「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
軍事評論家、高井三郎氏が核武装論者らの過度な楽天主義に警告
日本が核保有となれば、12隻のSLBM搭載型原子力潜水艦が必要。
知る人ゾ知る、日本の防衛論壇で、きわめて精巧な国防論を展開する人に
高井三郎氏がいる。
保守論壇では核武装華やかなりし昨今だが、保守論壇の一部にはびこる
「明日にでもできる日本の核」論議ほどシロウトの視野狭窄に陥っていて、
むしろ危険がある、という。
まず敵が発射する核ミサイルは数分で日本に届くため、現行防衛体制では
防御不能であることは火を見るより明らか。
トマホークもそれほど有効ではなく、技術および予算、戦術面から考慮しても、
日本の核武装は、容易ならざる作業であるという。
巡航ミサイルの整備や核実験を経ての実戦配備には、日清戦争のときに
ロシアの脅威にそなえるために全官吏が月給の一割を返上して、新型艦艇
を建造したような決意と気概が必要である。
いま、政治家、官僚をみていて、そんな気概があるのか。
米ソ冷戦時代をへて核抑止力理論は性格が変貌し、地下深いサイロに収
納されるようになった。
同時に核基地を守るためである。
核基地そのものが防御基地化、その地下深度は100メートル以上、平均
250メートル。なかには500メートル地下に核ミサイルを収納した基地を含め
世界に一万箇所の核兵器サイロがある。
▼敵の核戦力を破壊できる方法とは?
これを破壊するには通常TNT火薬は役に立たず、核爆発しかない。
中国、露西亜の近年のミサイル開発は、米国の地下サイロ攻撃を限定的に
想定して、むしろ政治目的の演出におかれているようでもある、と高井氏は
指摘する。
米国はB52戦略爆撃機から9000キロトン級の四噸爆弾ならびにB53を
開発した。
97年にはF16搭載可能雄な新型爆弾を完成したが、50発しか配備されて
いない。
したがってブッシュ政権は「イラン、北朝鮮、中国を念頭におく」新型爆弾
開発予算を議会に要求した。
イスラエルは非核炸裂特殊鋼製の弾殻を開発しており、厚さ70メートルの
鉄筋コンクリート掩蓋の破壊を目指している(つまり、これが完成しない限り
イラン奇襲空爆は有効ではない)。
もっかのところ「爆撃機からの核爆弾投下が地下施設を破壊できる唯一の
手段」。だが、しかし米国とて、「備蓄弾数の制約上、攻撃可能な目標は50
にとどまる」という。
▼日本が開発する可能性を検討する前に
日本に既に標準をあわせた中国の
核戦力は、瀋陽軍区に配備のMRBM
東風3(射程、2790キロ、液体燃料
ロケット)が18発。
くわえて東風21(固体燃料ロケット、
射程1770キロ)が9発。
合計27発。これらは洞窟を深く掘った
地下基地に秘匿されており、北朝鮮もそれに
ならって陣地の構築がなされていると想定される。米国の偵察衛星も、
正確な場所を把握しているのか、どうか。
これらを日本が、もし核武装して、破壊するに必要な最低限度の核兵器は
対中国向けだけでも38発が必要。
すべてが命中してという話である。
北朝鮮が分散配備してトンネルなどに隠している現実を加味すると、これら
を含めるとすれば合計146発が必要になる!
さてさて日本が核武装して、これらを秘匿して配備できる場所はあるのか。
楽天主義な核武装を説く人達は、このことを軽視して議論をすすめているが
、なにしろ原発建設だけでも、旧社会党やら共産党が組織して、あれだけの
反対がある日本で、しかも国家機密が殆どないに等しい日本で、核兵器を
たとえ開発しても保管場所は、おそらく海上しか考えられない。
だとすれば原子力潜水艦搭載型のSLBMが最も有効なのである。
射程2000キロから3000キロの新型SLBMを16発ずつ搭載できる原潜
は排水一万噸、これが最低十隻が必要。
このためには膨大な人員、経費ならびに長期に亘る研究開発が必要である。
象徴的に二つ、三つの核弾頭をもったところで、中国の巨大な核戦力を
前になんの意味もない。
巷に拡がる核論議は、熱意はともかく、プロから言えば危険だと高井氏は
鋭く警告しているのである。
◎◎
♪
(読者の声1)驚くべきほどのことでは無いかも知れませんが、李登輝さんが安倍総理の訪中を高く評価したことは注目すべきです。
安倍政権がどのような対台湾政策を打ち出してくるのか、今後もしっかり見据えていきたいと思っています。ナルホドこうやって外堀を埋めてゆくのかという感じです。
(MY生、板橋)
(宮崎正弘のコメント)ついでに四月の温家宝首相の訪日が、ほぼきまりです。
さらに六月に胡錦濤主席訪日を呼びかけていますね。阿吽(あうん)の呼吸? ですかね。
