自殺のサインを、拾い上げる | 日本のお姉さん

自殺のサインを、拾い上げる

精神医学の目
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 「いじめ自殺」について
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■ マスコミ報道の影響の側面

 日本では、「いじめ自殺」がすごい社会問題となっています。

 現在私は「自殺予防の本」を執筆しており、自殺の専門家として、この問題
に関しては何かコメントしないといけないでしょう。


 去年の北海道滝川の「いじめ自殺」。そして、教師もいじめに関わっていた
福岡の「いじめ自殺」。

 それに触発されるように、ここのところ、いじめが原因と思われる中学生の
自殺が続いたり、あるいは自殺を予告する手紙が文部科学省に送られた
り・・・と、「いじめ自殺」に関して、いろんな波紋が起こっています。

 ここ最近、毎日のように続いている自殺ですが、これはマスコミの報道と
深く関連していると言えるでしょう。

 自殺について大々的に、そして繰り返し報道することは、非常に危険である
ことは知られています。

 アイドル歌手の岡田有希子さんが自殺した後、後追い自殺が多発したことは
有名です。

 
 自殺を考える人は、非常にたくさんいます。

 日本で自殺で死ぬ人は、1年間で約3万人です。
 
 自殺未遂を起こした人、自殺しようと何らかの行動をおこした人というのは、
その10~20倍はいます。つまり、30~60万人もいます。
 
 そして、自殺を行動にはうつさないが、漠然と死にたいと思っている人は、
そのさらに数倍以上。

 つまり100万人以上はいるのです。

 ザックリ言えば、日本人の100人に一人は、自殺したいと思っている
のです。
 

 詳しいデータはありませんが、子供たちの世界でも、おそらくそれは
同様ではないでしょうか。

 文部科学省の統計では、99~05年において児童・生徒のいじめによる自
殺者はゼロという統計を出しています。
 
 そんなバカなはずがないのですが、あるジャーナリストが新聞記事を元に調
べた「いじめ自殺」の件数は、最低でも30人はいるということです。

 その50~100倍くらいは、自殺を考えている子供たちがいるはずです。
 
 つまり、1500~3000人くらいの子供たちが、自殺を考えている可能
性があります。
 ひょっとするともっと多いかもしれません。

 そうした、いじめでつらい思いをして「死にたい」と思っている子供たちが
テレビの報道を見る。

 そこで、いじめから逃れるために「自殺する」という方法があるということ
を知ります。

 それまでは、「自殺」というものが漠然としたイメージでしかなかったもの
が、実際に「いじめ自殺」の話を聞くことで、自殺した被害者に共感してしま
い、「自殺」が現実の話としてありありと迫ってくるでしょう。
 
 「死にたい」という気持ちを持っていても、それが「自殺する」という行動
に移行するためには、かなり大きな壁を越えなくてはいけません。
 
 テレビの報道は、普通だと越えがたいそうした壁を、いとも簡単に
越えさせてしまう可能性があります。


 本当に死にたいと考える人は、相当に追い詰められていて、思考も混乱、動
揺しています。
 論理的な思考など全くできない状態になっています。
 
 「どうやったら自殺できるか」ということも冷静に考えることができないの
です。
 
 そこに自殺についての情報が入ってくると、「ああ、自殺すると楽になるの
か」「ああ、こうやって自殺すれば死ねるのか」ということが、わかって
しまうわけです。
 
 情報が自殺を後押しするのです。


 とはいっても、重大な社会問題となってしまった以上、マスコミも報道しな
いわけにはいけません。
 
 こうした報道が、「いじめ対策」に結びつき、いじめが減る可能性も
あります。
 
 ですが、報道の内容については、十分に配慮してもらいたいと思います。

 自殺の方法や自殺したときの状況などについて、細かく伝えるべきではあり
ません。それはマイナスの効果を生むでしょう。
 
 ワイドショーなどで興味本位に扱うのはもっての他です。

 「自殺は絶対にいけない」というメッセージを、もっともっと強烈に出し
て欲しいと思います。
 
 しかし、日本のマスコミ報道はそうなってはいません。


■ なぜ、親に相談しないのか?

