11月の雨
11月の雨は、チューリップの球根には、優しい雨。黒い土の下で、春を待つ
いのちの塊が呼んだ雨。13年生きた猫が死んだのは、2年前の今頃。
雨の中を車を運転 しながら泣いていた。悲しくても、会社に行かねば
ならなかった。猫がいなくても、いつものように生活しなければならなかった。
悲しくても、仕事をしたりご飯を食べたりしなければならなかった。
わたしが悲しんでいるなんて、会社では誰も分からなかった。忙しくしてい
たら、気が紛れた。でも、運転しかしない車の中では何度も泣いていた。
猫が死んだ日にチューリップを植えた。
春になってきれいな花が咲きそろった時、猫のプレゼントのような気がした。
それからは、11月になるとチューリップを植えるようになった。
13年いっしょに過ごした猫がくれたものは、彼女なりの愛と癒し。見ている
だけで思わずこぼれるほほえみ。温かく思いやりに満ちた小さな魂の手触り。
13年間の思い出とチューリップを植える習慣。
11月の雨は、チューリップを育む雨。黒い土の中に眠るいのちの塊を
呼び覚ます雨。13年生きた猫を、思い出させる季節の雨。