♪
(読者の声2)貴誌に外交面での安倍首相を評価する論を述べた投稿子がいました。わたしも頓首します。
安倍氏は外交を麻生外務大臣に全面的に任せ(“丸投げ”という表現もできます)、麻生氏が評価する実績と展開をみせています。
昨年の7月5日、北が七発(内一発のテポドン2は二段目ロケットの燃料不注入で失速)のミサイルを乱射した時、国連への対北制裁決議の日本政府の修正案を決めたのは麻生外務大臣ひとりでした。
官房長官と外務大臣、二人の間で最終決定されたと巷間伝えられていますが(小泉首相は中東・ロシア漫遊中でした)、官房長官は持病の腹痛で、制裁案決定の重要会議の場を途中退出していたようです。安倍氏に貸しをつくった麻生氏は自由に外交を展開できるのです。
昨年11月末、麻生外相は都内での講演で、「価値の外交」の確立と「自由と繁栄の弧」の推進という外交政策を述べています。後者の「自由と繁栄の弧」という考え方は今後の日本外交において大いに注目されます。
しかし日本のマスコミは全く取り上げていません。だから日本国民は、灯台下暗しで、知らされていませんが、在日の海外メディアは目聡く注目しています。
ユーラシア大陸の外周部分で成長している民主主義国家の連繋・協力の輪を作り上げていこうという雄大な構想です。築地瓦版屋やナベツネ独裁刷り物屋あたりは、取り上げても第二の大東亜共栄圏だと難じるでしょうか。中身は実にまっとうで、思い付きでなく、ここ二十年かけて培ってきた日本の外交戦略をわかりやすく焙り出したものです。
東南アジアではカンボジア、ラオス、ベトナムの3カ国をCLVと称して自由主義勢力を形成し、中央アジアの国々とは資源供給地域として関係を深め、東ヨーロッパの国々とはNATO、EUとの関係作りの観点から「自由と繁栄の弧」を作っていきたいというものです。
日本はソ連の崩壊を読み切り、その直前から東欧諸国に、崩壊あとも極東の地から、莫大な金融・復興支援をして関係構築の地均しをしてきました。
「価値の外交」もなかなかのアピールを含んでいます。
外交の価値を、民主主義、自由、人権、言論、市場経済に置くというもので、北にはひとつもありません。中国には市場経済以外ありません。韓国には言論がありません。
つまり、日本外交が求める価値を具備した国が、我々の周辺にはひとつも無いという強烈なアピールになっています。
日本は船頭(フィッシング・マスター)として、民主主義、自由、人権、言論、市場経済を備えた網をユーラシア大陸周辺諸国に投じて、フリーダムとプロスペリティの弧を繋ごうと世界に呼び掛けています。
その行程の一里塚が今回の安倍首相の欧州歴訪と解されます。
麻生氏は以上のように独自の持論を展開していて、それは“美しい日本”より、頓首できるものです。近年の日本の政治家にはめずらしい自分の考えを持った政治家と見受けます。
(HN生、品川)
♪
(読者の声4)人民元と香港ドルの貴重なレポートをありがとうございました。
本当に面白く読ませていただきました。年末に北京で香港在住の日本政府関係者に会ったのですが、あと10年くらいで、香港側の希望で広東省に統一される可能性があると言っていました。
いまや深セン資本で香港の上水地区にハイテクパークを作り始めたくらいで、深センの人口(現在1300万人)が香港の3倍くらいになった時がターニングポイントではないかと言っていました。
ちなみに北京は不動産より株式バブルに沸いていて、知人に会うたびに株の話。まるで80年代末の東京のようで、私は日本の例を引き合いに出してバブルはいつか崩壊すると警告したのですが、馬耳東風とはこのことで、永遠の右肩上がりを信じてやまないようでした。
他には、新聞の広告欄に「離婚相談承ります」という弁護士の広告が増えていたのにギョッとしました。テレビも社会問題摘発番組が全盛で、経済バブルと同時に北京が殺伐とした町と化していっていることを感じ、少し哀しくなりました。
(DK生、文京区)
(宮崎正弘のコメント)香港の離婚率、じつに51%。北京もおそらく40%以上でしょう? この社会的変化をじつは小生、まじまじと観察しています。この方面の変化は、日本より遙かに早いのです。
それにしても、深センの人口が1300万?
これ、本当の話ですか?
平成19年(2007年) 1月9日(火曜日)
通巻第1664
◎宮崎正弘のホームページ http://www.nippon-nn.net/miyazaki/
◎小誌の購読は下記サイトから。(過去4年分のバックナンバー閲覧も可能)。
http://www.melma.com/backnumber_45206/
(C)有限会社・宮崎正弘事務所 2007 ◎転送自由。ただし転載は出典明示のこと。