日中の不信“氷解”困難
日中の不信“氷解”困難
劉暁波
中国の民主派作家で知られる劉暁波氏は温家宝首相の訪日にあたり産経
新聞とのインタビューに応じ、訪日の狙いは中国脅威論の払拭(ふっし
ょく)にあるとの見方を示す一方、
温首相が目指す日中関係の「氷をとかす旅」にはならないと指摘した。
また、中国の人権・民主化問題に声を上げることこそ「日本の国益にな
る」と強調した。要旨は次の通り。(北京 野口東秀)
小泉純一郎前首相の靖国神社参拝で中国政府は首脳往来を拒絶、反日デ
モを許可し、両国は国交正常化以来、もっとも長い冬の時代に入った。
この間、双方の民族主義が高まったが、理性的な対応をとるほうが双方
の利益になることを両政府は理解していた。だからこそ、膠着(こうち
ゃく)状態を打破する機会を必死に探していたのだ。
昨秋、中国はほとんど無条件で安倍晋三首相を迎えた。安倍首相も慣例
を破って就任後、初めての訪問先に中国を選び、「戦略的互恵関係」と
いう“オリーブの枝”を差し出した。
安倍首相の訪中は『破氷之旅』(氷の壁を砕く旅)と呼ばれ、温家宝首
相は今回の訪日を『融氷之旅』(氷をとかす旅)と呼ぶ。
温首相が4月訪日を選択したのは、象徴的な意味がある。大自然で雪解
けが始まるように、中日間の政治の雪解けを示す意味が込められている。
しかし、両国間の歴史の怨念(おんねん)は依然、解けていない。政治
制度の違いや、アジアの盟主の座をめぐる競争もある。そうした点で温
首相の訪日が『融氷之旅』になるのはほど遠いだろう。
両国間の『氷』は歴史問題が原因だ。訪日を前に温首相は、北京で日本
人記者団と会見し、安倍首相が靖国神社に参拝しないよう強く呼びかけ
た。
中国の最大の関心事は歴史問題で
あるかのようだ。
しかし、歴史問題は中国国内の民族
主義的感情に応えるための道具に過
ぎない。
党中央の最も関心のある現実的な問題は、日米同盟による中国の抑止で
あり、経済・軍事・エネルギーである。
中日関係の温度が下がり、日米同盟の温度が上昇する状況を緩和できな
ければ、日米同盟はさらに緊密化し、
中国にとって脅威が拡大する。
日米とオーストラリアによる“自由と繁栄の弧”は中国の台頭を押さえ込
むものであり、日印間の温度も上昇している。
温首相の訪日の目標は中国脅威論の温度を下げ、中国に対する抑止の力
を弱めることにある。
中国共産党にとって歴史問題は、内政的に政権の求心力を高める狙いが
ある。対外的には政治・経済的利益を勝ち取ることが目標だ。
日本にとり、最大の脅威は中国と北朝鮮だ。北朝鮮の暴政は中国の支持
がなければここまでひどくなることはなかった。中国の脅威を消し去る
最も良い方法は、「政冷経熱」の外交を継続することではない。国内の
極端な民族主義を強化することでもない。
アジアの民主化に相応の責任を果た
すことである。
日米同盟の強化で中国を押さえ込むより、中国が民主国家
になるよう手助けすることが重要だ。
日本は米国およびその他のアジア諸
国とともに、自由・人権・民主の旗を
掲げ、中国の人権改善と民主化を
推進すべきだ。
それこそ中国人民のみならず、日本の国益にもなる。
■劉暁波(りゅう・ぎょうは) 51歳。1989年6月の天安門事件
当時、北京師範大中文系講師。民主化運動リーダーのひとりで学生運動
の支援を組織した。同事件2日後に逮捕され1年8カ月間投獄されたほ
か、96年から99年まで3年間、労働改造所に送られた。最近、「中
国当代民族主義批判」を国外で出版。現在も断続的に当局による軟禁と
監視下におかれている。
Sankei Web (2007/04/12 08:04)