ソ連のプロパガンダの原稿が見つかった。 | 日本のお姉さん

ソ連のプロパガンダの原稿が見つかった。

 旧ソ連政府が共産主義宣伝のためなどに設立した対外ラジオ局「モスクワ放送」(現・ロシアの声)で、1963年に放送されたニュースの日本語版の元原稿が、モスクワ市内の同ラジオ局で発見された。米ソ核戦争の瀬戸際まで迫った「キューバ危機」に対するソ連側の見解を伝えた記事で、校正前の表現まで残されている。原稿では、米軍基地がある沖縄をキューバになぞらえ「危険な紛争の火元」と威嚇。ソ連の対日宣伝戦略や、キューバ危機に関する冷戦史を研究する上で、貴重な資料となりそうだ。

 原稿は「カリブ海危機の教訓」との見出しで、キューバ危機3カ月後の63年1月18日の放送分とみられる。日本語放送開設65周年の記念番組作製にあたりスタッフが過去の資料を見返していた際、偶然見つかった。

 日本語放送はソ連の対外宣伝機関として、共産党機関紙「プラウダ」などを日本語に訳し、共産主義の優位性と、米国を敵視するソ連政府の主張を伝えていた。

 元原稿は白紙10枚に約2100字。報道機関の一員とみられるイリンスキー解説員の原稿を訳したらしい。当時のフルシチョフ首相の言葉などは赤ペンで線がひかれ、アナウンサーが強調して読むようにされ、「次の一節はサク除した」などの文があり、放送では読まれなかったとみられる表現が残っている。

 原稿の前半部分には、キューバ危機について「アメリカが小さなキューバに侵入するために、大きな攻撃力を集中しはじめた時、人類を破かい戦争から救ったのは、ソ連政府の懸命な冷静な政策にほかなりませんでした」と、ソ連政府の判断を正当化する見解が記されている。

 アジア諸国の米軍基地について演説したフルシチョフ首相の言葉は、「ソ連をがっちりとりかこみ、たえず緊張した情勢をつくりだしています」と記され、赤線が引かれている。

 後半部分は、米国の軍事力に依存する日本を批判。日本政府に「アジアにおけるカリブ海の危機がどこからぼっ発するかを知るためには、沖縄、日本本土のようなアメリカがつくった危険な紛争の火元をあげるだけで十分です」としたうえで、「(米軍の)軍事基地が武力紛争のたえまない脅威と核戦争の現実的な危険をはらんでいる」と結論付けている。

 同局スタッフは「ソ連時代の放送は、政治的な対立や危機が放送のテーマとなる場合も少なくなかった。この原稿からは冷戦時代の張り詰めた緊張感が生々しく蘇ってくる」と話している。

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 ≪脅しの色彩強い≫

 元防衛大学教授で、ソ連の政治・軍事関係に詳しい評論家、瀧澤一郎氏の話「この元原稿は、核戦争の危機から救ったのはソ連政府だという正当性を主張し、米軍基地のある日本にも危機は襲ってくるという脅しの色彩の強いメッセージだ。当時、ソ連政府はモスクワ放送を使って『米国の核は悪、ソ連の核は善』ということを盛んに宣伝し、日本を米国の支配から引き離そうとしていた。記事の論調は従来の定説を覆すようなものではないが、ソ連の政治宣伝戦略や対日外交方針を研究する上で貴重な資料だ」

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【用語解説】モスクワ放送

 1929年、ソ連が対外宣伝を行う国家機関として設立したラジオ放送。42年に日本語放送開始。亡命日本人らが番組制作にかかわり、第二次大戦後はソ連の公式見解を伝えるニュースや共産主義のプロパガンダ番組が放送された。ソ連崩壊に伴い、94年に「ロシアの声」に改名。現在もモスクワから短波を通じて、30以上の言語でロシア関連のニュースを伝えている。

5月13日8時0分配信 産経新聞

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070513-00000018-san-soci