議で地球温暖化防止に向け2050年までに世界の温暖化ガスの排出半減を提案する方針のようだ。その前に日本自体の排出半減目標も明示する必要がある。目指すべきは、二酸化炭素(CO2)の排出を可能な限り抑える低炭素社会だ。その実現のカギを握るのは技術革新である。つじつま合わせを優先して温暖化以外の問題に悪影響を及ぼすような技術に頼らず、より持続可能性の高い技術の開発を追求していくべきだ。

持続可能性こそ重要

 日本国内では4月下旬から、石油元売り各社がバイオ燃料をガソリンに混ぜて新たな自動車用燃料として売り始めた。バイオ燃料の成分はエタノールで、サトウキビや小麦、トウモロコシなどを発酵させてつくる。温暖化対策として注目され、話題になったが、持続可能性という点では大きな疑問符が付く。

 CO2を吸収した植物を原料にするわけだから、燃やしても大気のCO2増減は差し引きゼロになり、排出抑制に有効とされている。すでにブラジルなどで石油代替燃料として定着している。京都議定書から離脱した米国も10年間でガソリン消費量を2割減らす目標を掲げ、バイオ燃料の利用を広げる方針だ。

 ところが、いまのバイオ燃料は温暖化防止の優等生とは言い難い。自動車用燃料としてのエタノール需要拡大の期待は原料となる穀物や農作物の相場に影響を及ぼし、巡り巡って食糧価格の上昇も招いている。食糧の確保も世界の大きな問題であり、食糧となるべき穀物が燃料用に費やされるのは合理的ではない。

 現状のバイオ燃料は、持続可能な社会の技術としては未熟と言うべきだ。食糧と競合しない稲わらや建築廃材などの廃棄物から生産する、持続可能性の高いバイオ燃料の開発を推進すべきだろう。CO2排出を抑えるのだから、石油を使って生産地や遠隔地から輸送するのでなく、生産地の近隣で消費する「地産地消」も原則だ。育てるべき技術の芽、流通モデルはすでにある。

 バイオ燃料というだけでもてはやすのではなく、将来にわたって持続可能な技術かどうかの見極めがこれから重要になる。

 世界的に脚光を浴び始めているCO2の地中貯留にも、問題がある。地中貯留は、火力発電所から排出されるCO2を分離し地下の地層に封じ込める技術だ。ノルウェー企業が炭素税を逃れるため、天然ガスを生産する際に邪魔になるCO2を除去し、地中に戻したのをきっかけに開発された。CO2を大気中に放出しないので排出抑制技術として技術開発が活発になった。

 欧州では2015年までに12の実験プラント設置を計画、米国もプラントを計画し、日本でも新潟県長岡市で実験が進んでいる。2020年に温暖化ガス排出を1990年比で20%削減する目標を掲げた欧州連合(EU)は、地中貯留を排出削減の手段に位置づけている。

 だが、この手法は排出されるCO2をとりあえず地中に押し込むだけだから、本当の意味での排出削減にならない。安全確認がおろそかだと閉じ込めたはずのCO2が噴出し、窒息事故を引き起こす危険にも留意すべきだろう。排出削減策に窮した現状での導入はやむを得ないにしても、永続的な排出抑制の手段にはなりえない。

開発促す仕組み作れ

 CO2を極力排出しないのが低炭素社会である。排出抑制では一つの技術が切り札になることはない。太陽光や風力といった自然エネルギー、原子力、省エネなど多様な技術を組み合わせるしかない。あらゆる分野で技術革新を促し、本道を外れぬ新技術がふつふつとわき出すようにする必要がある。

 経済産業省が管轄するエネルギー総合工学研究所は昨年、省資源、省エネ、排出抑制を考え今世紀中に実現すべき技術を列挙した報告書をまとめ、20分野の技術戦略、開発の行程表を示した。日本は一次エネルギーの約8割を化石燃料に頼る。半減までのハードルは高いが、技術開発の方向ははっきりしている。

 政府は技術革新というと資金のばらまきに走りがちだが、重要なのは技術開発を刺激する仕組みである。バイオ燃料は石油危機、CO2の地中貯留は炭素税、ハイブリッド自動車は燃費改善と、経済的な理由が技術開発を後押しした。CO2排出抑制の技術開発も経済的な動機づけがあれば加速する。排出権取引など排出抑制が経済的価値につながる制度をなおざりにしては、技術革新は起きない。低炭素社会実現に向けまず取り組むべきは制度づくりである。

(2007・5・14NIKKEINET)

http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/index20070513MS3M1300313052007.html