国柄探訪: 樹を植える日本人、樹を伐る中国人
Japan On the Globe(476)■ 国際派日本人養成講座 ■
国柄探訪: 樹を植える日本人、樹を伐る中国人
日本人と中国人の決定的な違いは死生観にある。
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■1.日中でまったく異なる「医食同源」■
台湾で中国医学を学んだ後、東大で医学博士号をとり、現在
は栃木県で地域医療に携わっている林建良医師は、「医食同源」
の理解が、日本と中国ではまったく異なる、と指摘している。
[1,p16]
日本人が考える「医食同源」とは、健康を保つためには、ま
ず食事から正していかねばならない、というものだ。最近流行
語となった「メタボリック症候群」に関しても、甘いものや濃
い味付けの料理を食べ過ぎると内臓に脂肪がたまって、動脈硬
化による心筋梗塞などの病気にかかりやすくなるので、野菜を
しっかり食べよう、などと説かれる。
しかし、林氏が台湾の医学部で学んだ漢方医学では、たとえ
ば「肝臓を食べると肝臓に効く」「脳を食べると脳にいい」
「心臓を食べると心臓によい」と考える。
中国市場で精力剤として売られているのは「狗鞭(ごうべん)」、
犬の鞭、すなわち犬の生殖器である。もっと効くとされている
のが「虎鞭(フーベン)」虎のペニスである。犬よりも虎の方
が強いからだ。
林氏も高校時代によく頭痛に悩まされたので、台北の中国人
の医師にかかり、漢方薬とともに豚の脳を煎じて飲まされた。
病んだ臓器に近い臓器ほど、そして人間に近い動物ほど、体
に良いとする。これが中国人の考える「医食同源」である。そ
の究極は何か、と言えば、人体そのものということになる。
■2.人体も薬■
中国医学で最も権威ある書物とされているのは、明時代の
1578年に執筆された『本草綱目』である。「本草」とは基本的
に薬用になる植物をさすが、薬とされる範囲は、鉱物や動物に
も及ぶ。そして、最後に出てくるのはなんと「人部」、すなわ
ち人体を薬剤として扱う章である。そこでは、髪の毛、尿、唾、
汗、骨、生殖器、肝臓などの効用が細かく書かれ、たとえば
「瘧(おこり、マラリア)は、生の人の肝臓1個を陰干しにし
て、その青い部分が効く」などと説かれている。
この「医食同源」の概念は、専門の医学書だけではなく、広
く一般庶民の生活にも浸透している。昔から子供向けの教科書
として使われていた『二十四孝』は、24種類の親孝行の例を
示したもので、その一つに「割股療親」がある。子供が自分の
太ももをえぐって、病気の親に食べさせて、療養することを、
親孝行として勧めているのである。
「医食同源」の考えは近代になっても根強く残っていた。日露
戦争中に日本に留学し、その後作家として活躍した魯迅の作品
『薬』の中には、女性革命家が公開処刑される際に、民衆が手
に手に饅頭を持って集まる、というシーンが出てくる。処刑さ
れた瞬間に吹き出る血を、饅頭に染みこませて食べる。新鮮な
血は体によいという「医食同源」の発想である。
中国人は「四つ足で食べないのは机だけ」と揶揄されるほど、
何でも食べ物にしてしまう。そして「医食同源」だから、何で
も薬と考える。自らの体のためには、人間を含む他の生命はす
べて食べ物や薬として見なすのが、中国人の哲学なのである。
■3.『共産党の慈善事業』(Communist Charity)■
人体を薬にするのが、内科的「医食同源」なら、外科的「医
食同源」が臓器移植だろう。金儲けの天才である中国人は、死
刑囚から臓器をとりだして売買するビジネスを発明した。
アメリカに移住した中国人・呉宏達(ハリー・ウー)氏は、
自分の家族に臓器移植を希望しているとの触れ込みで、数度、
中国に潜入し、臓器売買の実態を調査して、レポートを出版し
た。その題名がふるっていて『共産党の慈善事業』(Communist
Charity)という。
ウー氏は、1995年にアメリカのパスポートで中国に入国した
際に、スパイ容疑で逮捕されたが、アメリカ政府の圧力で釈放
された。この事件をきっかけに、中国における臓器売買はアメ
リカの国会でも注目され、数度にわたる公聴会が開かれた。国
会の提案により、江沢民主席が1997年に訪米した際に、クリン
トン大統領が問題提起している。同時期に、アメリカのABC
テレビが『血なまぐさい金』(Bloody Money)という題名で、ゴ
ールデン・アワーに全米に放送した。
ウー氏の調査によると、臓器売買は次のようなシステムで行
われている。まず死刑は祝日の前日に予定される。中国では
80年代以前までは公開処刑が一般的で、国民がお祭り気分で
見る娯楽の一種であったからだ。
次に刑務所では、肝炎やエイズなどの事前チェックを行い、
病院側が注文した臓器に合った死刑囚を選ぶ。さらに臓器は
新しいほどよいので、刑場には医者が待機していて、死刑執行
されるや臓器を取り出し、病院に運んで、移植手術を行う。
