米国議会調査局の議員向けの調査報告書
ワシントン=古森義久】米国議会調査局は日本の慰安婦問題に関する決議
案に関連して議員向けの調査報告書をこのほど作成した。
同報告書は安倍晋三首相の一連の言明を「矛盾」と批判しながらも、焦点の
「軍による女性の強制徴用」については軍や政府が全体としてそうした政策をと
ってはいなかったことを認める見解を明らかにした。
同報告書はさらに決議案の日本側へのこれ以上の謝罪要求に懐疑を示し、
賠償を求めれば、日本側から原爆の被害者への賠償請求が起きかねない
という懸念をも表明した。
議会調査局の専門家により3日付で作成された「日本軍の『慰安婦』シス
テム」と題する同報告書は議員の審議用資料で23ページから成る。
いわゆる慰安婦問題の主要争点とされる「日本軍による女性の強制徴用」
について同報告書は「日本軍はおそらくほとんどの徴募を直接に実行は
しなかっただろう。とくに朝鮮半島ではそうだった」と述べ、いま下院に提出され
ている慰安婦問題での日本糾弾の決議案が「日本軍による20万人女性の
性の奴隷化」という表現で非難する日本軍による組織的、政策的な強制
徴用はなかったという趣旨の見解を示した。
しかし同報告書は安倍首相らの強制徴用否定の言明について
(1)慰安婦システムの一部分である「徴募」だけの否定の強調は軍が大きな
役割を果たした慰安所の設置や運営、慰安婦の輸送、管理などを矮小
(わいしょう)化する
(2)一部の言明は徴用にはいかなる軍の強制もなかったと受け取られ、日本
政府自身の調査をも含む元慰安婦らの証言に矛盾する-と批判し、
「強制性」の最大の論拠としては2002年に米英両国で出版された「日本の
慰安婦」(田中ユキ著)という英文の書を挙げた。
同報告書はその一方、日本政府が慰安婦問題に対して1990年代前半
から「アジア女性基金」の設立などで謝罪や賠償の努力を重ねてきたことを
詳述し、「同基金は元慰安婦たちに償い、助けるための日本政府の真実の
努力だ」して、女性たちによるその基金からの賠償金の受け取りを韓国政府が
事実上の脅しにより阻んだとして非難した。
同報告書はとくに賠償について政府間ではすでに対日講和条約や日韓関係]
正常化で解決ずみとの見解を示し、
もし諸外国が日本にいま公式の賠償を
求めれば、「日本側は戦争中の東京
大空襲の死者8万人や原爆投下の
被害への賠償を求めてくる潜在性も
ある」とも指摘した。
下院決議案は日本の首相や政府に改めて謝罪の表明を求めているが、
同報告書は河野談話や歴代首相の「アジア女性基金」賠償受け取りの
女性への謝罪の重要性を強調し、「それでも不十分だ
とする批判者たちはなぜ不十分なの
か理由を明示していない」として、謝罪
要求への懐疑を明確にした。
同決議案はさらに米側の一部が「日本の国会での謝罪決議」を求めることに
対しても、「そうした決議が成立する見通しはきわめて低い」として、この種の
要求の非現実性を指摘する形となった。