 今回の福岡のいじめ自殺では、被害者の親は子供がいじめに苦しんでいる
事実を全く知らなかったようです。

 これだけひどいいじめが長期に続いていたというのに、親はそれ
に気づいてなかった。

 これに対して、「親がいじめられている徴候に気づいてあげられれば、
こんなことにならなかった」と、両親に対する批判もあるようですが、
それは精神医学的にみると、間違った批判であると言わざるを得ません。

 あるいは、「死ぬくらいなら、一度くらいは親に相談するべきだ」
 「自殺するくらいなら、なぜ親に相談しないのだろう?」
と思う人もいるでしょう。
 

 この「親に相談できない心理」というのは、非常に重要です。
 
 子供の世界のことを大人の世界に持ち込みたくないという気持ち。
 これは、子供の頃の自分を思い出せば、そういう傾向があったことは
理解できるでしょう。、
 
 あるいは、親に告げ口したといって、いじめがひどくなる心配もあります。
 
 そうした子供独特の心理もあるでしょうが、私は「自殺予備状態の心理」
として理解します。

 子供でなくても大人でもそうなのです。

 自殺を深刻に考える人は、子供に限らず大人でも、その状態を人に知られま
いと振舞う傾向があります。

 例えば、ある中年の男性が仕事上の大きな問題を抱えてストレスに悩まされ
ます。そして、自殺を考えはじめます。
 
 しかし、職場の人にその問題を相談することはありません。
 
 そして、妻にも「心配かけたくない」ということで、相談しません。
 
 相談どころか、むしろ元気であるようにふるまうのです。
 職場でも家庭でも。
 
 そして、ある日、突然自殺します。


 妻は、夫の自殺の徴候に全く気づけなかったこと。
 そして、「自分に一言も相談してくれなかった」ことを悲嘆し、自責の念に
悩まされます。


 自殺予備状態の人は、ほとんど例外なく、「人に心配させたくない」
「人に迷惑をかけたくない」という気持ちに支配されています。

 したがって、自分が死にたいという気持ち。
 のみならず、自分がうつ状態に陥って苦しい。それがどんなに苦しくても、
人に相談するのではなく、我慢してむしろ隠す傾向にあるのです。


 「いじめ自殺」の場合も同じでしょう。
 
 いじめられて、いじめられて苦しくてつらい状態にある。
 どんなに苦しくても、人に相談することはなく、「親に迷惑をかけたくな
い」と我慢するのです。

 大人ですら、職場や家族に相談しない。相談できないというのに、いじめら
れている子供が、学校や家族に相談するということなど不可能なのです。


 その追い詰められた状況の複雑な心理を、まず理解していただきたいと思い
ます。

 いじめに限らず自殺の問題というのは、本人から相談されるのを
待っていては、完全に手遅れである、ということです。


 自殺を考えている人は、このように「自分の状況を人に知られたくない」と
いう気持ちを持っています。
 
 一方で、「本当は自殺なんかしたくない」「今の状況を誰かに気づいて欲し
い」「誰かに助けて欲しい」という気持ちも同時に持っています。
 
 これは、アンピバレント(両価性)な感情といわれますが、「死にたいけど死
にたくない」というのが、「自殺予備状態の心理」としてほとんどの人に
存在します。

 つまり、自分が死にたい。何かに悩んでいるということを、直接に相談する
ことはまずないのですが、ささないな言葉の端々とか、ちょっとした行動とか、
何らかのヘルプのサインを出していることがほとんどなのです。

 そうしたサインを見逃さずに発見してあげることが、自殺の予防ということ
で極めて重要になってきます。
 
 具体的な自殺のサインについては、非常に長くなってしまいますから、現在
執筆中の拙著の中で、かなり詳しく書いていますので、後日そちらを参考にし
ていただきたいと思います。

 「死ぬほど困っている状態なのに、誰にも相談できない」。

 これは病的な心理状態なわけで、どんなに頭も良い人も、どんなにおしゃべ
りで外交的な人も、自殺の予備状態に陥ってしまうとそのように振舞うわけで
すから、個人や性格の問題ではないのです。

 相談できない本人に罪は全くありません。
 
 また、当事者が自殺徴候を隠そうとしている以上、それに気付けなかった
親を責めるべきでもありません。
 
 ただ我々ができることは、自殺の予備状態にある人は、何らかの自殺のサイ
ンを出しているので、それを拾い上げられるように、アンテナを張りめぐらし、
感度を上げるべきだ、ということです。



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