日本が自国の防衛を100%アメリカに頼るのも危ないよね。
ロシア政治経済ジャーナル No.429 2006/12/9号
「将来、ユーロはドルに代わって基軸通貨になる。
その時、アメリカは「ただの大国」になる」
(ボロボロになった覇権国家106p
http://tinyurl.com/dypky
)
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05年1月発売。
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ドルが下がりましたね。
昔からの読者さんは、ちっとも驚かないと思いますが。。。
しかし中には、「ドル神話」を信じている読者さんもいるようです。
ここ1ヶ月の間、「ドルはまだまだ磐石では?」といったおたよりを何十通
もいただいています。
もちろん短期中期でみたら、あがったりさがったりするでしょう。
しかし、ファンダメンタルに見たらどうなの?という話。
今回は、ドルに対する幻想を捨て去っていただきます。
▼基本的構図
まず現在の世界経済の基本的構図を見てみましょう。
日本は貿易黒字大国ですね。
もちろん中国も貿易黒字大国です。
EUも全体で見ると貿易黒字。
ロシアは、あまり知られていませんが、石油・ガスでこれも貿易黒字大国。
中東産油国も貿易黒字大国。
ちょっと疑問が出てきませんか?
みんな貿易黒字なんてどうしてありえるの?
いえいえ、大切な人(国)を忘れていますね。
そう、アメリカ合衆国。
この国だけは、なんと年間80兆円(!!!!!!!!)の貿易赤字(05
年度)。
普通の国だったら、通貨は大暴落するのであります。
ところが、アメリカは25年以上も貿易赤字をつづけている。
理由が二つありました。
1、ドル還流システム
貿易赤字を資本収支の黒字で補うのです。
具体的には
・高金利
お金はほぼゼロ金利の日本からアメリカにどんどん流れていく。
・国債
日本と中国は米国債を大量に買っている。
・株
最近史上最高値を更新。
2、基軸通貨
ドルは基軸通貨、国際通貨、世界通貨。
・アメリカと他国の貿易決済通貨として
・他国と他国の貿易決済通貨として
・外貨準備として
・民間人の貯金として
等々、非常に幅広く使われている。
ですから、アメリカは膨大な貿易赤字をつづけながらもドルは非常にゆる
やかに下げてきたのでした。
▼欧州の反逆
しかし、世界はむかつく。
還流の話は抜きにして考えましょう。
アメリカの貿易赤字が年間80兆円。
アメリカは、80兆円分のドルを刷って支払っている。
世界にドルの量が増えれば、長期的には価値が必ず下がっていきます。
ちなみに、70年代のはじめまで1ドルは360円でしたが、今は120円。
ドルの価値は3分の1になっている。
つまり、ある国がドルを溜め込む(保有する)ということは、「将来必ず下がる
資産」を持っているのと同じこと。
そんなドル体制に反逆したのがEU。
1999年1月1日にユーロが誕生しました。
当時のフランス大統領顧問ジャック・アタリさんはいいます。
「通貨統合・政治の統一・東欧やトルコへの(EC)拡大。これらが実現でき
れば、欧州は21世紀アメリカをしのぐ大国になれるだろう」
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このように、ユーロ誕生には「アメリカの一極支配体制を崩壊させる」という
明確な意図があったのでした。
あれから7年の月日がながれ、状況はEUの思惑どおりになってきています。
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「ユーロ、ドルに匹敵する国際通貨に=オーストリア中銀総裁
[ブラチスラバ 22日 ロイター] 欧州中央銀行(ECB)理事会メンバーのリ
