安倍晋三首相と麻生太郎外相が9日から相次いで欧州を訪問する。
昨年10月の中国、韓国への電撃訪問に続き、今度は米国より先の訪欧と、
首相就任後の外国訪問順序としては異例続きとなる。「主張する外交」を
掲げる安倍内閣の意気込みの表れと評価したい。
安倍首相は英国、ドイツ、ベルギー、フランスの順で歴訪する。
国連安保理の常任理事国5カ国のうち、米国、ロシア、中国との首脳会談は
昨年行ったので、今回の訪欧ですべての常任理事国との首脳会談を終える。
ドイツは今年の主要8カ国(G8)首脳会議と今年前半の欧州連合(EU)の
議長を務める重要な存在だ。
安倍首相が、就任後早い段階で、主要国首脳との個人的関係や信頼関係
を築く意味は大きい。外交に首脳間の信頼関係は不可欠だからである。
首相はまた、EUと北大西洋条約機構(NATO)本部を訪問、日本の首相と
して初めてNATO理事会で演説する。
NATOが昨年11月、リガ(ラトビア)首脳会議で打ち出した域外国との連携
強化を歓迎し、日本・NATO関係強化の意向を表明する。
欧米の軍事同盟、NATOとの関係強化は、欧米との戦争協力への道では
なく、テロや中国、北朝鮮の軍事的脅威に備える意味で、日本の防衛に
とっても戦略的重要性を持つものだ。
麻生外相はルーマニア、ブルガリア、ハンガリー、スロバキアの東欧、中欧
4カ国を歴訪する。いずれも旧社会主義国で今年1月までにNATO、EUに
加盟、民主陣営に加わった。
首相が“古い欧州”を、外相が“新しい欧州”を分担して訪問する形となる。
外務省では「自由、民主などの基本的価値を共有し、共通の課題に取り組む
欧州との戦略的パートナーシップを強化することが狙い」という。
麻生外相は昨年来、欧亜にまたがる新興民主国を支援する「自由と繁栄の
弧」構想を提唱、今回の中東欧訪問をその重要な一環と位置づける。
このように、今回の安倍首相、麻生外相による欧州歴訪には、日本に従来
欠けていた戦略的外交の始まりを感じさせるものがある。期待したい。
ただ、日本にとって最も重要な外交基軸は日米同盟である。
この点だけは忘れてはならない。
(2007/01/09 05:02)産経新聞