「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 通巻第1708号  | 日本のお姉さん

「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 通巻第1708号 

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井上和彦『国防の真実 こんなに強い自衛隊』(双葉社)
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 著者の井上和彦氏は、自衛隊の第一線現場をこまめに取材する気鋭のジャーナリスト、最近は外国の現場にも飛んでルポをものにしたり、台湾問題にも身を乗り出して熱気あふれる取材ぶりだから、裏情報にも詳しい。
 ともかく基本的に自衛隊のことなら何でも知っていて「自衛隊百科事典」的な存在。
 本書を読んで、まず驚かされたのはカラー・グラビア四ページを含んでの写真が、じつに230葉。
くわえて細かな注釈が、下段についていて読みやすい編集上の工夫がされている。これはきっと良い編集者に恵まれたからだろう。
 視座は北朝鮮の核、中国のおそるべき迅速さによる軍拡、台湾防衛の脆弱さなどだが、米軍への取材の蓄積からも自衛隊の体力を客観的に推し量ろうと努力したあとが随所に透けてみえる。
 韓国の軍事力が日本の安全保障にとっても驚異である、という事実を誰も問題にしないのはおかしいという指摘がある。
また軍人は栄誉を重用するシステムがともなわなければいけないのに、我が国の戦後の自衛官で「統幕議長」経験者ですら勲二等。方面総監、師団長クラスが勲三等という、あまりに非常識な低ランクの問題を抉りだし、逆に海上自衛隊の創設に功労のあった米国軍人が勲一等であったことへの比較を論じる。
どうみても自衛隊は世界の常識でいうところの軍ではない。
 皇太子殿下が自衛隊の式典で、激励の言葉をおのべになったが、これが自衛隊員の志気をいかに高めたかなど、大手マスコミには決して現れない論調が、本書には横溢している。
深刻な問題が多いが、本書はとりわけ新鮮な国防論として読めた。



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吉岡健『中国人に絶対負けない交渉術』(草思社)
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 世間的に無名の著者なので略歴を拝見すると、元“安宅マン”(安宅産業社員)、48歳でコンサルタントとして独立され三十年、ひたすら中国とのビジネス交渉の最先端にたって、現場の苦労をともにした人物。
 言ってみれば中国ビジネスのベテランである。
 こういう経歴をみると現場での奮闘と実践から貴重な体験談が聴けるだろう。
 汗をかいて、現場の失敗の苦渋を体験した者でなければ知らない、知り得ない深層が、いっぱいあるからだ。
 まともに交渉したら中国人に勝てるはずがないという、まことに正しい前提にたって、筆者はまず「先に意見をいうな」「会議以外では考えを漏らすな」「無理に結論をださず逃げろ」という三原則を掲げる。
 それはそうだろう。中国人には誠意というものが通じない。だから世界のビジネス現場の常識が通用しない。
「中国とのトラブルは(世界の常識とは)異質なもの」と筆者は永年の経験を通して鋭く指摘している。

 評者(宮崎)も或るコラムに次のように書いたことがある。
 嘘と屁理屈と牽強付会と論理のすり替えで成り立っている中国人社会では最低限度、“三重思考”が常識であり、言うこととやること、考えていることは違う。少なくとも三種の思考を同時に行える特技は中国人エリートに共通。
しかし、どうしてそうした体質が産まれたのか。
 それは歴代王朝が「私」の利益しかなく、公の観念に欠乏している。皇帝とその眷属と、それを守る傭兵と、あとの国民は奴隷という社会構造が、いまの中国にすら歴史的体質として染みこんでいるからだ。つまりだれもが「私」の権利と利益にしか眼中にはなく、騙し、すり替え程度の嘘は常態。商業においてすら「三重帳簿」が常識なのだ。ひとつは銀行用、ひとつは税務所用、そして三冊目が自分用。
 逆に言えば、この三原則を知って臨めば中国人に交渉でまけることもない、と。

 さて本書で参考になったユニークな比較表がある。
それは“南船北馬”とも言われる中国人の気質を南と北に分けて、性善説とか、逞しさなどを南北比較するもの(評者は華南、華中、華北とおおまかに三つにわけるので、この二分化には異論があるが、それはそれとして)。。。
 北は「保守的で」「権力志向が強く」「頑固だ」が、南は「実利的」「冒険的」「勘定高い」特質がある。
そうした対比のなかでも南北の中国人に共通の特質が四つあり、「自己本位」「羞恥心の欠如」「狡猾」「図々しさ」という指摘は正鵠を得ており、心底から苦笑した。
 


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青木直人『中国に食い潰される日本』(PHP研究所)
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 いささか激しい題名である。
本書の帯にも「なめられ放題の日本企業、戦略なき対中援助の危険性」と銘打たれ、これだけでも内容が推察できるのだが、いざ、本書をよむと驚き桃の木山椒の木の連続である。
 ハニー・トラップに引っかかった日本人は外交官、自衛官、政治家ばかりではなかった。
 ヤオハンは李鵬をたよりすぎて失敗、また17年前に失脚した北京書記の陳希同をたよった某社は、ホテル経営で痛い目にあった。
 政治権力の汚職構造と日本企業の癒着ぶりがズバッと抉られている。
中国共産党幹部との政治コネクションに全幅の信頼をおく方法も前提が間違っている。あのくにの権力はいつ消えるか分からないという特質があるからだ。
 ところで江沢民に一億円を送った、と噂される日本の某商社は、そのおかげで例外中の例外として中国での全国チェーン展開が認められた。
 イトーヨーカ堂のパートナーである伊藤忠の顧問の某は「日本は中華世界の一員として生きていけば良い」と暴言を吐く人でもある。外務省のチャイナ・ロビーにだって、それほどの低脳売国奴的人物はいないだろうに。
 なによりも青木氏は、執念の塊のような取材力、それも足で稼いで中国の裏道を、じっと観察しているばかりか、どうやら情報源を日本の商社、メーカー、金融機関、政府関係者にも多く持っているようだ。
というのも文章の端々から、その情報の出所がおおよそ想像できるのだが、随所に「アッ」と驚かされる仰天の事実が、さりげなく、しかも何回も挿入されている。
 いつぞやテレビ番組で一緒だったおりに、青木氏から上海・森ビルの内幕を聞いた。
 なぜ浦東の陸家嘴という、もっとも地盤の弱いところに101階建ての金融センターを建てるのか。
しかも、基礎工事から六年間も放置され、その間に六センチも地盤が沈下していたにもかかわらず誰かの命令一下、2008年めがけて工事は再開されたのだ。
そのプロセスの内幕話にいたっては驚きの連続だ。
途中、台北に101階建ての「金融センター」が立って、上海トップのあせりが突貫工事をせかせることになり、しかも高層部分は設計変更になり、蜂の巣をつついた大騒ぎに発展した。また完成の曉でも最上階展望台からは目の前の金茂ビルに景観を妨げられ、上海の全景を展望することはできない、と予測する。
そうした無理な工事の背景やら「上海ヒルズ」の呼称はまかりならんと言われた森ビル側の焦燥など、内部の情報協力者がいないと知り得ないことを含めて、あますところなく描かれている。
上は本書に紹介された裏話のホンの一例である。
「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 
平成19年(2007年) 2月16日(金曜日)  貳
通巻第1708号  

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