横領してもまだ人気のある馬英九氏は、親中反日家。
【論説】台湾選挙の読み方
時局心話會代表 山本善心
台湾では本年12月に立法院(国会)選挙が行われる。今後選挙制度が中
選挙区制から小選挙区制に変わり、定数も現行の225議席から113議席に
半減するのだ。いよいよ台湾政界も「2大政党制、政策による政権交代」の時
代を迎える。
さらに2008年3月は台湾総統選挙が行われるが、国民党と民進党はいま
だに総統候補者が絞られていない。立法院選挙と総統選の候補者選びをめ
ぐって、与野党ともに大波乱が予想され、台湾政局は台風の目だ。
馬英九氏の横領・辞任劇
現在、総統選に向けて国民の最大関心事は馬英九氏(56)の去就である。
やはり「出馬すれば本命候補」との声が根強い。しかし彼は、市長時代に特
別支出費を私的に不正流用したとして公金横領の罪で起訴された。この事
件をきっかけに国民党主席を辞任したが、総統選は無所属でも出馬する、
と意欲的である。
馬氏は1998年12月から昨年7月までの市長経費、約1530万元(39
00万円)を受け取ったが、公費に使われたのは413万元で、残りは夫人の
口座に移し替えられたものだ。醜聞発覚後も馬氏には50%以上の支持率
があり、大本命の座は動かしがたいが、人気にかげりも見られる。
そうした中、宿敵の王金平立法院長・国会議長(66)も総統選出馬に意
欲的だ。連戦氏も総統の夢を捨てきれず色気を見せている。しかし国民党
はいち早く臨時中央常任委員会を開催し、起訴された馬氏が公認候補にな
れるよう党規約を改正した。
この規約改定に王氏は反対の立場を取っている。しかし党内では当選確
率の高い馬氏で政権奪還を狙う、との意見が大勢だ。一方中国側も馬氏を
「一つの中国」と「台湾の平和的吸収」の窓口として遠隔操作するには適切
な候補者であり、積極的に支援する構えを見せている。
馬氏は親中反日の主役
馬英九氏をよく知る人物によると、「彼は新台湾時代の台湾人だ。しかしあ
くまで外省人であり、中国系の台湾人である。本音は徹底した『親中・反日
家』であることに変わりない。『尖閣諸島は台湾(中国)固有の領土である』と
主張し、小泉首相の靖国神社参拝についても中国政府と同じ見解を示して
いる」という。
馬氏には、従軍慰安婦問題について
「台湾にも慰安婦問題があり、これを
日本が放置しておくと、いずれとんで
もない事態になる」との威嚇発言も
あった。
数ある馬語録の中には、①中台問題は「中国は一つ」であることが前提、
②中台統一には民主化が避けられないため50年以上かかる、③分裂した
中台の一体化で中国をさらに強くするのが最良の道だ、との主張がある。
台湾の軍備増強を阻止
馬氏は2005年8月に来日し、中台統一に関する記者団の質問に次のよ
うに答えている。「現在は条件が整っておらず、統一は非現実的であり、現
状維持が適切だ。中国は自由、平等で民主的な国家になることが条件だろ
う。統一のプロセスが台湾人民の同意の下で行われることはいうまでもな
い」(06.7.11産経新聞)
台湾は日米両国と同じ「自由、民主、平等、法治」という価値観を共有す
る国である。日米両国が台湾を見捨てることがあれば国際社会での信用
はガタ落ちだ。日米同盟は、台湾を守ることに戦略の主眼が置かれている。
中国では1000発のミサイルや潜水艦など、台湾全土に向けた軍備増強
が急ピッチで進められている。それに対抗すべく、陳政権には台湾の兵器
購入が急務だ。しかし立法院で過半数の議席を持たない陳政権と対する国
民党や親民党は、兵器購入法案の成立に非協力的である。
李登輝発言に衝撃走る
香港の大衆雑誌「壹週刊」1月31日発売号で、李登輝前台湾総統のイン
タビュー記事が掲載された。本文によると李氏が「中国大陸を訪問したい」
「台湾独立とは言っていない」「台湾は中国資本を受け入れよ」との誇大な
見出しで、「李登輝友の会」をはじめ内外の支持者に衝撃を与えた。
この記事はマスメディアを通じてたちまち全世界に広がり、李登輝ファンは