死刑執行前に臓器を取り出してしまうケースもよくあるとい
う。ウー氏のレポートでは、ハンブルグに脱出した中国人医師
が実名と写真入りで、死刑執行の前日に何度も肝臓を取り出し
たと証言している。その犠牲者のひとりは、思想問題で死刑と
された19歳の女性で、死刑執行する前に、待機する車の中に
彼女を強引に押し込み、麻酔無しで腎臓を取り出したという。
■4.政府と軍のビッグ・ビジネス■
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルの調査によ
れば、2004年の世界における死刑執行件数は約5500件で、その
うちの3400件、62パーセントが中国である。そのうちのかな
りの件数で、臓器が取り出され、役人の収入源になっていると
思われる。
病院が処刑された死体に支払う値段は、300元(4500円)か
ら600元(9000円)。そこから取り出された臓器は、12万元
(180万円)から15万元(225万円)に跳ね上がる。外国人相手に
売られるときは、その倍になるという。仮に200万円で3千
件の臓器売買が行われたとすれば、総額60億円のビッグビジ
ネスということになる。
林医師は、糖尿病の治療を専門としているが、患者の中には
腎不全から人工透析を余儀なくされている人も少なくない。そ
のうちの一人が「臓器移植を中国で受けたい。紹介してくれな
いか」と頼んできたことがあるという。なぜ中国なのかと訊く
と、「すぐに移植できるし、若くて健康な腎臓だと聞いている」
と答えた。このように、中国に渡って臓器移植手術を受ける日
本人患者も少なくない、という。
臓器移植をする病院は、ほとんどが人民解放軍や政府機関の
病院である。中国司法部(法務省に相当)は、1981年6月13
日付で「死刑囚の臓器摘出に関する注意事項」という秘密文書
を出し、その中で「医者が車を使う場合は、医療機関のマーク
を隠すこと」「摘出した死体は速やかに処理するため火葬に付
すこと」などと指示している。臓器売買は、政府と軍が深く絡
んだビジネスになっているのである。
■5.「あんなものは、いくらでも手に入る」■
林医師自身も、こんな体験をしている。20年ほど前、東大
で研究していた時、中国の蘭州大学で血液学を教えていた教授
が留学に来ていた。当時は、骨髄移植が始まって数年しか経っ
ていない時期で、最先端の医療技術だったが、彼は「こんなこ
とは、中国ではとっくにやっている」と言った。
林医師がすぐには信じられずにいると、彼は「胎児の肝臓を
使うのだ。胎児の肝臓を取り出してすりつぶし、メッシュで濾
過したものを点滴すれば、骨髄移植と同じような効果がある」
と説明した。
「では、どこから胎児の肝臓を手に入れるのか?」と訊くと、
彼は笑いながら「あんなものは、いくらでも手に入る」と言い
放った。
そのときに私は、さすが中国は世界一人口の多い国だか
ら、胎児を手に入れることはたやすいのかもしれないと思っ
たが、「あんなもの」として命を軽んじ、恐ろしいことを
平気でやるのが中国人だということを改めて認識した。
その教授が「いくらでも手に入る」と言ったときの乾い
た笑い声は、いまだに耳から離れない。[1,p23]
■6.実験動物の慰霊祭を行う日本人■
林医師は台湾の学校で、日本人が残酷で残忍であると教えら
れてきた。国民党政権下での反日教育の一環であった。ビデオ
ショップで借りたヤクザ映画を見て、指を詰めるシーンや喧嘩
の場面が出てくると、日本人はやはり残忍なのだと自分なりに
納得していた。
その後、東大に留学すると、実験材料としてしばしばマウス
やラットを使うことがあった。その最初の時に先生から教わっ
たのは、いかに実験動物を苦しませず処置するかということだっ
た。
また日本では、年に1回、必ず実験動物の慰霊祭を営むが、
台湾の大学ではやらないことだった。林医師は、日本人の命に
対する畏敬の念がこのような実験動物までにも及んでいること
を知って感銘を受けた。
胎児を「あんなもの」と言い切る中国人と、実験動物の慰霊
祭を行う日本人と、その生命観の違いは対照的である。
■7.「いかにしてきれいに死ぬのか」を考えている日本人■
林医師が栃木県の片田舎で開業してから、改めて感じたのは、
日本人の生活では死に直面する機会が多いということだった。
病院の職員が近隣の葬式の手伝いに行くので休みをとる。台湾
では、葬式で休むのは、家族が亡くなった時だけだ。
地方の新聞では、有名人に限らず庶民に至るまで亡くなった
人が紹介されている。葬儀の日時、場所も書かれているので、
故人と多少なりとも縁のあった人は誰でも参列できる。台湾で
は、葬儀に参列できるのは、遺族から招待された人だけだ。
林医師は、日本の葬式は質素で整っており、美しいと感じた。
そして、最後のお別れということで、すべての参列者に顔を見
せ、触らせもする。そして「ああ、いいお顔ですね」と言って
