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中国は「新王朝の夜明け」なのか。「二十一世紀は本当に“中国の世紀”なのか」
欧米の代表的メディアは「幻像」と「実像」の比較論が主流
「繁栄する中国」「輝く太陽」「夜明けの爽やかさ」。
欧米メディアから見ても、或る方角から中国をみると輝いて映るらしい。
中国は一月の第二週にイランとイスラエルからほぼ同時に賓客を迎え、中東問題に本格的介入を始めた。希有のことである。
中東の政治的安定を目指しての調停をめざしているのか、どうかはともかく「外交大国」を目指して走り出したのだ。中華思想の持ち主だけに意識的には米国同様な大国意識を抱いているようだ。
「北京が(やっかいな)中東政治に大きな役割を果たしたいと希望しているのは明確である」(ロンドン『エコノミスト』、07年1月13日号)
「国内政治にかかりきりだった中国が海外に積極的に関与し始め、外交舞台に主役として登壇した」(『TIME』、1月22日号)
第一の変化の兆しは、レバノンへの1000名の派遣。中国の国連軍へ対しての、これほどの規模の協力は過去にありえなかった。このことは小誌でも度々指摘した。
第二にダルフールの無慈悲な虐殺に手を貸しても、スーダンの石油獲得に狂奔してきた中国が、最近はスーダン政府に国連決議の受け入れを進言するようになった。
それはスーダンの石油施設を中国軍が数千名を派遣して守らざるを得ないという徒労からくる切実な要請かも知れないのだが。
第三にイランの核物質輸入への経済制裁にロシアとともに賛同した(骨抜きにした挙げ句だが)。『クリスチャン・サイエンス・モニター』紙(1月16日付け)は、「すでに国際社会はイスラエルの核武装を既成事実を受け止めている」と分析している。
第四に90年代以後、イラン・イラクといった紛争地への大々的な武器輸出を控えてきていること(余談だが、一部に米国はつぎにイランとの戦争を準備していると唱える向きがあるが、兵力の配置変更はイランがイラク南部に介入することを未然に牽制しているとしか考えられない)。
第五に英米のアフガニスタン、イラク介入に露骨な妨害も反対もしなかったこと。
第六は過去27年間の内戦で国土が荒廃しつくしたアンゴラに勇躍進出して、どの国も手がけなかったアンゴラ鉄道の再開という難工事を中国のゼネコンと労働者が行ったことなど、見せかけの“善意”をふりまいて、アフリカ55ケ国のうちの元首48ケ国を北京に招くという派手派手しき、或いは中華的な華々しき招待外交が当面、効果を示していること。
だが、これらは世界平和という幻像のために中国が善意の協力をしているわけではなく、そうした方が北京に取って都合がいいという打算からである。外交戦略とは基本にあるのは国家利益、そのための打算的妥協。
▼イスラエルとイランを両天秤にかける離れ業
オルマルト(イスラエル首相)の北京訪問は、外交礼儀上、国賓として閲兵式を執り行い、イスラエルの希望したイランへの圧力要請に正面からの反対もしなかった。
軍事筋は、背景にイスラエルからの軍事技術の輸入があるから、と見ている。「最近、公開された中国空軍の新兵器、「殲10型 ジェット戦闘機」は
ロシアとイスラエルの技術的貢献が大きい(エコノミスト誌)。
中国の海外石油依存はアンゴラ、サウジアラビア、イラン、スーダンそしてロシアならびに中央アジアである。
これらの地域の政治安定は中国の利益に直截に繋がる。
基本戦略として中東とアフリカの原油に依存する中国は、ペルシア湾の米軍の存在に裨益して安全輸送の保護下にあり、結果的に米国の軍事力展開に恩恵を受けているかぎり、米国に正面から楯突くなどという愚かな、短絡的な外交路線には陥らないだろう。
とはいうものの、
米国が懸念するのは、中国軍の
“果てしなき軍拡”とひょっとしての台湾
統一への軍事的野心である。
民主党が多数派を占める米国議会は人権の改善に進歩のないこと、西側が非難する人権侵害のミャンマーなどへの支援が一向に止まないことなどから中国の興隆は歓迎するべきではないと認識している。
結局、「中国が独裁政治システムをかなぐり捨てて、自由な選挙をおこなえるほどに民主化されない限り、“二十一世紀が中国の世紀”というのは幻像に過ぎない」。
それが『タイム』最新号(07年1月22日号)の中国特集の結論部分に掲げられた専門家らの意見である。
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<宮崎正弘の中国・台湾、北朝鮮関係著作>
『中国から日本企業は撤退せよ!』(阪急コミュニケーションズ刊)
『中国人を黙らせる50の方法』(徳間書店刊)
『出身地でわかる中国人』(PHP新書、1月中旬増刷出来)
『中国のいま、三年後、五年後、十年後』(並木書房)
『朝鮮半島、台湾海峡のいま、三年後、五年後、十年後』(並木書房)
『拉致』(徳間文庫)。
「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成19年(2007年) 1月17日(水曜日)
通巻第1680号 (1月16日発行)
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