北朝鮮の核武装を利用しようとしている。
北朝鮮の核武装を利用しようとする中国(一)
アジア安保フォーラム幹事 宗像隆幸
北朝鮮は、2006年10月9日に核実験を行って、原子爆弾を保有していることを誇示した。この原子爆弾は、北朝鮮が保有しているミサイルに装着できる小型爆弾だという推測とまだそのような小型爆弾の開発には成功していないという推測がある。しかし、どちらが正しいか、証明されていないのだから、北朝鮮が核ミサイルを保有していることを前提として、問題を検討しなくてはならない。
北朝鮮の核武装の脅威は、従来の核保有国の脅威とは異質である。広島、長崎への原爆投下で、その損害が言語に絶するものであることが明白になり、第2次大戦後、核武装国はあくまでも抑止力として核兵器を保有し、自国が攻撃される重大な危機に直面しない限り、核兵器は使用しないと考えられてきたし、実際に核兵器が使用されたこともない。ところが北朝鮮には、この常識が通用しないのだ。北朝鮮は韓国を侵略して国連軍に報復され、国家滅亡の危機に瀕した経験があるにもかかわらず、その後何度も韓国に対してテロやゲリラ攻撃を加えた。さらには外国人を拉致したり、麻薬や外国の偽札を製造して密輸出するなど、北朝鮮は悪質な暴力団よりも悪質な行為を国家として行ってきたのだ。残酷極まる恐怖政治によって数十万人の国民を殺し、数百万人の国民を餓死させても、北朝鮮の独裁者は意に介しなかった。このような国だからこそ、北朝鮮の独裁者は、自分勝手な意図で核兵器を使用しかねないという恐怖を与えているのである。
北朝鮮の核兵器生産を阻止するためのアメリカの努力は、失敗に終わった。1994年10月、北朝鮮に軟水炉を与えることなどを条件に、北朝鮮が核開発を凍結することに米朝両国は合意した。しかし、北朝鮮は約束を破り、核開発を進めていた。2003年4月、北朝鮮はすでに核兵器を保有していると表明した。2005年9月、北朝鮮、米国、中国、日本、韓国、ロシアの6カ国は、協議の結果、「北朝鮮が全ての核兵器および核兵器開発計画を放棄する」ことを定めた共同声明を発表した。しかし、北朝鮮はこの約束も破った。それでもなお米国が6カ国協議によって北朝鮮に核兵器を放棄させようとしているのは、5カ国の圧力、特に中国が北朝鮮に圧力を加えることを期待しているからであろう。中国は、口先では北朝鮮の核兵器開発に反対だと言っているが、実際には何ら効果的な圧力を加えてこなかった。
中国に北朝鮮の核兵器保有を阻止する意志があるなら、簡単に出来ることである。北朝鮮が使用しているオイルの80%以上は中国が供給しているのだから、それをストップするだけで良い。そうすれば、北朝鮮の国家機能はたちまち停止する。特に困るのは、軍隊である。中国のオイルがなければ、北朝鮮軍は戦車や軍艦を出動させることが出来ず、飛行機を飛ばすことも出来ない。国民に忌み嫌われている金正日が独裁者として振る舞っておれるのは、軍隊の支えがあればこそである。北朝鮮の軍人たちは、中国の援助がなければ、たちまち軍隊の機能が麻痺することを誰よりも良く知っている。もし、金正日が中国の意に反する行動をとれば、北朝鮮軍の首脳部は即座に金正日を倒して、中国の意にかなう人物を代わりに立てるであろう。それがわかっているからこそ、金正日は中国の要求は何でも受け入れているのだ。金正日は、東北アジアで最大の鉄鋼山である茂山鉱山の50年間独占開発権を中国に与えた。また金正日は、日本海に面する重要な不凍港である羅津港の2つの埠頭の50年間独占使用権も中国に与えた。必要最低限のオイルと大量餓死者を出さない程度の食糧を与えるだけで、北朝鮮の軍隊は動きが取れなくなる。中国は北朝鮮をを思いどうりに動かすことぐらいできるのだが、あえてしないだけである。
北朝鮮の核武装を利用しようとする中国(二)
アジア安保フォーラム幹事 宗像隆幸
中国が東アジアで覇権を確立すれば、世界的な冷戦が再現する
