日本の核武装が現実になる場合、日本経済にどのような影響を与えるか? | 日本のお姉さん

日本の核武装が現実になる場合、日本経済にどのような影響を与えるか?

『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』【メール編:第402回目】━
====質問:村上龍========================================

Q:737
 政府・与党自民党の一部に、日本の核武装に関する議論が必要だと

いう意見が出ているようです。日本の核武装が現実になる場合、日本経済に

どのような影響を与えるのでしょうか。

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※JMMで掲載された全ての意見・回答は各氏個人の意見であり、各氏

所属の団体・組織の意見・方針ではありません。
 ■ 真壁昭夫  :信州大学経済学部教授

 仮にわが国が核兵器を保有する場合には、安全保障、政治、さらには

経済に大きな影響をもたらすことが予想されます。

その場合の経済効果を考える場合、主に二つのパスを想定すると整理し

易いと思います。一つは、核武装がもたらすダイレクトな経済効果です。

単純に考えるとダイレクトな経済効果は、現在、わが国が安全保障について

米国に頼っているために負担しているコストから、核兵器を保有することに

よって新たに発生するコストを引いた金額を減額することができます。

その金額は少なくないはずです。

 米国は、現在、覇権国として"世界の警察"の役割を担っています。

アジア地域では、次の覇権国候補である中国の著しい台頭もあり、米国の

プレゼンスは拡大しつつあるといわれています。プレゼンスをたかめる

ためには、当然、コストがかかります。
その費用の一部を、わが国政府=財政支出で賄っているのが現在の構図

です。ということは、わが国が支出しているコストは、単にわが国の安全の

ためのコスト・プラスアルファーということになるはずです。

そのため、わが国が核兵器を持って、米国に対する依存度を低下させる

ことができれば、その分のコストはある程度低減できると考えられます。

 一方、核兵器を保有するために新たに発生するコストもあります。

現在のわが国の技術力を勘案すると、核兵器を作ること自体には、それ

ほど多額の費用は掛からないといわれているようですが、核兵器を保有す

るためには、発射装置や安全確保システムの構築など様々なアディショ

ナル・コストが必要になります。

 削減できるコストと、新たに発生するコストを比較すると、長期的に見れば、

削減できるコストの方が大きいのではないかと思います。

それは、最近の米軍再編に関わるわが国の費用負担を見ていても明確

でしょう。他の人が費用負担をしてくれると思えば、費用支出の効率化を

考える姿勢はなくなります。

また、こちらの言い値で負担してくれるのだと思えば、できるだけ多額の

見積もりを出すことが有利になるからです。

 もう一つ重要なことは、核兵器を開発したり、関連施設を構築する費用が

海外に流出せず、国内に還流することです。

安全保障を米国に依存すると、単純化すると、そのコストは米国中心の軍需

産業に還流していたと考えられます。

その資金の一部、あるいは太宗が、わが国の中で使われることは経済的に

は、大きな需要創出効果を生むことでしょう。

また、それに伴って、核兵器を自国で保有し管理するノウハウが、着実に

わが国に蓄積していくことです。これに関するラーニング・エフェクトは大きい
はずです。

 もう一つのパスは、安全保障上の問題や政治的な経路を通じて、間接的に

及ぶ、いわばインダイレクト経済効果です。

そうした経済効果を計量化することは難しいでしょうが、中・長期的な視点から

見れば、こちらの効果の方がマグニチュードは大きいと考えます。

北朝鮮の核実験など最近のわが国を取り巻く様々な問題を考えると、現在の

わが国が磐石な安全保障体制の上にあるとは考え難いと思います。


特に、わが国の安全保障は、米国に

対する依存度が極めて高く、自分で

自分の安全を守ることができない

状況になっています。

 しかも、中国、北朝鮮を初めいくつかのアジア諸国が、既に核兵器を保有

している状況を考えると、

政治的にわが国の発言力が低下する

ことは避けられないでしょう。

それは、国連の常任理事国に

ノミネートしたときの投票結果を見ても、

かなり鮮明になっています。


安全保障や政治の要因は、当該国にとって存亡に関わる大きな問題です。


これらのファクターは、経済の上部構造、つまり、経済よりも重要なものだと思
います。核兵器を保有することが、安全保障、政治など全ての問題を解決する

ものではないでしょうが、解決に向けた筋道を提示することができる事象だと

考えます。

 こうした要素を考えると、私自身、わが国が直ぐに核兵器を保有すべきだ

という議論には組しませんが、議論があることに問題があるとは思いません。

その議論は、たぶん、経済的効果だけに止まらず、国の存続意義に立ち返る

ような根本的な議論になると予想します。

                       信州大学経済学部教授:真壁昭夫
JMM [Japan Mail Media]                 No.402 Monday Edition
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【発行】  有限会社 村上龍事務所
【編集】  村上龍
【発行部数】128,653部
【WEB】   <http://ryumurakami.jmm.co.jp/ >

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