物を入れる、運ぶ。物資の輸送から普段の暮らしまで、パッケー
ジング工程には欠かせない段ボール箱。ただ箱の外側に大きく
記された商品名とは裏腹に、段ボールの製造元が表に出る機
会は少ない。上海を拠点に、その段ボール製品を製造している
のが上海恒富紙業有限公司だ。質の高い段ボールを武器に、
今日も縁の下の力持ちとして世界のパッケージングを支えている。
同社の親会社は米国のエバーウェルス・ペーパー。1993年に上海に
工場を設立。03年には日本製紙株式会社が23%出資する形で資本
参加、今年4月には出資比率を40%にまで引き上げている(現在の資
本金は595万米ドル。従業員数は250人)。約2万7,000平方メートル
の敷地内には、原紙から段ボールシートを作る巨大な「コルゲーター」
と呼ばれる機械や4台の印刷機、またコンベアがずらりと並ぶ。
■原紙は8割現地調達
段ボールのもととなるのは一枚の薄い原紙。現在は約80%を国内で
調達している。「中国産の紙は弱いという印象がありますが、A級原
紙はすでに日本と変わらないレベル。全く問題はありませんよ」と同
社の西尾浩一副総経理。その原紙を幅1.8メートルのコルゲーターで
巻き取りつつ、表面と中芯(波打っている部分)を接着。接着の強度
を高めるために熱を加え、冷却する工程を経て、一枚の段ボール
シートが出来上がる。
その後は4台の印刷機で、段ボールの表面に製品名を印刷する。
現在の印刷機は4色刷りが1台、3色刷りが2台、2色刷りが1台。
印刷に色ムラやずれがないか、従業員が測定機器を手に定期的に
サンプル検査を実施する。この時点ではまだ一枚の段ボールシート。
側面をとめて箱形にするには、釘打ちもしくは糊付けの作業が必要
となるため、半自動の釘打ち機、のり付け機などによって段ボール
シートを組み合わせ“あとは組み立てるだけ”の状態とする。
最も見かける機会が多い、いわゆるミカン箱型の段ボールはここで
完成する。
スタンダードな箱形のほか、小型機械などをはめ込むような複雑な
形状の段ボール製品については、コンピューターで設計を行った後、
細かい加工部分を手作業で一枚一枚切り取って仕上げていく。
少しのずれが製品のできにつながるだけに、気が抜けない作業だ。
その後さらにサンプル検査を実施。組み立てた状態で負荷をかけて
強度をチェックしたり、表面と中芯のはがれ具合などのり付けの度
合いを見たりと、さまざまな角度からの検査が行われた後、初めて
出荷となる。
中国の段ボール市場には中小企業が多く、製品についても一見した
だけでは分からない部分が多いため、他社との差別化も図りにくいの
が現状。同社はそこでよりコアな需要を満たすことを目的に、不定形
なパッケージの作成に早急に対応できるよう、製作部の一部にデザ
イン部門を設立。他社が手掛けないような、複雑かつ小ロットの製品
にも対応できる態勢を整えた。これにより「製品サンプルも、3日間も
あれば作成できるようになった」と西尾副総経理。また、ラベルや
パレットなどの付属品もアウトソーシングで提供する形をとることで、
より顧客のニーズをとらえる展開を行っている。
■東京ドーム60個分生産
飲料メーカー、家電メーカーなど顧客の需要ピークにあわせ、季節に
よって生産量の変化はあるものの、現在の生産量は月平均280万
~300万平方メートル程度。東京ドームの面積60個分に相当する。
今後、工場の拡張および印刷技術向上のための新設備導入なども
計画しており、事業拡大を目指す考えだ。
「とにかく、いい段ボールを作っているという評判を浸透させていきた
い」と西尾副総経理。「段ボールには製造者の名前は入らない。
だからこそ、品質で勝負するしかない」。シンプルなだけに、ごまかし
のきかない製品。試行錯誤を経て生み出された同社の製品は今日も、
どこかでなにかを包んでいる。【上海・森ちづる】
http://nna.asia.ne.jp.edgesuite.net/free/china/interview/201_300/0238.html