慰める。これも台湾にはない習慣である。
苦悶せず、従容として死んでいった様を確かに拝見しました、
と遺族に伝え、それが遺族にとっては最高の慰めになる。この
事から、林医師は、日本人がきれいに死ぬことを大切にしてい
るのだと感じた。武士の切腹はその延長にあるものだ。
こうした経験から、林医師はこう考える。
日本人は死を意識しながら生きている民族であり、日常
的に経験する死の場面を文化にまで昇華させているように
思われる。そのせいか、世界第2位の経済力を持ちながら
も、日本人一人ひとりの現世に対する執着心はそれほど強
くないように見受けられる。日本人は常に無常観を抱えて
生きているようだ。・・・
日本人は生きているうちに一生懸命に仕事をして世界最
高レベルの技術を創出しつつ、一方では、自然の摂理に融
け込みながら、死を生活の一部として淡々と取り入れ、自
分が人生の最終局面に向かい合うときにはいかにしてきれ
いに死ぬのかを考えているようである。[1,p97]
■8.日本人と中国人の決定的な違いは死生観にある■
林医師は、日本人と中国人の違いを次のように捉える。
日本人と中国人の決定的な違いはどこにあるのかといえ
ば、それは死生観にあるといってよい。死に対しての考え
方や死に直面したときの態度は明らかに違う。日本人はき
れいに死のうとし、中国人はいかにして死なないようにす
るか、という考え方に歴然と現れている。[1,p91]
その昔、秦の始皇帝は3千人の男女を東の島「蓬莱」に派遣
して、不老不死の仙薬を求めたという伝説がある。その「蓬莱」
とは日本の事だという説があるが、逆に日本人からしてみれば、
それほどまでして不老不死に執着する気持ちは理解し難い。
現世に執着する中国人は、自分の生命と金を最も大切なもの
と考える。自分の健康のためには他人の人体を薬にしたり、金
儲けのために平気で死体から臓器を取り出す。こうした姿勢か
らは、他の生命への畏敬は生じない。
中国人とは対照的に、日本人は絶えず死を見つめ、このはか
ない命をいかに美しく生きるか、と考える。財産や権力など死
んでしまえば、何にもならない。それよりも世のため人のため
に多少なりとも尽くして満足して死に、葬式にはたくさんの人
に来て貰い、「ああ、いいお顔ですね」と言って貰うほうが、
はるかに意味のある人生だと考える。
また生命のはかなさを感ずる所から、他の人や動植物の生命
への思いやりが生ずる。さらには人の生命を守るために、自ら
の生命を捧げる、という自己犠牲の精神もそこから生まれる。
特攻隊員たちの自己犠牲は、その最も純粋な形であった。[a]
■9.樹を植える日本人、樹を伐る中国人■
日本の台湾統治は明治28(1895)年に始まるが、明治39
(1906)年から造林事業を奨励し、毎年100万本余の苗木を無
償で配布し、補償金まで交付した。日本統治前の清朝時代に、
ほとんどの樹木が伐採されて、ちょっとした雨でも大水や山崩
れが起こっていたためである。計画的に整備された都市の道路
は、樹を植えられて美しい並木道となった。[b]
しかし、戦後、蒋介石の軍隊が台湾に入った時、都市道路の
並木はすべて切られてしまった。木の陰に誰が隠れているか分
からないので危険だ、というのと、伐った並木は薪にできるか
ら一石二鳥という理由だった。
樹木の生命は人間より長い。植林したところで、自分が
生きている間に利用できるとは限らない。それでも日本人
は百年後、千年後のために黙々と樹を植える。ところが、
中国人は樹齢何千年の巨木であろうと、美しい並木であろ
うと、自分が薪として使いたいとなれば平気で伐ってしま
うのである。
われわれ台湾人は、そのような日本人と運良く50年間
を暮らし、そのような中国人と不幸にして60年間付き合
わされ、併呑の危機にもさらされているのである。[1,p90]
(文責:伊勢雅臣)
■リンク■
a. JOG(153) 海ゆかば~慰霊が開く思いやりの心
慰霊とは、死者のなした自己犠牲という最高の思いやりを生
者が受け止め、継承する儀式である
http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogbd_h12/jog153.html
b. JOG(145) 台湾の「育ての親」、後藤新平
医学者・後藤新平は「生物学の法則」によって台湾の健全な
成長を図った
http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogbd_h12/jog145.html
■参考■(お勧め度、★★★★:必読~★:専門家向け)
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1. 林建良『日本よ、こんな中国とつきあえるか? 台湾人医師の
直言』★★★、並木書房、H18
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