では、北朝鮮が核武装することは、中国にとってどんな利益があるのか。北朝鮮の核兵器の脅威を最も強く受けるのはどこかを考えれば、そのことが明らかになろう。それはまず、核兵器を持たない北朝鮮の近隣諸国、韓国、日本、台湾の3カ国である。韓国と日本は米国が軍隊を駐留させている同盟国であり、台湾は米国が台湾関係法に基づいて防衛協力を公約している国家だから、この3カ国に対する脅威は米国にとっても脅威になる。米国、日本、台湾、韓国は、いずれも中国が敵視している国である。もちろん、北朝鮮が日本や台湾、韓国を核兵器で攻撃すれば、米国の反撃によって北朝鮮は瞬時に壊滅させられる可能性が大きい。しかし、核兵器の脅威は、実際に核兵器が使用されなくても、核兵器によって攻撃されるかもしれない、と思った時に生じるのだ。無法国家北朝鮮の何をするかもしれない狂気の独裁者と思われている金正日ほど、この役にふさわしい人物はいないであろう。
北朝鮮の代表が「ソウルを火の海にしてやる」と言い放ったぐらいだから、韓国人も同じ民族だからといって安心は出来まい。韓国海軍が領海に侵入した北朝鮮の艦船を撃沈したことがあったが、核兵器による報復を考えれば、今後そのような行動をとることは難しい。何しろ無法国家だから、北朝鮮はどんな挑発を行うかわからない。いろいろなトラブルが続けば、金正日を怒らせぬよう、北朝鮮にもっと援助を与えよう、という世論が韓国で強まるに違いない。それでも安心出来なければ、中国に北朝鮮の暴挙をとめてもらうために、韓国は中国に媚びることになろう。
1998年8月、北朝鮮が発射したミサイルは、日本列島を飛び越えて日本の近海に着弾した。北朝鮮は何時でも日本をミサイルで攻撃出来るのだ、という威嚇である。北朝鮮は、世界で最も反日的な国家だ。多数の日本人を拉致したり、麻薬を密輸出したり、日本に対して凶悪な悪事を働いてきた。日本の領海を侵犯した北朝鮮の船が、海上保安庁の巡視船と銃撃戦を交えた末に自沈したことがあったが、今後は北朝鮮の船舶が日本の領海を侵犯しても、核ミサイルで報復すると威嚇されたら、日本側は自重を強いられよう。しかし、領海侵犯を放置すれば、北朝鮮の船舶が好き勝手に日本領で暗躍することになる。そうなると、日本では莫大な援助を与えて、北朝鮮と国交を正常化しようとする動きが強まるに違いない。しかし、金を出せば、逆効果となり、北朝鮮はもっと金をよこせと反日活動を強化するかもしれない。中国が日本に対して行ったやり方である。そうなれば、このところ勢力が弱まっている日本の媚中派が再び台頭して、中国の協力を得ようとする動きが強まるであろう。これまた、中国の思う壺である。
では、台湾の場合はどうであろうか。中国が裏で北朝鮮を操っているのであれば、台湾も無関係ではありえない。北朝鮮が台湾に対する不法行為を重ねて、それを取り締まろうとすれば、北朝鮮が台湾を核兵器で威嚇することが予想される。そうなれば、台湾で「統一派」の勢力が強まり、中国の要求する「一国両制」を受け入れるのもやむを得ない、という世論が強まるかもしれない。
もし、中国が台湾を併合すれば、台湾海峡もバシー海峡も中国が支配して、南シナ海は中国の領海にされてしまう。生命線のシーレーンを押さえられた日本と韓国、東南アジア諸国は中国に属国化される可能性が大きい。そうなれば、中国は東南アジアを含めた東アジア一帯に覇権を確立することになる。これこそ中国が熱望する大野望であるが、中国の属国とされた国々は独立も自由と民主主義も失い、地獄の苦しみを味わうことになろう。それはかつての米ソ冷戦に変わって米中冷戦が生じることを意味するから、人類は再び存亡の危機に立たされることになる。
北朝鮮の核武装は、これほど重大な全人類の問題なのである。そのような悲惨な事態を招かないためには、まずこの危機を認識しなくてはならない。しかし、その危機を認識している人々は、世界でもごく少数であろう。おそらく、北朝鮮の核武装の脅威を最も強く感じているのは日本人であろうが、それもまだ少数であり、この脅威にどう対抗するか、日本でも議論が始まったばかりである。
『台湾の声』 http://www.emaga.com/info/3407.html
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