「氷点」は読者とともに
モノを言う新聞記者、李大同氏が今日マスコミ関係者と記者会見を
行う。
2006年、中国の言論の自由の有無を表す象徴的な
「氷点停刊事件」の当事者李大同氏が12月18日、
日本初来日を果たした。
19日午後に日本財団ビルにて
「中国でモノ言う人が増えてきた
~一時停刊になった『氷点』前編集長 李大同氏が語る~」
というテーマで講演が行われた。
李大同さんの著書『「氷点」は読者とともに』
(中国語タイトルは「氷点故事」)は、11月に発売されている。
http://duan.jp/item/040.html
はじめに(日本語版序文)/李大同
二〇〇六年三月初、私は思いがけなく中国人民大学の日本人留学生、久
保井真愛さんから電子メールを受け取った。メールには「『氷点』は読
者とともに」を読み、感動して何度も涙を流したこと、そこで「『氷点』
は読者とともに」を日本語に訳し、日本の読者に紹介したいことが書か
れていた。「『氷点』は読者とともに」は二〇〇五年十一月に出版され
た後、中国の知識界とメディアから「二〇〇五年度グッドブック」に選
ばれ、私は多くの中国人読者による論評を目にしていたが、外国の読者
が中国語で読後感を書いてきたのは初めてのことであり、非常に感動し、
彼女の要請を快諾した。
「『氷点』は読者とともに」で述べられているのは、中国の普通の人々
の上に起こった普通ではない物語である。ひとつひとつの物語が一ペー
ジを使ってディテールまで描き出されているので、中国の読者は創刊後
すぐ『氷点』が好きになった。その理由は「リアルさ」、つまり報道が
歴史的転換期にある中国人民の運命と彼らの喜怒哀楽をリアルに映し出
しているからである。多くの読者が手紙で、報道の中に「自分の姿を見
た」と言っていた。一般のニュース報道と異なるのは、『氷点』の記事
が読者の強い要望によって単行本にまとめられた点であり、このような
本は全部で五冊刊行された。興味深いのは、当時は報道を読んでなかっ
た多くの人が、一、二年後に本を読み終えてから手紙や電子メールで感
想を送ってくれ、これら報道が「時代遅れ」とは感じていないことであ
る。ところが、ジャーナリストの古典的な信条とは「ニュースには一日
の生命力しかない」なのである。
それでは、どのような要素が、ニュースにより長い生命力を与えてくれ、
ニュースをある意味における「歴史」にしてくれるのだろうか。真実の
細部にわたる再現、報道対象の運命の活写、普通の人びとの考えや感情
への尊重、社会が順調に営みつづける基本的価値観の堅持、これらがニ
ュースにより長い生命力を与えるのである。このような歴史的記録は、
自国の人民に有益なだけでなく、諸国人民の相互理解を促す重要なルー
トでもある。もし「『氷点』は読者とともに」日本語版により、日本の
読者の皆さんが今の中国をより理解していただけるなら、まさに望外の
喜びである。久保井真愛さんの読後感が、私にその可能性を見せてくれ
た。諸国人民間の共通点は、相違点を遥かに超えるだろうと、私は信じ
ている。
最近『戦争――血と涙で綴った証言』の中国語版を読み終えたばかりだ。
一九八六年七月、『朝日新聞』は第二次世界大戦を経験した日本人の手
紙を掲載し始め、一年あまりで一一〇〇通が発表され、すぐに書籍化さ
れた。これは日本の庶民が書いた戦争史であり、これまで読んだ歴史学
者や作家によって書かれた戦争に関する如何なる描写とも全く異なる理
解を得ることができた。それらの著書では大統領、首相、将軍などの「
大物」が主役であり、戦場や外交での権謀術数は詳細に記録されている
が、戦争の被害を被害者である人民(一般兵士も含む)の運命は疎かに
されている。ところが本書はほとんどが庶民の体験であり、戦時下の庶
民の運命がクローズアップされている。これによって私が会得できた日
本の人びとや日本文化、日本史の複雑さは極めて新鮮であり、『菊と刀
』のような概念の堆積ではなくなった。
もしかすると、これは日本メディアの「氷点」といえるかもしれない。
その特徴とは、庶民一人一人の運命が多くの読者の注目対象となったこ
とである。彼らはかつて、恐らくはこれからも「沈黙する大多数」であ
るが、この民衆こそが一国の政治や経済、文化発展の基礎であることは
誰も否定できないし、彼らがどのように生きており、どのように生きた
いのかということは軽視されるべきではないし、特にメディアから軽視
されるべきではない。遺憾なことに、メディアで「大物」の言動は常に
無限にまで拡大されているが、「小物」は常に無名であり、両者の喜怒
哀楽には往々にして天と地ほどの差がある。
もし、中日両国のメディア関係者が、相手の報道から人民の生きざまと
リアルな思想や感情を見てとることができるなら、国民間の相互理解は
大きく増進され、簡単に騙され惑わされることはなくなり、世界の平和
的発展も更に保障されるだろう。
私は中国のジャーナリストとして、その為の努力を惜しまない。「『氷
点』は読者とともに」日本語版の刊行にあたり以上を書き残綴って、日
本の同業者および読者とともに努力したい。
拙著日本語版の出版者である日本僑報社と段躍中先生、訳者の久保井真
愛さんと監訳の武吉次朗先生が、刊行のため心血を注がれたことに深く
お礼申し上げる。
二〇〇六年八月十八日
http://blog.mag2.com/m/log/0000005117/107900760.html