「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 通巻第1767号
カザフスタン、アゼルバイジャン、そしてカスピ海
ロシアの狡猾な妨害、老獪な資源戦術、隙間をねらう国々
東京都知事に石原氏圧勝の三選で日本のメディアが塗りつぶされているが、
中央アジアへ、こんなときにこそ目を向けよう。
カザフスタンとアゼルバイジャンはいずれも資源の宝庫、互いに
「戦略的パートナー」と強調しはじめた。
4月4日にカザフスタンのモシモフ首相がバクーを訪問し、「EU・トロイカ・
中央アジア」なる構想をぶち揚げつつ、アゼルバイジャンの最大の港でもある
バクーを「EUへの玄関口」として重視する旨を発言した。
バクーは石油基地として昔から知られるが、じつはゾルゲの墓もある。
モシモフ(カザフスタン)首相は、アゼルバイジャンの首都バクーに竣工した
穀物ターミナルの完成式に出席したのだ。
これはカザフスタンからの穀物をカスピ海を船舶ではこび、陸揚げ、倉庫入れ
して、このバクーからEUへ再輸出される拠点となる。
穀物ターミナルはカザフとアゼルバイジャンの合弁、容量は80万噸。
1991年、両国は旧ソ連のくびきから開放され独立を果たした。
爾来、70以上の経済協定を結んでいる。農業、運輸、通信などの経済協力が
主眼だが事実上「経済的パートナーシップ」は実現している。
残されていた大問題が「石油」と「ガス」である。
カザフの石油を、新設されたバクー(アゼルバイジャン) → トビリシ
(グルジア)→ ジェイハン(トルコ)のパイプラインに連結する動きが表面化
した。
また天然ガスもカザフスタンのテンギス油田から、トルコのエルズルムまで
送管する近未来のシナリオが話し合われた。
▼カスピ海論争に決着がついていない
だがネックがある。
カスピ海は、いったい湖か海か。
もし海となれば「領海法」が適用され各国は二百海里を主張するだろう。
湖沼であるとすれば、湖のどこに沿岸各国の“湖境線”を引くのか?
ロシアは両国の動きに激怒し、妨害を再開した。
それもビジネス感覚からすれば、当然であろう。カザフの資源をこれまでは
ロシアが独占的にパイプラインでEUに運んでいるからだ。
このドル箱ルートが多元化されたら、商売に悪影響が出る。
アラル海が荒廃したように、ロシアはカスピ海の環境汚染が問題だ、と言い
がかりを付けて、この「EU・トロイカ・中央アジア」構想、つまりロシア以外の
経由ルートを新設してカザフが輸出の多元化を図ろうとしている遣り方を牽制
している。
五月にポーランドで関係各国があつまっての資源サミットが行われる。
♪
(読者の声1) 貴コメント欄で紹介されていました、米議会に「従軍慰安婦対
日謝罪決議案」を可決させ、それを梃子に日本の米国離れと核武装論を推し
進めるというインテリジェンスには感心致しました。
この決議のおかげで日本の反米ナショナリズムはめらめらと燃え上がるで
しょう。
トルコ人のアルメニア人虐殺を非難する米議会決議にはトルコの首相が猛然と
抗議しています。米国議会とはいかなる代物なんでしょうか。
他国へのおせっかい・内政干渉に精を出し血道をあげる議員を評価する米国
の民度が知れようというものです。
ところで米国議会の胡乱な動きの一方で、日本のある財団の12年にわたる
慰安婦への活動が先月静かに終了しました。それは「アジアのための女性
平和国民基金」なるものです。
シャッポに元総理の村山富市を据え、元灯台教授の和田春樹が活動を立ち
揚げ最後まで関わりました。
宮沢内閣の官房長官、河野洋平が内閣瓦解のどさくさに紛れて1993年放った
“河野談話”で旧日本軍の慰安婦への強制行為を認めて謝罪し、社会党出身
の村山富市が首相となった1994年、“村山談話”でこの上塗りをし、さらに翌年
六月の金曜の夜、多くの議員が東京を離れた間隙を狙って戦後五十周年国会
決議として固めました。
その直後に発足したのが、あやしげな「アジア女性基金」です。
韓国・台湾・フィリピンの285人とオランダ人女性79人の計364人に‘償い金’が
日本国の国税を使って行なわれたのです。
中国・北朝鮮・ミャンマーなどの国は日本の国家賠償を求めて慰安婦の個人
的受け取りを許しませんでした。
韓国・台湾政府も受け取らないよう圧力をかけました。
このように国際社会で歓迎されざる、外国人に日本の国税を消尽した事業
だったのです。
12年間に投入された国税は46億円あまりで、
きちんとした法律をつくらず、「アジア女性基金」という迂回路を使って
実質が国家賠償と看なされることをしたのです。
もう終わってしまったことと思わず、会計検査院に使途内容をきちんとチェック
させるべきです。一財団をカムフラージュにしての泥縄的行為に行政手続きと
しての違法性はなかったのでしょうか?
米議員マイケル・ホンダの活躍で米国議会がおせっかいを焼いてくれ、日本の
マスコミが大きく取り上げるようになりました。
これを奇貸として法律の専門家に検証してもらいたいものです。
この基金の受給対象は、戦時下旧日本軍に強制されたと
名乗り出た者たちでした。
不思議なことに日本人慰安婦はひとりも名乗り出なかったのです。和田某は
先日都内であった会見で、日本人以外が‘強制’連行されたからだという説明
をしていました。納得のいかない説明です。
これもその背景を検証する必要があります。
パク・ユハという韓国人女性教授は、被害者の中に加害者もいた事実に
目を向けています。韓国人が慰安所の運営をしたり、協力していたのです。
パク女史が直接インタビューした元慰安婦は、日本人
より慰安所に自分を売り渡した義父を
憎くむと語ったのです。
また戦後起きた朝鮮戦争で韓国軍が慰安所を
運営した事実を語り、複雑な問題であるとの認識を示しています。
第二次大戦後のアルジェリア戦争で
はフランス軍が、
チェコ進駐時のソ連軍が、
ベトナム戦争ではアメリカ軍が慰安所
を設けていました。
日本軍の行為を論う向きはこれらと比較して議論したらよいでしょう。
歴史の一齣をピンポイントで非難する敵には、その前後左右、時間の流れと
空間の広がりの中で対決すべきでしょう。
この売られた喧嘩はお買い得です。
「南京」事件を背後で煽る団体と、「従軍慰安婦」問題を言い募る人々や資金の
出処が重なる部分があるようです。
目を凝らし耳を澄ませば、山の影、海の向こうの“敵”が顕れてきます。
(HN生、品川)
(宮崎正弘のコメント) そうそう、アジア女性基金。ありましたね。
小生のところにも郵便で寄付の振込先を送りつけてくるくらいですから、あれが
一民間団体とは思えない。
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平成19年(2007年) 4月9日(月曜日)
通巻第1767号
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