ープシャー・オーストリア中銀総裁は22日、ユーロがいずれ国際通貨として、
米ドルに匹敵するとの見方を示した。
総裁は当地での講演原稿で、ユーロがドルに次ぐ通貨として次第に貿易や
投資、準備通貨に利用されていると指摘。
「ユーロがドルと同様の国際通貨となる可能性を有していると考えている」と
述べた。
(ロイター) - 06年11月23日」
▼中東の反逆
そんな腹黒い欧州。
中でも、アメリカの没落を心から願っているのがフランスのシラクさん。
湾岸戦争とその後の経済制裁で苦しめられているフセインをそそのかしまし
た。
00年9月24日、フセインは「石油代金として今後一切ドルを受け取らない」と
宣言。
なんと石油をユーロで売ることにしたのです。
実際同年11月からユーロで売っています。
アメリカは、03年にわけのわからない理由でイラクを攻撃し、決済通貨をユ
ーロからドルに戻しました。
06年4月17日付の毎日。
「イラクの旧フセイン政権は00年11月に石油取引をドルからユーロに転換
した。国連の人道支援「石油と食料の交換」計画もユーロで実施された。
米国は03年のイラク戦争後、石油取引をドルに戻した経過がある」
しかし、フセインは「アメリカ幕末史」の中で大きな役割を果たしたといえるで
しょう。
アメリカのアキレス腱が全世界にバレテしまったのです。
まず、アメリカはなぜ「核兵器を保有している北朝鮮にやさしく、保有してい
ないイランに厳しいのか?」↓
「 <イラン>石油取引所を開設 ユーロ建てで米国に挑戦か
【テヘラン春日孝之】石油大国のイランが石油取引所の国内開設を目指して
いる。取引の通貨がユーロになるとの情報が流れ、オイルダラーに依存する
米国の「ドル支配体制」への挑戦ではないかと観測を呼んでいる。」
(毎日新聞) - 06年4月17日」
こう見ると、アメリカの外交政策にも一貫性があるじゃあないですか?
反逆はイラク・イランだけではありません。
「ペルシャ湾岸6産油国通貨統合で協議 【日経ネット】
【バーレーン=加賀谷和樹】サウジアラビアなどペルシャ湾岸の6産油国で
つくる湾岸協力会議(GCC)首脳会議は19日、通貨統合に必要な各国のマ
クロ経済に関する5つの基準を採択し、閉幕した。」
(05年12月21日)
どうですか?
ドルの脅威はユーロだけではないのです。
もし、中東産油国が「ドルでは売りません。共通通貨で買ってください」となれ
ば?
アメリカは石油を輸入できなくなる。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
しかし、親米のサウジとかを攻撃するのは大義名分がたたない。
それで順番としては、まず反米のイランを「核開発」「テロ支援」などの理由で
徹底的に叩きつぶす。
その上で、サウジの国王に、「アホなこと考えるとおまえらも同じ目にあわせ
るぞ!」と脅迫する。
▼ロシアの反逆
アメリカを心の底から憎んでいるのがKGB出身のプーチンさん。
そして、ずるがしこいKGB軍団は、ずっと前からアメリカの弱点を知っていま
した。
プーチンは99年10月(!)、フィンランドで「原油をユーロでうりましょうか?」と
提案しています。
その後、アメリカはグルジア・ウクライナ・キルギスで革命を起こした。
そして、グルジア・ウクライナをNATOに加盟させようとしている。
軍団の怒りはどんどんヒートアップし、禁じ手の使用を決意。
↓
「ルーブル建て原油取引開始 ロシア、影響力強化狙う
【モスクワ9日共同】モスクワの取引所、ロシア取引システム(RTS)で8日、
初のルーブル建てロシア原油の先物取引が始まった。
サウジアラビアに次ぐ世界第2位の産油国であるロシアは、自国通貨建て
の自国産原油市場を創設することで、国際原油市場での影響力強化を図
る狙いだ。
(共同通信) - 06年6月9日」
この決定の後、アメリカは気が狂ったようにロシアをバッシングしているでし
ょう?
