不安や痛みの少ない、適切な治療
日本人の2人に1人が、がんになる。3人に1人が、がんで死ぬ。
もはや“国民病”だ。
この病気を減らしたい。不運にも患者になった場合は、不安や痛みの
少ない、適切な治療を受けられるようにしたい。
政府の対応を強化するため、昨年6月に成立した「がん対策基本法」に
基づいて、「がん対策推進基本計画」の策定が進んでいる。
がん死亡率の低減や治療施設の充実など、10以上の項目について
10年後の目標を定めて対策を記す。
日本のがん対策は、これまで欧米先進国よりも劣ると言われてきた。
放射線治療や、抗がん剤治療の専門家が少ない。告知の問題、治療を
支える体制の不備などが原因で、痛みを軽減する緩和治療も十分ではない。
政府として患者の実態を把握する仕組みが整っていないため、国際的に
標準とされる適切な治療が受けられているかどうかさえ分からない。
計画案を検討しているのは、がん患者や専門医たちで作る厚生労働省の
「がん対策推進協議会」だ。すでに3回の会合を開いたが、懸念されるのは、
患者と医師、専門家の意識のズレだ。
患者たちは、日ごろの病状への不安や治療への不満に即して、極めて
具体的かつ詳細に施策と目標を提案している。
患者全員に配る「がん患者必携」の作成は、そのひとつだ。
標準的な治療や支援制度などを紹介するという。
都道府県ごとに「がん対策白書」を作ったり、未成年者の喫煙率ゼロを
目指したり、というアイデアもある。
これに対して、一部の医師からは「医療の危機的な状況を解決することが、
まず重要」といった意見もある。医師の偏在、不足といった問題が深刻な
ことは言うまでもないが、がんに直面している患者には場違いな議論と
映るだろう。
がん対策は、地域の生活習慣などに合わせた、きめ細かな対策も大切だ。
例えば、検診だ。早期発見が治療と予後を左右するが、受診率の
全国平均は2割にも届かない。
地方自治体が財政難を理由に積極的ではないためだ。
基本法では、都道府県も、「がん対策推進計画」を作るよう定めている。
地方が自らの責任を自覚して、着実に対策を取れるかどうか。基本計画には、
それを後押しする意義もある。
それだけに、具体的な目標と対策が欠かせない。
政府は、基本計画に沿って、来年度の予算に、新たながん対策を盛り
込む方針だ。国の財政も厳しい。何が必要で、それを、どう実現するか。
項目を絞った明確な論議を急ぐべきだ。