友達の個展
その個展は、ちょっと変わっていた。土日の二日間しか行われないし、
いつものように一人だけのものではなく、他のアーティストとのコラボだという。
テーマは「ジャングル」。いろんなジャンルのアーティストが同時に催す個展
で、一つのショーのような形式になっている。各アーティストの知り合いや
家族が招待された。何も作品を買わなくても、ショーと飲み物代として参加費
千円を払わねばならない。しかし、十分に元がとれるほどの内容だと友達が
力説するので、個展の前売り券を買ってみた。会場はこじんまりとしたレスト
ランだった。小さなステージが用意されている。まるでジャングルのように、
熱帯の植物が所狭しと置かれている。本当にどこかの熱帯のジャングルの
中のように薄暗くしてある。外は冬だが、レストランの中は、長袖Tシャツ一枚
で過ごせる温度だ。チケットを見せて案内されたテーブルでは、友達が
2、3人の客と一緒に座って何か書いていた。「こんにちは!」と声をかけると、
「あ~!こんにちは~!来てくれてありがとう~!まず、何か飲みますか?」と、
メニューを差し出してくれた。サービスドリンクの緑茶とお菓子を注文してお
いて、直ぐに作品を見ることにした。
友達の展示場は、会場の二階だった。うすぐらい部屋に針金が張られ、
彼女の作品が無造作に針金に巻き付いていた。この部屋にもあちこちに、
熱帯の植物が置いてある。その植物は庭師になったアーティストが担当した
そうだ。展示されている植物も売り物らしい。好きな人にはたまらないだろう。
彼女は染色のアーティストだ。ひとつひとつ作品を手で広げながら
鑑賞した。触りながら見る作品っていうのも面白い。作品には微妙に照明が
当たるように天井からライトが設置されている。暗がりの中に友達の染めた
カラフルな虫や蝶の作品が浮かび上がっている。
さっそく欲しい作品が見つかるが、なんとすでにほとんど買い手がついていて
売約済みのシールが貼ってある。来るのがちょっと遅かったようだ。
テーブルの上には別のアーティストが、陶芸の作品を並べている。作品の
植木鉢には、ひとつひとつにグリーンが入れてある。グリーンごと買っても、
鉢のみ買ってもかまわないそうだ。ジャングルで録音してきたという鳥の声や
サルの吠え声が、BGMとして流されている。加湿器からは十分な水蒸気が
部屋に供給されている。部屋の空気も悪くない。目をつぶればジャングルに
いるような気分になるかもしれない。本当のジャングルに行ったことはないが、
多分、こんな感じなのだろう。
陶芸家は、友人と実際に東南アジアのジャングルに出かけている。作品は
ジャングルで実際に見た天狗ザルが多い。サルの彫像やサルの絵が書かれ
たカップを多数展示していた。サルがジャングルの蓮の葉の上に乗っている
陶器には、里芋の葉のような植物がいけられている。欲しい物があったので、
友達の麻の生地を使ったバンダナと陶芸家のサルの絵のカップを予約して
もらった。バンダナは3000円。カップは3800円だった。そんなに高くない。
テーブルに戻ると、レストランのシェフが持ち手の付いたぽってりした陶器の
お椀に緑茶を入れ、四角い皿に和菓子をのせて出してくれた。お腹がすいて
きたので、カレーを注文して食べていると、ステージでショーが始まった。
こんどは別のアーティストのジャングルをイメージしたパレオの作品だ。
ステージに配した二つの岩山の間から滝のようにドライアイスが流れ落ちる。
木を叩くような音が混じる軽快な南国の島の音楽が流れる中、まるで、滝つぼ
のなかで遊ぶ島の現地人のように次々と明るい花や鳥の絵を描いたパレオを
巻いたモデルが、ドライアイスの湖に現れる。髪には蘭の花をさしたモデルは、
蘭の花のパレオを巻き、葉っぱをつなげて腰に巻いた男性モデルは、葉っぱ
の柄のパレオを巻いている。ドライアイスの湖が薄れると、こんどは、更紗の
ドレスを着たモデルが現れた。アフリカや東南アジアをイメージした生地だった。
音楽はガムラン調だ。更紗の布地は現地のアーティストの作品で、売れたら
現地の人にもうけの一部が行くらしい。
ショーが終わるとさっきまでモデルをしていた人たちが普通の服に着替えて
ステージに出てきた。彼らは友情出演の面々だそうだ。ステージのすみから
すみに針金をはって、作品をそこに掛けて展示を始めた。何人かの人が、作品
を見て何かを購入している。
わたしは注文したチャイを飲みながら友達のジャングルの話しを聞いていたが、
そこに友達の高校の先生がやってきた。友達は、先生を案内するために
二階の展示場へ上がっていった。わたしは、同じテーブルにいた陶芸家二人と
陶芸教室の話しをしていた。二人とも別々に教室を持っている。一人は友達と
一緒にジャングルに出かけた人だ。びっくりするほど、大きな蜂や、大きな蝶
を見たそうだ。また、河のほとりでくつろぐ天狗ザルを見たそうだ。小学生ほど
の背丈のある、大きなぜんまいのような植物や、変わった高山植物も見た
と言う。それらのイメージを陶器にうつしたのだそうだ。
ジャングルというテーマで数人のアーティストがそれぞれ打ち合わせもなく
別々に作った作品を一緒に展示するという個展だった。
友達が先生と一緒にテーブルに戻った。先生の旅の話しや陶芸家の家族の
話しが面白かったので、レストランが終わる時間まで話しを聞いてしまった。
電車賃とチケット代を足して、レストランで食べた分や購入した作品の代金を
足すと一万円を超すが、いろんな作品を観て楽しかったし友達が言うように
十分元は取れている。本当にジャングルに行っていろんな物を見てきた人の
作品はやはり何かが違う。その時の高揚した気分が作品から感じとれるの
だった。南国の果物を染めたバンダナと天狗ザルのカップは、小さい作品なの
で、その日に持って帰ってもいいと言われた。それが今手元にある。
彼らが写しとってきたジャングルの一部をわたしも所有しているようで、ちょっと
嬉しい。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
この話しは、実際にわたしが時と場所は違いますが2ヶ所で経験したことと、
友達と陶芸家とわたしの妄想を足して書いたものです。つまり、半分以上は
本当にあったできごとです。