落胆の色を隠せず「頭がボケた」「中国に取り込まれた」などとの噂が一人
歩きしたものだ。
筆者は李氏本人から直接話を聞いているので、これらの報道はデタラメ
だと即座に直感した。李氏は次の立法院選挙と総統選を睨んで、自らの存
在感と影響力を世界にアピールし、関心を寄せるために手を打ったとの見方
がある。小選挙区制による台湾団結聯盟の消滅、国民党の分裂など、今後
何が起こるか分からない政界再編に一石を投じたものだ、との意見もあった。
しかし結果は李氏の思いとは別に、中国系マスメディアの操作で意図的にね
じ曲げられた李登輝潰しである。
台湾独立宣言の攻防
今、世界がこの台湾総統選に注目しており、「2008年3月前後には中国
が一挙に台湾制圧を狙う」との見出しが多く見られる。これに対して陳総統
も「憲法改正の是非に関しての国民投票を総統選で行う」と宣言した。これ
は実質的な台湾の「独立宣言」である。
しかし中国の胡錦濤主席は「台湾の国民投票実施が決まれば、人民解
放軍は台湾への侵攻を開始する」と宣言した。つまり台湾の国民投票=国
名変更であるから台湾独立と見なす。これが中国側の考える図式である。
しかしながらここにきて、あれほど曖昧で馬鹿扱いされてきた陳総統は人
が変わったように台独強硬路線を強調する。陳総統は米国の中国寄り姿
勢に「台湾人の立場や意向に対する理解が見られない」との不信感を抱き
反発している。また米国が対北朝鮮で見せた融和路線はアジア近隣諸国に
不安を抱かせる背景があるようだ。
勝敗は陳水扁・李登輝次第
陳総統の強硬な対中姿勢と米国不信に加え、李登輝氏の中国敵視姿勢
も顕著である。昨年の中国での暴動(約12万件)は胡錦濤政権による「共
産奴隷制度」の終焉、すなわち崩壊過程だとの見方がある。中国共産党が
失政のツケを台湾の奴隷化に向けている、との見方を持つ李氏は挑戦的
立場を取っている。
陳総統と李氏の目的や政治思想は全く一致するかに見える。ならば和解
して国難を切り抜けていくべきではないか。ましてや小選挙区制は“政策に
よる2大政党制”で国が二分される制度なのである。陳総統は何度か李氏と
の関係修復を試みたが、李氏が頑固一徹で応じないのが問題だという。
今後、台湾の運命について「陳・李」二人の決断と行動が注目されよう。次
なる立法院選挙と総統勝に向けて心を一つにすべきではないか。台湾メデ
ィアが陳総統の悪口ばかりを言い立てているテレビに、有権者はすっかり飽
きてしまった。その反動でよき候補者を選択し、「陳・李」が一つになれば独
立派が挽回できるチャンスも大きい。
総統選に命運を賭ける台湾
さて、与党民進党の四候補である呂秀蓮副総統(62)、蘇貞昌行政院長
(59)、謝長廷前行政院長(60)、游錫コン(「コン」は、日本語にない漢
字で、「方方」と、方を並べてふたつ書き、その下に「土」と書く、漢字一字です。ホ
ームページ上の同コラムをご覧になり、確認していただけると幸いです)。民進党
主席(58)らは、5月6日の党員投票・世論調査を経て30日に候補者を決定
する。現在は蘇氏と謝氏が一歩リードというところだ。
しかし、起訴されたとはいえ馬氏が今なお強力な候補者であるのに変わり
はない。ましてや台湾メディアの70%以上は国民党・中国系資本の影響
下にあり、馬氏の法律違反を自由自在にイメージチェンジする可能性も高
い。だが選挙中に有罪が確定すれば、候補取り消しもある。
先に述べたとおり、李氏には中国奴隷制度に対する拒絶反応が体の奥底
までしみわたっている。馬氏は中国の傀儡だとの見方もあり、国民党総統の
誕生は「一つの中国」を加速させると、李氏は危惧しているのだ。今回の2大
選挙のうち、立法院選では地方基盤を持つ国民党が優勢とみられている。
しかし、総統選の読み方は全く分からない、というのが本当のところではなか
ろうか。
『台湾の声』 http://www.emaga.com/info/3407.html
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