あたりまえの事をきちんとできる国になれってこと。
【正論】対中国の位負け外交から脱皮せよ
産経新聞 2007年2月24日
平和・安全保障研究所理事長 西原正
■尖閣諸島を早急に自らの力で守る
≪靖国参拝しない意味は≫
昨年10月に安倍首相が行った北京訪問は、それまでの冷え切った日中
関係を現実的に処理した見事な外交であったとして、内外で高い評価を
得ている。果たしてそうだろうか。
確かに、日中関係の「関係改善」は、折しも安倍首相の北京訪問直後に
北朝鮮が行った核実験への対応を国連安保理などで協議する上できわめて
役立つことになった。またその後今年1月にフィリピン・セブ島で開かれた
東南アジア諸国連合(ASEAN)プラス3(日中韓)や東アジアサミットでも
安倍首相が中国の温家宝首相と「友好的に」会談を持つことができた。
しかしながら、北京の首脳会談で、安倍首相が「靖国参拝をするかどうかは
申し上げない」と述べたことは、中国側から見れば、参拝を執拗(しつよう)に
続けた小泉前首相と比べて、安倍首相は結局譲歩したと認識したであろう。
安倍首相は「当面靖国を参拝しないから首脳会談をやりましょうよ」と呼びかけ
たことになる。ここで残念ながら日本は中国に位負けしてしまっている。
本来一国の首相が靖国を参拝するかどうかは、日本が決める問題であって、
中国の出方を見て決めることではないはずだ。
中国はその後も、日本に強く出れば日本は引っ込むと考えて行動をしている。
最近の例では、2月4日に尖閣諸島の周辺の日本が主張する排他的経済水
域(EEZ)に、中国の海洋調査船が事前の通報なしに侵入した一件がある。
海上保安庁の船艇が調査船に警告を発したにもかかわらず、中国船は調査
活動を続けたという。
≪東シナ海における無策≫
平成13年2月に、両国は海洋調査船が東シナ海で調査活動を行う場合、
「開始予定日の少なくとも2カ月前までに通報する」との事前通報制度を設け
たが、中国側はこれをほとんど尊重していないという。
今回も日本の外務省の抗議に対して、中国外務省アジア局幹部が北京の
日本大使館関係者を外務省に呼び、日本側の抗議に対する「強烈な不満」を
表明したといわれる。
これまでも中国側の侵犯が何回となくあったのに、日本側が行動をとらず、
ただ抗議するだけでいるから、中国側は高飛車に出るのだ。中国側は事前
通報制度をなし崩し的に反故(ほご)にする方針を採っていると考えるべきで、
まさに東シナ海を「平和、友好、協力の海」にするという首脳会談の合意に反
する姿勢である。
事前通報なしの中国の調査船の侵入に対して、海上保安庁は威嚇射撃を
するなどしてEEZから排除すべきである。あるいはそういう権限を与えられる
べきである。国家としての体をなしていないといわれても仕方がない。
≪目前の尖閣諸島の危機≫
この問題を考えるのに、南シナ海の西沙諸島や南沙諸島の例が参考になる。
これらの諸島は、中国以外にベトナム、台湾、フィリピン、マレーシア、ブル
ネイの5カ国が全面的ないしは部分的領有権を主張している複雑な状態に
ある。そしてブルネイを除く5カ国は何らかの形で軍隊をおいている。
その一つであるミスチーフ岩礁では、中国が海面上にやぐらを組んだような
構造物を作ったり、簡易滑走路を構築したりしている。フィリピンの抗議に対し
ては、中国は「漁民の避難所のため」といって無視しており、実際は軍隊を
駐屯させている。
またマレーシアは中国と領有権を争っているスワロー岩礁に、70人近い
軍隊を駐屯させ、1・5キロの簡易滑走路と15室からなるリゾート施設を設け
て、スキューバダイバーなどの観光客を誘致している。
尖閣諸島の領有権が日本側にあるのは歴史的にも明らかであるが、この
ままでは、ある日、尖閣諸島に突然人民解放軍が上陸し、国旗を掲げて、
漁民(多くの場合偽装漁民)の「退避場所」を構築しても、日本は抗議する
だけに終わってしまいそうである。北方領土にしても、竹島にしても、いったん
武力で占拠されると、それを排除するのはきわめて困難である。
そして紛争拡大のリスクを伴う。そういうことにならないためにも、日本は早急に
尖閣諸島に自衛隊を常駐させるべきである。
米国のアーミテージ元国務副長官は平成12年、尖閣諸島の防衛は日米
安保条約下の米国の義務であると言明したことがある。
こうした発言は中国への牽制(けんせい)として歓迎するが、日本は位負け外交
から早く脱皮して、自力で尖閣諸島を守る気概をもつべきである。
(にしはら まさし)