たまにCNNとかを見ると、驚いちゃいますね。
プーチンは昔から独裁者だったのに、今年になってから独裁者になったかの
ような報道。
裏の事情を知っている人は、バッシングが強化されている理由がわかるの
です。
さて、KGB軍団の政策は着実に成果をあげています。
↓
「ルーブルが対ドルで7年ぶり高値に上昇
[モスクワ 24日 ロイター] ロシアのルーブルが対ドルで7年ぶり高値を更
新した。ドルがユーロとスイスフランに対して約1%下落した流れを受けている。
ルーブルは1ドル=26.4360ルーブルと1999年11月以来の高値をつけた。
(ロイター) -06年 11月24日」
ここ数日間、モスクワでは恐ろしい事態が発生していました。
ロシア人がドルを投売りルーブルを買ったので、両替所からルーブルが消えた。
驚くべき事態です。
金融危機のあった98年、ロシア人はルーブルをなげうってドルを買いあさりま
した。
それが、今ではドルを投売りしている。(涙)
▼中国の反逆
皆さん中国人をあなどってはいけません。
ホントにこの人たちは賢い。
考えてみてください。
イランやロシアは一生懸命アメリカと戦っている。
誰が得するかといえば、中国だけが得しているのです。
さすがは孫子の末裔。
戦わずに勝つのが上策。
さて、中国。
中国は06年2月、日本を抜き外貨準備で世界一になっています。
そして、米国債を約40兆円保有していて、世界2位。(一位はもちろん日本)
もちろん中国がドルや米国債を投げ売れば、ドルが暴落し、自分も損をする。
しかし、米中関係がいよいよ悪化し、「フセインのようにブタ箱に入るか?」
「米国債をなげうってアメリカを没落させ、世界恐慌を起こすか?」の選択を
迫られれば?
共産党の幹部は、もちろん自分の金と権力と家族を守るために、ドルと米国
債をうるでしょう。
06年1月にそういう脅迫をしています。
↓
「【中国】中国が米国債を売却か、米財務長官「中国こそ損する」
中国の外貨管理局が「国際収支のバランスを保つよう努力する」と題して、
5日に発表した声明が波紋を広げている。
「中国政府が保有している米国債を売却するのではないか」との観測を呼ぶ
箇所が含まれており、米国のスノー財務長官が「仮に中国政府が売却して
も、次の買い手はすぐに見つかる」と発言する事態に発展した。」
(サーチナ・中国情報局 06年 1月9日)
そして、中国の幹部さんたちは、アメリカを脅迫しつづけています。
「ドル保有者はリスクに直面している=中国人民銀行副総裁
[北京 24日 ロイター] 中国人民銀行(中央銀行)の呉暁霊副総裁は
24日、東アジアのドル保有者は、長期金利低下とドル安のリスクに直面し
ていると述べた。マーケット・ニュース・インターナショナル(MNI)が伝えた。」
(ロイター) -06年 11月24日
もう十分でしょう。
日本政府は、アメリカの天領ですから、皆さんに絶対ホントのことを教えてくれ
ません。
中期的には上下があるでしょうが、長期的にドルが下がることは必至であり
ます。
RPE読者の皆さんは、ドル・ユーロ・円に分散させることで、資産を防衛してく
ださい。
最後に、IMFのラト専務理事が今年3月末、カンボジアで語った言葉でしめま
す。
「アメリカ人の異常な支出が、貿易・財政赤字を生み出している。
ロシア・サウジアラビア・日本・中国は貿易黒字だが、アメリカだけは膨大な
赤字国である。
この不均衡は、遅かれ早かれ調整されるが、それが急激に起これば世界
経済は危機に直面する。
不均衡の責任はアメリカにある。
アメリカは、徐々に支出を減らし節約をするべきだ。
不均衡を調整するために、アメリカ経済の成長を鈍化させるべきである。」
皆さん気をつけてくださいね!(^▽^)(^▽^)(^▽^)
(おわり)
モスクワより
RPEジャーナル
北野幸伯
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発行者 北野 幸伯
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