朝日新聞の社説なのに、わりとまともなことを書いている。
中国の全国人民代表大会(全人代)が5日から始まる。日本の通常国会に相当する。温家宝首相が政府活動報告をし、内政外交政策を論議する。
中国は改革開放政策の旗の下に四半世紀に及ぶ高度経済成長を続けてきた。いまや国内総生産(GDP)で世界第4位に成長した。
その半面、成長の矛盾が国内に積もりつもっている。上海株式市場が世界同時株安の震源地になったのも、中国がまもなく成長の壁に直面すると世界が予感しているからだ。
この壁を乗り越えて成長を続けるために、胡錦濤政権はなにをなすべきか。国家の統治機能をむしばむほど拡大した貧富の格差を縮め、社会正義の基盤を回復することである。
胡国家主席は「和諧(調和)社会の実現」と呼ぶ。温首相は「社会主義の初級段階の歴史的任務」と表現する。指導部は、問題の所在を明確に把握している。だがその解決は容易ではない。
政治権力を握るものが経済の勝ち組になり、経済の勝ち組が政治権力を握るという悪循環によって、貧富の格差はますます極端化していく。そこから生まれる大量の弱者と汚職の気風は、社会の安定を突き崩し、政治権力の統治力をいよいよ弱体化させる。
全人代では分科会に分かれてさまざまな問題が討議される。
国の土台である教育に財政を振り向けなかった。貧困地区の初等教育は崩壊にひんしている。
医療保険というセーフティーネットの整備がないまま医療機関が独立採算になり、都市部でも庶民は医療に手が届かない。まじないや偽薬に救いを求めている。
特権階層や富裕層の余剰資金は不動産や株式投資に向かい、投資対象の高級マンションや工業団地が建設ブームだ。その用地取得のために地元役人と開発業者が手を組み、貧しい住民、農民を強制立ち退きさせる。騒乱事件の主要原因のひとつになっている。
江沢民前国家主席時代に始まった軍事力の膨張も、貧富格差の解消など国力の涵養(かんよう)に回すべき予算を消費している。国外から見れば、外国から侵略される恐れのない中国がなぜ軍備を拡充するのか、理由がわからないことが最大の脅威である。
温首相は、持続的な成長のためには平和な国際環境が不可欠であると、しばしば強調してきた。だとすれば、軍事費を抑制し内政を優先させるべきである。それが経済大国として中国が国際責任を果たす道でもある。
今回の全人代では、私有財産保護を定めた「物権法」が採択される。「社会主義市場経済」というヌエのような社会主義の中国が、社会主義を一歩脱皮するステップである。社会主義公有制を金科玉条とする勢力の反対で17年間もたなざらしだった。
モノの私有が保護されれば、次の課題は思想信条の私有の保護である。中国は、貧富格差解消とともに、政治改革を置き忘れてはならないだろう。
毎日新聞 2007年3月5日 0時14分
http://www.mainichi-msn.co.jp/eye/shasetsu/news/20070305k0000m070115000c.html