[政府があおったらナショナリズムは歯止めがきかなくなる」と語る岡崎久彦さん | 日本のお姉さん

[政府があおったらナショナリズムは歯止めがきかなくなる」と語る岡崎久彦さん

『日米結束』 中国に示した

国際政治評論家 岡崎久彦さん

小泉純一郎首相は毎年靖国参拝を続け、中国が何度内政干渉してきても全部はねのけました。

 中国の対日長期戦略で一番大事なのは、日米の分断工作。裏を返せば、日本の対中戦略で最重要なのは日米同盟強化なんです。小泉さんは内政干渉をはねのけながら、日米分断を許さず同盟を強化した。この二つは小泉さんの大功績です。

 アジア情勢は先行きが見えない多次元方程式です。朝鮮半島が戦争になるのか、統一するのか、半永久的に分断か。台湾は独立か、統一されるのか。ところが、この方程式にも解は出せる。未知の値の中で、日米同盟の値が圧倒的に大きいからなんです。

 日米の軍事力は圧倒的です。経済では中国がほしい資本、技術、市場を日米両国で半分以上持っています。いかに複雑な方程式でも、一つの値が安定していれば、ほかの値は多少変わっても構わない。朝鮮半島が統一されても、市場経済を持つ限り、日米から離れられない。日米同盟が強固なら、中国は台湾を簡単には取れないし、ロシアも中国と同盟して対抗するのは怖いはずですよ。

 日本の近代外交史でナショナリズムをプラスに使うことができたのは、日清戦争と二〇〇二年以来の北朝鮮交渉の二つだけ。これ以外はほとんどの場合、外交にとってマイナスに働きました。

 最悪の事例は盧溝橋事件直後の近衛内閣。政府声明を出し、政府の強硬姿勢と決意を内外に鮮明にし、あおられた世論の支持で軍部が暴走しました。首相自らナショナリズムをあおるのは、絶対に行ってはならない危険行為。政府は常にナショナリズムに対して中立でなければならない。

 政府が主導してナショナリズムをあおる危険性が、日本の近代外交史の教訓だとするなら、それがあてはまるのが現在の中国です。

 天安門事件後、中国政府はナショナリズムを意図的にあおるようになりました。

昨年(2005年)の反日暴動はもともと、日本の国連常任理事国入り反対の

官製デモでしたが、反日教育の影響でデモが過熱し、反政府運動になる

恐れも出てきた。自縄自縛ですね。

 北朝鮮問題での日本のナショナリズムが健全だと言えるのは、今までは

「社会主義は平和主義的で進歩的だ」と思い込むなど、あまりにひどい左翼

思想がはびこっていたのを矯正したからです。

その意味で、極端な対中追随が治るまでは、自然にナショナリズムが高揚す

るのはいい。政府はあおってはいけないけれども、その上に立って国民の

支持を背後に外交をすればよいのです。

 中国が日米分断の可能性を少しで

も考えている限り、真の日中友好は

ありません。

日米同盟は一枚岩だと中国側が観念して初めて、真の友好関係を模索でき

ます。冷戦時代の英国とロシアの相互尊重の関係のようなものです。

靖国問題で内政干渉を許す例などを

つくったら、それこそ逆効果です。

 おかざき・ひさひこ 中国・大連生まれ。76歳。東大在学中に外交官試験に合格し外務省に入省。ケンブリッジ大修士課程修了。同省初代情報調査局長、駐サウジアラビア大使、駐タイ大使を歴任し、1992年退官。博報堂特別顧問を経て、NPO法人「岡崎研究所」所長。近著は「国家戦略から見た靖国問題」、共著に「靖国問題と中国」「この国を守る決意」。

http://www.tokyo-np.co.jp/yasukuni/